働き方改革と併せて進めるべき「休み方改革」

目次

2019年4月1日から順次施行されている働き方改革関連法では、すべての会社に対して、社員に対する年間5日以上の有給休暇取得が義務付けられています。安倍政権になってから政府主導で推進に取り組んできた「働き方改革」に加え、いよいよ本格的に「休み方改革」も始まりました。本稿では法改正を中心に、様々な企業の事例を交えながら「休み方改革」につながる施策や課題・問題点を整理してみたいと思います。

日本政府が推進している休み方改革とは

2017年度、日本での労働者の有給取得率は51.1%。実に20年ぶりに50%の大台を回復し、1998年以来過去最高の有給取得率を達成しました。一見喜ばしいことに見えますが、実はこの数字は全く喜べない数字なのです。エクスペディア・ジャパンが2018年12月にまとめた最新の統計データによると、日本は最低でも70%程度の取得率となっている先進主要各国の中で、3年連続ダントツの最下位となっており、有給取得率が群を抜いて低くなっているのです。

<エクスペディア・ジャパン「有給休暇国際比較調査2018」をもとに作成>

なぜ日本だけがこれほど有給取得率が低いのでしょうか。これには、様々な理由が考えられます。エクスペディア・ジャパンのアンケートによると、日本人が休みを取らない理由第1位は人手不足。

<エクスペディア・ジャパン「有給休暇国際比較調査2018」をもとに作成>

例えば、特に人手不足が深刻とされる、サービス業で見てみると2018年11月時点での最新の全国有効求人倍率は実に3.63倍。どの現場も極度の人手不足に陥っており、これでは簡単に休めるわけがありません。

また、日本の労働者特有の気質も関係するようです。日本人は国際的に比較しても有給休暇を取得することを「周りに迷惑がかかってしまう」と考える人の割合が非常に高く、アンケートによると、約60%の労働者が「有給休暇の取得に罪悪感を感じる」と答えています。

<エクスペディア・ジャパン「有給休暇国際比較調査2018」をもとに作成>

政府が「休み方改革」を強力に推進する理由とは?

日本政府でも、このような統計データから、これまでも助成金・補助金の導入や業界団体への呼びかけ、関連ポータルサイト開設や広報活動を通じた啓蒙活動、シルバーウィークの大型化促進策など、有給取得率向上のためにあらゆる手を尽くしてきました。しかし、上記で見たように、職場への配慮やためらい等の理由から取得率は依然低調なままで推移してきたのです。

そこで、抜本的な解決を図るために政府が導入した、いわば「最終兵器」とでもいうべき法的強制力を持った有給休暇取得促進策でした。

2019年4月の法改正で何が変わったのか

2018年6月29日に成立した「働き方改革関連法」。その中で最注目の法改正が「休み方改革」に関連した、2019年4月1日からの労働基準法第39条改正です。これにより、「全ての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させる」ことが義務付けられることになりました。

<引用:厚生労働省リーフレット「年次有給休暇の時季指定義務」より>

つまり、従業員に与えられたそれぞれの有給休暇日数のうち、毎年「5日」分に関しては、従業員と協議・調整しながら会社側が「●月×日に有給休暇を取得してください」というように休暇期日を指定しなければならなくなるのです。

これにより、企業側は「年次有給休暇の計画的付与制度」を活用するなどして、全社員が5日間の有給取得を完了させなければならないため、社員一人ひとりがきちんと有給を取得しているか経過状況を正確に把握する必要があります。

今回の法制化は、違反すると「従業員1人あたり最大30万円の罰金」が課せられる場合があります。企業1社で1回30万円ではなく「違反者1人あたり30万円」なので、不十分な対応ではかなりの金額を支払わなければならないリスクが生じます。しかも、SNS等ネット社会が発達した昨今、違反すると罰金より怖いのが「訴訟」や「企業名公表」による社会的評価の大幅ダウンです。一旦ブラック企業として烙印を押された企業は、従業員からの信頼を損なうだけでなく、採用難や取引停止など、企業存続に関わるリスクを負うのです。

法改正を機に「休み方改革」への本格的な取り組みを

5日間の強制的な有給休暇取得は罰則を伴った法律のため、導入は必須。従業員への周知説明、社内の勤怠システム改修や計画的な有給消化対策など、法改正に伴って取り組まなければならない課題は多数あります。人事労務担当は対応に追われて多忙を極めるでしょう。

また、2019年4月1日からは大企業を中心として時間外労働の上限規制も厳しくなっています。具体的には、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定する必要があります。(※中小企業は2020年4月1日から施行)

このように、一連の働き方改革関連法の施行により、「労働時間の短縮」を伴う「休み方改革」への取り組みは待ったなしとなっているのです。しかし、せっかくなのでこの法改正に対して単に受け身で対応するのではなく、一歩踏み込んで抜本的な「休み方改革」に着手する非常に大きなチャンスと捉えてみてはいかがでしょうか?ここでは、そのための4つのポイントを紹介します。

①経営トップの「休み方改革」への深い理解が不可欠

「休み方改革」を浸透させるためには「現場の休みづらさ」を解消させることが、施策を徹底させる上でポイントとなります。しかし、「休みづらさ」は人事制度だけの問題ではなく、評価制度や上司・所属部署への忖度なども影響している問題です。さらに、企業としては、休暇取得を促進しつつも生産性は維持・向上させなければなりません。つまり、休み方改革とは人事部門だけのミッションではなく、企業として解決すべき経営課題といえます。そのため、時には経営層が自ら先頭に立ち施策を実行する必要性もでてくることでしょう。

その一方で、人事担当者は、経営視点を持って業務に取り組む必要があります。「戦略人事」という言葉があるように、人事の業務を「人事」の括りで片づけるのではなく、経営も視野に入れた考え方を持って進めていくことで、経営者のビジョンと法的な問題、現場の課題感を包括的に解決できる部門として機能するようになることでしょう。

②従業員への説明には手を尽くす

経営者や経営層を巻き込み制度を改革したとしても、決定事項が浸透し徹底がされていなければ何の意味も持ちません。人事担当者としては、社員の情報リテラシーレベルや適切な情報伝達の仕方、キーマンとなる人物の存在などを多面的に検討し、制度浸透の準備と段取り力が求められてきます。

人事側のリソースが足りないのであれば、社内イントラの整備やWEBセミナーの実施など一度に多くの社員に説明できるシステムを導入し対応していくことも検討していくと良いでしょう。人事担当者が街の姿勢では、改革は成功しません。社員一人ひとりの意識改革を行い、各施策の正確な目的や周知活動を並行して進めてください。

③豊富な先行事例を「いいとこ取り」で真似して取り入れる

これから「休み方改革」に取り組もうとする企業にとってありがたいのは、すでに上場企業を中心に非常に多くの先行事例があることです。特に、厚生労働省のポータルサイト「働き方・休み方改善ポータルサイト」(https://work-holiday.mhlw.go.jp/)では、大企業から中小企業まで、業種別・規模別に様々な事例集を無料で閲覧することができます。

大切なのは、それらの先行事例から、現在の自社の経営環境や企業風土に一番適した施策をピックアップして参考にすることです。先行事例を組み合わせ「いいとこどり」で模倣してテスト実施を繰り返し、自社にフィットする施策を模索してみましょう。

④補助金や助成金の活用を図る

2018年10月5日の日経新聞の記事で、厚生労働省はボランティアや病気療養などを目的とした特別休暇制度を導入する中小企業を支援する方針を固めた、と報道がありました。記事によると、主に中小企業を対象として、就業規則に特別休暇の規定を盛りこみ、実際に従業員の残業時間が月平均で5時間以上削減できた場合に最大で100万円が助成される「時間外労働等改善助成金」を設けています。

「休み方改革」導入当初の人件費コスト増や業務システム等への追加投資費用を賄うため、上手に助成金を活用するのも有力な方策となります。厚生労働省のサイトで情報が公開されているので、定期的に確認するようにしましょう。

「休み方改革」に対応する企業の対応事例

休み方改革に関しては、上述した「働き方・休み方改善ポータルサイト」をはじめ、専門雑誌やネット上に多数の取組事例を見ることができます。ここでは、特に4月1日からの法改正にかかわる「休み方改革」を実施した企業の最新事例をいくつか解説します。

①有給取得への強力なインセンティブとして奨励金を払う(さくらインターネット、オリックス)

有給休暇を取得すると給与とは別にボーナスや奨励金を支給することで、劇的に有給取得率を向上させた企業がいくつか出てきています。「現金支給」と聞くと一見生々しい感じも受けますが、下記の大手企業2社の効果を考えると、確実に効果が見込めるクレバーな施策と言えそうです。

例えば、データセンター大手のさくらインターネット株式会社では、有給休暇を2日以上連続して取得すると、1日あたり5000円の手当を支払う制度を2009年から実施中。現在では全社員の約8割が活用し、様々な働き方改革、休み方改革を断続的に行ったことで、10年前には20%台だった離職率は1%にまで劇的に低下しています。

また、オリックス株式会社でも5営業日以上連続して有休を取った社員に5万円を支給する「リフレッシュ休暇取得奨励金制度」を2017年4月から実施。制度活用率は初年度から9割以上と好評で、同社の有給取得率も60%台から80%弱まで急上昇しています。

②全社一斉休業日の設定「インプットホリデー」(電通)

社会的な問題にもなった、痛ましい社員過労自殺事件の反省に立ち、株式会社電通は2017年から労働環境改革推進室という特命組織を立ち上げ、総合的な働き方改革、休み方改革に着手しました。その目玉施策として2018年6月から月1回の全社休業日「インプットホリデー」を実施中。社員への定期的な大規模アンケートを通して、時季指定日は社員からの希望が多かった水曜日と金曜日を隔月で交互に指定。2019年4月からの労基法改正に前倒しで対応した大企業のモデルケースと言えそうです。

③時間単位での有給休暇導入(島津製作所)

2010年の労基法改正で、時間単位で取得できるようになった有給休暇。これを本格的に活用し始めたのが、上場企業の中でも特に女性活躍を推進する企業として2年連続で「なでしこ銘柄」に指定されるなど、先進的な「働き方改革」事例が豊富な株式会社島津製作所。同社は女性やグローバル人財の活躍を推進するダイバーシティ政策の一環として、2017年12月から有給休暇のうち5日分について、1時間単位での年休の取得を認める「時間単位年休制度」を導入。従業員が育児や介護などと仕事を両立できる体制を整えつつ、労基法改正に1年以上前倒しで対応しました。

自社に合った「働き方改革」を

「休み方改革」の真の目的は、単にアップデートされた労基法に対応し、法令遵守するだけではありません。労働時間の抑制と有給休暇の取得促進を図って従業員のモチベーションを高めながらも、従業員のニーズにあった働き方を実現することです。それには、同一労働同一賃金の導入や、高度なシステム化によるワーク・シフトの適正化など生産性向上を目的とした「働き方改革」とセットで実施することが望ましいでしょう。

すでに大企業を中心に、優れた先行事例が公表されています。遵法を基本としながら、自社の社風・文化に合った形で無理なく「休み方改革」を図っていきましょう。