Talent Without Borders:グローバルな採用活動を考える
目次

競合企業よりも優位になるには、企業戦略に必要な才能を持つ人材を特定し、その人を引き付け、採用し、長く雇用することにかかっています。しかし、才能を持つ人は少なく、適切なタイミングで適切な才能を持つ人を見つけるのは難しいものです。そして才能は、国境の内と外で均等に分配されているわけではありません。『Talent Without Borders』の著者ロバート・E・プロイハート教授と、ジェフ・A・ウィークリー教授は、国境を越えたグローバルな採用に必要な戦略を段階的に解説し、効果的な採用活動の方法を説いています。その概要をご紹介しましょう。
才能とは何か

本書では才能を次のように定義しています。
才能とは、知識、技能、能力、性格的特徴、価値、「効果的に仕事を遂行し、組織の効率・戦略・文化に広く貢献することへの興味」を合わせたもの。
職業によって必要とされる才能は違います。職場で求められる才能とは、その力によって効果的な仕事ができるようになるものです。また、才能は組織の効率、戦略、文化に広く貢献する必要があります。まず組織にふさわしい才能を特定すること。そして、その才能をどこで、どのように見つけ出すか考えること。さらに、その才能を持つ人を引きつけ、最もふさわしい人を選ぶことを目指します。
グローバルな採用戦略
戦略を思い描くことは簡単ではありませんが、ほんとうに難しいのはそれを実行することです。戦略を立てるときには「どのように」目標を達成するかということに重点を置かねばなりません。そして戦略のなかには、誰が、どこで、いつ、どのように採用を行うかが含まれているべきです。
さらに、グローバルな採用戦略では、文化的価値観の違い、国による管理体制の違い、法律的な違いを考慮する必要があります。グローバルな採用活動では、才能を個人の性質と考えずに、企業の資産として考えます。
その発想の転換ができれば、採用戦略が、金融戦略やブランド戦略と同じように重要なものであると気づくでしょう。
才能を企業の資産として考えるために、次のようなフレームワークの例が紹介されています。
- 戦略的な目標とポリシーを持つ
- パフォーマンスの指標をつくる
- 必要な素質と才能を見いだす
- 才能を持つ人材がいる場所(ロケーション)と出所(ソース)を見つける
- 人事戦略の実行、文化への適応
このフレームワークでは、まず、企業の目標とポリシーから、どのようなパフォーマンスが望まれているかという指標を決めます。次に、そのパフォーマンスの指標によって、必要な素質や才能が決まります。そして、そのような素質と才能を持つ人材をどこで探せばいいか考え、人事戦略を実行します。企業が、これらのステップを進めるときには、世界のどこでも通用するユニバーサルな戦略・ポリシー・慣行を重視しつつ、補足的に文化ごとの戦略・ポリシー・慣行を取り入れバランスを考えることも大切です。
才能の分析

才能とパフォーマンスを測る最も効果的な方法は数字で数えることです。才能分析の質は、その測定方法によって出るスコアの質で決まります。逆に言えば、測定方法がきちんとしていないと分析は意味のないものや間違ったものになってしまいます。そして、完璧な測定方法というものはありません。しかし、測定が特定の目的に役立つスコアを出しているかを確認する必要があります。これが妥当性(バリディティ)と呼ばれる概念です。
グローバルな才能分析の測定方法を選ぶポイント
候補者の才能やパフォーマンスを知るには、それを測定する方法が必要です。測定法を決めるときには、まず測定の信頼性と有効性、そして文化を越えて使えるものかどうかを検討します。
特にビッグ・データを使った分析を行うときには、正しい測定方法が使われていないと正しい結果も出ず、著者の言葉を借りれば「ゴミを入れてゴミを出す」結果となりかねません。そこで、測定方法を選ぶときには、次のようなポイントをおさえます。
測定方法
- 最も情報の多い尺度を選ぶ(できれば間隔尺度か比例尺度がよい)。
- 測定しようとしているもののコンセプトに合っているもの。
- どの言語、どの文化でも使えるもの。
信頼性
次のような形式のなかから、適するものを使って信頼性を確認。
- 各形式を使って信頼性を確認したときのスコアが、しきい値に達するかどうか
- 文化を越えて同じような信頼性を見込むことができるか
という点を確認してください。
再テスト法
期間を空けて同じテストを再度実施し、一回目と二回目のテスト結果を比較する方法。一回目と二回目の結果が一致すれば信頼性が高いということになりますが、一回目の記憶が二回目に影響があったり、期間を空けている間にその人の考えに変化があったりすると正確な結果が出ないという欠点があります。
内的整合性
ある性質や態度を測定するための、複数の質問に対する回答に相関性があれば、その質問には内的整合性があるということになります。
検者間信頼性
複数の検者の測定結果が、どれくらい一致するか比較します。
評価者内信頼性
1人の検者が測定を繰り返したときに値がどれくらい一致するかを見ます。
妥当性
次のような形式のなかから、適するものを使って妥当性を確認。
- 妥当性が最低水準まで達しているか。
- 言語や文化の違いが妥当性の根拠に影響していないか。
という点を確認してください。
基準関連妥当性
一連の質問に答えた結果を、関連のある別のテスト結果(外的基準)と比較したとき相関するかどうか。
内容的妥当性
質問内容に自分の調べたいことが含まれているかどうか。
構成概念妥当性
テストを全体的に見て、個々の因子の組み合わせが意図するものを測定できているかどうか。
客観性
- 目標と制約条件を決める。
- 主観的尺度の代わりに客観的尺度を使うことが適しているか考える。
- もし主観的尺度と客観的尺度の両方を使う場合、それらに十分な信頼性と妥当性があるか。
文化的等価
- ほかの言語でテストを用意する場合、その翻訳が専門家によるものかどうか。
- 必要な文化、国、言語に対応しているか、パイロットテストが済んでいるか。
- エラーが全て修正されているか。
グローバルな採用活動

グローバルな採用活動の目標は、仕事、組織、国の文化に合って、才能があると認められる人材を十分に確保することです。才能のある人を効果的に効率よく継続的に引きつけることで、世界の競合のなかで有利になります。才能は、世界のあちこちに均一に存在するわけではなく、候補者の好みも文化によって異なるため、企業は戦略的に採用活動の方法を選ぶことが必要です。例えば、文化ごとにテイラーメイドした採用活動をするか、世界共通の採用活動をするかなど、求める才能によって採用方法も変えます。そして、次の3つのポイントを含めた戦略と慣行を元に採用活動を実施します。
- 職場に欲しい才能と、その才能をどこで探すかを明らかにする。
- 欲しい才能を持った人材を引きつける。
- 希望の才能を持った人材が必ず仕事のオファーを受けるようにする。
採用活動のステージ
採用活動にはステージがあり、候補者は各ステージで異なった情報を必要としています。
ステージ1 資格のある候補者に応募を説得する
ぜひ来てほしい人材を引きつける情報と、資格のない候補者に嫌な気分を味わわせずに応募を思いとどませるような情報を提示します。
ステージ2 才能のある人材を残す
面接、評価、採用調査、人事調査など、色々なスクリーニングチェックを実施して採用時のリスクを減らします。
ステージ3 候補者の選択に影響を与える
職務内容、待遇など、明確な情報を提示します。
グローバルな採用選考
選考とは、戦略、プロセス、方法論、慣行を元に、応募者に仕事や組織に必要な知識、技術、能力、そのほかの素質-すなわち才能があるかどうか判断することです。選考方法は国や文化の違いだけでなく、法律や政治の違いにも影響されます。しかし、言語の翻訳がきちんとできていれば、才能に関するスコアは文化や国を越えて同じような結果となるはずです。企業が必要とする才能を持った人材を、正しく識別できる独自の選考方法を持っていれば、他社との競争で優位となる才能を集めることができるでしょう。
選考は重要な戦略である
正しい選考をすることは、個人、グループ、そして組織に非常に大きな経済的インパクトを与えます。良い選考には次のような効果があります。
- 才能の資源となる
- 競合企業より優位になる
- 企業文化の変化や強化につながる
- 企業独自の効果的な選考方法は、競合に真似できない
- 将来の役に立つ、採用に関するデータが集まる。
グローバルな選考方法
選考方法には様々なタイプがありますが、次の手順は、アプローチ法にかかわらず使えます。
- 欲しい才能を決める
- 現地の法律と、政治的なガイダンスに確実に従う
- 文化の影響を明らかにする
- 選考方法を決める
- トレードオフしながら選考方法のバランスを整える
- 選考を実施して採用を決める
- 選考手順を評価する
グローバルな人事配置と人材管理
グローバルな人材管理とは、国際的な状況のもとで、才能ある人材のリソースを創造し、それを融合、配置、移動することについて考えることです。
グローバルな人材管理のフレームワーク
才能を獲得したあとに起こる様々なことについて考えてみましょう。主に6つの人材管理の活動があります。
1.入社し職場に打ち解ける
候補者から従業員への移り変わり。最初の数か月間に、組織の価値観、文化、温度、戦略などを受け入れます。
2.昇進と社内移動
職場で空きのあるポジションに昇進という形で社員を配置することがあります。社内移動は、従業員が組織に慣れていることや、外部から人を雇うよりコストが低くパフォーマンスが上がりやすいことが利点ですが、変化が起きにくいといった欠点もあります。
3.サクセッションプラン
現在と未来の企業戦略に沿って、十分な人材のパイプラインを作っておくことを念頭に人材育成をします。ときには、現在空いているポジションのためではなく将来を見据えた採用も必要です。また、内部昇進と外部からの採用のバランスを考える必要があります。
4.発展・進化
従業員の才能を進化させるために長期的なアプローチをします。従業員の才能は、職務上の経験、ほかの社員との交流、研修などの場面で進化します。
5.エンゲージメント
従業員が組織や仕事に持っている熱意を向上させます。
6.雇用の継続
職場に留まる人の3つの特徴は、人や場所につながりがあること、企業や働く地域が合っていること、自分を捧げるものがあることです。例えば、家族がいる場所に暮らし、子供の学費のために収入を得たいという人は、その条件に合った仕事を辞めにくくなります。採用活動で候補者の条件を確認することや、人材と仕事のミスマッチによる退職、解雇などを減らすことで、長く雇用する努力をします。
グローバルな採用活動は、まず他国の文化や採用活動の違いに目を向ける
採用活動や選考方法は国によって様々に違います。現地の方法を取り入れるにしても、世界共通のユニバーサルな方法で採用活動をするにしても、まず、その違いを理解したうえで戦略を立てることが重要です。そして、世界に点在する才能ある人材を、どこで発掘するか見極めることが勝因となります。
書籍情報:
Talent Without Borders: Global Talent Acquisition for Competitive Advantage
著者:Robert E. Ployhart / Jeff A. Weekley ほか
出版社:Oxford University Press (初版2018/4/2)
ISBN-10:0199746893
ISBN-13:978-0199746897