中小企業採用担当が、最初に意識すべき、たった2つの心得(前編)

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プロフィール
株式会社47PLANNING
取締役 経営管理担当
千葉弘喜
大手企業人事部にて採用,労務,人事評価制度企画に従事した後、地元である宮城県仙台市の会社創業に参加。
管理部長として採用を始めとしたバックオフィス全般を管轄し、従業員数100名以上の会社に成長させることに貢献。
現在は、地域活性会社の取締役としてバックオフィス全般を管轄しつつ、他社のコンサルにも従事。

採用活動において内定辞退や早期離職は往々にして起きてしまい、頭を悩ませることは多いと思います。小手先の辞退抑止を行ったところで意味はありません。大切なのは、採用担当者が会社の顔として採用に臨み、自社に共感してくれる人を自分自身でひきよせられるかどうかです。

そのために必要な2つの心得をお伝えします。

この記事では、心得1つ目として、最も経営者の考えを理解し、あるべき人物になることの重要性を事例とともに見ていきましょう。

【事例その1】マネジメント層の中途採用における失敗事例

中小企業においては、人事異動や離職などによって刻々と組織が変化します。 採用担当は、本当に組織に求められている人物はどういった人物なのかを常に把握する必要があります。

以下の事例を使って考えてみましょう。

登場人物

・採用担当者(27歳,採用担当3年目)
・Aさん(32歳,新卒から入社した若手のエース)
・Bさん(37歳,マネジメント経験を持ち成長環境を求めて転職活動をしている)

募集の経緯

社長から採用担当に「人員拡大のために責任者が一人欲しい」と指示がおり、採用担当は、「責任者候補」の募集として採用活動を開始。

しかし、募集開始ほどなくして、直近の人事評価の結果、社員Aさんの抜擢昇格人事が決定した。

採用ミスマッチのターニングポイント

Aさんが昇格したため、責任者のポジションの募集は不要となったが、今度はAさんの部下となる右腕が空席となることに。採用担当は、あくまでも『責任者候補』として募集をかけていたので問題ないだろうと判断し、そのまま採用活動を継続。

求人を見て、応募してきたのが、同業他社で管理職経験があったBさん。Bさんは頭の回転が速く、リーダーシップの発揮に自信のあるマネージャー経験者であったため、即戦力人材として、無事に内定につなげる。

応募者の思惑と早期退職の決意

Bさんは、同業とはいえ会社によってやり方が違うことを理解しており、社内事情と業務内容を一通り理解する必要はあるだろうと感じていた。このため、責任者のポジションでなくても致し方なく、給与条件も前職から下がってもかまわないと思って入社した。

ところが、上司となったAさんは昇格したばかりのために当面ポジションが空きそうもない。 比較的すぐに昇格はできるだろうと考えていたBさんは入社前とのギャップを強く感じた。 いつ昇格できるかわからない状況であったことと、ほかの部門には興味がわかなかったため、Bさんは早期に退職してしまった。

この事例の失敗はどこにあったのか、わかりますでしょうか。Aさんの昇格が決定したタイミングで求人を見直すべきだったのでしょうか。実はそうではありません。

社長の考えていた『責任者』とはどういう人物だったのか、しっかりと採用担当が把握できていなかったことが一番の問題点です。『責任者』とか『マネジメント』といった言葉は日常的に使いがちですが、組織の課題によって求める人物像は変わります。

Aさんは、後輩の面倒見がよく、気さくで人当たりの良い人柄で、対人能力に優れた人物でした。一方で、几帳面さが足らず、業務進捗管理やルールを順守するといった部分が弱いところがありました。コミュニケーション能力に長けているAさんが右腕についている状況であれば、Aさんが苦手とする管理能力がある方を責任者に据えれば組織としては回るでしょう。BさんはAさんとは全く逆のタイプでしたので、Bさんが上司として入る場合には適切だったかもしれません。

これに対して、Aさん昇格後の場合は状況が変わります。

AさんとBさんの能力の補完関係はそのままにはなりますが、責任者経験がある人を単純に採用してしまうと、役職を重視するがあまり役職者として入社できないことにストレスを感じてしまいがちです。重要な視点として、新任管理者のAさんをしっかりとサポートできる謙虚な人物かどうか。という見極めが重要になったのです。

社長(経営者)の考えを深く理解する

では、どうすれば適切な『求める人物像』を押さえ続けることができるでしょうか。

それは、社長以下経営陣とのコミュニケーションを密に取り、会社の考えを深く理解することにあります。 Aさんはなぜ昇格することになったのでしょう。単純にいつ補充できるかわからない責任者を待つ余裕がなかったからなのか、それとも能力開発の一環として思い切って抜擢したからなのか。

仮に前者のような状況であれば、転職エージェントを使うなど、採用コストをかけてでも優秀な人材をすぐに迎える必要があったかもしれません。後者であれば、Aさんには今後どういう成長を期待していて、そのためにはどういう右腕が必要かを知る必要があります。

社長とのコミュニケーションが取れていない採用担当にとっては、Aさんが昇格したタイミングで振り回されたと感じることもあるかもしれません。でも、しっかりとコミュニケーションが取れていれば柔軟に対処が可能です。

採用業務は作業になってはいけません。経営において採用は最も重要な意思決定ですので、積極的に社長とのコミュニケーションを取ることを意識してください。

【事例その2】会社説明終了後に毎回辞退が出てしまう失敗事例

応募者が面接対策として読むノウハウ本の多くに、第一印象が肝心と書かれていることは読者の皆さんも見たことがあると思います。これは、採用担当にも同じことが言えます。

先程と同様に、以下の事例をもとに考えましょう。

登場人物

・Kさん(27歳女性,A社採用担当,真面目で几帳面な性格。)

A社は今勢いに乗っている創業5年目のITベンチャー企業。大規模な資金調達を行い、急拡大に伴い大量に採用を行っている。平均年齢も若く、明るくエネルギッシュな社風。

採用担当者のKさんは、大手企業の新卒採用担当を経験し、勢いのあるA社を魅力に感じて転職をしてきた。社内唯一の採用担当として業務を推進している。

A社の知名度が上がっている中で、求人を出すと幸いにも沢山の応募者が集まったが、Kさんは一人では大人数を回せないので、前職でも経験のある10名程度の会社説明会を実施することにした。 会社説明会用のプレゼン資料は時間をかけて作成し、しっかりと原稿も用意し、綺麗に読み上げてプレゼンテーションを行なった。読み間違えることもなく、時間通りにプレゼンテーションを行えたことでKさんは満足していた。

しかしながら、何度実施しても、会社説明会終了時点での辞退率が1~2割程度、毎回発生する。 Kさんは、この時点での辞退はよくあることだと考え問題とは考えていなかった。

採用担当自身が『あるべき人物』の体現者になる

今回は応募者が集まりましたが、市場や競合といった外部環境の変化が激しいIT業界において、毎回同じように応募者が集まる保証はありません。会社説明会といった入口の段階で辞退が一定数ある場合の理由は、求人原稿の内容が実態とかけ離れているか、社内の印象が応募者のイメージと違ったかのどちらかです。

応募者は来社するまでに求人内容は勿論のこと、ホームページやニュースの記事を読み、会社で働く人をイメージします。A社に応募しようとする人は明るくエネルギッシュな社風で一緒に成長したいと考えます。

ところが、会社説明会は一方的に話をじっと聞いているだけで緊張感がある。プレゼンターの採用担当者も下を向いて原稿を読んでいて距離感がある。このような状況では、事前にイメージしていた社風とギャップを感じてしまいます。

では、どうすれば改善できるでしょうか。

まずはすぐにできるテクニックとしては、スクール形式の席配置を座談会形式に変えて車座にすると応募者との距離感が近づきます。可能であればイメージを伝えやすくするために動画を流す、先輩社員を同席させるなどの工夫も効果的です。プレゼンの準備をすればするほど本番で過度な緊張をしてしまう採用担当者は多いので注意が必要です。採用担当者が緊張していると緊張感のある会社説明会になってしまい逆効果です。

そして、最も改善すべき点は、原稿を読み上げるのではなく、採用担当者が自分の言葉で素直に会社をアピールすることです。日本語文法が多少おかしくとも、本気で伝えようとすると言葉以上の感情がにじみ出てくるものです。パワーポイント資料がしっかりしすぎているとスライドの文字に目を奪われてしまいます。A社のようなベンチャー企業であれば、人をアピールしたいところなので、資料は最低限でよく、プレゼンターを見てもらえるようにしましょう。

採用担当者は思っている以上に見られています。会社のあるべき人物像を採用するためには、採用担当自身があるべき人物像である必要があります。 明るく元気でフランクな企業イメージ通りの人が採用担当として出てきたら、「イメージ通りの会社だ!」と応募者が感じ、志望度はぐっと高まるでしょう。

この人と一緒に仕事したい、と思わせる人物になれ

会社の顔として採用担当が最も会社のあるべき人物像を体現していなければなりません。応募者にとって一般社員も部長も関係がなく、いかにそこで働いている人が魅力的かを判断します。採用担当者は応募者にとって会社全体を把握する窓口なのです。

採用人数をKPIとしてやみくもに採用活動をすることを一度止めて、自分自身が会社のあるべき人物像になっているか向き合ってみましょう。社長の想いを最も理解し、最もあるべき人物であろうとすれば、自然と視座が高まります。

面接官は応募者が本心で話しているかを確認しますが、同じように応募者も貴方を見ています。 「貴方のような方と仕事したいと思ったので御社を志望しました」と言ってもらえる採用担当者になってください。