「働き方改革 個を活かすマネジメント」から学ぶ、変化の激しい時代の新しいマネジメント

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政府が主導する「働き方改革」への取り組みは、年を増すごとに私たちの働き方に大きな変化をもたらそうとしています。長時間労働を美徳とし、ひとつの企業で長く働くことが当たり前だった労働環境は、すでに過去のものとなりつつあるのです。

働き方改革の取り組みは、マネジメントのあり方にも大きな影響を与えています。時代とともに大きな転換期を迎えている今、マネジメントに求められる要素とはどのようなものなのでしょうか。今回はキャリア・人材育成の専門家で、働き方改革の委員も務めている大久保幸夫氏、マーケティング業界から福祉業界に転向した経験を持つ産業ソーシャルワーカーの皆月みゆき氏による『働き方改革 個を活かすマネジメント』から、今後のマネジメントについて取り入れたいヒントを紹介します。

マネジメントは働き方改革の妨げにも促進剤にもなる

本書では、働き方改革の浸透を阻んでいる要素のひとつに「現場のマネジメント」があると述べています。

“働き方改革に関する生産性向上の好循環を回そうとしたときにボトルネックになるのが、現場のマネジメントだと言われている。私も働き方改革やダイバーシティ経営に関して企業から勉強会の講師を依頼されることがあるが、決まって聞く話が「現場のマネージャーが総論賛成・各論反対で動いてくれない」「理解しているとは思うが腹落ちしていないようだ」ということである。”

それまで「残業が当たり前」だった企業が、ある日突然「働き方改革への取り組みにより、今後は残業をしないように」と言われたとしても、メンバーは戸惑うことでしょう。実際に「表向きは定時で帰っているようだが、実は家に仕事を持ち帰っていた」という事例が見られるように、現場のマネージャーが「働き方改革の根本を理解しない」、「理解はしていても、納得できていないために自身も帰らない」といった点から現場に浸透していない可能性もあります。

また、厳しいマネジメントを受けた人が、部下にも同じく厳しいマネジメントを行うこともあれば、反面教師として優しいマネジメントを行うこともあります。形は違っても、マネージャーは自分が受けたマネジメント方法に大きな影響を受ける傾向にあります。

しかし、働き方改革によりあらゆる点が見直されている状況は、マネージャー自身も未経験の領域であり、戸惑ってしまうことも事実です。だからこそ、新しい環境とそれに付随するマネジメントに違和感を持ってしまうのです。

その一方で、本書ではマネージャーの言動が働き方改革を推し進める強力な促進剤であると説明しています。その柱として挙げられているのが、「職場のマネジメント」と「人材のケア」です。それぞれの具体的な内容に迫る前に、あらためて「働き方改革」の内容を復習しましょう。

日本の課題が統合された、「働き方改革」

“働き方改革がこれほど大きなテーマとなったのには理由がある。それはこれまでに積み上がってきた多様な社会課題が、「働き方改革」というひとつのテーマに統合されていったからである。“

本書では、日本が直面している5つの問題が源流として流れ込んでいる先が、「働き方改革」だと主張します。そして5つの源流全ては、時代とともに多様化している働き方に対応する目的から、これまでの働き方とは大きく異なります。

まず第1の源流とは、「賃上げ」に関する課題です。現在、働き方改革により職務やスキル、勤続年数に関わらず同一の賃金を支払う「同一労働同一賃金」を推し進めています。この仕組みは諸外国ではすでに取り入れられている国もありますが、雇用形態や勤続年数によって給与が決まることが一般的だった日本に大きな変化をもたらそうとしています。

第2の源流は、長時間労働の是非です。諸外国に比べ、日本は労働時間が長い傾向にあります。有給休暇の取得をせず、サービス残業も辞さない労働者の姿勢は、「成果よりも、労働時間を評価する」従来の日本の労働環境がマイナスに働いた結果です。

第3の源流は、第4次産業革命に紐づくものです。近年ではAIやロボットの開発からさまざまな産業の効率が向上する反面、雇用損失につながるのではないかという危惧も生じています。ただ、テクノロジーの進化によって「いつでもどこでも仕事ができる」環境が整いつつあり、テレワークや副業が身近なものとなっていることも事実です。

第4の源流は、人手不足です。日本は急激な少子高齢化が進んでおり、同時に労働力人口も大幅な減少が見られますが、このような状況において高齢者の人材活用は期待されています。

2013年には改正高年齢者雇用安定法によって希望すれば65歳に達するまでは再雇用という形で雇用される機会が得られるようになりましたが、これまで60歳になったら定年退職してセカンドライフを送ることが当たり前だったため、マネジメントも新しい働き方への適応が求められています。

第5の源流は、少子化対策です。もともと働き方改革の目的はどんな人でも社会で活躍できる「一億総活躍社会」の実現にあります。しかしながら、一億総活躍社会の実現と、未来の労働力の確保に向けて少子化を防ぐためには、「出産・育児と仕事」の両立を叶えなければいけません。

これらの源流が合流した「働き方改革」という河川の流れを、従来の日本的雇用システムがダムのように阻もうとしています。滞りなく働き方改革を進めるためには、「なぜ働き方改革を進めるのか」を社内でも説明し、各企業が取り組むことではじめて社会全体に変化が起こることとなります。それに伴い、マネージャーも時代に合ったマネジメントを行い、手助けをすることが求められているのです。

組織を上手く動かす、「職場のマネジメント=ジョブアサイン」

マネジメントの中核を担う「日々の業務推進=ジョブアサイン」は、企業の業績や業務効率を左右する意味でも重要です。

ジョブアサインは、もともと「現場のマネージャーは日々、組織としての目標、業務の進捗を把握したうえで最適な業務を部下に割り振り、達成まで支援すること」として定義されています。ジョブアサインが適切に行われれば、組織はうまく作用し、業務効率のアップにつながります。

また、本書によれば、ジョブアサインの付加価値は主にふたつあるといいます。

“もっとも大きな付加価値は効率化、つまり生産性の向上である。部下に仕事を割り振る前にきちんと目標設計や職務設計を行うことは、目標達成に向けての効率的な道筋を描くことである。そのうえで職務の説明を丁寧に行い、モニタリングして課題があれば側面支援することで、しっかりと業績につながっていく。また仕上げ段階で、加筆修正やディスクローズを行うことで、成果の価値を高めることを通じて生産性を上げることもできる。“

もちろん、得意とする業務や業務に取り組むスピードには個人差があります。マネージャーは、部下のスキルや志向を把握し、業務に割り当てる「人選」と「職務委任」を進めていかなければいけません。

「志向やスキルに合った人選」を行うことはもちろんですが、ときに組織の強化に向け「無理のない形で苦手な業務に割り振り、克服させる」、「ストレッチを期待し、経験の浅い部下に任せる」といった形でジョブアサインを行うことも有効でしょう。ジョブアサインで得られるもうひとつの付加価値は、この点にあります。

“そして人材育成もジョブアサインのなかで実現できる。すべてのマネージャーは人材育成を期待されているはずだが、日々の業績推進に手一杯で、なかなか改まって人材育成のための時間を割くことができないと悩んでいる人も多いはずだ。“

部下に業務を割り当てた後、進捗が滞っている状況を目にすれば、つい横から手を出したくなることもあるかもしれません。しかし、過剰なサポートは部下の成長だけでなく、マネジメントとして自身の成長を妨げる原因となります。本当に困ったときのサポートは欠かせないものではありますが、「見守る」ということも現場のマネージャーとして重要だといえるでしょう。

多様性のある組織には必須の「人材のケア=インクルージョン」

“働き方改革の好循環モデルをまわすためには、マネージャーがどうしても身につけておかなければならないスキルがある。ヒューマンスキル(対人関係能力)のひとつとしての「インクルージョン」のスキルである。あまり聞き慣れない言葉かもしれないが、多様な人々がそれぞれの個性を活かして仕事の成果を上げられるよう導くマネジメントのためのスキルである。ダイバーシティ経営の本来の趣旨を実現するためのマネジメントの姿とも言える。”

先述した通り、働き方改革はあらゆる人材が活躍できる「一億総活躍社会」を目指しています。近年、日本では女性や高齢者、外国人をはじめとする人々の就業機会を拡大する際に「ダイバーシティ」という言葉が用いられていますが、これはマネジメントにおいて重要な要素となっています。

また、さらに新しい考えとして生じたのが、社会的包摂を意味する「インクルージョン」です。もともとインクルージョンは、社会的排除(ソーシャル・エクスクルージョン)の対立概念として用いられていました。

これは移民の増加により産業構造が変化、失業をきっかけに貧困から抜け出せなくなる労働者が多数発生した1970年代のフランスが陥った状況であり、社会的包摂として一旦排除された人が再び社会とつながりを持てるようにする環境づくりが展開されるようになっています。

そのきっかけとして、志向や性格、スキルや興味範囲を診断できるテストを受けさせ、個人のデータを収集し、個性を磨けるようなマネジメントをすることが求められています。

この他、本書ではインクルージョンに必要な取り組みを具体的に考えることから、著者のもとに実際に寄せられた相談をもとに、創作された事例が掲載されています。

たとえば「離職」の申し出は、マネージャーにとっては突然の話である一方、部下にとっては以前から悩んでいたことに関する決断です。家族や介護の問題など、プライベートでの悩みが表面化し、「離職」の決断に至る部下の気持ちに寄り添えることができれば、お互いの信頼関係はより強固なものになるでしょう。

本書の最終章では、「ひとりで抱えこまない」という呼びかけを行っています。業務効率や部下との関係性構築に取り組むマネージャーも、ひとりの人間であることには変わりありません。自分自身を大切にしながら、業務に取り組むうえで必要な支援はどのように受けられるのか、マネージャーとして働く際に押さえておきたいポイントが網羅されている1冊といえます。

時代が変われば、マネジメントも変わる。時代に適合したマネジメント方法を探そう。

働き方改革を皮切りに、日本では労働についての価値観が大きく変わろうとしています。残業をさせ、厳しい環境に置くことで良かったマネジメントは時代錯誤となり、場合によっては部下の退職を急がせるものとなる可能性すらあります。

本当に求められているマネジメントの内容を見直しながら、時代の変化に合ったマネジメントで組織を活性化できるように意識していきましょう。