5Gが食の未来を救う!農業・畜産業界における5Gの必要性

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プロフィール
安藤隼人
某国内メーカーにてシステムエンジニアとして10年以上勤続中。現職の傍らITライターとしても活動。
英語の論文や各種展示会などから最先端の情報を仕入れ、IT業界の動向を追う。専門用語の羅列は控え、常に分かりやすく伝えることをモットーに各媒体にて執筆中。

2020年3月25日に、国内でいよいよ5Gサービスが始まりました。同日にはNTTドコモがサービスを開始し、まだ5Gエリアは限定的であるものの、5Gを利用したスマホを発売。今後も様々な事業者が5Gのサービスを提供するようになると予想されています。

5Gは、超高速(10Gbps:現行LTEの100倍)・多数同時接続(100万台/km²の接続機器数:現行LTEの100倍)・超低遅延(1ミリ秒程度の遅延:現行LTEの1/10)の通信環境を提供する仕組みです。後継者不足や食料自給率の低さなどで危ぶまれている日本の食の未来が、この5Gによって救われるともいわれています。

食の業界では広く5G利用が検討されている

特にIoT分野では、5Gの登場を待たずに導入されている事例もあります。総務省の資料「5Gの利活用分野の考え方」では、農業分野における5Gの利活用方法が紹介されており、農業や畜産業分野でも5Gの導入が検討されていることが伺えます。

活用方法としては、例えば農作物の生育状態、気候、市場状況などの情報統合や、ドローンや無人農機などの遠隔制御などが挙げられます。このように5Gを活用することによる品質向上や単価の向上、生産効率向上による経済効果は、合計で4268.2億円にもなると予想されています。

特にドローンや無人農機の遠隔制御は在宅で複数個所の作業を可能にし、食の業界で問題となっている後継者不足や人手不足の克服が期待されています。

飲食業の分野では5Gによるオンライン店舗や、店舗ごとの特色策定支援などの役割が期待されています。

現在、新型コロナウイルスの影響で飲食業は営業の自粛を求められていますが、5Gの通信環境を用いればVRでの店舗運営も十分可能です。従来の通信環境だとオンライン上の会話は途切れがちでしたが、5Gが実用化されることにより、オンライン上での会話もスムーズに実現できるでしょう。さらにUberEATSなどの宅配サービスと連携すれば、オンライン上で注文した料理が自宅に届き、さながら実際の店舗にいるような感覚も味わえるでしょう。

また、小規模店舗で5Gを導入する際には、マーケティングへの活用にも期待が高まります。これまでは、顧客の動向に関するデータをマーケティングに活かすには、費用や手間などのハードルが高いのが実情でした。しかし、5Gが普及すれば顧客データの収集や蓄積・共有が容易になり、コストなどのハードルも下がることが期待されています。

5Gにはメリットが多いが食の業界への導入には注意が必要

5Gによって食の業界にもたらされるメリットは数多くあります。しかしながら、現在想定されている5Gの活用アイデアを見ると、食の業界において5Gは必ずしも必要といえない部分があるのも事実です。ここでは、注意点を順番にお伝えしていきます。

高速すぎる5Gの通信速度

5Gの通信速度は10Gbpsといわれています。しかしながら、食の業界向けのサービスにおいては、そこまでの高速通信は必要ない場合がほとんどです。現状の通信環境でも、農業や畜産業を中心に様々な食の業界向けサービスが生み出されています。 なお、既存の通信環境と比較すると高コストになりがちな5G設備ですが、中には非常にリーズナブルな価格で使えるサービスもあります。NTTドコモは農業向けに月額150円から使える通信サービスを始めました。既存技術であるLTEを利用することで、価格を低く抑えています。

5G関連の設備は高コスト

例えば、水田で使われる5G対応のセンサーは1個数十万円もする製品もあります。野外で使われるセンサーであれば一定の耐久性は必要ですが、オーバースペックであることは明らかでしょう。現在の無線通信環境であれば、多くの場合は1個数千円程度でセンサーが準備できます。

最新技術は発展途上のものが多い

例えば最近よく話題に挙がるのが、ドローンによる空撮データの解析。ドローンによる作物の空撮で、生育状況や生育密度の分布などを効率的に把握できるというものです。確かに空撮が正確にできれば、作物の様子も一目瞭然で、間引きや追肥の判断もしやすくなるでしょう。

しかしながら、そのような最新技術は発展途上のものが多数。ドローンでの空撮をしたはいいものの、解析に時間を要し、その年の農業に活かせなかったという経験談もあるのが実情です。最新技術を用いたサービスを利用する場合は、担当者が現場に足を運んでいるか、本当にそのサービスが必要かなど、様々な観点から利用の判断をすべきでしょう。

また、広大な田畑で5Gを活用しようと考えても、天候が悪化すると5Gの通信ができなくなる、などということも。また、広い店舗などで5Gを利用する場合、通信する機器間に遮へい物が存在すると、通信トラブルに見舞われる場合もあります。高速通信を必要としない場合は、LTEなどの方が使い勝手がよいともいえます。

ローカル5Gの登場などによって、小規模の業態でも5Gのテクノロジーを導入しやすくなってきてはいます。しかしながら、自社の課題解決に5Gが必要かどうかは今一度よく考える必要があるでしょう。

食の業界で導入されている5G関連の事例

ここからは、実際に農業・畜産業の分野で導入されている5G関連の事例をみていきます。

大規模牛舎内の乳牛見守り

乳牛見守りは、高精細(4K)カメラの画像が送受信可能になることによって実現できます。現在、耳標読み取りによる乳牛の居場所の把握と、遠隔から乳牛の見守りをする実証試験が進んでいるのです。

個体識別番号を印字した耳標を読み取ることによって、乳牛の居場所を特定。離れた場所からでも検診対象となる乳牛の居場所を把握し、獣医を案内することが可能になる予定です。

眼鏡型端末での遠隔指導

5Gの「高速・大容量・低遅延」という通信環境を活かして、高精細な映像をカメラ付きの眼鏡型端末でやり取りすることにより、離れた場所からもリアルタイムで技術指導ができます。

具体的には、眼鏡型端末をかけた研修生が、病気の被害にあった農作物などの映像を教育担当に伝達することが可能です。教育担当から返信された映像を眼鏡型ディスプレイで視界に重ねることで、効率の良い実技学習が実現します。

また飲食業の店舗内研修などでも、眼鏡型端末を利用することで円滑な研修が実施できるでしょう。

農作物や畜産物の情報を統合管理

5Gにより大容量の通信が可能になることで、ロボットや人工知能(AI)の実用性がさらに高まります。例えば、複数の農場の様子を高精細カメラで映し出し、人工知能(AI)が監視することも可能です。さらに、コンバインやドローンなどを遠隔操作して農作業もできます。従来の農作業と比べて人手を割かずに済むので、人手不足の解消にも一定の効果があるでしょう。

また、天候や作物の状態、市場環境など、食に関わるすべての情報を統合管理することで、収穫量の調整や出荷の管理も更に効率的になることが期待できます。

自社の課題を見極めて5Gの必要性を見出せる人材が必要

企業の中には、5Gと聞いて何となく導入を決めてしまい、自社の課題解決ではなく5Gの導入自体が目的になってしまうケースもあるかもしれません。流行に踊らされずに自社の課題を見極め、「本当に5Gでなければ解決できない課題なのか」を熟慮できる人材が求められるでしょう。

実際に農業や畜産業へのIT導入事例をみていくと、例えばデータ収集のために複数のセンサーを利用したIoTシステムを構築する場合でも、LPWAの環境などが準備できれば十分である場合が多いです。LPWAとは「Low Power Wide Area」の略で、「低消費電力で長距離の通信」ができる無線通信技術の総称です。最大伝送速度は100bps程度、伝送距離は最大50 km程度ですが、センサーからのデータ収集といった用途であれば十分であり、コストも低く抑えられます。

また、飲食業の店舗内でITを利用する場合でも、大抵の場合はWi-Fi環境があれば十分でしょう。

前述したように、「遮へいされやすい」というミリ波の特性上、現場の環境によってはうまく5Gの無線通信ができないというケースも想定されます。5Gの導入を検討する場合は、綿密な実地調査のコストを見込むことも必要です。

最初から5Gの導入を前提にせず、まずは既存のネットワーク環境でITを導入してみて、どうしても高性能なネットワークが必要であれば5Gへの移行を検討する、という手順がベターでしょう。

5Gに踊らされずに適切な自社課題の把握を

5Gが実用化されることにより、超高速・超低遅延・多接続な通信環境が提供され、多くのメリットが生まれます。

しかしながら、食の業界に関してはそこまで即時性のある通信環境は求められていない場合が多いのも事実です。新規の5Gシステムを導入するには相応の費用も要します。まずは自社の課題をどのように解決するかよく検討し、どうしても既存のネットワーク環境で解決できない場合なら、5Gの導入にも意味を持たせられるでしょう。

5Gという言葉に踊らされず、冷静に状況を見極めていくことが大切です。