雇用ミスを避け、優秀な人材を採用する方法

目次

人材戦略のコンサルタント会社であるghSMARTのCEOジェフ・スマート氏と、同社の役員であるランディ・ストリート氏の共著『Who: The A Method for Hiring』は、2008年の初版発行以来、採用担当者が読むべき書籍として数々の新聞や雑誌で紹介されている、とても有名な本です。この本では上位10%の人だけが達成できる一連の成果について、少なくとも90%できる可能性を持つ人を「Aプレイヤー」と定義し、才能のあるAプレイヤーを採用するための「採用のAメソッド」を提案しています。その概要をご案内しましょう。

「What」よりも「Who」に目を向ける

まずは「何ができるか」よりも「どのような人か」に目を向けて採用活動をすることです。才能がある人でも、組織に合わなければその才能を発揮することができません。

採用ミスを引き起こす4つの問題

著者は多数の企業のマネージャーに聞き取り調査をし、データを分析した結果、採用の失敗につながる4つの典型的な問題を発見しました。

  • 採用募集をしている職種に必要な能力がはっきり分かっていない
  • 良い候補者が足りない
  • 適切な候補者を選び出せない
  • 選んだ候補者を逃してしまう

このような問題を克服しAプレイヤーを採用する「採用のAメソッド」として、次にあげる4つのステップが提案されています。

スコアカードを作り、募集する職種に必要な能力を明確にする

スコアカードは、その職種に何が必要かを正確に記述した資料です。優れたスコアカードは、候補者に彼らがどのような基準で評価されるのかを正しく知らせます。そして、その人が採用された後にはパフォーマンスのチェックや評価に使うことができます。

スコアカードを作る前に、企業の戦略、文化、目標を明確にしましょう。そして、それが組織内の各個人の特定の目標や活動にどのように関わっているかを、担当者が理解しなければなりません。そのうえで、次の3つの項目について書き出します。

使命(その仕事が存在する目的)

使命の欄には、その仕事が存在する目的を表します。例えばセールス部門の役員であれば、その使命は、業界の顧客と直接コンタクトを取り収益を拡大することです。管理業務を行うことだけではありません。カスタマーサービス担当者であれば、その使命は単に電話に出るだけではなく「お客様の質問や苦情を可能な限り丁寧に解決すること」となるでしょう。誰にでも分かりやすい言葉で、その職種の具体的な使命を書き出すことがポイントです。

結果(その人が提供しなければならないもの)

Aプレイヤーとしてのパフォーマンスを達成するために必要な、3つから8つ程度の具体的で客観的な結果を書き出します。ここでは、セールス部門の役員の場合を考えてみます。

  • 3年後までに25億円から50億円へ利益をアップさせる
  • 〇〇ができるAプレイヤーを〇〇人雇用し、営業チームを強化する
  • 90%以上正確な月刊レポートの作成

カスタマーサービス担当者ならば「12月31日までに顧客満足度を10段階評価で7.1から9.0まで向上させる」というように、数値や期日をはっきり決めます。

能力(結果を出すために必要な力と企業文化)

結果を出すための行動に必要な能力をすべて書き出します。採用担当者を募集するとすれば、Aプレイヤーを採用するために候補者を探しアプローチする力、選考試験を実施する力、有望な候補者に組織を売り込む力が必要となるでしょう。ほかにも条件や状況に素早く対応できる柔軟性、プレッシャーに負けない冷静さ、そして職業倫理などが必要です。このように思いつく能力をすべて書き出します。

次に、企業文化に合う能力を5つから8つあげ、スコアカードに含めます。例えば「効率性、誠実さ、高水準、顧客サービス精神が能力に含まれていること」となります。

本書ではAプレイヤーに必要な能力として、効率性、誠実さ、組織力と計画性、積極性、やりとげる力、知性、分析力、細かいところに気がつく力、粘り強さ、自主性があげられています。これらの中から企業文化に合うものを選んでもいいでしょう。

スコアカードが完成したら

スコアカードが完成したら、企業のビジネスプランや、一緒に働くことになるほかの職種のスコアカードと比較し、整合性がとれているか確認しましょう。その後、チームメンバーや採用担当者を含む関係者とスコアカードを共有します。仕事の役割と要件は時とともに変化するため、スコアカードは、求人募集をするたびに更新や作り直しなくてはなりません。

人材の源泉を見つけ、Aプレイヤーにアプローチする

人が足りなくなったときに急いで採用活動をしても、Aプレイヤーを採用することはできません。実際に人材が必要となる前に人材のパイプラインをシステム化しておくことで、潜在的な才能を見いだすことができます。

Aプレイヤーを見つける最善の方法は、広告ではなく紹介を利用することです。著者は、個人や専門家のネットワーク、従業員やビジネスネットワークから紹介を得ることを勧めています。また、外部のリクルーターに頼むのも一つです。その場合も「採用のAメソッド」をリクルーター探しに使うことで、優秀なリクルーターを見つけることができるでしょう。

人材情報をシステム化する

見込みがある人材の情報をシステム化することも大切です。システムはスプレッドシートのように単純なものでも、カレンダーと統合された候補者追跡システムのように複雑なものでも構いません。大切なのはアプローチできる人材を常にキープしておくことです。そして計画を立て候補者に連絡を取ります。

  1. ソースとなる候補者の名前と連絡先などの情報を集める
  2. フォローアップするための計画をカレンダーに書き込む

4段階のインタビューでAプレイヤーを見つける

構造化された質問と、スコアカードを基にした評価で情報に基づいた採用決定をします。インタビューによって、望ましい結果を残してきた実績があるかどうか、役割と企業文化に合った能力を持っているか、その役割に情熱を傾けられるかどうかを聞き出し、Aプレイヤーを見つけ出します。

スクリーニングインタビュー

電話による短いインタビューで、Aプレイヤーのレベルに達していないBプレイヤーとCプレイヤーをすばやく選別します。自分の目標や、これまでに達成したことを具体的に述べることができなかったり、今までの仕事で上司に頼りにされていなかったりするのがBプレイヤーとCプレイヤーの特徴です。この段階では、候補者の80〜90%を不合格にすることで、不要な時間とエネルギーを大幅に節約できます。

質問の例:

  1. あなたのキャリアの目標を教えてください
  2. 仕事のうえで、あなたはどのようなことに優れていますか?
  3. 仕事のうえで、あなたがやってみたいと思わないことや興味のないことは何ですか?
  4. 今までの仕事の上司を5人あげてください。私がその人たちに連絡してあなたのことを聞いたら、あなたに10段階でどれくらいの評価を与えると思いますか?

Whoインタビュー

「どのような人か」を基準に選考する、最も大切な面接です。5つの質問を使って候補者の職歴を時系列で把握し、各職歴における具体的な事実と体験談を引き出します。面接には3〜5時間をかけます。面接が終わる頃には候補者に対する評価が明確になるでしょう。

1.あなたが雇われたのは何をするためでしたか?

特定の職種と、候補者の目標を明確にする質問

2.あなたが最も誇りに思っていることは何ですか?

その人のキャリアのピークについて。多くの人は自然と自分がキャリアのなかで重視することについて話します。Aプレイヤーは、自分に向けられた期待に応えられたというような結果について話す傾向があります。B、Cプレイヤーは、自分が出した結果ではない出来事、出会った人、または好きな仕事の側面について話す傾向があります。

3.以前の仕事をしている間、うまくいかなかったことは何でしたか?

誰にとってもうまくいかない時期はあります。なかなか話したがらないテーマですが、間違いや、うまくいかなかったことを聞き出します。

4.一緒に働いていた人は、どのような人でしたか?

上司の名前を聞き、面接官がその人に連絡を取れるという仕草をすることで真実を聞き出せます。そして、その人と働くことがどうだったか聞いてみます。過去の上司を褒める人もいれば、けなす人もいるかもしれません。過去の上司についてネガティブな点を並べる人は、将来もその傾向が続くと思っていいでしょう。次に、過去の上司に候補者の長所を尋ねたらどう答えると思うか聞いてみます。候補者に上司のことについて尋ねてから、その上司の候補者への印象を尋ねることで相互作用が働き正直な回答を期待できます。

5.どうして前の仕事を辞めたのですか?

キャリアアップのために退職したのか、何かから逃げてきたのか。多くのAプレイヤーは上司に価値を認められています。その人が成功を収めて次のステップに進もうと退職したのか、それとも彼らの貢献を重視していない上司によって仕事から追い出されたのかを知ることは、Aプレイヤーを見つけるために大切です。

フォーカスインタビュー

このインタビューには約45〜60分かかります。目標は、スコアカードに特定された成果や能力に関する情報、Whoインタビューで知ったことをさらに掘り下げることです。また、企業文化への適合性を確認します。

  1. この面接では〇〇について話しましょう。(〇〇には、候補者と特に話し合いたいこと、例えば新規顧客への販売経験についてとか、チーム作りやリーダーとしての経験など、スコアカードに示されている資質について)
  2. この分野で最も業績を残したことはなんですか?
  3. この分野で一番の失敗と、そこから学んだことは何でしたか?

経歴照会インタビュー

3つのインタビューを通して得た情報が正しいかどうか確認するインタビュー。日本ではあまり行われませんが、候補者の以前の上司や雇用主に連絡し候補者について尋ねます。「採用のAメソッド」では、このインタビューを重視しています。

経歴照会インタビューの質問例

  1. どのような状況で候補者と一緒に働きましたか?
  2. 候補者の強みは何だと思いますか?
  3. 候補者は、どのような分野で最も成長が見られましたか?
  4. 候補者のパフォーマンスを10段階で評価するとしたら何点ですか?
  5. 候補者は自分の強みを〇〇だと言っています。このことについてどう思われますか?

決定

インタビューを進めながら、一段階ごとに理想的な候補者を絞っていきます。次の段階に進めるのは選ばれた候補者だけです。4つのインタビューが終わったらスコアカードに評価を書き加え、各候補者にA、B、またはCの総合評価を与えます。そしてAの評価になった候補者だけを採用します。 Aプレイヤーがいなかった場合には、見込みのある人材にアプローチするところから再び採用活動を始めます。Aプレイヤーが複数いた場合には、そのなかで最も優れていると思う人を選びます。

Aプレイヤーに組織を売り込む

採用したいと思える人材を見つけたときには、その人が組織に加わってくれるよう促します。採用担当者の仕事は、採用したいと思った人が従業員となり、仕事で結果を出すまでは終わりません。候補者に組織を売り込むためのセールスポイントとして、著者は5つのFを挙げています。5つのFは、合格を決めた後だけではなく、採用活動全体を通じてアピールする必要があります。具体的には、Aプレイヤーを探しているとき、面接試験をしているとき、合格者が内定を受け入れるのを待っている間、内定が承認された後、そして新規採用者が働き始めた最初の3か月ほどの間、5つのFで組織を売り込みます。そうしなければ、採用活動のどの時点でも候補者を失う可能性があります。もし候補者から5Fに関する懸念事項を聞いたときには、すぐに対処します。

雇用を促すセールスポイント 5つのF

  1. Fit
  2. 候補者がAプレイヤーとして組織に合っていること、彼らの考えるゴールや伸ばしたい才能、ビジョンと企業の文化が合っていることを伝える。

  3. Family
  4. 就職が候補者の家族にとってよい選択になることを伝える。

  5. Freedom
  6. 自由に才能を生かせる組織であることを伝える。

  7. Fortune
  8. 市場や才能に見合った収入が得られることを伝える。

  9. Fun
  10. 職場に楽しさがあることを伝える。

Aプレイヤーに組織を売り込むタイミング

5つのFのうち候補者にとって重要なFがどれであるか、採用活動をしながら見極め、粘り強く説得します。合格を決めた後だけではなく採用活動のどの段階でも組織を売り込むことを忘れてはいけません。もし候補者から5つのFに関する懸念事項を聞いたときには、すぐに対処することも必要です。プレイヤーに組織を売り込むタイミングは大きく分けて5つあります。

  1. Aプレイヤーを探しているとき
  2. 面接試験をしているとき
  3. 合格者が内定を受け入れるのを待っている間
  4. 内定が承認されてから最初の出社までの間
  5. 働き始めてからの100日間

例えば美術館のキュレーターを採用するための面接をしていると想定します。面接の終わりにこの候補者から、「この美術館に研修費用を全額負担してくれる制度があるかどうか」を質問された場合、次の2つのことが分かるでしょう。まず、この候補者は自分の弱点を改善し専門知識を高めることに興味を持っています。そして、美術館が提供できる教育プログラムや研修旅行にかかる費用の負担制度などが、この候補者を引きつけることに役立ちそうです。そこで、この候補者には教育プログラムについて詳しく説明しながら組織を売り込みます。

採用のAメソッドの実装

Aプレイヤーの雇用には、慎重な計画、努力、粘り強さが必要です。しかし、適切な人材は企業の文化や方向性に影響を与えたり、組織の形を整えたりと長期的な成功を左右するため、結果的にそれだけの価値があります。そして採用のAメソッドの最終目標は、それぞれが役割に適した独自の強みを持つAプレイヤーで構成されたチームを作ることです。

Who: The A Method for Hiring
Dr. Geoff Smart / Randy Street(著)
出版社 Ballantine Books (2008/09/30)
ISBN-10: 9780345504197
ISBN-13: 978-0345504197