退職者を引きとめる「ステイインタビュー」とは
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退職を決めた人と面接をし、何が問題だったか聞くことがあります。しかし、従業員が退職を決める前に何かできることはなかったのでしょうか。それを可能にするのがステイインタビューです。定期的な面接で従業員が抱えている問題を聞き出し退職の原因になる前に解決します。『The Stay Interview: A Manager’s Guide to Keeping the Best and Brightest』は、そのプロセスを説明した本です。著者は、リテンションエキスパート(雇用保持専門家)と名乗るリチャード・P・フィネガン氏。これまでにもステイインタビューについての書籍を数冊出版しています。
ステイインタビューとはなにか
ステイインタビューは、仕事のパフォーマンスを上げるための面接ではなく、従業員の仕事にやりがいが出て、職場が心地よくなる方法を考えるための面接です。従業員にとって何が大切かを聞き出し、望みを叶えるためにはどうしたらいいか考えます。その過程で信頼関係を築くことが最大の目標です。効果的なステイインタビューを実施するためには、チームミーティングではなく一対一の面接にすること。そして人事部の担当者ではなく、一緒に仕事をしている直属の上司が話を聞きます。また、思いつきで面接してはいけません。面接の実施からフォローアップまでの計画をきちんと立ててから実施します。
ステイインタビューの事前準備

ステイインタビューを実施する前には次のような準備をします。
面接シートを作る
従業員全員の名前をリストアップし、右側に、面接の中で聞いた従業員の話を書く「従業員にとって大切なこと」という欄を作ります。さらにその隣に、従業員が望んでいることを実現するためのアイデアや、従業員が自分では気づいていないことで面接官からアドバイスできることなどを書く「面接官が思うこと」という欄を作ります。
「従業員にとって大切なこと」の欄には、勤務のスケジュール、シフト、給料、将来の展望などに対する不満や不安など、聞いたことをすべて書きとめます。このとき自分の考えを入れてはいけません。あくまでも従業員の思いだけを書くようにしましょう。「面接官が思うこと」の欄には、自分の考えを含めて、企業として従業員の抱える問題を解決する方法を書きます。特に従業員が自分で気づいていない長所や、伸ばしたほうがいいと思うスキルを明確にしたり、従業員の希望にあった社内の研修制度を提案したりするなど、仕事ぶりを知っている上司という立場を生かしたアドバイスができるといいでしょう。
中立的な立場を意識する
従業員のための面接ができるように心構えをします。ステイインタビューで面接官は中立的な立場のファシリテーターです。面接官が選んだ話題について話すのではなく、従業員が自分の気持ちを表せるようにします。
質問を工夫する
従業員の気持ちを引き出すために回答者が話を続けやすい質問を考えます。フィネガン氏がステイインタビューの基準にするのは、次の5つの質問です。この質問の回答から面接官は話を広げて、さらに深く従業員の気持ちを聞き出します。
- 会社に来るときに楽しみにしていることはありますか?
- この会社で何を学んでいますか?
- この仕事を続けている理由は何ですか?
- 最近、いつ仕事を辞めたくなりましたか?何がきっかけでしたか?
- あなたの職場体験をよくするために、私ができることはありますか?
これらの質問は、上司を信用していること、同僚と信頼関係があること、仕事が好きであることの「3つの基本的なエンゲージメント」が従業員にあるかどうかを知るきっかけとなります。また、チャレンジができる環境があり、仕事を続けたいと思っている従業員は仕事を辞める可能性が低いと判断できます。そして仕事を辞めようと思ったきっかけを知ることで、その人に退職を考えさせる要因を探ることができます。
自社の福利厚生や研修制度を確認
短時間勤務や配置転換、キャリアアップのサポートプログラムなど、アドバイスに役立ちそうな制度を確認しておきましょう。
ネガティブな意見に対応する準備をする
誰でもネガティブな意見を聞くことは嫌ですが、ステイインタビューでは、従業員が思っていることをありのままに聞くことが大切です。そしてその意見に対応しない限り信頼関係は生まれないといってもいいでしょう。
ネガティブな意見を聞くときのポイントは会話の中でエゴを捨てることです。自分を守ろうとせず相手の言うことを聞きます。例えば従業員が「一挙一動をチェックするような管理の仕方が好きではない。」と言ったとしても「それはあなたがしょっちゅうミスをするからだ。」と言い返してはいけません。「そう感じたのなら申しわけありません。一挙一動をチェックされているような気持ちになったのは、どんなときでしたか?」というように、冷静に詳細を聞き出します。
従業員のステイインタビューを実施するスケジュールを立てる
ステイインタビューを実施する順番を考えます。フィネガン氏はインタビューを成功させるコツとして、最初は面接官が話しやすい簡単な人から始め、次にチームの中で最も大切な人材、その後に退職の可能性がありそうな人材、最後にそれ以外の人材という順番を勧めています。一回の面接時間は30分より長くならないようにします。
面接場所と席を考える
従業員がリラックスでき個人情報を打ち明けやすい場所を探します。例えば会議室のような外から見えない場所。従業員との従属関係を打ち消したいなら静かなカフェの一角や、オフィスの外を歩きながらでもいいかもしれません。対面する座席はできるだけ近くなるように、会議室に大きなテーブルがある場合は動かします。
道具を用意する
メモが取れる紙か電子機器、そして今までに挙げた面接シート、質問票などをまとめます。面接開始から終了までの台本も作っておきましょう。面接中には細かくメモを取ります。
成功を思い浮かべる
すべて準備ができたら、成功を思い浮かべます。
ステイインタビューに必要な4技能
ステイインタビューを成功させるためには4つの技能が必要です。
相手の話を聞く
話している人に意識を集中し、アイコンタクトや相槌の仕草を交えながら、話を遮らずに聞きます。
メモを取る
話の大切なポイントを書きとめ、後で解決策を見つけるときや、従業員にアドバイスをするときに参照できるようにします。
調べる(本音を聞き出す)
質問を変えながら従業員の本音を聞き出します。例えば、「なぜこの仕事を続けているのですか?」という質問の答えに対して「理由はそれだけですか?」などと一歩踏み込んで、その先の答えを導き出します。
企業の決定に責任を持つ
従業員が企業について不平不満を述べても、完全に従業員側に同調しないこと。「これを決めた上層部は何か考えがあってのことだと思う。」といった言葉で、企業の決定を否定しない答え方をします。企業の決定に全て賛成とはいかないかもしれませんが、立場としては従業員に企業の決定を理解してもらうように働きかけます。
同時に面接官が企業を心から信頼できていることも大切です。面接官が企業を信頼していなければ退職者を引きとめることはできません。
ステイインタビューの流れ

ステイインタビューを進めるときのポイントをあげてみましょう。
面接を始める
- 面接の目的を告げます。例えば「今日の面接では、あなたが働きやすい職場にするために、私に何が出来るかを知りたいと思っています。」というようなことを言います。
- 従業員の期待を制限します。給与や福利厚生など面接官が管理できないものよりも、面接官が管理できる範囲で従業員に提案をしてもらうようにします。ただし、面接官の影響力がないことを分かった上で、従業員が給与や条件について話したい場合には話を聞きます。
- 面接官の励ましの言葉が、従業員のポジションを永久に保証したり、従業員の昇進を決めたりするような直接契約に関わるものではないことを伝えます。
ステイプランを考える
従業員から聞き取った問題や希望に対する対策案をステイプランと呼びます。ステイプランには次のような項目が含まれていなければいけません。また、ステイプランを考えるときには、目標を3つ以上にしないほうがよいとフィネガン氏は提案します。
- 各提案に対する目標
- マネージャーが起こすアクション
- 従業員が起こすアクション(できれば)
- 活動する日、複数の活動がある場合には、その日程
- すべてを書き出した書類(そのコピーを面接者と従業員が持つ)
例えば、企業の方針が分かりづらいと言う従業員がいるとします。その解決策を、次のように考えます。
- プレスリリースや関連する情報を提供する
- 上層部に、企業の方針を従業員に伝えるための機会を持つよう提案する
- 上層部をチームミーティングに招きスピーチをしてもらい、Q&Aコーナーを設ける
ステイプランは面接官が一人で考えるよりも、従業員にフィードバックを求めながら一緒に作ることでニーズに沿ったプランになります。また、個々の従業員に合わせてカスタマイズされたステイプランは効果も上がります。
クロージング
クロージングでは、従業員と話し合った内容、ステイプランをもう一度さらい、従業員にお礼を言って面接を終わります。その日、または数日のうちにステイプランを書き出した書類を従業員に渡します。
未来の予測
面接終了後に、内容を振り返り、どの面接者に退職の危険があるか予測します。赤・黄・緑で危険度を示すと分かりやすいでしょう。例えば、仕事の成果が出ていないと感じていたり、条件に不満があったりすれば、退職の危険があるサインです。逆に、エンゲージメントが高い従業員との面接では、役立つ情報がどんどん出てきたり、仕事が好きなことが伝わってきたりします。このような従業員が退職する危険は少ないといえるでしょう。各従業員の未来を予測することは、退職を防ぐことだけでなくステイインタビューのスキルを向上させることにもつながります。
面接が終わったら、その従業員がどれくらい退職せずに仕事を続けるか予測する習慣をつけてください。そうすると「学校でトレーニングを受けたいと思っている。」といった従業員の何気ない一言にも、学校にはパートタイム、フルタイムのどちらで通うつもりか、オンライン講座なのか、実際に出席が必要なコースなのか、近くの学校か、それとも遠い場所かという具体的な疑問が沸いてくるようになります。こうしてもっと細やかなステイインタビューができるようになります。
もし面接後に退職者が出てしまった場合、次のような点を振り返って将来の参考にします。
- 従業員に退職しそうな兆候がみられましたか?
- 従業員の将来をどのように予測しましたか?
- 従業員のステイプランに、どのようなアクションを取り入れましたか?それは正しかったと思いますか?
- この退職からどのようなことを学びましたか?
- 同じ理由で退職しそうなメンバーがチームの中にいますか?
ステイインタビューで、パフォーマンスレビューをしないこと

ステイインタビューをするときに忘れてはいけないのは、この面接が実務の成果や効率について話し合うパフォーマンスレビューではないことです。まずは従業員の気持ちを聞き出すことに集中しましょう。そして、従業員が抱える問題の解決策を一緒に考えます。本書には、従業員が正直な気持ちを話さなかったことで面接官が不満に気づかず、3か月後にステイインタビューでまったく触れていなかった理由で、この従業員が退職してしまったという実話を元にしたケーススタディも紹介されています。上司を信頼できていない従業員は、罰せられることを心配して本当のことを話せません。ステイインタビューを価値あるものにするには、批判を受け止め、日ごろから従業員が何でも話しやすくしておくことが必要です。
タイトルThe Stay Interview : A Manager’s Guide to Keeping the Best and Brightest
著者 Richard P. Finnegan (著)
出版社AMACOM; 1版 (2015/3/18)
ISBN: 9780814436493