生産性の高い人材育成に効果的!ワーキングメモリを鍛えるといい理由

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プロフィール
有限会社イーソフィア
プロパズル作家/北村 良子
1978年生まれ。パズル作家として、企業のキャンペーンやWEBサイトで展開するイベント、各メディアに向けたパズルを手掛ける。著書に「論理的思考力を鍛える33の思考実験」など多数。

働き方改革が国内に浸透する中で、どの企業も競争力を高めるために人材採用だけではなく、人材育成に力を入れています。しかし、思うように育成が進まず、生産性を高められていない企業も少なからずあります。

そこで、課題となっている生産性の高い人材の育成方法にフォーカスし、「ワーキングメモリ」を鍛えることが有効である理由やトレーニング方法などを「脳を鍛えると生産性が上がる」の著書であるプロパズル作家の北村良子さんにお聞きしました。

ワーキングメモリとは

北村さんの著書「脳を鍛えると生産性が上がる」でも仕事全体のパフォーマンスを上げるために重要と提唱されている「ワーキングメモリ」について、具体的に教えてください。

ワーキングメモリは“脳のメモ帳”と言われていて、直訳すると作業記憶になります。脳の前頭葉を中心としたネットワークに関連しており、思考と行動の制御に関わる実行機能(プロセス)のひとつです。

今、私はインタビューを受けていますが、こうして相手と会話ができるのは直前に話したことを覚えているからなのです。直前に話したことや聞いたことを覚えていることによって、どう返答するかを脳が組み立てて、会話を成立させる。この役割を担っているのがワーキングメモリです。

例えば、頭の中だけで計算する暗算などは、複数の数字を一時的に覚えて処理するので、まさにワーキングメモリを使っている状態といえます。

あまり意識していませんでしたが、日常生活で当たり前のように使っている機能ということですね。

普段の会話をはじめ、電話などで言われたことを第三者へ伝言したり、予算が決められている中で買い物をしたり、目的地にたどり着くための道順を覚えるなど。日常生活で、そういった一時的に記憶するシーンは数多く溢れており、生きていくうえで必要とされる機能といっても過言ではありません。

また、生活面だけではなく、ワーキングメモリ=頭の良さと言い切る人がいるほど、学業や仕事においても大きく影響します。複数の資料を読み込み、内容を理解することに長けている人や、質問内容を瞬時に理解すると同時に頭の中で答えをまとめられる人など、俗にいう“頭の回転が速い人”はワーキングメモリが高い傾向にあります。

確かに、仕事ができる人は、理解力があって状況に応じた判断が早いイメージがあります。ちなみに、ワーキングメモリに上限はあるのでしょうか?

作業記憶としての上限はあります。例えば、今すぐ100桁の数字を覚えてくださいと言われても、ほとんどの方が覚えられないと思います。短期的に記憶できる数字は、せいぜい5桁から9桁が一般的ではないでしょうか。ワーキングメモリは、一時的に記憶を留めて処理をする能力であるため、個人差は多少ありますが大容量の情報は記憶できません。

よくメディアなどに登場する記憶力が異常に高い方は、ワーキングメモリというよりも“覚え方”が大きく関与しています。具体的には、記憶できる容量が膨大にある右脳を利用した記憶術にあたり、文字ではなく画像や映像としてイメージしたり、ストーリーにして覚えたり、頭の中に「記憶の場」をつくって覚えたい事柄を配置するといったテクニックのこと。

つまり、瞬時に情報をインプットして、考えながら行動する際に使われるワーキングメモリとは、プロセスが異なるのです。

ワーキングメモリの高め方

ワーキングメモリは、記憶力というより能力なのですね。その能力が現代社会で必要とされている背景には何があるとお考えですか?

ワーキングメモリが現代社会に必要とされているのは、考える力が弱くなってきているという危機感からだと考えています。社会人として働く方たちの中で、指示された通りに物事を進めるような受け身タイプが増えてしまうと、自ら考えて発言する機会も減少して企業の成長にも悪影響を与えてしまいます。

こうした受け身の状態を招いてしまっているのは、日本の「正解はひとつと決められている教育」が影響していると私は思っています。大事なのは、正解や不正解という結果ではなく、そこに辿りつくまでのプロセスを自分で導き出しながら、自身の傾向を知ること。

何の工夫もなく仕事をしているという常態化から脱するためにも、あらゆる情報の中から創意工夫をして物事を進められる、ワーキングメモリの向上が重要なのです。

ワーキングメモリが低下してしまうのは、そういった受け身の姿勢が原因なのでしょうか?

一番の原因は脳の疲労です。例えば、「ニュースを毎日見ている」という方は、ピンポイントでひとつのニュースを見るのではなく、沢山ある中から気になる内容を複数見るというケースが多いと思います。そうすると、脳内に情報が滝のように流れ込んできてしまい、処理をしているワーキングメモリの作業工数が膨大になり、疲労が蓄積してしまうのです。

ただでさえ、スマホひとつであらゆる情報を得られる時代なので、ワーキングメモリが低下するリスクは非常に高い。情報を得るために足を運んだり、様々な人に会って話を聞いたりしなくても、簡単に情報をキャッチできてしまうので、行動のマンネリ化にも繋がります。こうした同じことの繰り返しが脳に悪影響を及ぼします。

情報が多い現代社会においては、脳の疲労は大きな問題ですよね。この低下してしまったワーキングメモリを回復させる方法はあるのでしょうか?

マンネリ化した行動とは逆のことをする方法があります。初対面の人に会ってみるとか、新しい趣味を始めてみるとか、「普段しないようなことを思いきってやってみる」というのが脳にとって良い刺激になり、回復力を高めてくれます。また、最近流行っている“瞑想”や“マインドフルネス”、仕事の合間に昼寝をする“パワーナップ”なども効果的でしょう。

重要なのは、脳に蓄積された情報をクリーンナップすること。何かをしている時はもちろん、ボーっとしている時でさえ、脳は常に働いています。そのため、仕事とは違う脳の回路をつかうように意識しながら、リラックスできる状況を自分自身でつくることで、ワーキングメモリは回復します。

回復したワーキングメモリをさらに鍛えるトレーニング法があれば教えてください。

ひとつは、パズルを解くこと。特に、種類の違うパズルを解く方法が有効です。演算子が空欄になっている数学パズルや、ルールに縛りがあるナンバープレイス(ナンプレ)などは、普段の生活や仕事とは違った脳の回路を使います。

ワーキングメモリを鍛えるうえでは、規則性より柔軟性がポイントになります。仕事の場面でも、会議の場で思い切って意見を言ってみたり、議事録を勝手にとってみたり、通勤経路を変えてみたりと、普段とは違う行動を起こすといいでしょう。

私が、事務作業をしていた時は、ショートカットキーを勝手に覚えて仕事に取り入れたりしていました。それだけでも、普段とは違う行動になるので効果的です。

※パズルの答えは最後にあります

組織におけるワーキングメモリの効果

ワーキングメモリを高めると、組織にどのような好影響を与えるのでしょうか?

ワーキングメモリが鍛えられると、脳内の作業スペースも広がるので、同じ時間で生み出す生産性が向上します。ワーキングメモリはマルチタスク(複数並行作業)に必須の能力なので、この能力が低いと複数の業務を効率的にこなせません。

例えば、時間がかかる業務A、期限が短い作業B、アイデアが肝心な企画Cを同時期にこなす時、どこから手を付けていいのかわからなくなりがちです。こういった計画を立てていくのもワーキングメモリの仕事。イメージとしては、状況に応じて脳に付箋を貼っている状態です。

また、短時間での集中力が高まれば作業効率も上がります。ネットなどで調べ物をしている時に、長時間かけて膨大な情報に触れていると本来の内容から脱線してしまったり、結局まとまらなかったりというケースがあると思います。

ワーキングメモリを鍛えると、頭の中で常に整理整頓ができている状態になるので、何を調べているのかに注意を向けながら、最短ルートで目的を果たせるようになります。

働き方改革で労働時間が短縮していることを考えると非常に魅力的な効果ですね。ワーキングメモリを高いまま維持するための習慣もぜひ教えてください。

トレーニングやクリーンナップを継続するというのは大前提ですが、小さくていいので日々チャレンジをしていくことが大事です。前頭葉を刺激するという意味でも、本や新聞の音読や、スローランニングを始めるなどが効果的でしょう。なかなか時間が取れない方でも、右利きの方は左手や左足をつかうだけでワーキングメモリの低下は防げます。

スマホへの依存度が高い現代人にとって、電話番号を覚えておく必要もないので、意図的に数字や事柄を覚えるクセをつけることも良いと思います。分からないことや知りたいことがあった場合は、すぐにパソコンやスマホで調べるのではなく、まずは自分で考えることを習慣化することが大切です。

デジタルに頼らずに自ら考えることが大事だということが分かりました。組織の中でワーキングメモリを高める育成方法などはあるのでしょうか?

私がおすすめしている育成方法は「思考実験」を取り入れることです。この思考実験とは、正解や不正解がないものが多く、学校で学ぶ知識とは違って自分本来の頭の力(地頭)を使って考える実験のこと。

普段対面しないようなお題に対して、答えがどうこうではなく自分はどう思うかを考えて自己を知ることが目的です。育成シーンで取り入れるとワーキングメモリの向上だけではなく、発想力や多角的な視点から物事を見る力、論理的に考える力などを鍛えられます。

また、いくつかの国では、教育の中にパズルや遊びを取り入れており、答えを導き出すプロセスを評価しています。こうした自由度の高い考え方を企業に取り入れることで、目標達成や成果に対してひとつではなく複数のプロセスが生まれ、ひとりひとりにあった育成方法を見出せるようになります。

ワーキングメモリを高める育成方法を実施するには、育成する側も正解がひとつではないことを認識する必要がありそうですね。

結果論ではなく、プロセスに目を向けた柔軟な育成を心がけないと、ワーキングメモリは高まりづらいと思います。育成する側にとっては、決まりきったプロセスがあった方が教えやすいのは当然のこと。ひと通りの導き方を示せばいいワケですから。

しかし、それでは今までと変わらず、新たな思考や行動を生み出すのは困難が生じます。社員がフレキシブルに効率化を図って仕事を進めていくために、育成する側もさまざまな考え方や自由度の高い意見を受け止められるようになると理想的ですね。そうすることで、ワーキングメモリが向上し、ひいては組織全体の生産性を高めることに繋がります。

組織全体の生産性を高めるためには、ワーキングメモリを鍛える育成方法と共に、教える側もプロセスを重視した柔軟な評価体制を築くことが必要だということが分かりました。本日はありがとうございました。

ワーキングメモリを高めると企業成長の目盛りが増える

年齢に関係なく鍛えられるワーキングメモリ。歳をとれば体力は衰えてきますが、鍛えている方とそうでない方を比べれば大きな差が生じます。ワーキングメモリは、そうした体を鍛えること以上に年齢の影響を受けることなく、良い状態を維持できるとのこと。

人生100年時代といわれている昨今、ワーキングメモリを鍛えることは、個人の生産性と共に企業力を持続的に向上できる方策といえるでしょう。

<パズルの答え>