メンタリングを成功させる10のステップ

目次

メンター制度は人材育成によく取り入れられ、その効果も知られています。しかし、どうすれば優れたメンターになれるのか、はっきりとした方法論はあまり語られていません。それを分かりやすくまとめたのが、ウェンディ・アクサロッド氏の著書『10 Steps to Successful Mentoring 』です。心理学の博士号を持ち長年ワークショップやコーチングをしているアクサロッド氏は、この本のなかで、メンタリングを成功させるための10のステップを提案しています。その概要をご紹介しましょう。

1.メンターになるための準備

管理職が部下のメンターになる、専門家としてほかの組織のメンターとなる、コンサルタントとして企業と契約しメンターになる、先輩として後輩のメンターになるなど、いろいろなケースがあります。しかし、どのような場合でも、明確な体制のなかで、基本ルールを守り、いつでも指導を受ける人(メンティー)が専門分野で成長できるよう務めることがメンターの役割です。

優れたメンターになるための7つの法則

  1. 理想を押しつけるのではなく、メンティーのレベルに合ったところから始める
  2. どんなことでも話せる安全な場をつくり信頼を得る
  3. ポジティブで、逆境に強い関係をはぐくむ
  4. ゴールを意識し柔軟に行動する
  5. 新たな思考様式や態度にするためのリスクを取り、メンティーにコンフォートゾーン(自分が楽でいられる行動範囲)を超えさせる
  6. メンティーの内面をよく知り、外の世界のアクションにつなげる
  7. メンターの最大限の力を発揮する

2.メンティーとの信頼関係をつくる

まずはメンティーを理解することから始めます。メンティーとの会話のなかで、どのようなスキルを伸ばしたいのか、現状にどう感じているか、将来の目標などを聞き出します。メンティーからメンターへの質問を受けつけてもいいでしょう。どのようにしてメンターがいまのキャリアを築いたか、メンターがいま注目していることや面白いと感じていることなど、メンティーには聞きたいことがいろいろあるはずです。

信頼関係を築くためには、メンティーとの共通点を見つけることも効果的です。まったく違う立場にいるメンターとメンティーでも、地方都市の出身だったり、好きなスポーツが同じだったりという、なんらかの共通点を見つけられるのではないでしょうか。

また、指導のゴールや、指導方法、スケジュールなど、メンティーを成長させるための計画は、メンターから一方的に提案するのではなく、必ずメンティーと相談の上で決めます。

3.メンタリングの方向性を決める

新しいスキル、仕事に対する姿勢、洞察力、知識など、このメンタリングが終わったときに何を獲得しているか目標を決めます。メンターの役目は、目標を明確で現実的にするのを助け、達成するまでメンティーを導くことです。

例えば3年後に専門家としてどのようになっていたいかメンティーに聞き、大まかな目標が出てきたとしましょう。まずメンターは、メンティーの現在のスキルと目標を比較して、どれくらいのギャップがあるかを分析し、達成可能な目標になるよう調整を手伝います。そして、何をどう学べばメンティーが目標を達成できるかを提案。そのとき、目標を達成したことがはっきりと分かるように、メンターが目標を具体的に評価できる形に整えることがポイントです。また限られた時間のなかで目標を達成するため、学ぶことの優先順位を考えます。

4.成長のため経験に重点を置く

本書では、本を読んだりメンターの話を聞いたりする講義式のメンタリングではなく、経験を通して学ぶことを重視しています。例えば次のような手順で進めるアクションラーニングのワークショップを開けばメンティーは経験を通して学ぶことができます。

  1. 何ができるか可能性を探る
  2. 新しいアプローチを試す
  3. メンターが洞察やフィードバックに協力する
  4. 学んだことを生かす

5.日常の心理学を使ってメンティーの成長を促す

アクサロッド氏は、メンタリングに自己認識やプラス思考といった日常的な心理学や脳神経学のテクニックを使うことの重要性について、2018年にタイで起きた事件を例に挙げて説明しています。サッカー少年12人とコーチが雨で水量が増した洞窟に閉じ込められてしまったこの事件を覚えていらっしゃる人も多いでしょう。

仏教の瞑想を習っていたコーチは、約2週間、食料がない暗闇のなかで少年たちを励まし続けました。人間が陥りやすい、パニック、怒り、恐れ、攻撃といった感情に支配されず、冷静さと決意を保てたことが生存につながったのです。このようにメンターが心理学のテクニックを使えると、メンティーに直接的でポジティブな影響を与えることができます。

日常の心理学を使ってメンティーの成長を促すには、まずメンター自身が、自分の長所短所をはじめ、物事に対する姿勢や、物の見方が分かっていること、すなわち自己認識ができていることが必要です。その上で、メンティーの思考パターン、ストレスや困難に対する対処法、コミュニケーションの方法などについて探ります。それらの情報を元に、メンティーの自己認識を助けます。

メンティーの自己認識を助ける5つのアクション

  1. メンティーの自己認識レベルを判断する
  2. 生産的な質問(productive inquiry)をする
  3. メンティーの強みと弱みをはっきりさせる
  4. ほかの人にフィードバックを求めるように促す
  5. メンティーに自己反省の習慣を勧める

メンティーの自己認識レベルを判断する

メンティーの言葉と行動が一致しているかどうか観察します。また、メンティーが自分の感情を正しく認識しコントロールできているか確認します。メンティーの自己認識レベルを判断し、どれくらいサポートができるかレポートにまとめます。

メンティーに生産的な質問をする

生産的な質問とは、観察したことだけを聞くのではなく、相互的な会話を生み出す質問です。忍耐強く、場合によっては時間をかけて少しずつ気づきを引き出していきます。メンティーは質問に答えるうちに自分がどう行動すればいいか分かってきます。

メンティーの強みと弱みをはっきりさせる

「~のようなときに、あなたはどうすると思いますか?」というような質問で、繰り返しメンティーの強みと弱みについて尋ねるようにします。メンタリングのなかでメンターが気づいたメンティーの強みや弱みにも注目しましょう。

ほかの人にフィードバックを求めるよう促す

メンティーが一緒に働いている信頼できる同僚から、目標についてのフィードバックを受けるように促します。フィードバックを受けて調整することで、進捗に遅れが出ることもありますが面倒に思ってはいけません。

メンティーに自己反省の習慣を勧める

メンティーが自己反省を日課にできるよう促しましょう。いいことでも悪いことでも、その日一番心に残ったことや、そのときの自分の行動、感情、ほかの人への影響などを振り返るように勧めます。その反省をノートに書きとめてもらい、後日、内容について話し合うといいでしょう。

6.メンターの質問力を上げる

的確な質問をすることで、ポジティブな行動を促すことができるようになります。ポイントはオープン・エンド型の質問で探求をさせることです。先に挙げた生産的な質問とも通じます。

透明度を高める質問

「いつまでに、このレポートを仕上げますか?」

「予想される収益はどれくらいですか?」

情景をはっきりさせる質問(ほかの人の視点を考えさせる質問)

「プロジェクトのなかの、このステップは、あなたにとって最優先のものかもしれませんが、Aさんの視点で優先順位はどうでしょうか?」

「四半期の目標に対する、あなたのアプローチについて、部署のマネージャーの視点では、どう見えるでしょうか?」

メンティーの自己認識を深める質問

「あなたの物の見方が、クライアントに対するあなたの態度に、どのような影響を与えたと思いますか?」

「打ち合わせ直前の考えや感情が、どのように影響したと思いますか?」

メンティーが思っている以上の結果を得るためには、どのような行動を取ればいいか考えさせる質問

「クライアントを安心させてから、プロセスの刷新に進んでいくためにどのようなステップを踏むことができますか?」

「チームの努力によって革新的な解決策を生み出せるよう導くために、あなたには何が必要だと思いますか?」

7.多様な才能開発方法を考える

いろいろな才能開発の方法を使ってメンティーを効果的に育てます。才能開発の方法を選ぶときには、メンタリングの目的を達成するために効果的であること、メンティーが気に入る方法であること、メンティーにとって意味があると思える方法、そしてユニークで記憶に残るものであることがポイントです。本書には、次のような開発方法が紹介されています。

メンタリングに取り入れたい才能開発法

  • 日誌をつける -自分を客観的に見つめることができるようになり、自己反省の習慣がつきます。
  • メンティーに、ほかの人の指導をさせてみる -自分が得た知識や技術をほかの人に教えることで、しっかりと身に付きます。チームリーダー、マネージャー、指導者を目指しているメンティーには特に効果的です。
  • メンターとメンティーの立場を入れ替えてみる -メンティーが得意なことをメンターに教えます。対人関係のスキルを向上させたり、得意な分野についてさらに学んだりする機会になります。
  • 専門家にインタビューをする -メンティーが伸ばしたいと思っている技術を持った専門家にインタビューする機会を与えることで、技術的な知識のアップや展望につながります。
  • 気になる施設、企業などを見学する -工場見学や職場見学は、興味を持っているビジネスがどのように機能しているのか知る機会になります。
  • アイデアを図式化する -アイデアを簡単な図や表を使って表すことで、会話のきっかけとなったり、新しい視点を提供したりできます。身につけておくと役立つスキルです。
  • ロールプレイ・リハーサル -商談やプレゼンテーションに挑む前にロールプレイングやリハーサルをすると、頭で考えていたことを体で感じることができ、より具体的な対策ができます。
  • 専門家が話すビデオを見る -インターネットを検索するだけでも、世界中の専門家のスピーチを聞くことができます。ロールモデルのアイデアを聞くことはもちろん、プレゼンテーションや話し方の参考にもなります。
  • 同僚との共同作業 -共同作業を通して、対人コミュニケーションや説明責任を共有することを学んだり、適応性を向上させたりできます。
  • ボランティアに参加する -現在の仕事では体験できない経験を積むことができます。
  • 視点を変える -ある問題について自分の視点を書き出し、次にほかの人の立場からその問題を考えてみる「リフレーミング」をしてみるといいでしょう。もっと広く考えることや、バイアスについて理解すること、ほかの人と上手にコラボレーションすることを学ぶことができます。

8.メンティーの影響力を高める

影響力を持ちたいというメンティーのために、まずメンターができることは、人と人との関係は信頼と信用に深く関わっているということを伝えることです。すでに関わっている人たちから信頼や信用を得ることによって影響力が増し、行動に対して良い結果が得られるようになります。

ほかの人のニーズと関心に対応する

人に助けてもらいたければ、自分から手伝うこと。そうしているうちに、ほかの人が助けたくなる人になれます。

支持者のネットワークを広げる

メンティーは自分の周りから支持者を集めようとする傾向がありますが、もっと冒険をして広い範囲のつながりを持つとチャンスが広がります。

明確さと熱意を持って要望を伝える

影響力が言葉と熱意を通して伝わることを教えます。目標についてはっきりと述べることや、人の感情を引きつけることも必要です。

9.障害を乗り越える

メンターとメンティーの関係性が上手くいかないこともあります。例えば、世代や性別、文化の違いなどが障害になるかもしれません。その場合、メンティーがいる世界を理解するよう努力しましょう。直接聞かなくても、文化、宗教、世代について学ぶことはできます。これらは、メンティーに直接関係ないと思うかもしれませんが、理解をする助けになるものです。

メンターとメンティーが離れた場所に住んでいる場合は、すれ違いが起こりやすくなります。テクノロジーを使ったメンタリングは可能ですが、優れた機材とメンターの技術力が必要です。また、目標が高すぎたり、状況が変わったりすることで、メンティーが目標に興味を持てなくなってしまうこともあります。前に進まないときには方向性が正しいか話し合い、調整することが必要です。そして、効果的なメンタリングをするためには、親しくなってもメンターとメンティーの間の境界線を崩してはいけません。

10.学習したことをまとめ修了させる

目的が十分に達成されたとき、または状況の変化によりメンタリングが必要なくなったときには、まとめの話し合いをしてメンタリングを終了します。

  1. 話し合いの目的:メンタリングの総括であることを告げる
  2. メンティーの業績を振り返る
  3. メンタリングの成果を振り返る
  4. メンティーが今後どのようなことに挑戦していきたいか、次のステップについて一緒に話し合う
  5. クロージング(メンティーに贈る言葉を用意してもいいでしょう)

メンターの役割を系統立てて知る

チームや部署のなかでメンターの役割になる人は、メンタリングの内容まで任されてしまうことが多いのではないでしょうか。そのようなときに、この本は役立ちます。雰囲気だけで進めるのではなく、系統立てて手法を学ぶことで、メンティーに合わせた効果的なメンタリングができるようになります。


タイトル 10 Steps to Successful Mentoring

著者 ウェンディ・アクサロッド Ph.D.

出版社 Amer Society for Training (2019/06)

ISBN: 9781949036480