面接にユーモアを!元お笑い芸人が教える面接者の本音の引き出し方

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プロフィール
株式会社俺
代表取締役社長 中北 朋宏
古崎 瞳
【中北 朋宏】
6年間お笑い芸人として活動後、人事系コンサル会社の営業、ベンチャー企業の人事責任者を経て2018年に株式会社俺を設立。著書/「ウケる」は最強のビジネススキルである。(日本経済新聞出版社)

【古崎 瞳】
2007年に芸能界デビュー。グラビア・女優・タレント・司会など多方面で活躍。13年間の芸能活動を経て2019年11月に株式会社俺に入社。

求職者有利の状況が続く採用市場。その中で少ないチャンスをものにしようと、各社あの手この手で面接者の本音を引き出そうと苦労しています。しかし、面接者は自分自身のいい部分をアピールするため、沢山の準備と練習をしているので、なかなか本音で接してくれません。そこで、元お笑い芸人で「コメディケーション」という新たなコミュニケーション方法を開発した中北朋宏さんにユーモアを切り口とした手法で面接者の本音を引き出す方法や笑いのメカニズムで得られる面接官の見る力や社内コミュニケーションの活性化についてお聞きしました。

優秀な人材を惹きつける面接

―面接者から本音を引き出せない原因はどこにあるとお考えですか。

中北朋宏(以下、中北):どの企業でも言えることですが、面接の目的は優秀な人材を採用することです。そこで重要なのが、ターゲットとなる面接者をいかに惹きつけられるかどうか。本音を聞き出すためには、まず面接官側がそのことを理解している必要があります。しかし、人材マーケットの変化によって採用難が続く現状があるにもかかわらず、未だに面接者を審査しようとしている人事担当者が多いと感じています。少しでも優秀だと思ったら、惹きつけて入社したいと思わせるべき。その意識の転換ができているかどうかで、結果は大きく変わるはずです。

―惹きつける面接とは、具体的にどのような手法なのでしょうか。

中北:当たり前のことですけど、応募者に本音を求めるのであれば、企業側も面接官という仮面を脱ぐ必要があると思っています。本音でしゃべったら本音で応えてくれるという、人を動かすために重要な「返報性の法則」に基づくアプローチを徹底された方が良いですね。

具体的には、相手・自分の自己開示レベルをちょっとずつ上げていく必要があります。例えば、面接官側が質問してばかりで、本人から発言できない状況では本音の会話は成立しません。まず面接担当者が自分の携わってきた仕事のやりがいなどをすべて“ストーリー”にして語る。究極を言えば、相手を感動させて涙するところまでもっていく。そこまで面接官に惹きつけられ、感動し、共感した応募者であれば、何としてでもその企業に就職したいという気持ちになります。面接官側にとっても、自分が今までやってきた仕事に対して価値を見出せるようになり、会社へのロイヤリティも高まるという相乗効果が得られます。

―前職では人事責任者をやられていましたが、その際はどんな面接をされていたのですか?

中北:面接で最初に言っていたのは「無駄な話はやめましょう」ということ。「あなたが来る前に200人以上見ているので、取り繕ったり、面接対策本などに書いてあるようなことを言ったりしても無駄なので正直に言いましょう」と言ってスタートしていました。前職は、営業色が強い会社だったので、そう言われて委縮してしまうような人材はそもそもターゲットから外れるわけです。採用のミスマッチを防ぐためにも、最初の段階でしっかりとフィルターをかけた方がいいですね。

今は転職支援をする側なので求職者にアドバイスをするのですが、「原体験をベースに一貫性をもって語れる内容をつくるように」と話しています。つまり、ネタづくりですね。ネタというのは、基本的にしどろもどろになるはずがないものです。息を吐くように言える状態をつくることが大切。そうしないと笑いなんて取れるわけがありません。極論、自分のトークに鳥肌が立つというのが一番効果的だといえます。これは、ネタを披露してウケた時に得られる高揚感と同じような感覚。これを本音か本音じゃないかといわれたら判断は難しいですが、準備力があって、しっかりとエピソードを絞ってくる人は優秀であるケースが多いと感じています。

―本音以外でも、見るべき重要なポイントがあるのですね。

中北:この応募者と一緒に働きたいかという直感ですね。例えば、この人と二人で旅行した時に、間が持つのか…など。これはとても正しい感覚で、隠せない空気感を得られるかどうかもひとつの採用基準だと思っています。あとは、自分のストーリーを作りこんできているかのシナリオ力も見ておくといいです。

その上で、面接官となる方も、応募者が憧れる存在であることが重要です。面接で疲労しきった役員が出てくるのでは、ブラック企業であることをほのめかしているようなもの。いわゆる自己プロデュースを怠ってはいけないということです。某一流企業では、ナンバーワン営業が人事に配属されるほど採用に力を注いでいます。企業の中には人事が一人というケースはあると思いますが、その人次第で採用する人材がある程度決まると考えると、その人事担当者が人を惹きつけられる人物かどうかをしっかり見定めた方がいいでしょう。

コメディケーションについて

―コメディケーションの誕生秘話を教えてください。

中北:芸人を辞めて最初に入社したのが、人事のコンサルティングファームです。そこでは研修講師や研修を外部に営業するポジションにいました。ある時、学生向けの新規事業が立ち上がり、そこで試しに笑いのメカニズムを使ったコミュニケーション研修をやってみてくれないかとお願いされたことがコメディケーションを開発したきっかけです。評判は良かったものの、リーダーシップなどの真面目な研修を売っている会社だったので、その時はただやって終わりといった感じでした。

その後、ベンチャー企業の人事責任者を経て独立し、2018年4月から稼働したのですが、人材紹介の認可がおりるまで3ヶ月かかることが分かり、それまで売上ゼロはマズイということで、前職でやった研修を元にコメディケーションを事業としてスタートしました。それがたまたま売れて、本を出すまでになったというわけです。本当に偶然の産物というか、飯を食うために始めたことがコメディケーションの誕生に繋がった。現在は、2日間みっちりの研修から2時間の講演、約1時間30分を5回分行うような研修をやらせてもらっています。

―コメディケーション研修はどのような内容なのですか?

中北:ひとつは、ファンシンキングというものです。これは何かというと、つらい状況だとか悲しい状況を面白がること。例えば、企業で問題が発生していたとして、その解決策をみんなで大喜利をしながら出していく研修。それを仕組み化すれば、楽しく問題解決ができるという思考法です。

もうひとつは、アイスブレイク。そもそもどうすれば信頼してもらえるのかを考えてトークを構成していくもの。これは、芸人によるすべらない話の構造を分解して言語化するというワークを実施しています。特に、いじる技術を磨くのですが、一般社会で多い「いじる」とは、マウントをとってチカラの保持をしている状態ですが、芸人の「いじる」は、その人が好きだとか尊敬している状態という違いがあります。もし嫌いな人をいじっていたらその人が売れてしまいますから、好きな人しかいじらないという仕組みになっているのです。アイスブレイクを通じて、心理的安全性やチャレンジできる環境など、相手との居心地の良い関係性を叶えるために、いじる技術をお伝えしています。

―コメディケーションを磨くことで、面接シーンでも効果を発揮しそうですね。

中北:コメディケーションで笑いのメカニズムを得ることで、感情をコントロールできるようになります。シンプルにイライラしている人を見ればイライラするし、笑顔の人を見れば笑顔になる。中でも笑顔は、相手が話しやすい空気をつくれますから、面接の場での効果は高い。これは、管理職を対象にした研修でも最初にお伝えしていますが、ほとんどの人ができていないというのが現状です。緊張感を与えてしまっていることに気が付いていないので、まずは笑顔で相手の緊張をほぐすという当たり前のことから始めていく必要があると思います。

また、ファンシンキングやアイスブレイクで、思考の引き出しや信頼されるテクニックをトレーニングし続ければトークにも磨きがかかります。例えば、応募者からの質問で、仕事のやりがいを聞かれることがあると思うのですが、その返答に向けて完璧にトークを決めておく。その話を聞いて、応募者の心が動かされ、「この人と仕事がしたい!」と思ってもらえれば入社は確実です。

笑いの力が未来の採用を変える

―笑いのメカニズムを導入した企業様の中で印象に残っている変化や事例があればお聞かせください。

中北:変化で言えば、ある企業の新入社員向けに研修を行った時、「人から可愛がられるのは才能だと思っていました」と言ってもらえたことが印象に残っています。なぜ、そのような言葉が新入社員から出てきたかというと、「可愛がられることはスキル」を笑いのメカニズムを使って分解し、どうすれば可愛がられるのかを言語化することで、“才能”から“スキル”へと認識を変化させて、誰にでも習得できることをお伝えしました。

また、話しづらさや、言いづらいといった雰囲気が充満していたある企業の営業部に笑いのメカニズムを導入したところ、ツッコミやボケによって部署内の会話が活性化された事例があります。例えば、会議の冒頭から暗い雰囲気が漂っていた時に、アイスブレイクをはじめる習慣ができたとのこと。他にも、コメディケーションを受けた営業100名と受けなかった100名とで、成約率に9.8ポイントの差が出たという大手企業もいます。

―企業への研修以外にも芸人の転職支援を行っていますが、そのサービスで実現したいことについてお聞かせください。

中北:芸人やアイドルが転職をする時に、職歴に関しては未経験となってしまうのが現状です。採用する側も芸能人を職業として認めていません。それを、営業とかエンジニアのような職業として認められるようにしたいというのが直近の目標です。僕が芸人を辞めて仕事を探した時、人材会社に紹介されたのはビルの警備員とタクシーの運転手でした。6年間、芸人で頑張ってきて舞台も沢山立っていて、笑いのしゃべりを鍛えてきたのに、その能力を発揮できない職業を紹介されたのです。古崎も芸能界を引退してから就職活動で苦労していますから、そういった人を少しでも減らせるように、もっと採用側の見る目や視点を変えていきたいと思っています。

―古崎さんは、どのような経験から中北さんのビジネスに共感し、入社されたのですか。

古崎瞳:ずっと芸能活動をしていたこともあり、いざ転職するとなった時に履歴書と職務経歴書についての知識がなく、分からないことだらけでした。企業側にとって応募者を選考するひとつの資料だと思うのですが、芸能は職業として認められていないので書けることがほとんどなく、書類選考で落とさることも多かった。その経験から、芸能が職歴として評価されるように“もっと応募者の本質を見て欲しい”と思うようになったのです。そんな中で、「芸人ネクスト」という転職支援サービスを運営する中北さんのことを知り、その志や想いにすごく共感したことが入社のきっかけです。

―いかに面接で本質を見る必要があるかという論点にも繋がりますね。中北さんとしては、今後の社会で笑いの力をどのように活かしていこうと考えていますか。

中北:笑いの力という観点での長期的な目標としては、世の中をもうちょっと面白おかしくしたいと思っています。人生百年時代と言われている中で、笑いが少ないのは寂しい。仕事でも、ちょっと笑えたり、社内での会話が楽しかったり、辛いことをポジティブに捉えられる世の中に変えられたら、満足かなと思っています。それだけで、面接にもユーモアが生まれて、心が動く採用ができるようになるはずです。

古崎も話していたように、経歴や学歴で採用を判断するケースがまだ多いと思うのですが、芸人として10年間やっていて舞台には1000回立っていたと履歴書に書いたところで、企業側は何に長けているか分からない。それが、すごく価値のあることで、ポテンシャルが高いということが見極められるようになれば、我々のやっている事業は更に価値のあるものに変わっていくと思っています。

採用側の見る力、見極める力。あとは、夢を目指した人たちが、人生を諦めないように「自分たちは世の中にとって価値があってパフォーマンスを発揮できる」「世の中を変えていける力をもっている」ということを伝え、新たな夢に向かっていってもらえるような、そんな支援ができたらいいなと思っています。

―笑いのメカニズムを面接や社内風土に取り入れることで、本音を引き出すコミュニケーション力と、人の心を動かして惹きつけるトークスキルを高められることがとてもよく分かりました。本日はありがとうございました。

笑いの力と自己プロデュース力で、相手の本音を引き出す

笑いのメカニズムで人を惹きつけ、信頼を得られるコメディケーションは、面接シーンにおいて応募者との本音トークを実現する“面接官スキル”といえます。そのスキルを磨くためには、お笑い芸人のように自分をプロデュースする力が大切であるとおっしゃっていた中北さん。自己プロデュースができるようになると、視覚情報・聴覚情報・言語情報というメラビアンの法則に必要なものをすべて網羅することが可能になるというのです。

SNSや動画共有サービスの普及により、インフルエンサーなどの個人がアイコン化される時代。採用に直接関わる面接官が、自社の魅力や仕事のやりがいを本音で語れるようになれば、優秀な人材の心を動かし、本音が出やすい場をつくることができる。そんな魅力的な人事を育むためにも、笑いのメカニズムを取り入れたコメディケーションにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。