尖った理念を持つ会社|「さみしいのは嫌だから」という率直な思いが理念となり、応募者に伝わる―株式会社リエイト

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企業の理念とは、誰のために掲げるものなのでしょうか?

このシリーズでは採用力強化につながる「尖った企業理念を持つ会社」を紹介していますが、今回取り上げる企業の事例は、「理念が誰のためにあるものなのか」を問いかけてくれるものだと思います。

東京都内に鍼灸治療院や整骨院などの「ビファイングループ」を展開する株式会社リエイトは、創業14年目の2017年に理念を大きく見直しました。新たに掲げた会社理念は「ずっと一緒にいよう」。この言葉の背景にある思いに迫ります。

株式会社リエイト 代表取締役/宮内あきらさん

構造的に難しい「専門職の採用」と「定着」

鍼灸業界は今、構造的な人手不足に陥っています。リエイト代表取締役の宮内さんは「新規出店が相次ぐ中で、有資格者を育成する専門学校の数は横ばいのまま。人材の需給バランスが崩れていると感じます」と話します。

宮内さん「はり師」や「きゅう師」は東洋医学の専門家として認定される国家資格であり、これを持たない人は現場に出ることができません。鍼灸治療院は専門職人材を確保し続けなければならず、これが経営のネックとなることも少なくありません。

また、体力的にハードな仕事であったり、土日に休みが取りづらかったりという理由から、業界を離れていく人も。「ネガティブな理由で業界を離れた人はなかなか戻ってきてくれない。これも採用を難しくしている要因だと思います」

リエイトにおいても、かつては離職者が相次いだ時期があったそうです。新規採用が難しいだけでなく、既存の人材も流出していってしまう。この状況を変えるため、宮内さんはさまざまな打ち手を実行していきました。

月80回近くの面談、「保育園を作る」という大きな決断

その一つが、トップである宮内さん自身が社員全員と向き合う「個人面談」の実施。特筆すべきはその密度です。全体で約40人にもなる社員一人ひとりと、1カ月に2回のペースで時間を確保し、向き合っています。宮内さんのスケジュールには毎月80回近くの面談予定が入っているのです。

宮内さん「私自身は現場を離れて、社員たちと向き合う時間を徹底的に優先するようにしました。面談では技術的なアドバイスはもちろん、お客さまと接する上での課題を聞いたり、ときには恋愛や家族関係などプライベートの悩みを聞いたりすることもあります」

また、社内の女性比率が高まっていく中で、「出産後に職場復帰してもらう」ための取り組みが必要となりました。ここで宮内さんは思い切ったアクションに移ります。

宮内さん「仕事は好きだけど、出産後は辞めざるを得ないという人も。その背景には待機児童問題がありました。だったら、自分たちで保育園を作ればいいんじゃないかと。その流れで本社がある下北沢(世田谷区)に『ベビーエイト保育園』を作りました」

ベビーエイト保育園では出産後も働きたいと考える社員の子どもを受け入れつつ、地域の公器として社外からの受け入れも行っています。これはリエイトの新たな事業の柱となりつつあります。

「ずっと一緒にいよう」という言葉の裏側にある「さみしさ」

宮内さんはなぜここまで、社員と向き合うことができるのでしょうか。その背景には、自身の生い立ちも強く影響していると言います。

宮内さん「私は医師家系に生まれ育ちましたが、周りになじめず高校を中退したり、家庭内でもトラブルを抱えていたりと、決して順風満帆とは言えない少年時代を過ごしてきました。その中でいつも感じていたのは『さみしさ』だったと思うんです。

鍼灸の道に入ってからはその面白さにのめり込み、必死で勉強し、自分の城を持てるようになりました。気づけば仲間もどんどん増えていきました。この会社は、自分が初めて持つことができた『さみしさを感じずに過ごせる場所』でもあります」

宮内さんの思いは率直であるとともに、ある種の切実さも含んでいるのかもしれません。仲間に離れていってほしくないから、徹底的に向き合い、経営者としてできることを実行する。気づけば離職率は大きく低下していきました。

そうしたこれまでの思いを言葉にし、形にしたのが現在の「会社理念」。「ずっと一緒にいよう」という言葉は、宮内さんから社員へのメッセージです。

「ずっと一緒にいよう」

全力で教えるからずっと一緒にいよう
我々は常に最高度の高い技術を持ったプロフェッショナル集団を目指しています。
その為に必要な事は全て惜しみなく全力で教えます。絶対に妥協しません!

不器用でもいいからずっと一緒にいよう
素直に一生懸命に仕事をやれる人間こそが価値のある人材です。
若いうちは出来ない事が多くて当たり前。決して諦めない気持ち!

人生のステージが変わっても、ずっと一緒にいよう
結婚出産し、待機児童問題に直面した仲間が職場を去らざるを得なかった事があります。
もう同じ事を経験したくないから、「本物の」保育園を作りました。

いつの日か独立したとしても、ずっと一緒にいよう
自分に自信が持てるようになったら「一国一城の主」を目指したくなるかもしれません。
勿論止めません。全身全霊で応援します。
誰よりも頼れるパートナー、良き相談者として寄り添います。

リエイトには20代から30代の専門職メンバーが集う。女性社員も多い。(写真は同社HPよりお借りしています

経営者のエゴだけでなく、社員の思いも理念に

実はリエイトには、もう一つの理念があります。それが「社員理念」。徹底した技術指導と居心地の良い職場環境、さらに社員一人ひとりと向き合う風土の中、「ここで長く働きたい」と考えるようになった社員たちの思いを表しています。

宮内さん「幹部社員が理念作りの合宿に参加したり、それを持ち帰ってみんなで議論したりと、リエイトらしさを表現するための取り組みを行ってくれていました。会社の理念というとどうしても経営者のエゴが反映されてしまいがちですが、それだけではなく、社員の思いもちゃんと理念として掲げたいと思ったんです」

こうして「社員理念」と「行動指針」が掲げられました。

社員理念 「一人ひとりに寄り添い、未来を創造し続けよう」

◎行動指針

  1. 素直な心を持とう
  2. 相手のことを第一に想い、仲間を大切にしよう
  3. 自らが責任を持とう
  4. 探求心を持ち、成長し続けよう
  5. 勝つまであきらめない心を持とう
  6. 自らの可能性を信じよう
  7. ネガティブな気持ちは、話し合いによって明るい気持ちへと変えよう
  8. 感動を提供するための手間を惜しまず、進んで取り組もう
  9. 感謝の気持ちを持とう
  10. 常に謙虚であり続けよう

会社理念も社員理念も、徹底的に自分たちと向き合い、その本音を掲げたもの。鍼灸治療院や整骨院、保育園といった「人がありき」のビジネスだからこそ、自分たちの本音を語ることが大切だと考えています。この姿勢は顧客にも伝わり、リエイトの治療院はリピート率90パーセント以上という高い満足度を実現しています。

応募者が笑顔で「理念を見ました!」と語ってくれる

今後も新規開院や事業拡大を計画する同社では、採用活動の強化が大きなテーマとなっています。専門学校を訪問したり、合同説明会に参加したり、独自のウェブマーケティングを行ったりという施策の中で、「理念によるメッセージング」は大きな核になっているといいます。

宮内さん「そもそも『ずっと一緒にいよう』という青春ソングのような理念を掲げている会社なんて、ほとんどないと思います。でもその裏側には私の思いがあるし、社員理念に刻み込まれた一つひとつの思いもある。理念に注目してもらい、いろいろと質問してもらうことで、自然と会社のことを深くアウトプットできるようになっていきました」

会社理念や社員理念は採用パンフレットなどにも記載し、応募者へ積極的に伝えています。

宮内さん「面接に来てもらった際には、『当社の理念を見ていただけましたか?』と質問しています。するとみんな、笑顔で『見ました!』と答え、感想を聞かせてくれるんです。普通は面接で理念のことを聞かれると緊張してしまうのではないかと思いますが、リエイトの理念のことは誰もが笑顔で語ってくれる。そうやって会社にフランクに興味を持ち、積極的な姿勢で面接に臨んでくれる人が増えたことは、採用活動に大きなプラスとなっています」

経営者の社員に対する思い、そして社員の会社に対する熱い思いが自然な形で言葉となり、外部へも伝わっていく。これは、理念の本来あるべき姿を表していると言えるのかもしれません。