Alive at Work:従業員の熱意を引き出す方法

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複数の世論調査の結果を通して、驚くほど多くの人が仕事に熱中できていないことが浮き彫りになっています。例えば2017年のギャラップ社の調査では、日本で熱意あふれる従業員の割合はわずか6%、米国でも32%という結果です。なぜそうなってしまうのでしょうか。どうして従業員に熱意を持って仕事に取り組んでもらうことが、これほど難しいのでしょうか。

ロンドンビジネススクールのダニエル・M・ケーブル教授は『Alive at Work: The Neuroscience of Helping Your People Love What They Do 』のなかで、仕事に関心が持てないのは生物学的な理由だと説明しています。人間の脳には探求や実験をすることに歓びを覚える「探査システム」があります。その探査システムのおかげで、私たちの祖先は未知の土地を探検し、色々なことを試しながら生き延びてきました。

そして現代でも、脳の探査システムが稼働しているときには、やる気が出て、目的意識がはっきりし、熱心になることができるといいます。しかし、従業員をやる気にさせるために賞与や罰則にだけ頼るような古い組織運営法の下では、人間が本来もつ探査システムを働かせることができません。その結果、従業員が意気消沈してしまうのです。

現在の状況を変えるためには、これまで以上に従業員のもつ創造性を活かせるような仕事へ取り組める環境を構築する必要があります。本書には、リサーチの結果や事例を元に、従業員の励まし方や従業員の最も良いところを仕事に生かせるようにする方法など、コストをかけずに社員を無気力な状態から抜け出させ、クリエイティブな働き方ができる環境をつくるためのヒントがたくさん紹介されています。

人間が本来持つ探査システムとは

人間の脳にある探査システムは、世界を探検したい、環境について学びたい、何かを実行する意味を見いだしたいという衝動を起こします。その衝動に沿った行動をしているとき、やる気や喜びを誘発する働きをする物質・ドーパミンが分泌され、もっと探求したいと思うようになるのです。

例えば職場において、人間が持つ探査システムは次のようなときに活発になります。

  1. 自分の個性やアイデアが活かせるとき
  2. 新しいことを実験し、そこから学んでいるとき
  3. 自分が取り組んでいる仕事の目的がはっきりしているとき

ポジティブな気持ちが探査システムを向上させる

ハーバード大学のウッド・ブルックス教授は、113人の被験者に見知らぬ人の前で一曲歌わせるという実験を実施しました。ブルックス教授は半数の被験者に、歌う前に「私は不安です。」と聴衆の前で言うように指示しました。そしてもう半数には「私はワクワクしています。」と言うよう指示しました。その結果「私はワクワクしています。」と言った人のグループは「私は不安です。」といった人のグループよりも30%近く良いスコアを出しました。

ほかの研究でもポジティブな気持ちがパフォーマンスを向上させ、恐怖やストレスなどネガティブな気持ちがパフォーマンスを低下させるという結果が出ています。ケーブル教授によれば、ポジティブな興奮やワクワクする気持ちが人間の探査システムを向上させるといいます。まずは何をするにも従業員のポジティブな気持ちを盛りあげるように取り組みましょう。ほかにも本書を参考に、職場ですぐに試すことができそうなポイントをいくつか紹介します。

従業員が自分の強みやアイデアを活かせるようにする

人間は個人として認められることに誇りを持ちます。従業員が自分の強みやアイデアを活かせるように、個々の良いところを引き出していきましょう。まず新入社員が入社したときに、その人が最も幸せに感じる時間、最も熱意を持って頑張れる仕事、仕事でも家庭でも「このために生まれてきた」と思えるほど熱中したときのことなどを聞いてみてはいかがでしょうか。

リーダーは、従業員やチームがどのようなことに熱意を持っているかを見いだし、その情熱を活かせるように現場で担当分野を微調整するなど、少しやり方を変えることを認めてもいいでしょう。また、チームの中でそれぞれのユニークな個性についてオープンに語ることを推奨し、組織の決定事項に従業員の意見を取り入れるようにします。

自分の強みを知るためのトレーニング

ケーブル教授は、ローラ・ロバーツ氏と研究チームの論文から自己表現のトレーニング法を紹介しています。このトレーニングでは、自分で自分の良いところを考えるのではなく、同僚とペアになり相手の良いところについて考えます。相手の人がチームに今までどのような貢献をしてきたか、長所はどんなところか、素晴らしいと思ったエピソードなどを書き出し一人ずつ発表します。

自分以外の人に自分を分析してもらうメリットは、客観的に自己を見つめることができる点です。自分のことは自分が一番よく分かっていると思いがちですが、じつはそうでもありません。どんな人でも自分に慣れ過ぎてしまっているため、自分のことは分かりにくいのです。さらに、自分で自分の良いところをリストアップするよりも、他人が自分の良いところをリストアップしてくれたほうが、よりポジティブに受け入れることができるという研究結果もあります。

コストをかけなくても意識や行動は変わる

Make a Wish foundationは、難病の子供たちの希望を叶える組織です。ここで働く人たちは、仕事の中で多くの悲しみや辛いことに直面しなければならず、心が沈みモチベーションを保ちにくいことが悩みでした。そこで当時研究者だった、現ウォートンスクールのアダム・グラント教授が、職員の肩書きを自分のユニークな価値や才能、特徴を表現するものに替えることを提案します。CEOのラーチ氏は自分の肩書きを「願いを叶えるフェアリーゴッドマザー」とつけました。この肩書きにより、彼女はどんな時でも人々を笑顔にすること、良い結果を導くことを意識できたといいます。

ほかにもCOOは「経済ニュース大臣」、事務アシスタントは「あいさつの女神」、広報担当は「マジックメッセンジャー」などの肩書きを自分で選び、通常の職位とともに名刺に印刷、そのほかWEBサイトの紹介記事やEメールのサインにも入れました。自分の価値や才能を表す肩書きは、各自が自分の役割を確認し自分が何者であるか常に意識することに役立っています。この取り組みは、コストをかけなくても従業員の意識や行動をポジティブに変えることができる良い例です。

新しいことを試せる環境をつくる

与えられたことしかできなかったり、新しいことを試して失敗したときに責められたりする職場では、やる気がなくなります。実験的な試みを可能な限り受け入れるリスクフリーの環境を目指しましょう。自分が試してみたいことに集中しているときには、人間に本来備わっている内在的モチベーションが上がります。このモチベーションは報酬や名誉を与えられることによる外在的モチベーションよりもずっとパワフルです。

社員が新しいことに挑戦し、学びを得ることで探査システムが活発になっているときには、リーダーもその流れを止めないようにします。そして、ドーパミンによって気分が高揚し学ぶことに積極的になっている部下の潜在能力を解き放ちましょう。ケーブル教授によれば、優れた指導者とは、このときにタイミングよく適切なアドバイスができる人です。議論をするときでも探査システムを目覚めさせることによって創造的な解決策とアイデアが出てきます。

Googleの20%ポリシー

新しいことを試せる環境を持つ企業の例として最も知られているのはGoogleの20%ポリシーでしょう。Googleのエンジニアが就業時間の20%を個人的なプロジェクトに使うことができるというこのポリシーは、実験的な試みや好奇心を元にした行動を促し、創造性のあるアイデアを生みだしてきました。GmailやAdSense、Google Talkなども20%ポリシーの産物です。

しかし残念ながらGoogleの規模が大きくなり個人プロジェクトの時間が組織の生産性を圧迫するようになってしまったため、2013年に20%ポリシーは中止されました。100人のエンジニアなら出来ることが、2万人以上になってしまうと出来なくなってしまうことを理解することはできます。企業にとって大切なのは、自由と、組織に必要な製品を生み出すための枠組みとのバランスです。

ケーブル教授は、20%ポリシーを中止したGoogleの判断について、企業の枠組みが鉄柵のように従業員を縛りつけないように、今までの20%まではいかなくても許される範囲で自由にできる時間を与えたらよいのではないかと述べています。従業員の持つ創造性を生かすには、職場に自分のアイデアを試せる場所が必要です。

仕事の目的をはっきりさせる

目的があることによって人間は幸福を感じ、寿命が延びることさえあるといいます。目的を持つことはドーパミンの分泌を促進させやる気も与えてくれるのです。そのため、社員に自分の仕事が組織のためにどう役立っているかを伝えることはとても大切です。

例えばこんな事例があります。Nokianというタイヤメーカーのロシアにある工場で働くアレックスという青年は、設備も福利厚生も整った職場に満足していますが、徐々に単調なタイヤ製造の仕事に飽きてしまいます。そんなとき、優秀な従業員がフィンランドで開催される新製品の発表イベントに招待されることになりました。アレックスと同僚は、そのメンバーに選ばれ、現地で発表イベントを見学し自分が作ったタイヤが実際にデモンストレーションで使われている様子を目の当たりにします。

フィンランドへの旅をきっかけにアレックスや同僚のモチベーションは上がり、今までとは違った行動をするようになりました。彼らが目的を持つことで、作業所が整理整頓されるようになったり、欠陥商品が減ったりという目に見える変化が現れたといいます。そして作業をサボる人も減りました。自分の仕事に愛着を感じることで、単に雇われているのではなく自ら成し遂げるという意識が持てたのでしょう。この事例では、従業員をロシアからフィンランドに旅行させるコストがかかりましたが、長期的に見れば、それ以上の結果を得ることができました。

人間が持つ探査システムを利用すれば熱意を引き出せる

すべての従業員が持っている生物学的な探査システムを理解し、それを活発にするために時間や費用を投資すること。それができれば企業文化や組織を大きく変えなくても、人間に内在的に備わっているモチベーションを上げることができるようになります。

Alive at Work: The Neuroscience of Helping Your People Love What They Do
著者Daniel M. Cable
出版社 Harvard Business Review Press (初版2018/6/1)
ISBN: 1633694259
ISBN13: 9781633694255