経営ビジョンの重要性を言葉づくりのプロに聞いた!ビジョンの明確化による効果とは?

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プロフィール
株式会社サインコサイン
代表取締役CEO
加来 幸樹
1983年福岡県生まれ。九州大学芸術工学部卒業。2006年にセプテーニに新卒入社し、デジタルマーケティングのクリエイティブ領域を中心に様々な顧客の課題解決を支援した後、2018年にサインコサインを設立。「自分の言葉で語るとき、人はいい声で話す。」を理念に掲げて、企業や個人の理念・ブランドのネーミングやタグラインなど覚悟の象徴を共に創ることで社会に貢献するべくマイペースに奮闘中。

世界中が大きな変革期を向かえている2020年。日本社会も、これまでと変わらない経営や組織づくり、採用活動で、同じような結果を出していくことは出来るのだろうか。そんな不安を抱いている中小企業の経営者の方々は増えているのではないでしょうか。

変わりゆく日本社会において、しっかりと成長し、勝ち抜いていくためには、揺るぎない意思と多くの人々を惹きつける「経営ビジョン」を掲げることがキーポイントになるかもしれません。そこで、さまざまな企業のビジョンやミッションなどの理念づくりに携わってきた株式会社サインコサイン代表の加来幸樹さんに、経営ビジョンを明確にすることの重要性をお伺いしました。

経営ビジョンはなぜ大切なのか

会社を経営していく上で重要な位置づけにあるビジョンの大切さとその理由を教えてください。

加来幸樹(以下、加来):ビジョンに限らず、経営理念はなぜ大切なのか、という話かなと思っています。僕は経営理念を「ビジョン」「ミッション」「バリュー」という表現で整理することが多いので、まずはそれぞれの意味について説明できればと思います。

「ビジョン」は、自分たちが現在から未来に向けてどういう風になりたいのか、あるいは常にどうありたいのかという理想の姿を表したもの。一方でミッションは、世の中でこういうことを成し遂げたいとか、こういうことを価値として提供するのが自分の存在意義であるということ。言い換えると、つまり「使命」ですね。会社という命を使って果たすことを掲げるのがミッションです。

そのビジョンやミッションを実現するために価値観として共有すべきものがバリューとかコアバリューと呼ばれるもの。判断に迷ったらどっちを選ぶとか、日々なにを気にして行動するとか、どういう価値観を最も大事なものとして位置づけるか、というものがバリューです。

その上で質問にお答えすると、会社においてビジョンやミッションが大切というよりは、「会社はビジョンやミッションを実現させるために存在しているもの」という表現が正しいと僕は考えています。ビジョンやミッションを成し遂げようと思ったら、株式会社や有限会社、合同会社などの「会社」という形式を取る。これが正しい順番だと思っています。

会社を経営していくためにビジョンやミッションが大切なのではなく、ビジョンやミッションを実現するために会社を経営する、という考え方を持つことが重要なのですね。

加来:冒頭の質問の背景には、ここ数十年間の間で逆転してしまった考え方が要因にあると思います。会社をつくって儲けることが目的にあり、そのためにビジョンやミッションを掲げている会社もあれば、掲げていない会社もあった。あるいは、掲げていてもお飾り的なものになっていて、機能していなくても会社として存続できたり、儲けることができたりしていた。そういう環境だったからこそ、ビジョンやミッションの順番がうしろに来てしまっていたのです。

今までは「会社を経営するには?」や「経営して利益を出すには?」「組織を強くするには?」といったことに対して、「こういうレールに乗っていれば大丈夫!」という成功法則が多少なりともありました。しかし、これからは新型コロナウイルス感染拡大の影響で急速にテレワークが広まったように、さまざまな変化によってその成功法則もすぐに通用しなくなる可能性があります。そういった時代がすぐそこまで来ているからこそ、改めてビジョンやミッションといった理念が重要になるのです。

そのような中で、今後は、会社の経営という視点においても、働く側の視点においても、いよいよ自分の“頭”と“意思”で選択することが求められていきます。例えば、テレワークという働き方の選択肢が生まれ、「出社するか・出社しないか」といった、どちらにもメリット・デメリットがあって正解のない選択シーンが訪れたときに何に従って選択するのか。それがまさにビジョンやミッションといった理念に従って自分の意思で選択するということだと思います。

逆にいうと、そういうものがないと選択はきっとできない。周りがこうしているからとか、みんながこう言っているからというのではなく、「自分はこれを信じているから、この選択をする」という意志がなければ、一緒に働いているみんなも共感できず、ついてこなくなります。そうなると、会社として信念の先に生み出すべきパフォーマンスにも影響が出て、結果もついてこなくなる。なので、“覚悟のある選択”をするためにビジョンやミッションといった理念が重要だということが言えます。

経営ビジョンの明確化で得られるメリット

ビジョンを明確にすることによって、どのような期待を持てるのでしょうか?

加来:早いスピードで変化している世の中では、事業や組織も変わっていかなければ、良い結果を生み出し続けるのは難しい。このように考えるのは当然のことだと思います。しかし、上手くいくかわからないから、先に行動に移している周りを見て様子を伺ったり、何度分析しても成功の見込みが立たないから意思決定をしなかったり、ということも実際にあると思います。

そんな時、ビジョンが明確になっていると躊躇しなくなります。なぜなら、ビジョンは外に発信する言葉であると共に、自分たちに対する問いにもなっているからです。なりたい姿を強く指し示す言葉がビジョンなので、その言葉を強く持てていれば持てているほど、「思い描いている方向に向かえているのか」「理想の状態に近づけているのか」と常に問い続け、世の中や市場、周囲の変化により敏感になります。

そうなると、自分たちをその変化に合わせたり、あるいはそれ以上の変化を遂げたり、新しいサービスや事業を打ち出したり、もしくは世の中にフィットしなくなりそうなサービスだから積極的に捨てていくという意思決定ができるようになります。ビジョンを明確に持つことのメリットは、「変化のスピードが上がる」ということだと思います。

自分たちが目指す姿を明確にすることで、意思決定のスピードを上げて、前に進んでいける。だからこそ変化のスピードも上がるのですね。

加来:そういうことです。もう一つ挙げるとしたら、明確なビジョンは企業と働き手がパートナーシップを築く上でとても重要になります。先ほども「選択」というキーワードを出しましたが、今の世の中で何が進んでいるかという一つの見方として、企業と働き手の関わり方の選択肢が多様になっているということが言えます。

従来は、正社員で働くのが成功のレールであり、ある種絶対のルールでもありました。ですが、昨今のようにテクノロジーの進化や人々の価値観の多様化に伴って、「フリーランスという働き方でも、パラレルワークという働き方でもいいかも。」あるいは「自分で起業してみるのもいいかも。」といった具合に働き方が多様になっているし、企業の提供するサービスや事業の明確な差がなくなり、コモディティ化が進んでいます。

そうした中で、それでもなぜ「A社で働くんだっけ?」という、“あえて”ここで働く理由がとても重要なものだと僕は思っています。そしてその“あえて”を考えるときに頼りになるのが、ビジョンやミッションといった理念になる言葉。だからこそ、明確にする必要があると考えています。

覚悟ある経営ビジョンの作り方

経営層が集まって経営ビジョンを自分たちで決めようとしたとき、どのように作っていくのがいいのでしょうか?

加来:「ビジョンを作りましょう!」と、いざ経営層が集合して言葉を作り始めるのも大切なことですが、それ以前に、経営層の各人が自分の言葉で語れる具体的な体験や経験がどれくらいあるかがすごく重要だと思っています。なので、実際に仕事をする中で「ここは自分を信じて選択した行動です」と言えるものが、1つでも2つでも多い人のほうがビジョンをより明確に言語化できます。

それがない状態だと、想像でしかものを語れないし、自分の中での強い確信を持てなくなる。そういう意味では作る手前の段階として、自分を信じて行動したことや決定したことを一つでも多くして、その結果どうなったのかを受け止める。そのとき自分がどう感じたのかを“本音の感想”として持つ、という経験がたくさんあると効果的です。

それこそ幼少期の話や学生時代のエピソードも関わってきていいと思いますし、そういう過去の体験や経験をどれだけ積み重ねておけるかが、実際の言葉になる材料になっていきます。なので、たくさんのエピソードや思い出を自由に語ったときに、どこが自分として良い声で語れているのか、それはなぜなのかを突き詰めていくところから言葉の材料を見つけていくといいと思います。

あとは、集まった言葉の材料をどう料理するかについては、言葉づくりに関して専門性を持っている人にファシリテートしてもらった方がやりやすいかと思いますが、表現的なテクニックよりも、大事なのは先ほど説明した部分なので、そこさえちゃんと押さえていれば自分たちでもビジョンを作ることは可能です。

また、僕らのようにビジョンやミッションづくりを生業としているところに相談するとしても、言葉の材料がないと誰に頼んでも作れないと思うので、しっかりと自分の言葉で語れる具体的な体験や経験に向き合うことが重要です。

覚悟を持った理念がもたらす採用シーンでの親和性

覚悟を持った言葉が理念になると採用シーンにも良い影響をおよぼしたりするのでしょうか?

加来:求職者が心に秘めている信念と、希望している転職先の理念との重なり合う面積が広いほど、求職者にとって転職先は“あえて”ここで働く理由になります。親和性が同じ志を持つ人を集め、会社をより強い組織へと成長させてくれるのです。

「私がこの会社で働いていくことが、双方にとって幸せな方向に進むんだ」と思えたとき、“あえて”ここで働いている価値を感じられる。そうなると、みんなが能動的、主導的に取り組んでくれるので、働き手のキャリアは豊かになるし、会社が掲げている理念の実現にも近づいていきます。

同じ事業を営む企業との競争の中で、親和性は会社の付加価値を高めることにつながるので、結果的にいいパフォーマンスを生み出してくれるのです。人事の教科書に載っているような採用基準を真似するのではなく、求職者と自社の親和性を見る採用活動が、これからの時代には効果的だと感じています。

覚悟ある言葉の経営ビジョンに人は集まる

明確なビジョンのもとには、はっきりとした意志を持つ人々が集まってきます。目指す未来が明確であればあるほど、求職者も強く惹かれて志望します。だからこそ、覚悟を持った言葉の経営ビジョンを掲げることは、会社を成長させていくためにとても重要なこと。経営者のみなさん、ぜひとも今回お話をお伺いした株式会社サインコサイン代表の加来さんがおっしゃられていた“あえてここで働く”その理由になる力強い経営ビジョンを策定してみてはいかがでしょうか。