採用や社員教育に使えるゲーミフィケーション

目次

ゲーミフィケーションとは、ゲームに使われている構造や、ロイヤリティプログラム、行動経済学を活用することで、顧客や従業員のエンゲージメントを上げるというコンセプトです。

『The Gamification Revolution』には、世界のトップ企業の事例を交えながら、ビジネスの中にゲームデザインを取り入れる具体的な方法が紹介されています。この本の著者ゲイブ・ジチャーマン氏は、ゲーミフィケーションに関する情報サイトを運営するGamification Co と、ゲーミフィケーションを専門とするコンサルタント会社Dopamine の最高経営責任者を務めています。また本書は、Gamification Coや、NPRに寄稿しているライターのジョセリン・リンダ―氏との共著です。

ゲーミフィケーションの6つのアプローチ

多くの人がゲームに夢中になるのと同様に、顧客がサービスを利用することに夢中になったり、従業員が業務に熱中するようになったりすれば、組織は、顧客や従業員を楽しませながら、業績を伸ばすことができるようになるでしょう。世界のトップ企業は、顧客や従業員の体験を楽しく熱中できるものにするゲーミフィケーションの効果に気づいています。いまや、競合に差をつけるためには、上手にゲーミフィケーションを取り入れることが欠かせません。

ジチャーマン氏は、エンゲージメントを高め、問題を解決するためのゲーミフィケーションを6つに分類しました。この6つのアプローチは、個々に使うことも、いくつかのアプローチを合わせて使うこともできます。また、組織の主要なステークホルダーである顧客と従業員、どちらに対する戦略にも使うことができます。

1 大きな挑戦

ナポレオンもゲーミフィケーションの手法を使っていました。1795年、ナポレオンは12000フランを賞金として、食料を保存する方法を募集します。このチャレンジは中流階級や科学に精通したエリートたちを熱中させました。そして、約10年後にニコラ・アーペルが、ガラスびんの中に食物を入れ密封し加熱殺菌して保存する方法を発見することにつながったのです。アーペルは12000フランを獲得し瓶詰の祖として今でも名を残しています。ナポレオンが企てたような大きな挑戦は、現代でも変わらず人々をやる気にさせます。

2 迅速なフィードバックがあるゲーム

サッカーやフットボールなど、自分の動きによってスコアや状況がどんどん変わっていくゲームシステムは人を夢中にさせます。

3 シミュレーションと発見があるゲーム

新しいアイデアや環境、シナリオのなかを探検することができるシミュレーションゲームは疑似体験を通して楽しみながら新しいことを学ぶことができます。シミュレーションは主に教育用に開発されており、授業にシミュレーションゲームを取り入れている学校もあります。

4 ステイタスを獲得できるゲーム

SNSで「いいね」がたくさんついたり、フォロワーが増えたりすると嬉しい人は多いでしょう。また、ゲームのなかで一番を目指したり、ゲームを繰り返すことでランキングを上げたりすることは、ゲームプレイヤーを熱狂させます。このゲーム構造は日常のなかにも存在しており、宗教上の階級や、職業の職位など、様々な場所で見られます。例えばロイヤリティプログラムのランクづけが、このアプローチを利用したサービスです。

5 利益になるゲーム

ポイントが現金と同じように使える、ユーザーの利益に直接結びつくものは、人を引きつけます。マイレージプログラムやポイント制度が代表的なものと言えるでしょう。

6 自己表現ができるゲーム

ユーザーのクリエイティビティや個性をサポートし、感情を満足させるゲームも人を夢中にさせます。例えば、質問サイトや口コミサイトなどのユーザー参加型コンテンツが流行するのは、クリエイティビティや個性を生かせるからです。

ゲーミフィケーションは上達する感覚がポイント

従業員のエンゲージメントを高めるためにゲーミフィケーションを取り入れるときには、ゲームのなかでスキルが上がっていく感覚を大切にすると上手くいきます。上達することは、勝負に勝つこととは違います。勝利は目的を達成することですが、上達は知識を習得し、それを使って継続した進歩をしていくことです。例えば、ダイエットプログラムのウェイト・ウォッチャーズや、飲酒をやめたい人のためのアルコホーリクス・アノニマスのプログラムなどは、この上達する感覚を大切にし、上手くユーザーを引きつけています。

パズルゲームなどの単純操作のゲームに多くの人が魅了されるのも、勝敗だけではなく自分のスキルが上がっていく感覚を味わえるためです。それに加え、挑戦がある、迅速なフィードバック、レベルが上がる、ポイントが増えるなど、エンゲージメントを高める工夫がされています。

スキルが上がっていく感覚を味わえるデザイン

素晴らしいゲームのほとんどに、次の要素が含まれています。職場にゲーミフィケーションを取り入れる際にも、この要素を意識して設計をします。

  • ゴールがある
  • ゴールに向かわせる(例:レベル)
  • 継続的に上達する(例:ポイント)
  • ほかの人からの注目や、賞賛などの社会的強化がある
  • 難易度が理にかなって上がっていく
  • 興味を継続させるために、ミニチャレンジや違った体験が入る

ゲーミフィケーションを従業員エンゲージメントに生かす

企業戦略や商品開発、顧客サービスなど、ゲーミフィケーションはいろいろな場面に生かすことができます。そのなかから特に従業員のエンゲージメントに生かす方法に注目して本書に出てくる対照的な2つの例をご紹介しましょう。

実務のスピードを上げたゲーミフィケーション

2000年代半ば、アメリカを拠点とする大手スーパーマーケットのターゲットでは、清算レジの前の行列がなかなか進まず顧客から苦情が相次いでいました。原因は、レジ担当者が商品をスキャンするスピードが遅いことです。そこでターゲットは、レジの画面にミニゲームを導入しました。このゲームでは、スキャンをしたときに決められた時間内にスキャンできればG(緑)、できなければR(赤)が表示されます。ゲームのルールはシビアです。音もなくレジ担当者にしか見えない画面上のゲームで82%のスコアを出せなかった場合、再トレーニングや降格の対象となってしまいます。逆に82%以上であれば昇進のチャンスがあります。このゲームを取り入れた結果、レジ前の行列が解消できただけではなく、レジ担当者の仕事に対する満足度も上がるという良い結果が出ました。

実務の体験を変えたゲーミフィケーション

オムニケアという介護施設向けの製薬会社では、24時間のITヘルプデスクサービスを提供しています。しかし企業が急成長にするにつれて業務が回らなくなってしまいました。電話の保留時間が20分を超え、30%近くの電話を受けられない状態が続きます。そこで企業は、現在かかってきている電話の件数、かかってきたタイミング、保留時間などの明確な統計が目で見て分かる新しいシステムを導入しました。効率よく業務を遂行できた従業員には賞品としてギフトカードが与えられます。企業側は、これで問題が解決できると思っていました。しかし、顧客への対応よりもスピードを重視したサービスに与えられるインセンティブは社内から歓迎されず、新システムの導入は失敗に終わります。高い技能を持つベテランのオペレーターたちは、仕事のスピードよりも顧客対応の内容で評価されたかったのです。

そこで、ServiceNowというクラウドベースのITシステムを使ったOmniQuestというゲームで、ヘルプデスクサービスの手順を管理することにしました。OmniQuestの中核となるのは、顧客対応の評価をポイント制にし、目標ポイントをクリアすることでバッジを獲得できるシステムです。目標のなかには電話を受けるスピードや、顧客の問い合わせに速く的確に対応するというチャレンジもあります。このゲームにより、パフォーマンスと士気の両方で即座に大幅な改善がみられ、電話の保留率と、電話がつながる前に顧客が電話を切ってしまうドロップオフ率の両方が80%低下しました。

従業員からのフィードバックでは、システムが提供する課題やクエスト、そして「5つの完璧な顧客評価を連続して取得する」といったパフォーマンス指向のゲームが気に入られていることが明らかになりました。ヘルプデスクで必要だったのは、業務のスピードアップだけではなく、仕事の体験をより魅力的でやりがいのあるものにする方法だったのです。

採用活動のなかのゲーミフィケーション

採用活動に取り入れられたゲーミフィケーションで有名なのはGoogleの“{first 10-digit prime found in consecutive digits e}.com.” と書かれた看板を使った採用キャンペーンでしょう。看板にはこの言葉以外には何もなく、数学に詳しくない人にはさっぱり分かりません。しかし、Googleにふさわしいギークたちは、このゲームに大きな興味を示しました。このパズルの答え“7427466391.com”には、さらに数式パズルが用意され、ユーザーがそのパズルを解ければ採用ページが開くという仕掛けでした。この例から、ジチャーマン氏は、採用活動におけるゲーミフィケーションは、候補者を企業のフィルターに通し、トップの人材を楽しく引きつけることに適していると述べています。

Quixeyというスマートフォン用の検索エンジンを開発する企業も、Googleと同じようなテクノロジーのバックグラウンドを持った人材を探していました。Quixeyはウェブサイト上にゲームを開設し、100ドルの賞金を用意しました。3つの練習問題を解けたプレイヤーは、最終ステージに進めます。最終ステージはスカイプで見ている視聴者の前で、アルゴリズムのバグを1分以内に見つけるというものでした。2011年の12月に成功者は38人となり、そのうち5人を採用。Quixeyが使った金額は3800ドルと、通常よりもずっと少ない予算で採用を成功しました。

企業戦略にゲーミフィケーションが欠かせない時代がやってくる

ジチャーマン氏は、これからの企業戦略にゲーミフィケーションが欠かせなくなるだろうと予測します。特に幼いころからデジタル機器に触れて育った若い世代を引きつけるには、ゲーミフィケーションは必然の要素となるでしょう。そして年配のステークホルダーにも新しく楽しい体験をもたらすはずです。また、手ごろな予算で従業員の行動をポジティブに変えることができ、その効果を計測しやすいゲーミフィケーションは人材育成の分野にも向いています。


タイトル The Gamification Revolution: How Leaders Leverage Game Mechanics to Crush the Competition

著者 ゲイブ・ジチャーマン / ジョゼリン・リンダー

出版社 McGraw-Hill Education (初版2013/4/16)

ISBN-10 : 9780071808316

ISBN-13 : 978-0071808316