Matchプロセスで採用活動の質を上げる

目次

ミッションクリティカルという言葉は「業務の遂行やサービスに必要不可欠で障害や誤作動が許されない」という意味で、コンピューターシステムなどを形容するときに使われます。

採用活動もミッションクリティカルであるべきだというのは、『Match: A Systematic, Sane Process for Hiring the Right Person Every Time』の著者、ダン・アーリン氏です。コンサルタントとして1000社以上の採用活動に携わるなかで、ミッションクリティカルな採用活動をするためのMatchプロセスを編み出し成果をあげています。

採用チーム全体の足並みをそろえる準備

Matchプロセスで採用活動の具体案を決める前に、採用チームのなかの意識を統一します。全てのメンバーが足並みをそろえて採用活動ができるように次のような準備をします。

マインドセットをする

適任の人材を雇うことより大切なことはない、そしてMatchプロセスを忠実に取り入れることで状況がよくなると信じ、採用チーム全員が同じ気持ちで取り組めるようなマインドセットをします。ローマは一日にしてならず。よい採用も日頃から努力を重ねることが大切であることを採用チーム全員に周知し、自分の判断を過信することもやめます。

企業のミッションステートメントを作る

企業のミッションステートメントとは、企業が「こうありたい」と思う姿を簡潔にまとめることです。一例を挙げれば、Googleの場合「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」という言葉を使っています。企業にしっかりとしたミッションステートメントがあると、志の高い候補者を引きつけます。

採用チームの役割分担

採用チームの役割分担では、リーダー、管理担当、採用担当、面接官と分け、責任の所在をはっきりさせます。例えば、リーダーの役割は、チームの人選をし、採用活動の重要性をチーム内に伝達することです。また、職務記述書の原案の作成や、部下が作った採用計画の承認もします。管理担当は、契約書や各種書類について責任を負う役割です。さらに、採用活動に係わるスケジュールの管理や、採用基準の取り決め、タイムキーピングなどを担当します。

採用担当のトップは、採用チームのメンバーに必要なトレーニングを受けさせ、高いレベルの採用試験ができるようにする責任者です。採用面接を実施する際には面接官の配置決めも担当します。面接官は、自分の面接技能を磨くことに専念します。具体的には、電話インタビュー、対話を通して考え方や意見を引き出すインデプスインタビュー、候補者の過去の経験から企業に必要な能力を持った人かどうかを聞き取る、コンピテンシー面接ができるようにします。各ポジションの行動計画をしっかり立て、全員が自分の役割に責任を果たします。

組織文化の明確化

実力を十分に発揮する人材を採用し、定着率を高めるためには、組織の文化を明確にすることが欠かせません。「郷に入っては郷に従え」ではなく、初めから組織のやり方に合う人を探したほうが成功します。例を挙げれば、職場でなにかを決めるとき、リーダー主導で決める組織と、全員の意見をまとめて検討する組織では文化が違います。同様に、職場の雰囲気がフォーマルかカジュアルか、または、決められた工程に従うことが評価されるか柔軟性が評価されるかなど、組織の文化をはっきりとさせ、それに合う人物像を導き出しましょう。

第1段階:企業に合った採用プランを考える

採用活動のなかで最も大切なのは、その企業に合った活動をすることです。そのため、Matchプロセスでは組織図の作成から始めます。

組織図を作成する

組織全体のつながりをビジュアル化し、どの部署の、どのようなポジションにつく人材を採用したいのか、誰にでもわかるようにします。組織図は、組織内で採用予定の人材を把握することに役立つことはもちろん、候補者に見せることで、組織の構造を理解してもらうことができます。さらに、組織図があることで、体系の整ったプロフェッショナルな企業であるという印象を与えることもできます。

職務記述書を作成し、必要スキルを書き出す

所属部署や仕事内容の詳細、入社後1か月後、3か月後、半年後、1年後の達成目標を記入した職務記述書を作成します。この書類は採用面接の資料にするほか、採用者にも渡します。それとは別に、必要経験、その職務で成功するために必要な技能、学歴、功績といった必要スキルも書き出しておきましょう。その際に「○○の資格を持っている」「○○の経験が5年以上ある」など「Yes/No」で答えられるようにしておくと、面接で確認しやすくなります。

コンピテンシー(行動特性)プロファイルの作成

コンピテンシープロファイルは、候補者の知性、コミュニケーション、リーダーシップ、管理能力、性格(精神面の健康チェック)といった項目を軸に、企業に合う特性を持っているか確認するためのチェックリストです。管理能力の項目を例にすると「人に仕事を任せて達成することができる」「問題を自分の担当範囲内で解決できる」「企業の目標を達成するためにチームを活用する方法を知っている」「ビジネスにおいて洞察力がある」などの確認事項をもとに10段階評価をします。コンピテンシープロファイルの見本(英語)は、本書と連動しているWEBサイト(http://www.danerling.com/)に公開されていますが、企業が求める人材をイメージしながら、確認事項を考えるといいでしょう。

採用プランの最終チェック

採用プランを実行する前に6つの事項について確認をします。

  1. なにか問題が起きてもチーム内部で解決できるように計画されていますか?ほかに改善できる点がありませんか?
  2. アウトソーシングもしくは請負業者を使用して処理できる役割がありませんか?
  3. ポジションが満たされない場合、会社にどのような影響がありますか?
  4. 採用の順序は正しいですか? 最初に満たされなければならない別のポジションはありますか? (例:その部署のメンバーを採用するために、先にマネージャーを雇う必要がありますか?)
  5. 各役割の責任者が明確になっていますか?
  6. この採用活動は、組織のミッションにとって絶対に必要ですか?

第2段階:採用プランを実行する

採用プランの最終チェックができたら、以下の順序で採用試験を実施します。

電話インタビュー

電話インタビューでは、職務記述書や必要スキルを書き出したリストをもとに、見込みのある候補者を探します。ここで候補者数を約半分に絞ることによって、可能性のある人たちの面接に時間を多く使えるようになり、採用活動にかかるコストも抑えられます。電話インタビューをするときのポイントを挙げてみましょう。

  • 面接の前段階のチェックなので、15分を目安に手短にする
  • この段階では、仕事の内容に関する具体的な話をせず、候補者のスキルを確認することに徹する
  • 複数の電話インタビューをする場合でも、候補者によって態度が変わらないようにする
  • シナリオをあらかじめ用意し、そのとおりにインタビューする

インタビューでは、Yes/Noで答える形式の質問はやめ、候補者が自ら話せるようにします。例えば、ピボットテーブルのスキルと、財務分析の能力が高い人材を探しているときには、次のようなインタビューをします。

  • タックスマネージャー(納税管理人)として、現在どのようにピボットテーブルを使っていますか?
  • 売掛金回転期間を短くすることを任されたときのことを教えてください。どのような行動をして、どのような結果が出ましたか?

面接

電話インタビューの結果、見込みのある候補者を集め面接を行います。面接の準備段階で質問をあらかじめ用意し、採用チームの中でロールプレイングを実施して練習しましょう。ロールプレイングをしながら、求める回答が得られるように質問を調整します。

面接で効果的に候補者の本来の姿を引き出すには、コミュニケーションも大切です。面接官は、面接中の態度にも気を使ってください。

  • 質問をあらかじめ書き出し、台本を作っておく
  • 面接のときに、候補者の名前を繰り返し呼ぶ
  • アイコンタクトをする
  • ノートを取る
  • 相槌をいれたり、相手の話にうなずいたりすることで、関心を持っていることを表す

リファレンスチェックとバックグラウンドチェック

リファレンスチェックとバックグラウンドチェックは外資系企業ではよく知られた習慣です。経歴や資格に偽りがないか、過去に重大な事故を起こしたことがなかったか、候補者の元上司や勤め先の人事部に連絡をして聞きます。最近は日本でも経歴詐称などを防止するために取り入れる企業が出てきているようです。

第3段階:採用を決定する

採用試験が終わった後も、Matchプロセスは続きます。採用試験が終わった段階では、採用活動の9割を達成したに過ぎません。最後まで気を抜かないようにしましょう。

合否を決定するのは直属の上司

Matchプロセスでは、役員以外の採用に社長は直接判断を下さず、候補者の直属の上司になる人物が合否の最終的な決定権を持つことをすすめています。そして人事部が、そのサポートをします。

給与など条件の提案をする

採用が決定して給与など条件の提案をするときには、金銭面だけでなく、仕事の将来性や、仕事と私生活を両立するための制度なども取り上げ、その企業に就職するメリットを最大限に伝えます。給与の提案をする前に、その候補者の過去の収入を調べたり、市場の状況を確認したりすることも大切です。

契約が完了するまで候補者と密な連絡を取る

元の職場や他社からの魅力的な提案により、合格者が契約書にサインをする前に心変わりをすることもあり得ます。必ず採用したいと思う人とは、面接から契約までの間も密に連絡を取りましょう。

新入社員を積極的にサポートする

新入社員に初めから何でも任せきりにすると心が折れてしまいます。チームに加わってくれたことに感謝を示し、新入社員の仕事が上手くいくよう積極的にサポートをしましょう。新人研修は、同じ先輩が継続的に新人を指導するメンター制度が効果的です。

第4段階:フォローアップ

最後の課題は、人材の定着率を上げること、そして採用活動の反省を活かしてMatchプロセスを継続させることです。

人材の定着率を上げる

時代によって仕事に対する考え方や取り組み方が変わっています。まず、世代による違いを理解することが人材の定着率を上げる近道です。そして、職場に次の5つを用意します。

  1. 明確な任務と目的
  2. 柔軟性(および多様性)
  3. 開かれたコミュニケーション
  4. 報酬と承認
  5. 教育と成長

費用対効果を確認する

採用にかかった費用に対して効果がどれくらい表れているか3つの基準から確認します。

  1. 間違った人材を採用せず、コスト節約につながったか。
  2. 人員を増やしたことによって、実際の利益や効率性が上がったか。
  3. 組織の文化や企業精神によい影響を与えたか。

Matchプロセスを順守して効果的な採用活動を継続する

次回の採用活動のために、Matchプロセスが活かせたかどうかを振り返ります。役割ごとに反省会を開きリーダーにフィードバックをしてもらいましょう。新入社員に採用活動の改善点を提案してもらうのもひとつです。反省をもとにPlan(計画)、Do(実行)、Observe(観察)、Reflect(反映)のPDORサイクルでMatchプロセスを継続させます。

採用活動を段階的に管理して、高いレベルをキープする

Matchプロセスは、採用活動を段階的にとらえ、全ての項目において細かく段取りをし、実行します。その結果、工程を繰り返せば繰り返すほど、採用活動の質を高いレベルでキープすることができるようになります。もし、面接の質問や試験内容を工夫しているにも関わらず人材の採用に失敗したり、採用した人材の定着率が悪かったりする場合は、採用活動の段取りがうまくいっていない可能性があります。そのようなときにMatchプロセスを見直してみるといいでしょう。

書籍情報

Match: A Systematic, Sane Process for Hiring the Right Person Every Time
Dan Erling (著)
Wiley; 1版 2010/12/1
ISBN-10: 0470878983
ISBN-13: 978-0470878989ISDN