人材育成の新時代、ワークショップを使いこなす

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プロフィール
大日本住友製薬株式会社
研究企画推進部 管理グループ主任部員
人事・人材育成担当 田中孝幸
製薬会社にて工場・本社・研究所と異動しながら、新卒入社以来一貫して人事業務に携わり、労務や福利厚生などの管理系から人事制度策定、採用・人材育成といった企画系まで幅広く経験。現在は研究職を対象とした人材育成、組織開発を行う他、研究組織の風土変革プロジェクト、オフサイト活動などに関わる。

こんにちは、大日本住友製薬の田中です。今回は、人材育成の方法論として注目されているワークショップについてお話します。

皆さんはワークショップに対してどのようなイメージをお持ちでしょうか。ディスカッション主体のワークショップ、物を作ったり絵をかいたりしながら学ぶワークショップなど様々な形があり、実際に活用されている方もいらっしゃるかと思います。ワークショップを設計する際のポイントを押さえながら、私がワークショップに期待している理由について当社での取り組み事例を交えてご紹介します。

ワークショップ設計時のポイント

ワークショップは英語で「作業場、工房」という意味であり、「創る」と「学ぶ」が両立した「創ることで学ぶ活動」を指します。人材育成の分野では、例えば対話主体のワークショップも、自分の考えを言葉によって表現する「創る活動」であると同時に、表現したことで対話の相手が刺激を受けたり、自分が相手のフィードバックを受けたりする「学ぶ活動」でもあると言えます。

人材育成におけるワークショップを設計する際のポイントは「学習目標の抽象度の高さ」「体験の整合性とインパクト」「当日の即興性」の3つであると考えています。それぞれについて簡単にご説明します。

抽象度の高い学習目標が様々なゴールを許容する

一般的な座学の研修は、学習目標を達成するために決められたレールに沿って進められます。ステップを明確にして段階的に学ぶ方法は、汎用的なビジネススキルや語学などの習得に効果的と言えます。

一方、ワークショップでも学習目標は必要ですが、「自分の価値観を知る」「自社のあり方を考える」など、より抽象度の高い目標設定が望ましいでしょう。抽象度が高くなると、受講者によってゴール、得るものが異なる可能性も出てきますが、そもそも画一的にする必要がないのが、ワークショップの特徴でもあります。

体験のインパクトが創造性を刺激する

学習目標が決まれば、目標達成に向けてどのような体験をしてもらうか、活動目標を考えます。ツールを使うのか、何かを見学するのか、あるいは体を動かすのか、どこでやるのか、どんなテーマを扱うのか等、考えるべきことは非常に多いです。

大事なことは活動目標と学習目標が整合したコンセプトをきちんと設定することです。きちんと整合していれば、その体験のインパクトが大きいほど、よりドラスティックに新しい視点や視座を獲得させることができるでしょう。

ファシリテーションが成否に大きく影響する

前述の通り、ワークショップは「創ることで学ぶ活動」であり、対話や創作に対する価値や意味の生成は受講者自身が行います。受講者の考え方や思いに左右されますから、設計時点ではワークショップ当日の流れを完全には想定できません。

人材育成である以上、設計時の学習目標に近い気づきや学びを受講者に持ち帰ってほしい気持ちはありますが、型にはめすぎるとワークショップらしさが失われてしまいます。ファシリテーターは学習目標を大きく外さないように頭の片隅で意識しつつも必要以上に誘導しないように振舞い、研修当日に生まれた意見やアイデアを上手にさばきながら受講者それぞれのゴールに導く、高い即興性が求められます。

私がワークショップを使う理由

次に、私がワークショップに期待していることをお話します。ここでのキーワードは「受講者の内省を促す」「正解のない『問い』と向き合う」の2つです。

受講者の内省を促し、より良い風土を醸成する

京セラの創業者、稲盛和夫氏は「人生・仕事の結果」を「考え方×熱意×能力」という方程式で表しています。稲盛氏はこのうち能力を「先天的なもの」と定義し、高められないものとしています。仮に高められるものだとしても、スキルや能力には座学の研修が効果的であることは先に述べた通りですし、研修で教えられない専門的な能力に関してはOJTが有効でしょう。

残る2つ、考え方と熱意は医療用医薬品の研究者にとって非常に重要なテーマです。医療用医薬品の研究開発は成功確度が低く、長い年月がかかります。必然的に、自ら何をどう考え、どのように熱意を高めるかを考えなければなりません。

これらを取り扱う場合の学習目標は「より良い考え方を習得する」「自分の熱意の源泉は何かを知る」といった表現になります。このような学習目標を達成するためには深い内省が必要であり、ワークショップとの親和性が高い領域と言えます。

前回の「研修設計時に見落としがちな2つのポイント(後編 実践編)」でご紹介した「病院見学研修」を例にとって説明します。ただ病院見学をしただけでは新しい情報をインプットしたにすぎません。事前にチームビルディングを行い、事後に対話の時間をとって初めて、この研修がワークショップとして機能します。

医療用医薬品の研究者は、薬が実際に使われている現場を見る機会がなかなかありません。いまだ疾患に苦しむ患者様や、より良い治療のために奮闘する医療従事者の皆さまを目の当たりにして、心が動く研究者は多いです。見学を通して価値観が揺さぶられるのです。

その後、しっかりと対話の時間をとり、自分の意見を言葉にすること、他者の意見を聞くことで、利己的な目先の成果から最終的なゴールを見据えた利他の考え方へ意識が変わる、熱意を高め努力する重要性を再認識するなどの変化が起こります。

正解のない「問い」と向き合う力を鍛える

「正解のない『問い』に向き合う力」は、厳密には能力の一つかもしれませんが、感覚的で抽象度が高く、状況にも依存するため、なかなか座学では身につきません。正解のない「問い」に向き合う力は厳密には2つに分かれると考えています。1つはそもそも良い問いをたてる力、もう1つは正解のない問いに対して自分なりの回答を見出す力です。

研究現場では、過去に例がなく新しいアイデアが求められる状況や、複数の課題を一気に解決する斬新な切り口が必要な状況など、正解のない問いに向き合う場面がよくあります。どのような問いを立てれば現状を打破できるのか、自分はどう向き合えば良いのか、非常に悩ましい問題ですが、ワークショップが活用できる学習目標になり得ます。

社内ワークショップでプロのファシリテーターを交えた対話を行っていると、自分たちだけでは発想できなかった視点からの問いや、日常的には使われない深く内省を促すような問いが投げかけられることがあります。自分の引き出しにない問いに触れると、その分だけ受講者の視野は広がります。ワークショップで取り扱うテーマの抽象度を高めること、他者の視点を取り込むために社内外を問わず多様な人と交流できる仕掛けを盛り込むことなどが、正解のない問いと向き合う力を育てます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。ワークショップを設計する際のポイントを押さえつつ、私個人がワークショップに期待している効果をお話してきました。今後もワークショップの重要性は増してくるでしょう。一方で、座学の研修が必要な場面ももちろんあります。これらを使い分けること、場合によってはうまく組み合わせることが、これからの人材育成担当者に求められるのではないでしょうか。

ワークショップについて理論的にもっと詳しく知りたい方は、『ワークショップデザイン論』(山内裕平、森玲奈、安斎勇樹、慶應義塾大学出版、2013年)がお勧めです。