採用活動に現場を巻き込み、人材育成に活用しよう!

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プロフィール
大日本住友製薬株式会社
研究企画推進部 管理グループ主任部員
人事・人材育成担当 田中孝幸
製薬会社にて工場・本社・研究所と異動しながら、新卒入社以来一貫して人事業務に携わり、労務や福利厚生などの管理系から人事制度策定、採用・人材育成といった企画系まで幅広く経験。現在は研究職を対象とした人材育成、組織開発を行う他、研究組織の風土変革プロジェクト、オフサイト活動などに関わる。

こんにちは、大日本住友製薬の田中です。 当社では、研究職の新卒採用にあたり、現場も積極的に関わる工夫をしています。その理由は、研究職の専門性が極めて高く、その専門に詳しくない人事担当者だけではポテンシャルを判断しきれないからです。また、応募者である学生からみても、現場の社員と話した方が職場に対する理解が進みますので、現場の負担を考慮しても、人事担当だけで対応するよりもメリットが多いと考えています。

このように、採用活動におけるメリットがあるからこそ現場が関わる工夫をしているのですが、今回は普段とは異なる観点を提示したいと思います。それは、採用活動は関わった社員たちの育成にも活きる、という観点です。採用活動を通じて社員にどのような成長が期待できるのでしょうか、そして、どんな層をどう巻き込めばより適切な育成につながるのでしょうか。

どういった成長が期待できるのか

新卒採用時には、注意するべきいくつかのポイントがあります。例えば学生と企業風土との親和性といった判断基準や、自分たちが学生からどう見られているという意識などです。これらのポイントは人事担当者なら当然持っているものですが、意外と現場の社員は意識していないことが多いのではないでしょうか。これらのポイントをシェアし、理解を深めてもらうことが社員の啓発につながると考えています。

まずは、企業風土、社員の能力、そして外部の目という3つのポイントから、採用に関わることでどのような成長が期待できるのか、具体的に説明します。

ちなみに、人材育成を優先し過ぎて、結果として会社の評判を損なうようでは本末転倒です。現場社員であっても、人事担当者同様、学生と接点を持つには、最低限の知識やマナーは備えている必要があります。そのためにも、事前に現場社員向けに説明会を行い、採用活動を進めるうえで重要なポイントはしっかりと伝えています。

自社の風土に対する理解が深まる

採用活動をする際には、人事担当者は必ず自社の風土について言語化しているはずです。例えば、自社の風土とはどのようなもので、それは変えるべきことなのか、それとも守っていくべきことなのか、といった問いにはすらすらと答えられるでしょう。

風土とはすなわち所属する人たちの価値観の集合体ですから、新しい人が入ることは少なからず風土に影響します。そのうえで、風土に合う人を採用するのか、あえて揺さぶるような人を採用するのか。人事担当者ほどではないにせよ、組織風土を自分事として考える、場合によっては自分の言葉で話すことで、あらためて自社風土について考えてもらうきっかけになります。

自社の強み・弱みを再認識できる

コミュニケーション能力やタスク処理能力、研究職としての専門性など、会社によって、新入社員に求めたい能力は様々です。当社も「専門性」「協調性」「論理性」など複数のチェック項目を用いて学生を評価しています。人には個性がありますから、自社に必要な人材をしっかりと見極め、ぴたりとあてはまる学生を採用することができれば、会社にとっても学生にとっても幸せな状態と言えるでしょう。逆にこれができていないと、採用活動が必要な人数を充足させるための数合わせになりかねません。

自社に必要な人材を見極めるためには、自社の戦略や強み・弱みは何か、どのような補強が必要なのか、新入社員に求めることは何かなどを理解していなければなりません。現場の社員こそ、普段から漠然と感じている課題や思いがあるはずです。人事担当者がその課題や思いの言語化に協力することで、現場の社員が戦略や課題をより明確に理解し、たんに新入社員を人数でみるのではなく、当社に適した人材を見極める精度も高まると考えています。

社外からの評価を実感できる

人事担当者は「学生からも選考されている」「自分が会社の代表者として接している」意識を持つべき、という意見をよく聞きます。これは、人事担当者だけに当てはまるものではありません。単にマナー向上というキーワードにとどまらず、「この会社の社員としてどうあるべきか」というレベルで自分の言動をチェックすることが重要です。

研究職は営業職などと比べて外部との接点が少ない職種です。そんな研究職にとって採用活動は、自分の言動が会社のイメージをつくることを意識する絶好の機会です。仕事の内容や会社の制度に関する話をどんな声の調子で、どんな表情で伝えるのか、相手がそれらの情報から何を読み取ろうとしているのか。

あるいは、どんな聞き方をすれば相手に不快感を与えることなく本音や本質を引き出すことができるのか。言語・非言語を問わず、高いレベルのコミュニケーション能力が培われます。社外の人と接する機会を増やすことで、より自分たちの言葉、振る舞いに責任を持つようになります。

具体的に誰をどのように巻き込むか

次に、具体的な巻き込み方についてみていきましょう。当社では、採用の各フェイズにおいて階層別に巻き込む人を変えています。

若手研究者には会社説明会で学生と語る機会を

当社では、会社説明会で学生と若手研究者がじっくり話せる機会を設けています。若手研究者が参加する主な目的は、学生に入社後のイメージをより強く持ってもらうことですが、若手研究者にとっても、どんな質問がくるかわからない状況は勉強になります。

学生からの質問は仕事内容だけでなく、プレスリリースの内容や会社の戦略、人材育成施策などにも及びます。すべてを把握しておく必要はありませんが、人事担当者の協力も得ながら、現場での実例や所感をふまえて自分の言葉で話せるようになると、若手研究者は自分の会社をより深く理解できるでしょう。前項の1つ目、「自社の風土に対する理解を深める」にあげたことが実践されるわけです。

ミドルマネージャーには面接で自社とのマッチング判断を

初期の面接には現場のミドルマネージャー(課長級)も参加します。ミドルマネージャーは面接を通じて、学生の能力がどのようなものか評価し、どんな人材を揃え、どういう組織にしたいかという自分のイメージを基に採否を判定します。つまり、前項の2つ目、「自社の強み・弱みは何かを理解する」という学びが大きくなります。

ミドルマネージャーは、その学生を採用することとなれば実際に上司となる可能性もあるため、チェックはより入念になります。人事担当者も同席し、採否の判断に関わりますが、ミドルマネージャーが加わるほうがミスマッチは断然少なくなるでしょう。

部長級には最終面接での経営判断を

最終面接官が担当役員という企業は多いのではないでしょうか。私の担当する領域では、役員と一緒に現場のトップである部長級も最終面接に参加します。最終面接では「他の部署でも活躍できそうか」、「マネージャー適性はありそうか」あるいは「高度な専門性を有したプロフェッショナル人材として活躍できそうか」といった全社的、中長期的な観点でも評価します。経営層に近い視座、若手やミドルとは異なる観点が求められます。

また、採用は投資判断でもあります。終身雇用であれば総額数億円に上ります。当然、一人雇うのも高度な意思決定が求められますから、単に現場のトップというだけでなく、経営判断としての採用を部長級に体感してもらう場とも言えるでしょう。

まとめ

以上、新卒採用を普段とは違う目線で考えてみました。実務的には、ここに述べたすべてを伝えているわけではありません。また、既に十分な能力や考え方を備えた社員が関わっているケースも多々あります。しかし、採用に携わることで、確実に上記のような視点、観点、視座は養われると考えています。

人事担当者も、応募者の見抜き方やリテンション、面接テクニックといったことばかり気にしがちです。たまには、社員に自社理解を深めてもらうきっかけと捉えてみるのもいいのではないでしょうか。