人事とAIの協業

目次

プロフィール
株式会社アウトソーシングテクノロジー
採用キャリアアドバイザー 若林聖子
求人広告代理店で営業職、エンジニア派遣会社で人事労務事務を経て現職。どんな任務にアサインされても常に1カ月目で成果を報告できるよう、垂直立ち上げを自らのテーマとしている。メンバーと共に業界トップクラスの採用に向けての組織構築を実行中。

こんにちは、若林です。皆さんは、どのような方法で人事業務の改善を行っていますか? まだまだ日本国内では人間の判断で採用選考・人事配置・人事考課を行っている企業が多く、ITシステムを導入して業務効率化を計ったり、AIを用いてビッグデータの解析を行い業務に活かしたりしている企業は少ないと思います。今回は、人事業務でAIを活用することにより、これからの人事業務はどのように変化していくのかを考えていきたいと思います。

AIとビッグデータを活用した人事業務の活用事例

AIとビッグデータは、人事業務にどのような効果をもたらすのか。「AIとはなにか」という説明については今回は省略し、ここでは様々な活用事例をご紹介していきたいと思います。ご存知のサービスもあるかと思いますが、ご紹介する事例を通じてAI・ビッグデータの役割や今後の可能性を、皆さんにも想像していただきたいと思います。

能力の可視化・採用/評価/配置の根拠情報/パイメトリクス社

パイメトリクス社のサービスで、ゲームを用いて人物評価を行うというものがあります。20種類ほどのゲームを通じて、脳科学的視点から認知と感情に関する性格を測定し、その結果から対象者に合ったキャリアを構築できる最適な企業に紹介する、という人材マッチングサービスです。

他人をどの程度信用するか、情報分析の速さ、利他主義度、記憶力、リスク回避傾向、リワードへの反応、集中力、トライ&エラーからどの程度学ぶか、顔の表情・コンテクスト(メッセージ間の文脈)のどちらから情報を取るか、問題解決能力、といった10個の指標で測定結果を出すことができます。

ゲームテストの結果だけで測定されるのではなく、受験者が回答時にマウスをどのように動かしているか、どの問題にどれだけ時間を費やしたか、画面を見るときの目の動き、といった膨大なデータを基に行動特性を総合的に判断していきます。

企業は、この人材マッチングサービスを利用することで客観的な人材データを手に入れることができ、その結果を昇進時の参考情報や人材配置にも活用することが可能となります。

教育手法やキャリアへの活用/ミネルヴァ大学

2014年に設立された、リアルコミュニティ×バーチャル講義のミネルヴァ大学では、投票、ディベート、少数グループでの課題演習といった授業のすべてがオンライン上で行われます。通信制の大学との大きな違いは、学生同士が複数の都市を移動しながら同じ空間を共有していて、リアルな場でのコミュニティが存在するということです。学生同士が顔を合わせる場があるにもかわらず授業がオンライン上で行われる理由は、ビッグデータを収集するためだといいます。

同大学は、クリティカル(批判的)思考、クリエイティブ(創造的)思考、プレゼンテーション能力、コミュニケーション能力の4つのコア技能を身につけた優秀なグローバル人材の育成を目的に作られました。

学生が授業のどのタイミングでどの程度の時間発言をしたか、コメントに対する教師の意見、授業中に行われる投票に参加したかなどが、すべて個人ごとにデータ化され、その後のキャリアに生かせるように応用されていくという構想です。一人ひとりにきめ細かい教育を施していく手段として、ビッグデータが活用されている事例と言えます。

従業員の適職・キャリアパスの示唆/売上貢献度の可視化/ワークデイ社

人材管理に必要な機能が一つのプラットフォームで管理できるワークデイ社の人事クラウドサービス「HCM(ヒューマン キャピタル マネジメント)」。このサービスを使えば、従業員の目標管理・業績管理だけではなく、パフォーマンスを報酬に直結させて管理するプログラム・健康保険関連や福利厚生・従業員リスクの分析特定や傾向の監視予測など、一つのプラットフォームで「計画⇒計画の実行⇒実行結果の分析」まで行うことが可能です。

そのため、実行結果のデータをその都度システムからダウンロードして分析しなくても、一つのプラットフォーム上でデータの傾向分析まで行えるようになります。目標管理・業績管理からスコアカードが導き出され、人事配置についてもスキルや役割別の様々な提案をもらうことができるため、今までの視点からでは得られなかったような配置を見ることができます。

また、自社に不足しているスキルが何かを把握できるため、企業が将来に向けた採用計画を立てる際にも役立てることが可能です。

離職リスクの可視化/ネオキャリア

ネオキャリアの提供する「jinjer」は、採用・人事・労務管理を一元的に行うサービスです。日々の業務における主体性や勤怠情報をAIが分析して定量評価を行い、その評価から、離職しやすい社員の特徴を導き出し、離職パターンを可視化することができます。

また出勤時の打刻を顔認証で行い、笑顔の度合いを数値化することで、社員の仕事へのモチベーションを計測し、退職しそうな傾向が現れたらアラートを出すことも可能です。これにより、人事・上司が離職防止に向けたアクションを事前に取ることができます。

業務効率化、質問を社内で取りまとめて自動応答するサービス/株式会社エーアイスクエア

エーアイスクエアが提供する自動応答サービスにFAQ内容を設定すると、社内のOJTにも活用が可能です。例えば「稟議書の提出方法は?」「当社の残業単価の試算方法を教えて」「主任は何等級?」など、総務の工数削減や、資料確認時間の短縮を目的とした社員向けのFAQに活用している事例も出てきています。

企業によっては、自分で質問するだけでなく回答まで考え、実際にチャットボットに打ち込んで回答をチェックするという試験形式に活用しているケースもあるようです。それによって、新入社員が入社した際も、まずは自主学習である程度学ぶことができるため、先輩社員の指導工数も短縮できます。

新卒採用向け他者評価を人事選考・評価に取り入れる/GROW社

GROW社が提供するのは、自己評価と他者評価の両面から学生の成長性や採用リスクをAIが分析し、そのデータをもとに企業とのマッチングを行うサービスです。

一つの事例として、新卒入社選考時の書類選考足切りと呼ばれる「学歴スクリーニング」を実施している企業は現在も少なくありません。企業側の事情として、学歴スクリーニングは限られたリソースの中で効率よく優秀な学生を確保するための手段として用いられる必要がありました。学歴スクリーニングに漏れた人材の中で優秀な人がいることもありますが、スクリーニングを行って優秀な学生と出会う確率を高めて選考することができると考えられていました。

GROW社では、人材評価体系を「気質」「コンピテンシー(行動特性)」「スキル」の3つに分け、日本の企業に所属しながら世界で活躍し、新しい価値を構築できる人材について定義しています。評価体系には、AIを用いてより現実に即したプログラムに自ら修正を加えることが可能であるため、自社で描いたアルゴリズムを運用する過程においてAIが学習すれば、評価体系がより精度の高いものへと進化していけます。

学歴スクリーニングに代わる手法として、この人材評価システムを導入することで、効率よく少ない手間で、より精度の高い選考を行える可能性が秘められています。

さまざまな場面でAI・ビッグデータの活用が注目されている今、上記でご紹介した事例の他にも多くのHR-Techサービスが世の中に登場しています。特にアメリカにおけるAI開発は、日本とは比較にならないほど進んでいるので、海外にも目を向けて常に情報を取り入れておく必要があるでしょう。

AIの市場拡大。将来の人事業務の変化

今後、人口減少に伴って業務効率化や業務の質向上がますます問われるようになり、AIの活用は一般的になっていくと予測されます。人事業務にもおのずとAIが導入されていきますが、人事業務にAIが導入されるとどのような変化が起こるのでしょうか。

採用業務においては、前に述べたような、面接担当者のヒアリング能力や経験則などを元にした主観的な判断から、AIを利用した人材スキルの可視化が進むと考えられます。評価業務においては定量的な成果を上げた人が評価されやすいことや、上司の主観によって評価されることが多かったため、さまざまな状況を多方面から考慮した上での評価が難しい状況がありました。しかし、AIを活用することで、個人のコンピテンシーレベルの成長や価値観の変化、行動履歴や会議録をビッグデータ化した上で可視化することができ、それらの情報を基に評価業務が行えるようになるでしょう。

キャリアパスの提示については、各個人の学びの履歴や職務内容を元に、類似性が高い人材グループの中から特に成長している人材を選び出して、キャリアパスを紹介するシステムの作成や、各個人の気質やコンピテンシーとすべての人材のキャリアパスをビッグデータ化し、AIを用いてキャリアパス推奨システムを導入することなどが可能になります。

その他、教育・社員の健康管理・社内コミュニケーション・解雇など、さまざまな場面でのAI導入による効率化や、今までは想定できなかった選択肢が提示されることによって最善の選択肢を取れる可能性が高まるでしょう。

AIの得意分野と今後の人事に求められるスキル

AIに任せること

AIが普及するうえでは、「AIにできて人間にできないこと」、「人間にできてAIにできないこと」の役割分担を行っていく必要があります。そういった意味では、現在AIが得意とする業務だけを行っている人は、今後の仕事がAIにとって代わられることがあるかもしれません。しかし、人間にしかできない業務へのキャリアチェンジ・チャレンジが出来る可能性があるため、AIとの協業は人間にとってもプラス要素が大きく、前向きに捉えていいと私は考えています。

AIの得意分野の一つに、「データの相関性を見つけること」が挙げられます。今までは、人間が相関性のありそうな項目をクロス分析して、仮説を基に分析を行っていく方法が一般的でした。しかし、AIなら学習させたすべてのデータ間の関係性を自動で解析することができます。さまざまな組み合わせの結果が出ることにより、なかには人間では想像もできなかった関係性を見つけることも可能となります。AIが組み合わせを一瞬で提示し、その組み合わせにどんな意味があるのかを人間が考えていくのです。

人事が求められるスキル

「人間にできてAIにできないこと」には、価値観・企業文化への理解、データ解析後の考察などが挙げられます。今後の人事にとって必要なスキルは、こういった人間らしさの部分になってくるでしょう。また人事には、AIが普及していく社会の中で、AIを運用していくためのITリテラシーが最低限必要となってくる可能性が高いです。今のうちに、ITリテラシーを高める自己学習を行ってみると、皆さんのその後のキャリアが広がるかもしれません。

AIは便利ですが、すべてをAIの結果通りに実行したのでは、AIに支配される社会への第一歩となってしまう恐れがあります。大切なのは、自分の生き方・価値観・哲学を持ち、判断を下すことです。それができるようになれば、AIを巧みに使いこなす人事担当者になれると思います。

以上、人事とAIの協業について考えてきました。AIの出した判断にすべて従ってしまうようでは“人”が介在する価値がなくなってしまいます。AIに操られるのではなく、操る側になるには、自分自身の哲学や価値観を磨きあげ、AIが出した回答に「No」と言えるための“ぶれない軸”を持っておく必要があるでしょう。「いったい自分はどのような点において組織や社会へ貢献できるのか。」「自分のどのようなバリューを提供できるか。」ということに一人ひとりが真摯に向き合うことが大切です。

AIが普及するこの状況を大きなチャンス・変革期としてとらえ、私たちも自分自身のキャリアに向き合い、自分の伸ばすべき能力の見極めを行い、自己鍛錬に励んでいければと思っています。