若手採用だけを重視している企業がはまる意外な落とし穴

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プロフィール
BCホールディングス株式会社
人事総務部 課長
絲川智久
大卒後から一貫して人事業務に携わり、新卒・中途採用や人事評価制度の企画から労務、福利厚生などの管理系まで幅広く携わる。製造業や飲食業界にて採用のみならず、解雇、役員更迭など人事の裏側にも携わる。
現在は管理部門の強化、グループ全体の評価制度の変更、労務改善などを行っている。

現在はVUCA時代と言われています。VUCAとはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとって作られた造語で、予測不可能な状態を表しています。とくに経済環境や個人のキャリアにおいては将来の予測が難しい状況であると言われています。

そんななか、経営者は時代の流れに飲み込まれないように組織変革を強く意識するようになりました。そして打ち出した変革の1つに、組織の若返り、会社の平均年齢を下げる方向での組織改革があります。

若者を積極的に採用し、登用することで組織の凝り固まった考え方を変えるという狙いがあるのですが、そこにはさまざまな落とし穴があります。ここでは、どの会社も陥りやすい若者登用にひそむ罠を確認してみましょう。

平均年齢を下げすぎたことによる落とし穴

会社が継続するためには安定した利益を生み出し、成長を続ける必要があります。そのためのさまざまな取り組みが必要となるわけですが、それらは企業文化として受け継がれているもの、研修や教育システムを活用して社員のスキルアップによってもたらされるものが根底にあってこその取り組みだといえます。そのなかで、前者の企業文化として受け継がれるものは、日常業務のなかで先輩社員から若手社員へ伝えられるものであり、見て学ぶ(見習う)と表現される継承のなかで培われるものでもあります。

では、社員の平均年齢を下げる、つまり若年層の数的割合を上げることにはどんなリスクが潜んでいるでしょうか。大きくは次の2つが考えられます。

  1. 成長率が鈍化は若返りでは改善できない
  2. 既存社員の不満を誘発し教育・監督が行き届かなくなる

事例を紹介しましょう。

会社:成長がやや下降しはじめたベンチャー企業

状態:2桁成長を達成していましたが、成長率が少しずつ悪化。

経営者の決断:業務成績向上を図るため「当社の原動力は若い力だ」「ベンチャーだから若い力が必要だ!」と若年層の待遇の強化、採用を積極的に進める。 一方で、35歳以上の社員の年収をダウン、もしくは据え置きとする施策を打ち出す。さらに仕事に結果を出すことを求め、新人教育も任せる。

結果:ミドル層の離職する者が増加。そして、社内は、教育監督が行き届かない状況になり、取引先や顧客からのクレームが頻繁に発生する状態に。優良顧客も減少し2桁成長もストップ。会社の空気の悪化に伴い新入社員も早々に転職し、組織を抜本的に見直す必要が生じた。

この会社の強みは「チームワーク」でした。 キャリアを積んだ社員が若手を日常業務のなかでフォローしながら仕事を教えていくというシステムが自然と作り上げられ、継承されてきていました。しかし社長は、「若さ=パワー」と勘違いして、若年層の待遇を強化したり、若年層の採用を積極的に進める施策をとりました。じつは、そこに落とし穴が存在していたのです。

若手採用をしなかったことによる落とし穴

では逆に、売り手市場のなか、採用するのに手間暇のかかる若年層よりミドル層を中心に採用をするのが最適解なのでしょうか。次にミドル層だけの組織の偏りを見てみましょう。

高齢者層の継続雇用を推進した場合

人材募集をしても簡単に採用できないため、採用をあきらめて、既存社員で頑張っていこうという会社もあります。採用コストが上昇傾向にあり、国も定年を60歳から65歳に引き上げ、高年齢者が継続的に働ける制度(高年齢者雇用安定法の改正「継続雇用制度」厚生労働省:平成25年4月から施行)も進んでいるので、一つの戦略だといえます。そして、高年齢者を継続雇用することで経験・実績を活かし活躍してくれることも期待できます。さらには、新たな採用を見送ることも採用コストをかけないための対応策だとも言えます。

一方で、高年齢者を継続雇用するとなると、考慮しておくべき点もいくつかあります。例えば、若年層にくらべ体力的に劣る場合が多いので、短時間勤務を用意する必要があります。さらに、職場において転倒などで怪我あるいは病気のためにいきなり休職となるケースも想定しなくてはなりません。労働時間、休暇、休日、休憩時間など、柔軟な就業規則を準備することも必要でしょう。

人材の入れ替わりが無い状態が続いた場合

若年層に限らず、新しい人材が入らない会社は仲良しグループのようになってしまい、目標達成を目指さない組織になってしまう可能性もあります。

なぜ組織の若返りを目指すのか

会社は、人材の流動性があるなかで成長を維持しているという側面があります。健全な組織は、入社や異動、昇進そして退職と人の流動があり、人の異動が新しい発想のトリガーになるのです。

例えば、会社の方針だけでなく自己申告異動制度「ジョブチェン」で人的異動を頻繁に行うYahoo! や下位評価2回をもらうと部署異動もしくは退職勧告となるミスマッチ制度を導入しているサイバーエージェントなどは人の異動を企業体制の健全化の要因とみています。

また、海外では『NETFLIXの最強人事戦略』でも強く書かれている「解雇」を推奨しているNetflix、googleなどの例に見られるように、人の出入りが激しい組織は新しい事業、新しいサービスなどを生む可能性も高いとも言えます。

組織が変化するときに気をつけるべきこと

企業の継続的な成長のためには成績を向上させていかなければなりません。そのためには時代に即した新しい発想が社内で生まれる環境を維持していくことが重要です。その1つの対策が人の異動による環境変化です。しかし年齢的にも能力的にも、偏った組織になるのは危険です。組織の 人的構成が変わる、人の異動の活発化を促す際に気をつけるべきことを考えてみましょう。

人材の見える化

年齢に応じた役割があることを認識しておきましょう。そして役員、教育担当者、指導者などを把握しておくことが大切です。プロジェクトチームの結成もスムーズに行えるようになるほか、組織力をつねに把握しておくことで、次の採用でどういった能力、人材を補う必要があるのかも見えてくるはずです。 まずは現状の把握からはじめて、偏りのない組織であるかどうかを確認してみましょう。

既存社員を大切にする姿勢やメッセージを忘れない

組織の若返りを目指し、新しい発想力を強化したいとして採用を進めるのはよいのですが、既存社員への尊敬や信頼を態度で示したり伝えたりすることを忘れてはいけません。

最後にこの事例を見てみましょう。

事態:ある日、社長が朝礼で「50代、60代は時が止まっている! これからの時代、若い新しい人材が必要」と声高らかに宣言。

社員の反応:ここまで会社を支えていたと自負がある、50代、60代は大激怒。それからしばらくして、プレス機のメンテナンス・操作の熟練者を含めた50代の社員が一斉に辞職。

業務への影響:生産ラインに支障。この会社はここから3年間、業務成績は赤字が続き、さらに生産ラインの保守点検のため技術指導料としてメーカーに毎月費用を支払うこととなった。

分析:社長としては「若者には力をもっと発揮して、ミドル層ともに頑張ってほしい」という発破を掛けたい、との意味を込めたメッセージであった。しかし、うまく伝わらず、最悪の結果に。共有認識ができていなかったための悲劇。

経営者の気持ちは正しいことばで伝えなくては伝わらない

今回は良かれと思った経営者が若年層を優遇した結果に起こった悲劇を紹介しました。ですが、経営者の思いはキャリアを積んだ社員を疎んじるものではなかったはずです。全ては伝え方が招いたことだといえるでしょう。

言い換えれば、常日頃から会社のために働いてくれている社員に感謝を示すことが大切だともいえます。若年層への期待を伝えると同時に、キャリアを積んだ社員への感謝と期待をことばにして伝えることで、社員の気持ちを一丸にすることもできます。密なコミュニケーションがとれる環境を構築したうえで、組織の若返りや変化を計画するようにしましょう。