「攻めの採用」時代を勝ち抜くために、採用担当者に求められる能力

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プロフィール
株式会社人材研究所
代表取締役社長、組織人事コンサルタント 曽和利光さん
京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。また多数の就活セミナー・面接対策セミナー講師や上智大学非常勤講師も務め、学生向けにも就活関連情報を精力的に発信中。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。大企業から中小・ベンチャー企業まで幅広い顧客に対して事業を展開。

採用広告を中心としたオーディション型採用が、これまでの応募者集めの採用手法。新卒で言えばマイナビなどのメガ就職メディア。中途で言えばマイナビ転職などの転職メディア。企業側が採用広告を出し、そこに個人で応募することが採用・就職の第一段階でした。

広告という仕掛けを用意して、そこに引っかかって個人からの応募を期待する。いわば、「待ち」の採用手法が主流だったのです。今でもこれらのメディアは一定の集客力があり、使い方次第でまだまだ効果はありますが、いくつか課題点もあります。

「待ちの採用」では勝ち残れない理由

一つは応募者側の強い売り手市場が続いているため、人々の転職・就職活動量が減少。そのため、オーディンション型メディアからの応募数も次第に減ってきています(それでもまだ応募者数はオーディション型メディアが最も多いのは変わりません)。

もう一つは、オーディション型メディアから応募してきてくれるアクティブな人は、一生懸命に転職・就職活動をしている人が多く、そういう人に限って採用ブランドの高い企業に入社したいという意向が強い。そのため、知名度の低い企業にとっては競合が強く、なかなか採用するのが難しいのです。自社の採用担当者の応募者に対する動機形成力を信じるなら別ですが、多くの会社にはなかなか対処できない問題だと言い切ってもいいでしょう。

採用手法は「攻め」のスカウト型採用へ

ところが、昨今の採用難に起因する問題に対する解決策として、採用手法が徐々にスカウト型採用にシフトしてきています。スカウト型採用とは、企業側から応募者に対してアプローチをする採用手法のことを言います。

昔からある採用手法の縁故採用(最近の言い方ではリファラルリクルーティング)だけがスカウト型採用でしたが、最近ではネットやAIなどのテクノロジーの進化を利用して、スカウト型メディアというものも出てきています。

スカウト型メディアはオーディション型とは逆に、個人が自分のキャリア等のデータをスカウトメディアに登録して、それを企業側が検索して発見し、スカウトメールを打つことが第一段階になります。上述のマイナビ転職も、オーディション型メディア内にスカウト機能を装備。このようにスカウトサービスを備えるメディアが増えています。

「待ち」の採用において重要なのは「評価」の力

採用手法が変化することによって、採用担当者が身につける能力は大きく変化しています。オーディション型採用においては、採用広告を出して、それを見て応募してきた応募者を相手にするのがスタート。なので、まずは書類や面接などで選考するところから本格的に採用活動を進めていきます。

そこで必要なのが、人物やスキル、志望度などを「評価」する能力。どのようにしてその応募者に関する情報を集めるのか。そこからどういう人物と見立てるのか。そして、それは自社の採用基準にあっているのか。というところを見抜けることが重要でした。そういう時代においては「君は見る目があるね」というのが最高の褒め言葉だったのではないでしょうか。

スカウト型採用に重要なのは「動機付け」の能力

当然ながら、これからも「評価」の能力は重要。ですが、私たち氷河期世代(加えて団塊ジュニア)のような人余りの時代とは違い、今は「誰を振り落とすか」をじっくり考えないといけないような時代ではありません。むしろ「どうやって集めるのか」「いかにして入社まで導くのか」という「動機付け」の能力の方が相対的に重要になってきました。

特にスカウト型採用へ手法をシフトする場合はなおさらです。相手は自発的に応募してきた人ではなく、企業側からお願いしてきていただいているのに、いきなり「評価」という上から目線の態度で接すること自体に違和感があるようになりました。企業と個人が対等に相互評価する時代。このこと自体はとてもよいことだと思います。

求める人物像に対する「妄想力」

「動機付け」に際して、まず必要な力は「誰を口説くか」というターゲティングです。みんながスカウトしたがるようなピカピカの属性のわかりやすい人だけをターゲットとして動機付けしようとしても、労多くして益少なしとなりかねません。そのため、できるだけ「発見されにくい人」を発見できるようにすると効果的です。「発見されにくい人」を発見するには、検索キーワードを人と違うものにすることです。例えば論理的な人を探す際、「数学科」と打てばみんなが欲しがる人が出てきますが、「将棋」と打てば埋もれていた人を発見できるかもしれません。

人と違う検索キーワードを打つためには、求める人物に対する「妄想力」が必要です。「当社の基準を満たすような人は、どんなことをしてきた人なのかなぁ」と妄想し、そこで思い浮かべられる様々な要素からキーワードを決めていくのです。バイトは家庭教師かファーストフードか、趣味はアウトドア派かインドア派か、好きなマンガは、好きな俳優は、飼っているペットは・・・とイメージを膨らます。この「妄想力」が採用活動には必要なのです。

ターゲット人材に刺さる「文章力」

ターゲットが決まったら、その人材がこちらを振り向いてくれるように「誘う」ことが必要です。関心を持ってもらえるメッセージを、ターゲットにきちんと刺さる「文章力」で送ることがとても重要なのです。オーディション型でも採用広告を作る際のディレクション能力はもちろん大切でしたが、そうは言ってもプロが広告を作成するので色々と聞かれることにちゃんと答えればなんとか良い広告が出来上がって来たわけです。

ところが、スカウト型は採用担当者自身が一人ひとりに個別のスカウトメールを打つので、ディレクションではなく採用担当者自身に文章力、コピーライティング力が必要になります。SNSなどのソーシャルなメディア採用ならなおさらで、スカウトメール的なフレームすらなく、ネット上でのテキストベースのフリーなコミュニケーションで人を引き寄せる力が必要になってきます。文章による動機付けを自分でできることが、成果を左右していくのです。

クロージングもやはり「言葉の力」

最後に、誘われて出てきたターゲット人材を「口説く」ことが必要になります。スカウト型で集めた人は志望度が低い人が多い。そこで志望度を高めるのが、採用担当者の役割です。コアになるのはやはり、言葉の力。心に響く言葉で伝えられるかということが大切。ただし、応募者に伝えるべきことは決まっています。

それは「入社動機」と「事業や仕事の価値」「文化・風土の特徴」。そして「応募者が抱く不安材料に対するカウンタートーク」の四つ。内容は決まっているので準備できるのですが、残念ながらまだまだアドリブで回答する採用担当者がほとんどです。ですから、今すぐに採用担当者同士で、「実際どんなことを伝えているのか」「どうすればもっと魅力的で心に響く内容になるのか」を討議して、トークのブラッシュアップをすることが重要です。

ナレッジと違い、能力習得には時間がかかる

徐々に変わりつつある採用手法に応じて、採用担当者が身につけるべき能力の変化について述べてきましたが、知識を得た段階から適用可能なすぐに効果の出る「ナレッジ」と違って、「能力」はトレーニングすることによって徐々に身につくもの。ですから、今後の採用競争は採用担当者の能力獲得競争とも言えます。

必要能力の変化をいち早く知って、早期にトレーニングを開始すれば、採用競合が遅れて能力開発をしようとしても、容易に追いつくことができない優位性を保つことができる。一見、大変に思うかもしれませんが、これまでなかなか人気の出なかった知名度の低い企業や中小・ベンチャー企業にとっては、オーディション型採用という場で太刀打ちできなかった大企業に勝てる可能性があります。ぜひ、「攻めの採用」の時代に必要な採用担当者の能力を身につける努力を、一刻も早くスタートしてみてはいかがでしょうか。