中小企業の後継者不足をいかに解決するか 〜「事業承継」の可能性〜

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プロフィール
株式会社人材研究所
代表取締役社長、組織人事コンサルタント 曽和利光さん
京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。また多数の就活セミナー・面接対策セミナー講師や上智大学非常勤講師も務め、学生向けにも就活関連情報を精力的に発信中。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。大企業から中小・ベンチャー企業まで幅広い顧客に対して事業を展開。

中小企業の経営者の高齢化などによって、後継者不足が問題化している日本。経済を支える中小企業を存続させ、より一層の発展を期待していくためにも、早い段階での対策を講じる必要があります。その一手に挙げられるのが「事業承継」。後継者不足の解決に向けた取り組みとして、「事業承継」の意義や仕組みなどを解説していきます。

高齢化が進む中小企業経営者

中小企業が日本において社会や経済の基盤を支える存在であることは、改めて指摘するまでもありません。中小企業は企業数の約 99%(小規模事業者は約 85%)、 従業員数の約 70%(小規模事業者は約 24%)を占めており、地域の社会・経済を支える存在として、また雇用の受け皿として極めて重要な役割を担っています。

ところが近年、中小企業経営者は徐々に高齢化し、引退する人も増えています。その際に後継者が不足しており、事業は順調なのに会社を継続できなくなるという状況が大きな課題になってきています。日本政策金融公庫総合研究所の2016 年の調査によれば、調査対象企業約 4000 社のうち 60 歳以上の経営者の約半数が廃業を予定していると回答しています。

後継者不足で企業が消える

また、中小企業白書によれば、今後10年の間に、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万人(日本企業全体の約3割)が後継者未定となっています。つまり、これだけの企業が消滅してしまう可能性があるのです。このように後継者問題等による中小企業の廃業が急増することで、約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性が示唆されています。

先の日本政策金融公庫総合研究所の調査では、廃業理由として「子どもに継ぐ意志がない」「子どもがいない」「適当な後継者が見つからない」といった後継者難を挙げる経営者が合計約3割に達しています。この背景には、近年の子どもの職業選択の自由をより尊重する考え方の広がりや、自社の将来性が不透明であること等、事業承継に伴うリスクに対する不安の増大等の事情があると指摘されています。

後継者を育てるのは簡単ではない

後継者不足のもう一つの背景には、後継者育成の難しさや、時間のかかり方があると思われます。中小企業基盤整備機構の調査によれば、経営者に「後継者の育成に必要な期間」を聞いたところ、約25%が約5年、5年から10年と答えたのが約30%と、半数以上が5年以上はかかると見込んでいます。

ところが、中途採用の求人倍率は近年2倍を超えており、「売り手市場」でもあることから、もし、頑張って後継者を育成しようとしても、長い期間教育した挙げ句の果て、他社に転職されてしまうという悪夢のようなことも十分に考えられてしまう状況です。そんなに頑張っても事業承継できないのであれば、清算してしまえと思うのも無理はありません。

「事業譲渡」は難易度が高い

会社の事業を他の企業に譲り渡す「事業譲渡」というものがあります。事業譲渡の場合、必ずしも会社の事業の全てが譲渡されるわけではなく、その一部のみが譲渡されるケースもあります。つまり、会社の良いところだけを取られて、そうでないところは残されたり、切り捨てられたりしてしまう可能性があります。それでは従業員や会社を守りたい経営者にとっては本意ではないことも多いでしょう。

また、事業譲渡の契約は非常に複雑です。もともと渾然一体である企業を分解することは簡単にはできません。特に負債を抱えている企業が事業譲渡をしようとする場合、企業の負債を無条件で譲渡先企業に引き継がせることは譲渡先企業の同意を得ることが難しく、ほぼ不可能であるというデメリットもあります。つまり、譲渡されずに残された会社や経営者に負債だけがそのまま残るということもあるということです。

親族や近しい人以外への「事業承継」も増えてきている

もう一つの選択肢が「事業承継」です。「事業承継」と言う時は多くの場合、会社を丸ごとそのまま受け継ぐことを前提として(もちろん、一旦受け継いだ後どうしていくかは、引き継いだ経営者の自由ですが)、現在の経営者から次の経営者に地位や権利、株式や不動産などの資産を引き渡すことを指します。この場合、会社は基本的には分割することなく、一旦そのまま引き渡すことになり、会社の連続性は途切れません。

大昔から「事業承継」はもちろんありましたが、多くの場合は、オーナー社長から親族への承継でした。ただ、冒頭で申し上げたように、なかなか後継者が見つからないというのが現実です。そこで、子どもなどの親族や番頭社員のような近しい人以外への事業承継も徐々に出てきています。いわば、以前たまにあった社長公募制のようなものと言ってもよいかもしれません。社長を採用するということと、ほぼ等しいということです。

中小企業経営者の求める「後継者」像

ちなみに、東京商工リサーチの調査によれば、経営者が後継者に臨むことは、「経営を担う覚悟」「リーダーシップ」「決断力」などのスタンスであり、事業に関しての専門知識はそれに次ぐ順位であって最も重要なものではないようです(ただし、20人以下の小企業の場合は、経営者といえどもプレイヤーであることも求められるせいか、相対的に重視されています)。こういう背景からも、必ずしも自社内や親族など、今の事業を知り尽くしている人でなくともよいと、経営者たちが考えていることがわかります。

しかし、上記のスタンスなどは、履歴書や職務経歴書からはなかなか見えません。しかもこれらは企業特殊性が極めて強く、ある会社ではとてもフィットしても、ある会社ではまったくダメということもありますので、経営者自らが長い時間をかけて求める人材を探し続けなければ、そう簡単には見つからないでしょう。社外への引継ぎに関する相談先としては、国の運営する「事業引継ぎ支援センター」が、窓口相談や後継者不在の中小企業に対するマッチング支援等の事業を行っています。こういう期間を利用してもよいかもしれません。

また、見つけた場合も、即座に事業承継を行うことは難しく、最初は入社してもらって一定期間育成を行うなどをすることで、現在の経営者の思想や考え方などを注入していくことが必要でしょう。

事業承継の実務は専門家に相談すべき

事業承継をするに足る後継者が見つかったら、次にどのように権限や権利等を承継させるかを考える必要があります。事業承継に際して主に用いられる手法は個人に対する株式譲渡、もしくは、相手が企業を既に経営していた場合などは企業に対する株式譲渡、いわゆるM&Aという二つの手法が用いられることが一般的です。

いずれにせよ株価の算定が必要なわけですが、方法としては「時価純資産に着目したもの」「収益やキャッシュ・フローに着目したもの」「市場相場に着目したもの」等があげられます。ただし、株価=企業価値は、算定する業種や事業規模、競争環境、市場の成長性等の要因によって大きな影響を受けます。また、実際の譲渡価格は、譲り受け側の資産状況やM&Aの緊急度、重要度等によっても左右されることから、算定結果は、あくまでも新しい後継者との交渉における目安の一つであることに留意する必要があります。

株価=企業価値を簡易に知る方法として、M&A支援を専門に行う民間企業等が提供している、無料で概算の評価額を試算するサービスを利用することも有効です。また、中小企業の具体的な事情や現経営者の希望等により適切な手法は異なるため、できるだけ早く弁護士や公認会計士等の専門家に相談するべきでしょう。事業承継は日本全体の課題であるため、各種補助金も国や地方公共団体から無数に出ており、そうした情報も専門家から得ることができます。

経営者一人で悩まず相談を

日本の中小企業の後継者不足は、本稿で見てきたように深刻ですが、せっかくの歴史ある会社を消失させてしまうのはあまりにもったいなすぎます。日本は開業率が低い代わりに、100年企業が多いなど長く続く企業が多い国ですが、その強みを失ってしまっては、これから世界に肩を並べていくことはさらに難しくなるでしょう。これを避けるために、後継者探しはまず、親族や従業員に限ることなく、広くあまねく、気長に、適した人材を探し続けてください。

そして、公共機関や民間企業、各種領域の専門家のサポートを積極的に受けましょう。経営者が一人で悩むにはあまりに難しい課題です。ぜひいろいろな人を頼りながら、会社を存続、発展させていってください。