DeNA「フルスイング」に訊く 人事主導型オウンドメディア成功の秘訣

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プロフィール
株式会社ディー・エヌ・エー
執行役員 ヒューマンリソース本部 本部長 崔大宇(チェ テウ)
東京大学大学院 (工学系研究科航空宇宙工学) 卒。2010年DeNAに新卒入社。 エンジニアとしてソーシャルゲーム開発に携わった後、中国など海外拠点でゲーム事業のマネジメントを担当。その後エンタメやメディア、AI領域での新規事業立ち上げを経て、18年4月から現職。

情報発信のためにオウンドメディアを立ち上げる企業が増加しています。けれど軌道に乗せるのは容易なことではありません。継続の難しさを感じていたり、苦労に対して効果の手ごたえを感じられていなかったりする企業も多いのではないでしょうか。

頓挫してしまうメディアも少なくないなか、採用広報の観点から人事部主導で運用するオウンドメディアには、採用ブランディングに成功しているケースも見られます。今回は、そうした成功事例の代表格「フルスイング」について、DeNA執行役員 ヒューマンリソース本部 本部長の崔大宇さんに、企業のオウンドメディア成功の秘訣についてお話を伺いました。

採用スタイルの変化に、社外発信の重要性を感じた

オウンドメディア「フルスイング」立ち上げには、どういったきっかけがあったのでしょうか。

崔 大宇さん(以下、崔):DeNAの魅力を知ってもらえる機会を増やさなければ、優秀な人たちにアプローチできなくなっていくのではないかという課題意識ですね。

もちろん企業文化や環境に合う人材を採用しているわけですが、優秀な人との出会い方には変化が起きていまして。従来ですと、エージェントからの紹介を受けて面接、採用といった形だったんですが、今は本人が直接企業に応募するであるとか、社員からの紹介であるとか、転職・就職希望者が自ら行きたい企業を見つける流れに変わってきているんですね。

フルスイングを立ち上げた2017年10月には、フルスイングプロジェクトと銘打って、社内異動制度「シェイクハンズ制度」や社内副業制度「クロスジョブ制度」、社外での副業を解禁する「副業制度」など、一連の人事施策を同時に行っています。こうした施策の発信を、社内だけではなく社外にもしていきたいということで、オウンドメディア「フルスイング」の立ち上げを行いました。

立ち上げ当初の進め方 コンテンツ基準は「量<質」

オウンドメディアの立ち上げに当たっては、メディアが与える効果など、「やる意味」を社内に浸透させるのが難しい部分もあったのではと思います。立ち上げ当初の進め方はどのようなものだったのでしょうか。

崔:弊社の場合は、当時の本部長が「こういう施策をやっていくべきだ」と判断しました。先ほど申し上げたような数々の人事施策を打ち始めたという背景があったので、運営担当者が上司を説得しなければといった難しさはありませんでした。

人事施策を複数打ち出すことになったのは、人事が抱いていた課題感が理由ですね。私たちは社員に対し、毎月「能力を発揮できているかどうか」「やりがいを感じているかどうか」の2点をアンケート調査しているんですが、双方にイエスと答える人は6割程度でして。残り4割の伸びしろを助長するために開始した人事策でした。フルスイングメディアは、その課題を解決するための施策のひとつだったんです。

立ち上げ時からトップ層に理解があったわけですね。立ち上げ当初の体制はどのようなものだったのでしょうか。

崔:フルスイングプロジェクトを推進していたマネージャーと編集担当がひとり。あとは社外パートナーです。企画部分までは社内で行いましたが、執筆などは社外パートナーの力を借りていました。

企画部分というと、コンテンツ設計やテーマについてですよね。それはどう進めていったのでしょうか。

崔:コンテンツ内容は、当時のマネージャーが率いて決めていきました。コンセプトは「採用したいと思う優秀な人材が読んだとき、DeNAに魅力を感じてもらえる」もの。当初の掲載記事の擦り合わせはかなり厳しく「その企画ネタはターゲットに刺さるのか?と幾度も検討を重ねました。数多くの企画がボツになるほど、コンテンツのクオリティにはこだわっていましたね。

質重視だったのですね。

崔:そうですね。オウンドメディアの方針には本数重視と品質重視の2パターンがあると思いますが、立ち上げ当初は品質にかなり重きを置いていました。とはいいましても、スピード感も緩めないという方針もあったので、週2本、月に8本程度は掲載できるようにしていましたね。質と量を担保するためにも、社外パートナーは必要でした。

効果が目に見え始めるまで1年間 立ち上げ当初との変化とは

週2本ペースで出していくことの他に、KPIはどのように設定されていたのでしょうか。立ち上げ当初と現在とで変化はありますか?

崔:変わりましたね。立ち上げ当初は、潜在的な層に向けたいという想いがあったんです。「DeNA 採用」と検索する層ではなく、「エンジニアリングの技術」など、「DeNA」では検索しないけれど、私たちが採用したい方々の検索ニーズを考え、運営担当者は企画をつくっていました。

そのため、SNSでのシェア数や、はてブ数を参考指標にもしていました。

SNSシェア数やはてブ数というと、大きな注目を集めて拡散される「バズ」コンテンツを狙っていたのでしょうか?

崔:意識はしていました。企画も、社外で話題になっているからこういうコンテンツを作ろうといった切り口で出していました。でも、そのときは企画案を出すのも大変そうでした。事業の状況って一刻一刻変わるので、人事にはどうしても把握しきれないところもあり、エッジのない、汎用的な企画が多くて。

事業部側からすると「人事が記事を企画しても、全然事業のことを理解していないじゃないか」という想いもあったでしょう。一方、フルスイングの運営側には「事業のことをしっかり取り上げたい」という信念があるため、双方苦しいときもあったのではないかと思います。

その苦しさは解消されたのでしょうか。いつ頃から軌道に乗り始めた感覚がありますか?

崔:半年くらいは耐え忍んでいましたね。変化の兆しが見え始めたのは、「フルスイングを見て入社した」という方が増加してきたと感じ始めた頃でしょうか。そして、この変化を他の執行役員も認知して、フルスイングというオウンドメディアのよさを理解し始めた。ここからは随分とやりやすくなりました。

このあたりから企画・編集も要領を得てきたようです。「社内にしっかりと向き合って、DeNAが今持っている資産に焦点を当てていこう」という方向にシフトしました。

社内的な認知度や立ち位置の変化はどうでしょうか。

崔:変わりましたね。弊社は採用権限を事業部に委譲しているので、部署ごとに採用のための認知度向上を行う必要があります。部署単位でのオウンドメディア立ち上げが検討されたこともあるんですが、だったらフルスイングに頼って書いてもらおうという流れができました。当初は人事部がネタ集めに奔走していましたが、今ではネタが集まるようになったため、社内での立ち位置もある程度確立されてきたなと感じています。

社外的にはいかがですか? コンテンツ作成の方向性が変わったとのお話でしたが、バズを狙いにいかないことで生まれた変化であるとか。

崔:今はSNS流入、検索流入の両方がありますね。SEO対策はあまり意識していないんですが。いいところをしっかり見せるだけではなく、足りないところも正直に見せる。わざとらしく脚色しない記事が、結果的に読まれるものになっていると感じています。

「社内のいいものも足りないところも思い切り発信する」というコンセプトは、メディア名とも相通じるものがあると感じます。

崔:プロジェクト全体としての「フルスイング」の由来は、DeNAに野球球団があることと、「空振りしてもいいから全力でやる」という意気込みなんですね。直接事業の成果につながるかどうかはさておき、全力でがんばっているところを発信したいと考え、メディア名もフルスイングにしました。

オウンドメディアを成功させるためには、スタート時点が重要

オウンドメディア立ち上げから半年耐え忍び、今では社内外ともに軌道に乗っていると言っていいと思います。オウンドメディア立ち上げを考えている人事担当者へ、何かアドバイスをお願いしたいのですが。

崔:やはり、「なぜメディアの運営をするのか」ということは、ずっと意識しておくべきではないかと思います。DeNAのメディアには、自社にいるフルスイングしている人たちを等身大で発信したいという想いが根底にあるわけです。その根本があると、多少コストがかかっても継続できる。

「やれと言われたから」「流行っているから、うちも」といった認識で始めてしまうと、間違いなく頓挫してしまうのではないかと思います。私たちのようなそこそこの規模の会社ですら外注を使いながらスタートしているわけで、結果が出始めるまでに必要な労働的・時間的コストなど、オウンドメディアを立ち上げ、継続する上では相当な覚悟とパワーが必要になってきますから。

目的やコンセプトが1番重要であると。

崔:そうですね。生半可に始めるべきではないと思います。

最後に、今後の展望、ビジョンをお聞かせください。

崔:まずは入社する方、全員に「フルスイングを見てDeNAで働きたいと思った」「働くイメージが湧いた」「働きたいという意欲がさらに高まった」と言っていただける状況を目指したいですね。

さらには、現時点でDeNAで働くことを考えていない方々にも、フルスイングを通じて、DeNAに魅力を感じ興味を持っていただけたらうれしいです。メディア自体も、一つひとつの記事も、ともに種であると思っていまして。メディアを超えて広げられる可能性がありますし、広げていきたいと思っています。