新米人事の採用はここがダメ!面談経験2万人以上のベテランが指摘します【現場ヒアリング・書類審査編】

目次

パナソニックの創業者である松下幸之助の言葉に「事業は人なり」というものがあります。どれだけ立派な経営をしていても、長い歴史を持っていても、それを受け継ぐ人がいなければ事業は衰退するという意味です。会社が成長を続けるため、良い人材を採用することの大切さを表した言葉だと言えます。

しかし、採用は一筋縄ではいきません。特に、右も左もわからない新米人事のうちは、失敗や勘違いをしがち。にも関わらず、スキルや経験が不足しているために、自分がいつ、何を間違ったのか気づかないケースの方が多いのではないでしょうか。それがなぜ悪いことなのか、ベテラン人事に教えてもらいたくはありませんか?

今回は、モデルケースとして新米人事「田辺宗平(仮名)」さんの一日に密着。その仕事のどこを改善すべきなのか、リクルートやライフネット生命で経験を積んだ人事のスペシャリスト「曽和利光」さんに、【前編】【後編】の2回に分けて指摘してもらいます。

前編のテーマは、「現場からのヒアリング」「書類審査」です。それではさっそく、見ていきましょう!

■新米人事 田辺宗平(仮名)

今年の春に人事に就任したばかり。やる気はあるが、少々お調子者。一日も早く、立派な人事になりたいと思っている。

■人事のスペシャリスト 曽和利光さん

株式会社人材研究所 代表取締役社長、組織人事コンサルタント。

京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。また多数の就活セミナー・面接対策セミナー講師や上智大学非常勤講師も務め、学生向けにも就活関連情報を精力的に発信中。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。大企業から中小・ベンチャー企業まで幅広い顧客に対して事業を展開。

【現場からのヒアリング】人事は、みんなの意見を聞くだけの「ガキの使い」になるな!

現場からのヒアリングは、採用要件を固めるために必須です。人事部と現場とでイメージしている“優秀な人材”にギャップがあると、採用した人材がまったく使い物にならないケースも起こりえます。しかし、入念にヒアリングをおこなえば、それだけ良い結果になるとは限らず、むしろそれが足かせとなってしまうケースもあるのです。

丁寧にヒアリングしたのに、それが足かせ?いったいどういうことでしょう。新米人事・田辺の例を見ていきます。

田辺:佐藤さん、彩山さん、いま採用するべき人材についてヒアリングしているんです。お2人は、何か希望はありますか?

佐藤:採用したい人材?まず英語は必須だな。これからうちはどんどん海外進出していこうと考えているんだ。TOEICは最低でも700点以上。

彩山:私はストレス耐性が強くて、コミュニケーションスキルが高い人が来てほしいかな。営業経験のある人とか、すごく良いかもね。逆に、人間関係が原因で前職を辞めたって人は絶対NGね。何をしでかすか、わからないんだから。

佐藤:それから、海外に2年以上赴任した経験もあるといいな!

彩山:あ、転職を3回以上繰り返している人は論外だから!

田辺:「TOEIC700点以上」「海外赴任2年以上」「ストレス耐性が強い」「コミュニケーションスキルが高い」「営業経験者である」「退職理由が“人間関係”ではない」「転職が3回未満」……。うーん、こんな人材いるのかなあ。

現場のメンバー全員の意見を聞いていたら、採用の条件がずいぶん厳しくなってしまいました。これでは、マッチする人を探すのは大変そうですね。新米人事・田辺はどういう行動を取るべきだったのでしょう?人事のスペシャリスト曽和さんのアドバイスを聞いてみます。

人事のスペシャリスト曽和さんからのアドバイス

「現場の意見を何もかも受け入れるのはNG!本当に必要な基準だけに絞るべし!」

人事の仕事は、現場の最前線で働く人たちからのオーダーを「ガキの使い」のようにそのままハイハイ聞いてくることではありません。

特に、後で育てられるスキルを採用条件に入れるのはもったいない。できるだけ条件を減らす方が、採用対象者が増えたり、欠けたところはあるが突出した能力を持つ人が採用できたりするのです。

例えば、自社がIT企業だとして、中途社員の採用条件に「①テクノロジーの基礎知識」と「②マネジメント力」の2つを掲げていたとしましょう。この条件でなかなか良い人材が集まらないならば、思いきって①の条件を妥協し、②のみを必須条件にするという感じです。

なぜなら、①は座学によって入社後でも身につけられるのに対し、②はある程度の業務経験が無ければ身につけることが難しいからです。

現場は忙しいので、即戦力を求めるのもわかります。しかし、それを鵜呑みにしては採用力が下がり、良い人が採れず、結果的には現場に迷惑をかけてしまうもの。人事は、勇気を出して現場のメンバーと対話し、「本当に必要な基準」だけに絞ることが重要です。

【書類選考】「ピカピカキャリア」と「クセあり人材」、どちらを通すべき?

応募者から送られてくる履歴書や職務経歴書などを読んで審査するのも、人事の重要な仕事。就任したての頃は、配属部署の部長やリーダーに見せる前のスクリーニング的な役割を担うことが多いでしょう。

しかし、「たかが書類選考」と侮ってはいけません。どれだけ優秀な人材であっても、人事が落としてしまったら本選考のステージにすら上がれないのですから。

一見すると簡単に思える書類選考には、いったいどんな罠が潜んでいるのでしょうか。新米人事・田辺の例を見ていきましょう。

田辺:さすがに全員とは会っていられないから、厳しく書類審査をしないとな。どれどれ、どんな人材が……。

青木 洋

W大学卒。業界大手のD社で3年間、営業として新規顧客の開拓を任される。その後、金融ベンチャーに転職。入社半年で営業部マネージャーに就任し、営業戦略から採用まで一手に受け持つ。入社して2年を機にさらなるキャリアアップを希望し転職。

田辺:おっ、この人いいなあ!高い営業力で知られるD社での経験はぜひ生かしてほしい。それにマネジメントや採用の経験もあって、まだまだ人の足りないうちの会社にぴったりだ!よくうちみたいな零細企業に応募してくれたなあ。

田辺:さて、次は……。

赤城 洋一

T大学卒。1年間の空白期間を経て、ベンチャーE社に創業メンバーとして参画。1年間新規顧客の開拓及び商品開発に携わったあと、退社。同業界のF社、G社、H社でそれぞれ半年〜1年間、営業に携わる。4社で培ったノウハウを新領域で試したく、転職を希望。

田辺:うーん……。これって転職を繰り返す「ジョブホッパー」って人だよな……。4社とも最近上り調子の優良企業だけれど、なぜ退職しているんだろう?まあ、とりあえず“ナシ”かな。

一見すると、適切な基準で書類選考をしているように見える新米人事・田辺。このプロセスのどこに失敗が潜んでいたのでしょうか?人事のスペシャリスト曽和さんのアドバイスを聞いてみましょう。

人事のスペシャリスト曽和さんからのアドバイス

「宝のような人材を、書類審査でみすみす落とすなかれ!」

効率良く採用をしたいという思いから、書類選考を厳しくする採用担当者も多いもの。しかし、厳しくしすぎると採用力は下がります。

それに、誰でもわかるピカピカのキャリアの人は取り合いになり、なかなか採用できません。また、そんなにピカピカなキャリアなのに、なぜ今までどこも受かっていないのかと考えると、何か問題があるかもしれません。ピカピカキャリアだけを通過させるというスタンスはあまりよいことではないのです。

むしろ、「高学歴だけど、キャリアにブランクあり」「いい会社に入社しているけれど、早期退職が多い」などの履歴書上で何らかの難点がある人の方にこそ、宝のような人材が潜んでいる可能性があります。

あと、もし応募者が人材紹介会社から来ている場合、あまり書類選考で落としすぎると、「あの会社は厳しい」というウワサが立ち、人材を紹介してくれなくなってしまいます。その点もご注意ください。

【エピローグ】分からなければ、人に聞くことである

田辺:人事の仕事、意外にちゃんとできたような気がする!現場からの意見も吸い上げているし、履歴書のチェックも問題ない。なんとかなっちゃうもんだ。いやー、簡単、簡単!

ハッハッハッハ!ハッハッハッハ!

曽和:えっ、本当にちゃんとできていますか?そうでもなかったような気が……。

田辺:……………………。

「事業は人なり」。そう言った松下幸之助はこういう言葉も残しています。

「分からなければ、人に聞くことである」

採用活動に限らず、常に己の知識不足を自覚し、人に聞くことの大切さを忘れないようにしましょう。後編となる次回は、「面接」「内定後」をお送りします!