良質なデータを読み込ませることで、精度の高いジャッジができる――ソフトバンクの事例に見る「採用×AI」の現実解

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採用活動にAI(人工知能)を導入する企業が出始めています。主に大量に処理しなければならないエントリーシートの合否判定に利用されています。今回はその先駆的ポジションにいるソフトバンクの事例を紹介しながら、採用×AIの現実解を探っていきます。

話を伺うのは、ソフトバンク人事本部 採用・人材開発統括部 統括部長の源田泰之さん。同社の採用責任者です。なぜAIを導入し、どんな効果があったのか。応募者からの反応はどうだったのか。今後の課題は何なのか――などを聞きました。

AIを導入した背景と効果

AIを導入する前、御社の採用活動にどういう課題があったのか教えてください。

源田泰之さん(以下源田):元々売り手市場になってきていることもありますし、最近は特にエンジニアを志望する人の採用が難しくなってきていました。その中で、私たちとしてはたくさんの候補者に集まってもらうこれまでのかたちからは脱し、こちらからどんどん採りにいこうという採用にシフトしてきていたのです。しかし、それをやると工数が増えてしまいます。採用担当者の人数が増えているわけでもないのに、さまざまな施策を増やしていくと、どうしても忙しくなります。その中で効率化できる業務は効率化して、代替できるものは代替していこうということになったのです。その1つがエントリーシートをAIで、具体的にはIBMのワトソンで自動的にジャッジしてもらうという流れです。

どのくらい負荷が大きかったのですか?

源田:エントリーシートの合否判定に関しては、1設問について今まで680時間くらいかけてチェックしていました。それがAIを導入したら170時間くらいになりました。ですので、75%くらいの時間を削減できた計算です。

導入時のポイントは、「適切なデータ」を「精査」して始めること!

具体的にワトソンをどのように使っているのですか?

源田:まずは選考の全体の流れを説明します。プレエントリー後、エントリーシートを提出してもらい、エントリーシート選考に通過した人には適性検査などを行っていただきます。その後、面接を複数回行います。

エントリーシートには、2つの設問があり、その回答をAIがジャッジします。2019年度採用では1つ目の設問が、ソフトバンクバリューというソフトバンク社員が大事にする行動指針があるのですが、それに合致する強みを発揮したエピソードを書いてもらうもの。2つ目の設問が、30年後、世界の人々にもっとも必要とされるテクノロジーやサービスは何か、そしてその実現のためにソフトバンクでどのような挑戦をしたいかを問うものです。具体的には、ワトソンの「Natural Language Classifier」という仕組みを使って、まずは過去の評価済みのエントリーシートを「教師データ(ワトソンがこれは合格、これは不合格とジャッジするための元データみたいなもの)」として読み込ませ、評価前のエントリーシートを入れます。そのエントリーシートをワトソンが合否判断するという極めてシンプルな作りです。

教師データとして使う過去の評価済みのエントリーシートについては、たとえば1万件以上読み込ませるなど、色々やったのですが、それでは思ったような結果が出ませんでした。ですのでトライアンドエラーを繰り返し、元になる教師データを精査・調整しました。ポイントは2つあります。

1つは適切なデータを使うこと。例えばあまり古いものだと、人間の使う言葉が変わってくるからです。具体的には、今だとAIという言葉を使うことがすごく多いのですが、5年前だとそんなに多くありません。こうした変化を反映しているデータのほうがよいだろうということですね。

もう1つは活用するエントリーシートを精査して読み込ませたこと。エントリーシートをジャッジする人間は複数名いたのですが、経験があまり多くない人からベテランまでさまざまでした。人が判断をする場合、人間同士のレベリングを図り、誰が見てもきちんと同じようにジャッジできるようにはしていたのですが、それでももしかしたら人によって多少のずれがあるかもしれません。そこで教師データとして、あるものすべてを活用するのではなく、まず精査して良質なデータに絞ることが重要でした。結果、ワトソンによって、精度の高いジャッジができるようになりました。工夫が必要と感じたのは大きくはこの2点です。

仕事量の削減に成功した以外に、何か効果はありましたか?

源田:私たちが心配していたのは、応募者からの見え方として「ソフトバンクはちゃんと採用担当者がエントリーシートを読んでいないのか」というネガティブな意見が出るのではないかということでした。あとAIの信頼度が世間的にどれくらいかというのがちょっとわからなかったので、そこを心配していたのです。ところが実際にやってみると応募者などからの評判は非常によくて「先進的な取り組みをきちんとやっている」というような、どちらかと言うと工数の削減にプラスして、ソフトバンクという企業のブランディングが上がったのかなという感じはしています。ネガティブな意見はほとんどありませんでした。

なぜネガティブな意見が出なかったのでしょうか?

源田:もしかしたら弊社のようなIT企業を志望する人たちは、特にAIリテラシーが高いというか、そういうものに対する抵抗感が普通よりも少ないのかもしれません。

今後の課題は特になし、デメリットのないAI導入

AIを導入して何か課題は出ましたか?

源田:課題は特にはありません。ただ将来に向けた期待はあります。たとえば今回はエントリーシートのジャッジにワトソンを使っていますが、「この人は将来ソフトバンクで活躍する人材かもしれない」とか、そういうもののフラグが立ったりすれば、そうした人たちに対してソフトバンクの仕事内容などをより手厚くフォローして、ソフトバンクに来ていただく努力ができると思います。

今後の展望はいかがですか?

源田:ワトソンなのか他のAIなのかはわかりませんが、やはり人事の他の仕事についてもどんどん活用できるといいなと思っています。弊社には「未来実現推進室」という組織があります。この中で将来のAIとか未来のテクノロジーを使って人事や総務の業務を変革していくことに取り組んでいます。チャットボットを利用した社員サポートだったり、求職者からの問い合わせ対応をやっています。前者は、たとえば転勤が決まった社員が「転勤の手続きはどうやればいいのか」とチャットボットに聞いて返信をもらうというものです。後者も同様の仕組みで、求職者が24時間いつでもソフトバンクに質問ができるものです。たとえば「面接って何分くらいかかるのですか」など、採用にまつわる色々な質問ができます。

これからAIを導入しようとしている企業に対して、ここに気をつけようというメッセージはありますか?

源田:まずは思い切ってやってみることが大事だと思います。人にまつわる仕事、まさに人事の仕事については慎重になる会社も多いと思います。ただ今後は、やはりこれまでの勘と経験の人事ではなく、データやテクノロジーをベースとしたところでやっていく時代になるはずです。早いうちから取り組んだほうがいいと思います。早いうちから取り組むことで、応募者から見ると先進的な企業というイメージにもつながると思います。ですので、思い切ってやってみることを強くお勧めします。

私が弊社のAIでのエントリーシート選考の自動化の話をすると、他企業の方から「役員をどう説得したのか」とか「経営陣をどう納得させたのか」という質問をいただきます。ソフトバンクは幸いチャレンジをする会社ですし、新しいことをどんどんやってみようという風土もありますので「すぐにやれ」という感じでした。弊社の事例もそうなのですが、結果として応募者からのリアクションはよかったですし、実際に工数の削減につながっているので、こういう事例も含めて経営層の方に話してぜひ第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。実際にやってみた立場から正直に言うと、ここは気をつければよかったなというところはあまりないのです。

まずは導入してみよう

ソフトバンクでのAIを活用した採用は現状、新卒者に限られており、エントリーシート選考を設けていない中途採用に導入する予定はないそうです。中途採用にエントリーシートをすでに設けている、あるいは設ける予定のある企業では、AIの活用が考えられます。源田さんの言葉を借りれば「AIを導入することにデメリットはない」そうです。思い切ってその導入を検討してみてはいかがでしょうか。