実務と動向で理解する雇用調整助成金

目次

今回は、現在の雇用調整助成金の動向や支給申請書の記載例、休業・教育訓練の活用法についての解説をします。本記事の最後には「会社が雇用調整助成金を申請しなかったため、労働者の解雇が無効となった事案」についても解説しますので、これから雇用調整助成金の申請を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。

現在の雇用調整助成金の動向について

当初、雇用調整助成金の特例措置は令和2年12月の末日で期限切れになるとされていましたが、令和2年11月27日付けで、雇用調整助成金の特例措置が令和3年2月末日まで延長されることが決定されました。なお、特例措置については、今後は縮小傾向になると一部では報道されています。

雇用調整助成金の申請件数

雇用調整助成金の申請件数は、令和2年11月27日の時点では、累計支給申請件数は1,993,917件、申請支給決定件数は1,928,491件となっています。支給決定額は22,965.63億円であり、一時期よりは申請実績のペースはダウンしましたが、依然として過去に類を見ない支給申請実績で推移しています。11月単月での申請件数は5万件を超え、今後は新型コロナウイルスの第3波も予想され、支給申請の数はさらに伸びていくものと考えられます。

また、大企業を中心に「出向型」と呼ばれる雇用調整助成金の活用が進み、出向型雇用調整助成金の助成額の引き上げや、対象者についても検討されているために、出向型の動向についても注意する必要があるでしょう。

雇用調整助成金の解説

雇用調整助成金の全体像について解説します。労使協定書に基づき、休業や教育訓練を実施した際には賃金や休業手当が労働者に支払われますが、新型コロナウイルスの影響により事業などが縮小した場合には、その全てを支払えないケースがあります。そのような場合に、労働者に支払われる賃金や休業手当に対して国が一部を助成する制度が、雇用調整助成金です。

また、雇用される会社以外の第三者の会社に出向で一時的に席を移した対象労働者に対しては、出向元が「出向負担金」という形で賃金を負担した部分に対して国が助成する場合にも、雇用調整助成金制度が活用されます。

押さえておくべき基本用語の解説

雇用調整助成金を理解するためには、下記の押さえておくべき基本用語があります。

  • 判定基礎期間:一賃金計算期間(給与の締め日)と同じ意味。
  • 休業手当:労働基準法第26条に定める使用者の責に帰すべき休業対して支払いを義務化されている手当。平均賃金の6割以上の支給が必要。
  • 教育訓練:OFF-JT(座学)のことを表す。今回の特例措置では、オンライン実施による教育訓練なども認められている。
  • 出向:雇用維持を目的とした在籍型出向制度のことを指す。

雇用調整助成金の支給申請の流れ

次に、雇用調整助成金を申請してから支給されるまでの流れについて解説します。

まず、会社と雇用される従業員の代表との間で、休業・教育訓練の対象や頻度、休業手当の支給率など、休業・教育訓練に関する具体的な内容を取り決めします。

次に、これらをまとめた計画書に基づいて休業などを実施します。なお現在では、休業・教育訓練を開始する前段階の「計画届」は、特例により一時的に廃止されています。

ただし、「誰を、いつ、休業・教育訓練をさせるのか」についての予定はスムーズに雇用調整助成金を申請するうえで重要となるために、事前にそれらの検討をするといいでしょう。

計画書に基づいて実際に休業・教育訓練の実施をすることで、支給申請をすることが可能になります。支給申請は、原則として判定基礎期間(全支給対象期間、賃金計算期間)から2ヶ月以内となっています。例えば、今回の賃金が12月末締めの会社であれば、2月の末というのが申請期日となります。

なお、支給申請期限には特例が認められており、判定基礎期間を3ヶ月ごとにまとめて申請することも可能です。例えば、12月と1月と2月をまとめて申請する場合、最後の判定基礎期間は2月末から2ヶ月となるので、4月末を申請期日として申請ができます。

支給申請後は、都道府県労働局ごとに支給の審査が行われます。支給申請の目安として、東京労働局では初回は概ね1.5ヶ月程度、2回目以降は2週間程度で支給申請が下りた実績があります。なお、申請に不足などがあると労働局から確認の電話が入ることもあります。

そして、実際に支給決定となると、労働局の職業対策課から助成金が振り込まれ、その明細の内訳の支給決定通知書は事業主の方に郵送されます。これら一連が、雇用調整助成金支給申請の流れになります。

雇用調整助成金の特例措置の特徴

雇用調整助成金の特例措置の主な特徴としては、助成率・助成額の引き上げが行われているという点です。

現在、休業・教育訓練をした場合に支給される雇用調整助成金の額は、1日あたりの上限として、通常の2倍相当額にあたる15,000円にまで上限が引き上げられています。また助成率については、解雇者を出さない場合には中小企業は10/10(100%)、大企業の場合は3/4にまで引き上げがされています。

※2021年1月の緊急事態宣言の発出に伴い、特定都道府県の知事の要請を受け協力した事業主(飲食店、劇場、映画館)の助成率が3/4→10/10になりました。労働者には、当該施設において、当該施設に係る事業主や労働者の指揮命令を受けて就業する派遣労働者を含みます。

加えて、教育訓練を実施した場合には、労働者1人につき中小企業は日額2,400円、大企業は1,800円が加算されるため、最大受給金額のケースでは15,000円に対して2,400円、あるいは1,800円が加算されることとなります。

大企業と中小企業の区分について

大企業と中小企業の区分については、厚生労働省によると、「中小企業とは次(上記スライド画像)に該当する企業、大企業とは中小企業に該当しないもの」を指しています。

なお、小売業、サービス業、卸売業に該当しない業種は全て「その他の業種」となりますが、複数の事業を営む場合は主な業種にてどの業種に該当するかを判断します。

また、大企業の関連会社であった場合でもグループ全体で企業規模を見るのではなく、企業単体で規模要件を見るために、関連子会社が中小企業に該当するケースもあります。

雇用調整助成金申請書の記載例

雇用調整助成金を申請するためには、いくつかの申請書類が必要になります。ここでは、それぞれの申請書類の様式ごとに、雇用調整助成金申請について解説します。

様式4号(雇用調整事業所の事業活動に関する申出書)

様式4号(雇用調整事業所の事業活動に関する申出書)は、新型コロナウイルスの影響によって事業の売上高が減少しているか否か証明する書式です。新型コロナウイルスの影響で売り上げが減少した経緯の説明に加え、売り上げの減少が季節変動や事故、自然災害などによるものではないことを記載します。

加えて、直近と過去の売上高を比較し、5%以上の減少があるかどうかを記載します。比較対象期間としては、例えば「初めての休業を2020年12月に開始する」という場合では、2020年12月と、原則として昨年の12月を比較して5%の減少を比較します。

なお、上記の該当期間で要件を満たしていない場合には、前々年との比較や、あるいは任意の1年間で前月以前と比較することも可能であり、非常に広い範囲で5%の減少要件を比較できるのが特例措置の特徴です。

様式6号(支給要件確認申立書)

様式6号(支給要件確認申立書)は、雇用調整助成金に限らず、厚労省の助成金を使う際には必ず提出が必要となる共通の書式です。雇用調整助成金の不該当な理由に該当していないかどうか、不正受給はしないという誓約書のような書式です。

様式7号・8号(雇用調整助成金支給申請書・助成額算定内訳書)

雇用調整助成金申請で特に重要な書式が、様式7号・8号(雇用調整助成金支給申請書・助成額算定内訳書)です。様式7号は、「算定した金額を基に申請を行う」という、申請書本体のような役割があり、8号を作成することで7号が出来上がるという流れになります。

様式8号の作成には、昨年度の雇用保険に入っている労働者の「賃金総額」「全労働者数」「年間の所定労働日数」の大きく3つの情報が必要になります。それらの情報を用いて、1人あたりの1日の平均賃金を算出します。

算出された平均賃金に対して、労使協定書で定めた休業手当の支給率を掛け算し、その結果が、例えば15,000円を超えるようであれば助成額は15,000円になります。15,000円を割り込むようであれば、その金額が助成額を算出するための金額となります。

そして最後に、解雇者を出していない場合、中小企業であれば助成率が10/10(100%)、大企業であれば助成率が3/4となり、助成金を算出する仕組みになっています。

様式7号・8号は現在、計算式が組み込まれたExcel書式が厚生労働省のホームページから、無料で公開配布されていますので、こちらを活用するといいでしょう。

様式9号(実績一覧表)

様式9号(実績一覧表)は、休業・教育訓練を行う対象労働者ごとに、1ヶ月間に何日休業したか、何日教育訓練を受けたかを整理する表となっています。

様式9号を作成することで、助成金を申請するための「休業の日数」「教育訓練の日数」を算出できるため、まず先に9号を作成し、算出された合計の日数を元に様式8号を作成することで、必要な情報を整理しながら申請の手続きを進めることができます。

申請に必要な添付書類

雇用調整助成金の申請には、各様式の書類以外にも必要な添付書類が存在します。

  • 賃金台帳(休業・教育訓練をした期間中のもの)
  • 出勤簿
  • 労働保険番号
  • 雇用保険適用事業所番号
  • 休業・教育訓練の労使協定書

他にも「雇用契約書」「労働条件通知書」「就業規則」が求められるケースがあり、事前に申請の労働局へ必要な書類について確認をすると、よりスムーズに申請手続きが行えます。

教育訓練を活用する

「休業手当は活用したことがあるが、教育訓練の助成金はまだ活用したことがない」という事業所は少なくありません。教育訓練を実施した場合には、通常の休業の助成に対して教育訓練の助成が加算される仕組みになっています。

教育訓練の加算金額は、中小企業の場合は1日の教育訓練につき2,400円、大企業の場合は1,800円が加算されます。この加算額は訓練対象労働者の所定労働時間数にて全日訓練をした場合での助成額ですが、労働時間が3時間以上、かつ1日の所定労働時間未満だった場合には、半日訓練として扱われ、それぞれの半額値である1,200円、900円が加算されます。

教育訓練を活用する際のポイント

教育訓練を活用する際には、以下のポイントに気を付けましょう。

  • 教育訓練の実施はOFF-JT(座学)のみであり、営業同行や現場実習(OJT)は不該当となる。
  • 訓練には、事業所内で主催する「内部訓練」と外部に委託する「外部訓練」があるが、助成条件は同じである(両方を合わせて申請することも可能)。
  • 計画届は、休業の実施と同様に不要である。
  • 支給申請時には「教育訓練カリキュラム」「日報」「講師の職務経歴書」が必要となる。
  • 特例措置として、オンラインによる実施、DVD視聴も申請可能。
  • 同じ内容を繰り返す訓練も必要性に応じて認められる。

現在は、特例措置によっていくつかの要件が緩和されているので、教育訓練を実施する前には事前にポイントをしっかりと把握しておきましょう。

教育訓練を申請する流れ

続いては、教育訓練を申請する流れについて解説します。

はじめに「訓練カリキュラム」を作成し、訓練内容や訓練を受ける対象労働者の範囲、実施スケジュール、訓練の種類(内部・外部)などを決定します。

なお、訓練内容は職務と関連性のあるものに限られるため、対象労働者の職種ごとに訓練を設定する必要があります。もし、該当するか否かの判断が難しいような場合には、事前に各都道府県労働局に問い合わせてみるといいでしょう。

それらの情報を元に、教育訓練の労使協定書を会社と労働者代表とで協定します。その際、教育訓練実施時の休業手当相当額は、原則として平均賃金100%であることにご注意ください。例外的に、就業規則にあらかじめ「教育訓練の場合、6割支給する旨」などが記載されている場合には、手当を100%未満で支給することも可能です。

なお、様式9号(実績一覧表)を計画表として活用することで、「誰がいつ訓練を行うか」という状況を整理ができます。様式9号を実績に変更して支給申請を行うことで、申請がスムーズに行えるため、様式9号を予定表として活用することがおすすめです。

雇用調整助成金を申請せずに解雇無効となった事案

最後に、会社が雇用調整助成金を申請しなかったために、労働者の解雇が無効となった労働トラブルの事案について簡単に解説します。

こちらは、仙台市を拠点に営業するタクシー会社を解雇された運転手4名が、従業員としての地位確認、請求や賃金支払いを求めて仮処分の申し立てを行った事案です。仮処分とは、不当解雇である可能性が高い場合に、裁判所が先に処分を認めることのできる制度です。

本事案の結論としては、4人の解雇は無効。さらに、4人のうち3人の運転手に未払いだった休業手当相当額についての支払い命令が下ることとなりました。裁判所は「会社が助成金を申請していれば休業手当の大半が補填できた」という判決で、今回の解雇は無効と決定しました。

このタクシー会社には労働組合があるために、従業員側の主張が大きく反映されたという側面があります。しかしそれ以上に、「雇用調整助成金を使わなければ解雇は無効になる可能性が高い」ことに気付きを与えられた事案といえるでしょう。

まとめ

雇用調整助成金の申請に必要な書類はいくつもありますが、現在は特例措置によって助成額・助成率ともに上限が引き上げられているために、支給されることで事業の存続や従業員の雇用に大きく活用できるでしょう。

新型コロナウイルスの第3波も予想されている昨今において、雇用調整助成金の申請はまだまだ活用されると考えられます。まだ雇用調整助成金を活用されていない場合には、ぜひこの機会に支給申請をしてみてはいかがでしょうか。