転職希望者の心理を理解して、採用活動を成功させる方法

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シカゴにある人材コンサルティング企業milewalkのCEOを務めるアンドリュー・ラシビータ氏の著書『The Hiring Prophecies:Psychology behind Recruiting Successful Employees』は、ほかの採用担当者向けの書籍とは少し違い、転職希望者の意思決定プロセスをもとに、効果的な採用活動を考える内容です。

ラシビータ氏によれば、転職希望者が一時的な感情や外部の意見に流されて意思決定をするとき、採用試験に悪影響をおよぼす場合があるといいます。すると、せっかく採用しても長続きしなかったり、組織に合わなかったりすることになりやすいのです。

本書では、milewalk社が200社1万人以上の従業員を対象に10年間に渡って調査した結果から、意思決定の過ちが起こる原因と、組織がその問題を乗り越え、もっとよい採用活動にするためのアドバイスが述べられています。

よい質問がよい答えを導き出す

どの企業も、組織と相性のよい長く働いてくれる人を探しています。milewalk社でも、最良の人材を見つけるために採用面接で次のことを確認することにしているといいます。

まずは、候補者がいまのキャリアを築くために何をしてきたか聞くこと。過去に、その人がどのような行動をとって現在に至るのかを知れば、そのパターンから未来の行動をある程度予測することができます。もうひとつは、次の4つのポイントについて聞き出すことです。質問の例とともに見ていきましょう。

候補者が、どれくらい真剣に転職を考えているか

「なぜいま勤めている企業を辞めようと思ったのですか?」というストレートな質問からは、候補者が抱えている不満や悩み、転職に対する真剣度を知ることができます。また「なぜ弊社に就職したいと思ったのですか?」という質問をすれば、候補者が企業に期待することがわかります。

候補者が企業に合っているか

「あなたは企業にどのような貢献ができると思いますか?」「採用されたら、最初にどのようなことをしたいですか?」これらの質問は、候補者が応募する職種をきちんと理解しているかを確認できます。そして「チームの一員として働くのと、一人で働くのではどちらが得意ですか?」と聞けば、チームプレイヤーかどうか、いま求人をしている職種に合うタイプかどうかの参考になります。

企業が候補者に合っているか

「弊社に就職することで、あなたにとって利点となることはなんですか?」という質問で、候補者の希望を企業が叶えられるか確認することができます。「理想の上司はどのような人ですか?」と聞けば、上司となる人物との相性や、一緒に働く人達とうまくいきそうか予測することができるでしょう。

採用した場合、候補者がすぐに退職することなく勤めてくれるか

「もし3年後にも弊社で働いていたら、あなたはどのような活躍をしていると思いますか?」というような、将来のことを考える質問をすると、候補者が現実的な目標や長期プランを持って転職を考えているかどうかがわかります。

採用試験で必ず押さえたい4つの指標 

よい関係を長く続けられる人材を見つけるために、採用活動では、つぎの4つの指標を重視します。

企業文化にあった人

組織の共通の価値観や行動規範にあった人材を探すこと。その人の、あるがままの状態が企業文化にあっているほど、成功の可能性は高くなります。

以前経験したことのない活動を効果的に実行する能力を持つ人

仕事を行うために必要な基礎的な技能がある人材を探します。例えばプロジェクトマネージャーの募集をしているときに、組織力、プランニング力、チームビルディング、カスタマーリレーションが強みだとアピールしている候補者がいれば、経験がなくても任せることができます。

キャリアアップが上手にできている人

一般的に優れた人材は、組織内での異動や今までの転職において昇進やステップアップができています。つまり、上手なキャリア選択をしてきた人だといえます。

蓄積された技能がある人

これは優れた人材を見つける上で重要な要素ですが、採用活動が失敗する原因にもなります。企業は、いますぐにその仕事が出来る人を採用したいという理由で経験のある人を選びがちですが、経験のない候補者のほうが将来的には伸びる可能性もあります。つねに先のことを考えて採用することが大切です。

採用活動に影響をあたえる候補者の意思決定プロセス

採用活動で慎重に採用者を選んでも、入社後すぐに辞めてしまうことがあります。その原因は、候補者自身の意思決定プロセスに誤りがあるせいかもしれません。

採用担当者は、候補者が正しく意思決定できるように促し、意思決定に悪影響を与える要素を取り除く努力をする必要があります。例えば、次のようなことが候補者の意思決定に影響をあたえます。

候補者の正しい意思決定をじゃまする「精神的代数」

精神的代数(moral algebra)は、ベンジャミン・フランクリンが提唱した古くから使われている意思決定法です。その名前を聞いたことがなくても、なにかを決めるときに「賛成と反対」とか「プラスとマイナス」という表を作って比較したことがあるのではないでしょうか。簡単にいえば、それが精神的代数法です。

上手に使えば効果的な精神的代数ですが、使い方により、いくつかの問題が発生します。

まず、候補者は通常、2つ(またはそれ以上)の選択肢を互いに比較しますが、そのなかに自分という基準を含めるのを忘れてしまいます。例えば、A社とB社の採用試験を受けた場合、A社とB社の条件を単純に比べるのではなく、「A社と自分」対「B社と自分」というように、自分を含めるべきなのです。なぜなら、優れた企業でも自分に合っていない場所では才能を発揮できないからです。

そして、候補者が客観的な分析をしているつもりでも、実際には無意識に自分が望む結果が出るように操作してしまうという問題も起こります。この傾向は確証バイアスとも呼ばれます。

このような偏りを防ぐためには、事前に詳しい企業情報を提供すること、具体的な仕事内容や雇用条件について採用前にじっくりと話し合うことが必要でしょう。そうすれば、イメージだけではなく、自分を軸にした選択ができるようになります。

転職活動中の感情

なにかを失ったり、つらいことがあったりするとき、人は恐れを感じます。逆に自信過剰のときには、全てが自分の思い通りになると思ってしまいます。

例えば、転職活動で内定がもらえず自信を喪失している人は、どんな条件でも受け入れてしまうかもしれません。同様に、つらい転職活動のなかで自分の価値がわからなくなっている人は、チャレンジできる職位を提案されても自分には難しすぎると断ってしまうかもしれません。

一方で、たくさんのオファーを受けて自信過剰になっている人が、実力がなくても自信満々に面接で自己アピールをしているかもしれないのです。

面接では、候補者の言動や態度に感情が影響しているかもしれないという意識をもって相手を見る必要があります。そして、面接を繰り返すことや客観的な指標を取り入れることで候補者を正しく評価します。

候補者をとりかこむ外的要因

家庭の事情や、周りの人の意見が候補者の意思決定を左右します。抱えている問題を解決するためだけに転職をして失敗したり、家族のことを考えて転職を思いとどまったりすることが起こります。

面接で候補者のプライベートについて聞くことは適切ではありませんが、うまく悩みを聞き出すことができれば、優秀な人材が入社を迷っているようなときの対策に役立つかもしれません。

  • 現在の雇用主:職場での状況や、成長の可能性、長い勤続年数、退職を引きとめるための動きがある
  • メンターや信頼する人物:候補者にアドバイスをする人達の意見
  • ソーシャルメディア:公式サイトや、企業に関する口コミ
  • 家族:配偶者や子供、両親などに関連する候補者の都合

意思決定プロセスを意識して、すぐに辞めない採用をする

候補者の意思決定プロセスを理解し正しく導くことができれば、企業と従業員のよい関係を長持ちさせることができます。では、実際にどのようなことが正しい意思決定を支援することになるのでしょうか。例をあげてみましょう。

長期的な展望を持つ

「上司が嫌い」「職場が遠い」「給料が安い」といった短期的なニーズのために転職活動を始める候補者がいます。これは、雇用する側にもいえることです。足りない人員を確保することだけを目標に採用活動をおこなっていないでしょうか。

短期的なニーズは、転職や、とりあえず誰かを採用することで解決しますが、いずれの当事者にとっても長期的にみると満足できない可能性があります。採用活動では、お互いに長期的な関係を意識して話し合う必要があるでしょう。

3年後、5年後のキャリアプランについて話し合うとイメージしやすくなります。

候補者に必要な情報を十分に提供する

採用活動のなかで候補者とコミュニケーションできる時間は限られています。候補者が転職活動のなかで知りたいと思う情報を、あらかじめ提供しておけば、候補者の悩みが解消されます。また、公式に正しい情報が提供されていれば、インターネット上の偏った情報に流されてしまう候補者も減ります。

面接手順の見直しと、客観的な指標が得られる適性検査の利用

職務に対する資格は足りているのに、候補者に自分の長所を説明する力が足りなかったり、面接官に理解する力が欠けていたりすることで面接がうまくいかないことがあります。また、面接官が一人しかいないと視点が偏り、各候補者の記憶も曖昧になってしまいます。

一人の候補者に対して複数の面接官が面接をするように手順を変えることをおすすめします。面接官ごとに担当する質問を決めておくことで、評価の正確性が増すでしょう。

さらに候補者を客観的に評価するには、適性検査の併用がおすすめです。例えばDISC(性格類型検査)という、人間の行動パターン型を知ることができる検査があります。適性検査や性格診断なら、面接官や候補者自身のコミュニケーション力に左右されない客観的な指標を得ることができます。

企業の公式WEBサイト、SNSを充実させて採用活動を成功させる

候補者に正しい意思決定を促すために情報提供は欠かせません。特に企業情報をインターネットで調べる人が多いため、企業の公式WEBサイトを充実させることが大切です。milewalk社の2013年の調査でも、95%の候補者が企業のWEBサイトを第一の情報ソースにしていました。WEBサイトの採用ページを読んだときに次の質問の答えがわかるようになっていると理想的です。

  • なぜ候補者が、そこで働きたくなるか?
  • 企業には価値のある製品やサービスがあるか?
  • 同社は業界のリーダーかどうか?
  • どのような企業文化か?それはユニークなものか?
  • 技術の向上や、キャリアアップをする機会があるか?
  • 誰がそこで働いているか?
  • この企業で働くメリット

そのほかに、WEBサイト内に導入できるとよい技術

ビデオ、従業員からの推薦の言葉、ポッドキャスト、ブログ、リクルートニュースレター、雇用者のバイオグラフィー(役員だけでなく)、受賞歴など。さらに、採用担当者とのライブチャットに対応できると、候補者と採用担当者とのコミュニケーション不足を解消できます。

公式のWEBサイトに、このような情報がないと、候補者はFacebookやTwitterなどのSNS、従業員のグループや同窓会、口コミサイトから情報を得ることになります。それらの情報は、発信者により偏っていたり、間違っていたりすることも。候補者が誤情報に惑わされないためにも、しっかりとした採用ページを作成することは大切です。

milewalk社のWEBサイトの中では、実際に著者のラシビータ氏が、YouTubeや、各種SNS、ブログ、ポッドキャストなどを使い転職希望者むけの情報を発信しているので参考にしてみるのもよいかもしれません。

候補者の意思決定アプローチを知ることで、採用活動を見直す

優秀な人材を採用するために採用試験の手順やテクニックを考えることは多くても、候補者の意思決定プロセスについて考えることはあまりなかったかもしれません。

採用試験をしても入社してくれる人が決まらない、入社したあとにすぐに辞めてしまうといった問題があるときには、候補者の視点から採用試験を見直してみてはいかがでしょうか。

書籍情報:

The Hiring Prophecies:Psychology behind Recruiting Successful Employees
Andrew LaCivita(著)
Balboa Press(2015/05/04)
ISBN: 978-1-5043-3182-1