経営デザインシートでありたい組織像を見える化!経営を設計図にする大切さとは

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プロフィール
公益財団法人日本生産性本部 経営品質協議会
塩見 英明
1995年日本生産性本部入職後、主に人事・人材育成領域プロデューサー、労政・採用担当、総務課長を歴任。2013年から経営品質協議会課長(シニアプロデューサー)に就任。

中小企業庁が、国内の法人数を調査した最新データでは、大企業が約1万社、中小企業は約360万社でした。国内にある法人の99%以上が中小企業であるわけですが、その中で“組織のありたい姿”を描きつつ、現在何をするかを捉えて実践できている企業は決して多くありません。そこで、日本企業の経営品質向上への活動を推進している公益財団法人日本生産性本部の塩見英明さんに、組織の未来を描くために重要な経営の設計図である「経営デザイン」の重要性や、実際に取り組まれた企業の事例についてお聞きしました。

出典:中小企業庁「2019年版中小企業白書(25P)」

経営を次代につなぐ「経営デザイン」

企業が未来を描く上で重要とされる「経営デザイン」について、具体的に教えてください。

経営デザインとは、将来の「ありたい姿」から、「現状」を認識することにより、今なにをなすべきかという「変革課題」をとらえて実践することを特長とする、経営の仕組みづくりです。つまり、経営において根幹を成す部分を設計図としてまず見える化することを目的としています。

経営の仕組みづくりとして“経営の見える化”を目的とする背景には、どのような理由があるのでしょうか。

きっかけは、経営や事業の承継問題がありました。日本全体の高齢化が進んでいるのと同様に、経営者の高齢化も右肩上がりで推移しており、今、70歳以上の経営者はそれほど珍しくありません。そのため、今後、経営者が勇退する企業が増えることは確実であり、特に中小企業における事業承継は、以前から大きな課題となっていました。

経営品質協議会の泉谷直木代表(アサヒグループホールディングス会長)をはじめ経営者がこの問題に大きな危機感を示し、私たちは生産性向上を担う立場として「経営デザインによる生産性向上プログラム」を立ち上げ、その一環として2018年に創設したのが「経営デザイン認証制度」です。経営の見える化によって、いわゆるワンマン経営のような“人の経営”から、次世代が当事者意識をもって改革に取り組む“組織の経営”にシフトするお手伝いをしています。

“組織の経営”に向けた経営デザインで重要なポイントなどがあれば教えてください。

経営デザインは、言い換えれば「これからの経営設計図」になるので、自社の経営がこれから目指す方向を次世代の幹部が中心となって明確にしていきます。トップである経営者ひとりが今の事業に対して、“とても価値がある”と言ったところで、結局は次世代の幹部になる方が同じ想いを持っていなければ意味がありません。

つまり、彼らが魅力に感じられるように伝えて、経営をバトンタッチすることが必要です。そのため、経営幹部や社員それぞれが経営デザインづくりに参加して魅力を言葉にして共有することにより、組織全体の力で経営変革と事業成長を図ることが重要なポイントになります。

経営デザイン(これからの経営設計図)のつくり方

経営をデザインするとは、具体的にどのような方法があるのでしょうか。

経営をデザインするためには、まず未来のありたい姿を明確にする必要があります。このありたい姿から現状を見るという考え方を「ポジティブアプローチ」といって、問題そのものを発見するために有効な思考法といえるでしょう。一方で、現在ある問題を解決する考え方は「ギャップアプローチ」といって、一般的に多くの企業に根付いている思考法です。

ギャップアプローチは、日本経済が成長軌道にあって他社のやり方を真似すれば一定の付加価値を確保できるという時代なら通用します。しかし、今は変化が激しく多様性が求められる“正解のない時代”なので、求められるのはお客様や社会が何を求めているかという観点から、自社の価値を考えて新しい価値を提供することです。そのため、ありたい姿を自分たちの言葉で生み出す“ポジティブアプローチ”により経営をデザインすることをお勧めしています。

ポジティブアプローチによる“ありたい姿”を明確にするのは簡単なことではないと思うのですが、どのようにして導いていくのですか。

まずは研修で、自社や自部門で「ありたい姿」を求めるセルフワークが基本になります。ただし、社内でやると難しいのは固定観念や既存のルールが邪魔をしてくるので、一度それらをすべて外してみることがポイントになります。また、いきなり「ありたい姿」と言われても、「何を書いたら?」ということも出てくるでしょう。私どもで開催している「経営デザイン研修」ではまず、自社の生い立ちを振り返り、「事業の強みや魅力はどういうところにあるのか」という問いかけから始めていきます。意外と「考えたこともなかった」問いかけのようで、新たな発想を生むことにつながっています。そのうえで、「お客様や社会、技術等がどのように変化していくか」を考えた上で、「これからどう進化していくと理想的か」というように、ポジティブにこれからの経営の根幹にアプローチしていきます。

このように自らの生い立ちに学び、自分の業務の範囲にとどまらず、自社全体、ひいては、取り巻くお客さま、社会のことを広く考えることで、今までなかった気付きを得たり、部長や課長であれば、「あ、経営者はこういう視点で発想しているんだな」等、視座を高めることができます。業務を進めるテクニカルスキルに長けた方々が、コンセプチュアルスキルを磨いていくことにつながります。そうすると、部門や役割などの垣根を越えた統合的な議論が活性化し、組織として掲げる“ありたい姿”の「見える化」から、「わかる化」、「できる化」という3ステップへと進めるようになるでしょう。

「これからの経営設計図(A3サイズ)」はこちらよりDL可能です

ありたい姿の見える化、わかる化、できる化のステップを進めていく具体的なプロセスを教えてください。

プロセスとしては、ありたい姿の実現に向けて“進化させたいこと”などを明確化するため、ポジティブアプローチで事業の魅力を掘り起こしていきます。この時に使用するのが、「これからの経営設計図」というA3サイズの経営デザインシートです。

経営デザイン(これからの経営設計図)とは、組織が目指す姿の実現に向けてこれまでと現状の経営を振り返り、これから起こり得る競争環境や市場の変化などを予見して、商品・サービスや経営戦略などを見直しつつ、これからのありたい姿を見える化できるフレームワークのこと。要するに、「経営計画書」のベースとなるものとして、会社の歴史や生い立ちを振り返り、守り続けていくものと変えていくものを見極めることができます。

そして、お客様や市場のニーズ、サービスなどの提供方法やビジネスモデル、そして人や技術などの経営資源といった現状の強みと伸ばしたいものを明確にすること。そのうえで、「何のために変革するのか」という目的やその実現によって得られる喜びをイメージする。すると、ありたい姿のデザインが明確になり、達成目標や達成時期の設定、取り組むべき課題が見えてきます。

「わかる化」へのステップは、経営者や経営幹部が経営をデザインした後に、中間層に伝え、社員一人ひとりにその意図を伝えていくことを通して、理解を共有するステップです。ここまで進めていくと、いよいよ「できる化」の段階に入ります。つまり、社員一人ひとりが日常業務を通じて実践する、実践を通して得られた気付きを「仕組み化」する等、です。

幹部や社員の一人ひとりが持つ強みや内側に持っているものをつなぎ合わせていくことで、経営デザインシートは完成するのですね。

まさに、ストーリーを描いていくようなイメージです。一方、ほとんどの経営者が作成する「経営計画書」は、現在の業績をベースに来年度の売上や利益目標を算出する、数字メインの計画です。もちろん、会社を経営するために必ず必要になるものですが、経営計画書はギャップアプローチによる思考法で作成されることが多く、現状から売上高を10%伸ばすという具合に答えを無理やりつくり出すことになりがちです。

その問題点は、本質となる問題を発見できず、時代の大きな変化が起こると計画通りにいかなくなり徐々にシュリンクしてしまうことです。そこで、数字メインの経営計画書と非財務メインの経営デザインを併用した経営改革を推奨しています。

経営設計図の完成度を高める「経営デザイン認証」

企業ごとに経営デザインシートの中身は異なると思うのですが、同じように完成度にも差が出てしまうのではないでしょうか。

自社のメンバーで知恵を集結させて、会社を良くする改革の取り組みを「これからの経営設計図」にまとめることが基本です。私たちは、その取り組みに、第三者として協力し、社外から新しい知見を獲得することで、「これからの経営設計図」の完成度を高めることにお役立ちしたいと考えています。

私たちは、「日本経営品質賞アセスメント基準」を基に、1995年以来25年間で約300社の企業や組織に対して、経営デザインづくりを支援してきました。この経営の基準と考え方を研修で学んだ方々を「セルフアセッサー」として資格認定し、その資格を持った方々の中で、日本経営品質賞審査員等のご経験豊富な方々を経営デザイン研修ファシリテーターや経営デザイン認証審査員として、経営デザインづくりや経営デザインに関するインタビュー、フィードバック等のご支援を行っています。

「経営デザイン認証」は、ありたい姿・現在の環境認識・変革課題を組織として見える化、実践していると認められた「スタートアップ認証」と、ありたい姿の達成に結び付く成果の指標、目標の見える化、実践が認められた「ランクアップ認証」の2種類。2018年の創設以来、2年間で31組織が32の認証を取得されています。

経営デザイン認証を取得された企業の事例があれば教えてください。

東京海上日動火災保険株式会社ディーラーカンパニーは、自動車メーカーや販売店であるディーラーを担当する社内カンパニーです。以前から経営品質向上プログラムを全面的に採用し、取り組んでこられました。2018年より、傘下にある110の課や支社でも経営デザインを作成することで、各課や支社での組織経営の根幹となる部分を見える化し、定期的な見直しを実施されています。

改善と改革のサイクルが定着したことから、カンパニー全体としての「これからの経営設計図」を描いて第三者評価を得ることで次代に承継できるものをつくられて、経営デザイン認証ランクアップ認証を取得いただきました。将来に引き継ぐ文化や価値観などを示した経営デザインシートを各現場で活用すると共に、取引先の自動車メーカーやディ―ラーが抱える経営課題の解決にも役立てながら、独自能力や文化として定着させていくことを目指されています。

第三者の評価を得ることで、次世代に自信をもって承継できる設計図を描くことができたのですね。次世代幹部やマネジャー層の育成にも有効だと感じました。

そうですね。社長の言うことに従って全速力で走れば付加価値を高められていた企業は、社長がいなくなった時に自分たちの足で動けるかどうか分かりません。でも、そこに自分たちで導き出した経営設計図があれば、次世代の幹部も当事者意識をもって動けるようになります。

実際に、私が経営デザイン研修の社内開催をご支援させていただいた千葉県を中心に約50店舗の理美容店を展開する株式会社オオクシの大串社長は、各事業やエリアを担当する責任者を事業目線から経営目線に引き上げることを課題として認識されていました。「これからの経営設計図」をつくる際も、本当はご自身が発言したいところを何度もグッと我慢しておられたことが強く印象に残っています。経営デザイン認証ランクアップ認証取得時のスピーチでは、「現状とのギャップを埋めることが最短で成果をあげられることだと思ってきたが、今回の研修でこれからの経営設計図を社員と一緒に作成したことで、よりビジョンや目的が鮮明になり、なにより研修を受けた社員の目線が高くなった。認証審査を通じて獲得した“社員たちが考え続ける文化”を広めることに尽力していきたい」という言葉をいただき、より成熟度の高い持続可能性を高める組織づくりに向けて貢献できたとすれば大変喜ばしく思っています。

経営をデザインすることによって、これからの社会にどのような好影響を与えていきたいとお考えですか。

景気変動やあらゆる災害などが続く激動の時代ではありますが、数年前に比べて女性や高齢者が働きやすい環境になり、テクノロジーの進化によってWeb 会議システムなどによるリモートワークが可能になるなど、マイナスだけではなくプラスに改善されてきたことは多くあります。

それらを前向きに活用して企業の進化にお役立ちしたいと考えています。これまで私たちが出会ってきた企業の中には、経営者以外の幹部はもちろん社員やアルバイトの方々を戦力にして、新しい商品やサービス、お客様に対する価値を改善していく。あるいは、ダイバーシティの観点から、経営理念なども日本語だけではなく、中国語や英語に訳して組織全体に浸透させる等の取組みをされているところがありました。

経営デザインをきっかけに、自分本位ではなく相手(お客様)本位の取り組みをする企業や、新しい気づきを得て経営の中に取り入れる企業が増えていって欲しいと思っています。

経営デザインに取り組むことで、組織の結束力は強くなる。

経営デザインとは、自社の経営が目指す方向を明らかにするために、次世代の幹部や社員たち全員で描く「これからの経営設計図」。この設計図があれば、言われたことをただこなすのではなく、社員一人ひとりが意志を共有し合い、同じ目的地に進む方法を明確にすることができます。もちろん、会社を経営するうえで売上や利益を出すことは不可欠ですが、それら数字は事業を通じてお客様から得られた結果であって、数字自体が経営の目的ではありません。

つまり、自分本位ではなく相手(お客様)本位の思考法で、経営計画書と経営デザインを目的に応じて使い分けることで、経営理念をベースとした組織の目指す“ありたい姿”を全員が把握している状態になる。そうすれば、困難や迷いが生じたとしても個々がどう行動すればいいかわかる、しなやかさをもった強靭な組織へと進化を遂げられるでしょう。