富士通のキャリア採用 ~ダイレクトリクルーティング強化への取り組みについて~
目次

新型コロナウイルスの影響もあり、大きく変化している採用市場。
富士通では、自社の企業方針を達成するための採用活動をどのようにおこなっているのでしょうか。富士通の人材採用センターでシニアマネージャーを務める黒川様に、富士通が実施している具体的な施策についてお聞きしました。
富士通が目指す、ワークライフシフト実現のための施策とは

富士通が目指す姿は、現在のIT企業から、その先を見据えたDX企業になること。その実現のために、まずは社員が働きやすい環境や仕組み、人事制度を整えるなどの基盤づくりを進めています。
富士通がありたい企業の姿
富士通は、目指す姿として「IT企業からDX企業へ」という姿を掲げています。DXとは、デジタルデータを活用して、世界に色々な変革をもたらしていくことを指します。
そして、2020年の5月に社長の時田より発表されたのが「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」という富士通のパーパスです。
そして、「社内外の多彩な人材が俊敏に集い、社会のいたるところでイノベーションを創出する企業へ」。これが富士通のありたい姿です。
最近、富士通が発表した「ワークライフシフト」のコンセプトは、「リアルとバーチャルの双方で常に繋がっている多様な人材が、イノベーションを創出し続ける状態を作る」ということ。ニューノーマルな世界で、働くということだけではなく仕事・生活をトータルにシフトし、ウェルビーイングを実現していくことを目指しています。
この目標を達成するために、「固定的な場所や時間にとらわれないような仕組み」や「社員の高い自律性と信頼をベースにした制度」などの実現に向けて取り組んでおります。
ワークライフシフト実現に向けた取り組み

富士通ではワークライフシフトの実現に向けて、3本の柱を掲げております。
1.Smart working……最適な働き方の実現
スマートワーキングとは、時間や場所をフレキシブルに活用する働き方。
「時間」に関してはコアタイムを廃止し、原則フレックス勤務にすることで、社員が働きたい時間帯を選んで柔軟に働くことができるようにしています。「場所に関しては」オフィスにとらわれず自宅やほかの場所をうまく組み合わせて働いていく。また、単身赴任を解除し、テレワーク・出張で対応可能な場合は、随時自宅勤務に切り替えています。
また、通勤定期券を廃止し、移動は実費精算にしています。
さらに、環境整備・費用補助ということで、毎月5千円が「スマートワーキング手当」として支払われています。そのほかにも、全社員が社給のスマホ等を活用する働き方を目指しています。
2.Borderless Office……オフィスの在り方の見直し
富士通では、「Hubオフィス」、「サテライトオフィス」、「Home & Sharedオフィス」の3つを定義しています。
Hubオフィスは、汐留や川崎などの、富士通でも大規模な拠点と言われている場所です。社内だけでなく社外のお客様も含めて集まり様々なコラボレートをしていく、そういったオフィスを実現するためにHubオフィスとして定めています。
また、サテライトオフィスとhome & sharedオフィスなど、様々な場所をうまく使って働く。そういった働き方を目指しています。
3.Culture Change……社内カルチャーの変革
そして「Culture Change」。「社員の高い自立性×ピープルマネジメント」を実現し、「セルフサービス化・就業状況の可視化」、「1on1ミーティング・コミュニケーションの支援」、「健康パルスチェック・ストレス診断」などを実施していこうとしています。
いわゆる「ジョブ型」が非常に注目されていますが、富士通もCulture Changeにあたって、このジョブ型人事制度を導入しました。
「果たすべき職責」を明確にしていく、そして評価していく。そういったジョブ型の人事制度の導入にあわせて、「上司・部下の1on1ミーティング」による課題の共有などをしっかりとやっていくこと。また、キャリアの選択肢としての「ポスティング制度」。これを富士通では国内のグループ会社全体でやっていこうとしています。
そして、成長を支える学びのプラットフォーム「富士通ラーニングエクスペリエンス(FLX)」といった環境整備を併せてやりながら、ジョブ型人事制度の実現を目指しています。
採用市場の変化に対応する富士通の採用活動

新型コロナウイルスの影響で、採用市場や働き方が徐々に変わりつつあります。富士通ではその流れや求職者が求めるものを常に意識し、必要な人材の獲得に向けて採用活動を変化させています。
IT業界におけるエンジニアの採用競争が激化
新型コロナウイルスの拡大を受けて採用活動を縮小した会社が増えている一方で、IT業界におけるエンジニアの獲得競争は続いています。
IT業界における採用競争の激化の背景としては、従来であればIT業界だけで取り合っていた人材が、今では金融業界・自動車業界・コンサル・外資・ベンチャーなど様々な業界を超えてIT人材の獲得に乗り出してきているということがあります。
事実、各社・各業界においてもDXを実現していくためにIT人材を採用していく必要性を感じているということで、従来の獲得競争が今は業界を超えて激化しているという状況です。
変わりつつある日本の採用市場
近年は、働き方や採用手法も多様に変化しています。様々な会社が「ジョブ型」にシフトしていることにも注目すべきでしょう。
また、若年層を中心にキャリア意識が変化し、「一社にとらわれずに様々なキャリアパスを選択肢として持ちつつ、キャリアを積むこと」が普通になってきています。
そういう中において、富士通も「企業成長のための採用戦略」を考える必要があると感じています。
IT企業からDX企業へ変わるためにどんな人材が必要になるのかを日々考え、ジョブ型人事制度に変わることを強く意識して採用活動を行っていく必要があります。そういったことを意識しながら、「富士通が成長していくために必要な人材を採用する方法」を考えてきました。
富士通のキャリア採用とジョブプロファイルの定義
富士通は、他の大手企業と同様に「新卒一括採用」を続けてきました。一方で、近年はキャリア採用にも力を入れ、その数についても徐々に増やしており、今後も力を入れていきたいと考えています。
まず、キャリア採用について考える際は、「事業戦略に基づく適所適材をどう実現していくか」ということが重要です。ジョブ型という中においては、「事業戦略に基づいてどういった組織変更をしていこうか」というところからスタートし、それに基づいてポジションごとに「ジョブプロファイル」を定義していきます。
「ジョブプロファイル」というのは、「そのポジションの役割・ミッション」、「責任や権限」、「そのポジションを担うために必要なスキルや経験」などが定義されているものになります。このジョブプロファイルに基づいて最適な人材を探していくことが、今後の人事部門には非常に重要なミッションになります。
富士通のキャリア採用について

2015年頃から本格的にキャリア採用をスタートした富士通。エージェントからの紹介のほか、グループの内外や元社員など様々な方向から人材を探し、積極的にキャリア採用をおこなっています。
ジョブアサインメントの4つのパターン
富士通の中から
適所適材ということで、まずは従来のように、社内で最適な人材をアサインする方法です。
富士通グループの人材から
富士通グループの中から、一番そのポジションを担うのに最適な人材を探していく。これを実現するための「グループワイドポスティング制度」についても、後ほどご説明します。
富士通グループの価値観に近い人材(Fujitsu Fan)から
富士通グループの社員ではなくても、富士通と同じような価値観を持っている人たちの人材プールを作り、その人達に対して「新しくプロジェクトが始まったから一緒にやらないか」というように誘う。これをいかにスピーディーに実現できるかというタレントプールの仕組みも考えています。
普段は社外にいるけれど富士通に近い存在、という人材をある程度集めていく必要があると感じています。
富士通グループ外から
積極的なキャリア採用により富士通グループ外から人材を採用していくことにより、人材流動化の中の輪に入って、グループの外からも人材をアサインしていくことを目指しています。
近年のキャリア採用の状況
富士通のキャリア採用というと、10年ほど前までは必要な人材をその都度とる程度で、積極的にキャリア採用を展開していたわけではありませんでした。しかし2015年頃からキャリア採用を本格的にスタートしました。
この頃は、「富士通のキャリア採用ホームページ」を大幅にリニューアルし、しっかりとキャリア採用を行っていくことをプランニングしたところからスタートしています。また、「カムバック制度」もこの頃から始めました。
キャリア採用者は、2015年頃に100人規模でしたが、そこから徐々に増え、昨年は300人規模となっています。
一方で、新卒採用も継続して行っています。学生から富士通に入り、富士通の中でキャリアパスを歩み、優秀な人材に育ってもらう。この人材がまだ富士通ではマジョリティです。職場のニーズも高く今後も必要な採用手法だと考えています。
ただ、富士通グループ外で経験を積んでいる多様な人材を集めていくことも併せて行う必要があると思っています。
キャリア採用では、全体の6割強がエージェントからの紹介です。
しかしながら、どうしても他社との獲得競争が起きるため、「富士通に紹介されてくるような人材」というだけでは、なかなか良い人材を確保できなくなってきました。その中で、転職潜在層(受動的候補者)に対して直接声をかけることができれば、他社と競合することなく採用できるということで、潜在層向けのアプローチも強化しています。
また元社員(富士通を一度退職した社員)であっても、また富士通に戻ってきてもらう「カムバック制度」を整備し、一度退職しても再度富士通で働くというキャリアパスを積極的に呼びかけています。
キャリア採用300人を実現するための8つの施策
富士通が目標とするのは、年間のキャリア採用300人。それを実現するために実践している8つの施策をご紹介します。

①グループ全体の流動化(Group Wide Posting)
富士通グループ外から人材を採用するキャリア採用の前に、富士通グループ内の人材流動化についても取り組んでいます。
グループワイドポスティングとは、「自ら目指すキャリアを描いて魅力的な仕事に挑戦する社員」を支援していく仕組みです。従来の「ローテーション」という考え方は、人の育成を組織で考えるという意味では良い制度ですが、自ら自主性を持って「この仕事をやりたい」と手をあげ、能動的な意思を持ってやる仕事の方がモチベーション高く取り組むことができ、成長もできます。
そのために、国内80社以上の富士通グループ内で200~300ポジションの多様なジョブを公開し、そこに富士通グループ社員全員が手を挙げることができるような仕組みの導入を始めています。
②グループ全体で優秀人材の獲得を目指すグループ採用
富士通グループ全体に優秀な人材を集めていくことにも力を入れています。
今までは、グループ各社で採用活動を行っていくというのが基本でしたが、2019年に、それを支援する会社を作りました。ここでグループ会社の採用を支援し、グループ全体の採用力を上げていく。そして、「富士通グループの中に入ればグループの中で成長していくことができる」ということを目指しています。
③採用ブランディングの強化
富士通は、どうしても「新卒採用が中心」というイメージがまだまだあると思います。 そのため、キャリア採用市場でもっと認知を上げていく。そして、富士通のビジネスを知る機会を様々な人に提供していく、ということに取り組んでいます。
広告やウェビナー中心のイベントで少しでも富士通を認識してもらった人に対して、興味や関心を高めていく施策も重要です。少しでも興味を持ってもらった人にミートアップ等の、より少人数でのイベントの案内やカジュアル面談、リクルーター活動などをおこない、徐々に採用まで誘導していきます。
このように、社外のタレント人材をリードナーチャリングし、応募につなげていくような戦略を、積極的にやっていきたいと思っています。そのベースとして、ホームページ・オンラインメディアなどを活用しています。
④Fujitsu Fan Poolの構築
「Fujitsu Fan Pool」というのはまだ仮称ですが、たとえば、採用で「富士通に来ませんか」と声をかけても、みんながみんな転職のタイミングは「その時ではない」というのが一般的です。
ですので、富士通として「富士通に近い価値観を持っている人材」と思う人たちを、しっかりと「候補者データ」として蓄積していく。このような取り組みを始めております。
そして、その人のスキルが本当に必要になった時には、その人に対してダイレクトに声をかけることができるような、そういったプールの実現を目指しています。
⑤Fujitsu Alumni(富士通アルムナイ)ネットワークの構築
富士通では、「富士通を卒業されたOB・OGは、価値観を共有し社会にイノベーションを起こすために時間を共にした、今も変わらず大切な仲間」と考えています。
そこで、富士通のアルムナイの人たちに対して交流の場を設けて、社会で活躍する元富士通社員をしっかりと支援していくようなことができればと思います。その中で富士通の新しいプロジェクトに興味を持ち、「やってみよう」と思った時には「カムバック採用」を選択肢に入れてもらうことを目指しています。
⑥社員の人脈を活用したリファラル採用

リファラル採用は、社員がリクルーターとなり、一人ひとりの人脈を活かして人材を採用する手法です。富士通社員は32,000人います。また、一人ひとりが社外でいろんなつながりを持っているということで、この人脈をフルに活かすとかなりの採用力になるわけです。
リファラル採用を通じて今実現していきたいことというのは、そもそも会社の成長と働く魅力を向上させていくこと。すると、魅力的な会社・魅力的な働く場に変わっていくことで、富士通の中で働く社員のエンゲージメントが上がっていく。そして、その社員が知人に富士通で働いてもらいたいと思う。また、知人も富士通で働きたいと思う。そのような状況を自然と作っていくことが、とても大事だと思っています。
⑦採用社外のタレントにアプローチするスカウト(LinkedIn等)
ミートアップイベントやエバンジェリスト講演で興味関心を高めて、LinkedIn等を活用しながら転職の潜在層をスカウトしていく。現在はまだまだ特定の専門性の高い人材向けにスタートしている状況ですが、今後はより拡大していきたいと考えています。
⑧潜在層イベント
潜在層に対しては、直接的な採用イベントを行っても興味をもってくれません。一方で、富士通のビジネスや技術に興味を持ってくれる人材は多く、ビッグデータやAIに関するイベントやその時のキーテクノロジーに関するイベントなどを社内の有識者に行っていただき、そこで採用に関する情報も少しだけ提供しています。
そのようなイベントの参加者には富士通に近い価値観を有している人材も多く、また潜在層から富士通のビジネスそのものに興味を持ってもらうきっかけになればと思い、そういったイベントにも力を入れています。
その他のキャリア採用に向けた施策
データの利活用
データの利活用は重要ですが、それだけで優秀な人材は定義しきれない面もあります。選考過程でのAI活用も進めてはいますが、人と人のコミュニケーションも重視しています。AIの利活用は今や必須ですが、一緒に働く仲間は「人」がしっかり選んでいく。これを大切にしています。
データを分析してみると、ちょうど今年の結果では、「キャリアを自ら勝ち取ってきた人」というのは、社内でのエンゲージメントが非常に高いということが分かっています。富士通の中でもポスティングやキャリア採用で動いている人は、やっぱりエンゲージメントがとても高いと感じています。
また、リファラル採用でリクルーターをしているような人も、やはりエンゲージメントが高いです。誇り・推薦・やりがい・成長実感・リソースなどの項目で、富士通社員全体の平均と比べても高いエンゲージメントが確認されています。社外に富士通をアピールすることで、より富士通を好きになっていき、そこで相関性が出ているのではと考えています。
このように、データをいろいろ分析していく中で、「やはりキャリア採用・ポスティングが重要だ」ということが分かりました。こういったデータを使って経営層に施策の重要性や効果をアピールしていくのも重要だと考えています。
選考プロセスのデジタル化
選考プロセス全体をデジタル化していきます。今は、最終面接でも基本的にはWebだけで完結させています。手続きも全てオンライン上で、紙を使わずにおこなうなど、デジタルで効率化しながら、一方で人を大事にしていく。これを両立することで、応募者や入社者の「カスタマーエクスペリエンス」の向上を実現していきたいと考えています。
まとめ
富士通の人材採用センターでは、ワークライフシフト実現のために働き方やオフィスの在り方などを見直すことで、時間・場所にとらわれない働き方や自律的な社員を支援できる環境づくりに取り組んでいます。
また、激化するエンジニアの採用競争とジョブ型に変化する働き方に合わせて、富士通グループの内外や元社員など、さまざまな方向から積極的なキャリア採用を進めています。富士通グループ全体での採用力を強化し、採用のブランディングや潜在層向けのイベントといった多様な施策をおこなうことで、年間300人のキャリア採用を実現しています。