「個」を重視した生き方とも言える“プロティアン・キャリア”とは

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これまで、日本では「新卒入社した企業で、定年まで働き続けることが当たり前」とされてきました。

しかし、時代の変化とともに働き方の捉え方も変わっており、そのイメージもすでに古いものになりつつあります。「ひとつの会社で、ずっと身を粉にして働けば安定したキャリアと収入が得られる」と従来の考え方に囚われてしまえば、思い描いたビジョンにたどり着くことは難しいでしょう。

一方で、近頃新たなキャリア形成である「プロティアン・キャリア」が注目を集めています。「変幻自在なキャリア」という意味を持つ「プロティアン・キャリア」は、どのような環境であっても重宝される人材になるためのヒントでもあります。今回は、そんな今後ますます必要となる「プロティアン・キャリア」について解説します。

プロティアン・キャリアとは

プロティアン・キャリアとは、アメリカの心理学者ダグラス・ホールが1976年に提唱したキャリア理論です。この「プロティアン」の語源は、ギリシャ神話に登場する神のプロテウス。自分の思いのままに姿を変えられる能力を持つプロテウスのように、自身のキャリアを環境に合わせて変化させてキャリアを築いていくことこそがプロティアン・キャリアです。

例を挙げると、従来のキャリアは「ひとつの組織に所属し続ける」のに対して、プロティアン・キャリアは「複数の組織に所属する」という考え方を指します。また、本業と並行して別の活動を行うパラレルキャリアも、プロティアン・キャリアのひとつの例です。

プロティアン・キャリアにおいて、キャリアの主体は従業員個人であり、組織そのものではありません。自分自身のキャリアを磨き、どのような企業でも柔軟に対応できる人材を目指すことが今後の社会では重要になるでしょう。

従来のキャリアとプロティアン・キャリアの変遷

プロティアン・キャリアは近年になって注目を集めているものの、概念が提唱されていたのは1976年でした。周囲の環境に合わせてキャリアを変化させていく働き方は、当時の日本にマッチせず、広まることは難しい状況だったのです。

その背景には、日本に根付いていた「終身雇用」、「年功序列」の体制があったことが関係しています。

従来の働き方が根付いた背景

この体制が根付いたのは、1950年〜1960年代頃、高度成長期の初期。戦後に起きた第一次ベビーブームにより労働人口が爆発的に増えたこともあり、当時の日本は働けば働くほど業績は伸びていました。労働力に関する需要は日に日に高まる一方、次第に都市部だけでは労働力が賄えなくなっていきます。

やがて地方から都市部に仕事を求めて集まった若者に対し、企業はていねいな研修によって人材を育て始めます。このとき、多くの企業では「年功序列」により成果を示すことで賃金アップを約束すると同時に、「終身雇用」により定年まで継続して雇用する体制を整えました。

従業員側としても、年を重ねるうえで賃金がアップする仕組みは、結婚や出産、マイホームの購入などより多くのお金がかかるライフイベントを迎えるうえでメリットがあり、受け入れられるようになっていきます。

しかし、近年ではさまざまな大手企業では定年を迎える前の早期退職を促しているように、社会環境は目まぐるしく変化を続けています。かつて誰もが信じていた「終身雇用」や「年功序列」は最早崩壊の兆しを見せており、今の自分のキャリアもある日を境に通用しなくなることもあるでしょう。

プロティアン・キャリアで重要視されるのは「仕事への満足感」

従来の価値観であれば、役職と権力と高い給与が重要視されていました。誰から見てもはっきりとした形でわかる要素である反面、ひとつのキャリアにしか特化できず、新たなビジネスチャンスやキャリアアップの機会を逃す状況に陥りやすいのも事実です。

一方、プロティアン・キャリアでは仕事に対する満足感や成長の実感こそが重要だと捉えられる傾向にあります。「自分は仕事を通してどのような人になりたいのか」、「そのためにはどのようなキャリアが必要なのか」という点が重視されます。今「転職」という選択肢を選ぶ人も増えている背景には、同じ会社で働いたとしても、自分の思うキャリアを重ねられない、または将来のビジョンに近づけないという思いによるものでしょう。

終身雇用が一般的だった時代において、「転職」はネガティブなイメージが持たれていましたが、厚生労働省が発表した「新規学卒就職者の離職状況」のデータによれば、平成28年度において新卒で入社した後3年以内に離職する人の割合は全体の3割ほど。

3人に1人が入社後3年以内に辞めている実態は、ある意味でプロティアン・キャリアが重要になってくる時代と合っているといっても過言ではないのかもしれません。

プロティアン・キャリア形成には何が必要なのか

プロティアン・キャリアの主体は「組織」ではなく「個」にあるからこそ、今までの価値観では形成が難しいものとなっています。では、プロティアン・キャリアを形成するためにはどのようなことが求められるのでしょうか。

広い意味でのキャリアの再認識

あらためてプロティアン・キャリアにおけるキャリアとは、仕事への満足感や思い描くビジョンを実現するためのスキルです。たしかに給与なども行きていく上では全く意味がないものではありませんが、形に残らない資産(スキルや専門知識など)もキャリアのひとつであることを再認識する必要があります。

たとえば営業を担当している人であれば、形に残らない資産としてそれまで業務で携わった人とのつながりから、新たなキャリアを築くことも可能です。

目標の設定

「組織の中で何をすべきなのか」が重要視されていた従来の価値観とは異なり、プロティアン・キャリアでは「自分が何をしたいのか」を考えるところから始まります。たとえば「将来的にグローバルな仕事をしてみたい」という人は語学スキルを、「最終的には起業したい」という人はビジネスの知識が求められるでしょう。

また、「出産後も働きたい」など、ライフスタイルとともに勤務形態の変化を望む人もいます。そんな状況において、リモートワークができる企業を選ぶことも、キャリアを柔軟に変化させるという視点でいえばプロティアン・キャリアのひとつといえます。

長期的な視点

「転職」はプロティアン・キャリアにおいて必ず成功につながるとは断言できないのも事実です。やりたい仕事を目指して転職してきた人の中には、未経験であることを理由に、希望が通らず全く異なる部署に配属される可能性も往々にしてあります。そこで再度転職したとしても、やはり未経験から自分の理想のビジョンが達成できない……なんて状況になれば、仕事への満足感はさらに遠のいてしまうものです。

しかし、実際に経験してみると「当初はそこまで興味を持てなかったが、取り組んでみたら面白さに気がついた」、「自分のビジョンに関係ないスキルかと思っていたら、意外なところで役に立った」などの意外な効果を発揮することも少なくありません。

「やりたいことができないから転職」のように、短絡的な視点で行動を起こしてしまうのを防ぐために、「これをやればどのようなスキルが得られるのか」など、長期的な視点を持ってもらえるように伝えていくことが大切です。

プロティアン・キャリア志向の人材を雇用するうえで重要なポイント

プロティアン・キャリア志向の人材に共通しているのは、「柔軟性」を持った点にあります。

彼らは給与や役職に固執せず、柔軟な考え方によって働き方を模索する傾向にあります。それは「自分に向いていないから」という一方的な決めつけやイメージで選択肢を絞るのではなく、「まずはやってみる」「前に得たスキルが役立つかもしれない」という姿勢からさまざまな業務に挑んでいます。

そのため、企業は年齢や性別で任せる業務に制限を加えるよりも、できることからどんどんチャレンジできる体制を整えていくのが望ましいのです。

そのほかにも、それまで企業で培った知識や経験といったノウハウを共有する場を設けるなど、彼らを含め従業員が新たなスキルや経験を得られる機会を作っていけば、それぞれがプロティアン・キャリアの形成に役立つでしょう。

時代の変化に対応できるプロティアン・キャリアはどこでも戦っていける

従来の価値観では、自分のキャリア形成は企業に任せる人が多くいました。一方でプロティアン・キャリアは自分自身がなりたい理想像を描き、そこに近づくためのキャリアを形成するものです。自分の将来を自分が考え、それまでの道筋を経験として積んでいくのは、他の誰でもない自分が中心となるため、ときに難しいと感じることもあるでしょう。

しかし、「何をするべきか」を誰かに任せるのではなく、「どうありたいか」を考えるのは、これから長く働いていく社会において、確固たる自分を作り出すうえではなくてはならない要素のひとつです。

どんな時代や環境でも働けるプロティアン・キャリア形成のためには、まずは自分の数年後をイメージすることができる人材を探してみてはいかがでしょうか。