研修設計時に見落としがちな2つのポイント(実践編)

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プロフィール
大日本住友製薬株式会社
研究企画推進部 管理グループ主任部員
人事・人材育成担当 田中孝幸
製薬会社にて工場・本社・研究所と異動しながら、新卒入社以来一貫して人事業務に携わり、労務や福利厚生などの管理系から人事制度策定、採用・人材育成といった企画系まで幅広く経験。現在は研究職を対象とした人材育成、組織開発を行う他、研究組織の風土変革プロジェクト、オフサイト活動などに関わる。

こんにちは、大日本住友製薬の田中孝幸です。前回の記事では、「研修設計時に見落としがちな2つのポイント」として研修の「事前」と「事後」の重要性をお話しました。(前回の記事はこちら

今回は私が担当している「病院見学研修」を例に、具体的にどのように実践すればよいかをお話します。

この研修は、院長の講話や病棟の見学などを行い、患者の生活や医療従事者の仕事といった医療現場を身近に感じてもらうものです。患者や医療従事者が抱えているリアルな悩みや課題を理解することで、受講者に「自分たちが誰に何を提供しようとしているのか」という問いと向き合ってもらい、業務にさらに情熱を傾けてもらうことを目的としています。2013年から毎年1~2回程度実施しており、事後アンケートでは毎回、受講生のおよそ9割が「大変満足」または「満足」と回答する好評の研修です。

「職場」で期待値を高め、「受講生同士」で盛り上がる

「上司」や「同僚」が受講済み

継続的に実施しているおかげで、部長や課長といった役職者や職場の先輩たちの多くが過去に受講済み、という状況が生まれています。受講者には研修の感想を職場でフィードバックしてもらっています。未受講者もいますので内容には触れないようお願いしていますが、未受講者も研修の良さを直接聞くことで、受講に対する心理的なハードルが下がります。

このように、研修の価値を経験的に理解している人たちが新しい受講者に対して期待値を高めるコミュニケーションが取れるため、継続すること自体が価値になります。もちろん、良いコンテンツを設計することが大前提ですが、一つの研修だけにとどまらず、研修と研修をつなぐといったより大きな流れを意識することも大切だと考えています。

仕事が違えば思いも異なる

見学研修では事前オリエンテーションと称して前日の夕方に全員を集め、自己紹介も兼ねて目的や思い、研修への期待などについて話す時間を設けています。前日の夕方にしているのは勤務地が遠い社員への配慮です。見学研修は終日実施しますので、前日のお昼に移動してもらい、夕方に事前オリエンテーションを行えば日をまたいですべて参加できると考え、設計しました。

この研修は、自主的に応募する方法で受講者を集めており、職種や役職も多様です。当然、日ごろ感じている課題も違えば、研修に参加する目的も異なります。したがって、じつは他者の話を聞くだけでも相当な刺激があります。この刺激が受講者個人の目的や思いをさらにブラッシュアップします。

また、ほとんどの受講者が職場のコミュニケーションによりポジティブな印象をもって研修に臨んでいますので、全体的に前向きな発言が多いのが特徴です。前編の「受講者同士で目的や思いを語りあう」でも触れましたが、人は自分の発言と一貫性のある行動をとろうとしますので、ポジティブな発言はそのままポジティブな行動にもつながります。

他の研修の例では、事前に担当役員との座談会を設計することもあります。役員も受講者の上司ですから、上司との対話という意味でも効果的ですし、役員の持っている課題認識や研修に込めた思いまで含めて対話を促すことで、研修に対する前向きな姿勢をさらに引き出すことができます。

受講者をチームとして機能させる

事前、事後も含めた全体の流れと受講者の盛り上がりや一体感をグラフで表すと、どの時点でどの程度盛り上がっていることが望ましいかが分かります。受講者の気持ちや仲間意識などを研修開始前に高めておくことで、研修がよそよそしく始まるのではなく、受講者全員がしっかりとひとつのチームとして機能します。

見学は座学の研修とは異なり、自分の見ている視野の中で自分が欲しい情報しか手に入りません。しかし、お互いに目的、思い、人となりなどを知っていれば、自分以外の誰かが欲しがっている情報にも興味が向くようになります。

逆も同様で、誰かが自分の欲しい情報を得ているかもしれません。元々自分が欲しかった情報でも、解釈に幅が生まれるかもしれません。いずれにせよ、結果的に情報量は圧倒的に増えます。研修当日に受講者が初対面という状況は、情報量の観点からもったいないのです。

事前オリエンテーションで目的などの共有が一通り終わると、研修とは無関係な組織や仕事の話に脱線することもありますが、相互理解を深めるという意味ではどのような話題でもよいので、盛り上がっているならば無理に話題を戻すことはしません。じつはこの研修における懇親会も「打ち上げ」ではなく「チームビルディング」を目的として、研修の前日、事前オリエンテーションの後に行っています。

徹底的な言語化が受講者の熱量を生む

体験後の言語化が研修転移の第一歩

事後に「何を見たのか」「どう感じたのか」を自分なりに言語化し、他者と共有することも大切です。話すことで自分の見てきたもの、感じたことを整理することができますし、他者の話からさらに新しい気づきを得ることもあるでしょう。

見学研修では事後フォローとして、情報や感想の共有だけでなく、今後自分はどうありたいかを語り合う時間を見学翌日に設けています。事前オリエンテーションの段階から丁寧に関係性を構築し、見学という共通体験を経ることで、こういった内面と向き合う抽象度の高いテーマであっても率直な対話が可能になります。

なお、この見学研修で述べている事前、事後は研修当日と連続していますので、すべて研修の一部と表現することもできます。重要なことは「どこまでを研修と呼ぶか」ではなく、「本来意図したコンテンツの前と後をどのように設計するか」です。例えば、以前は見学の約2週間後に事後フォローを実施していましたが、翌日に変更したことで関係性を維持し、臨場感を保てるようになったため、結果的に対話の熱量は上がりました。

職場でのアフターフォローはあえて依頼しない

継続性を意識した設計は、ここでも効果を発揮します。既に述べた通り職場に受講済みの方が多いため、あまり細かく依頼しなくても自然と上司や同僚が「どうだった?」と聞いてくれています。また、受講者にも職場でのフィードバックをお願いしていますので、過去に受講された方々も自身が受講されたときの気持ちを思い出すなど副次的な効果があるようです。

研修担当者からのフォローも最小限です。一般的な研修は、何かしらのスキルを習得して活用していただくことを目的としており、様々な角度から実践度合いをチェックします。しかし、この見学研修では「業務にさらに情熱を傾けてもらうこと」が目的であり、職場に戻って「具体的に何をするか」は本人に委ねていることから、チェックはしていません。

研修が効果的であったかどうかの客観的な評価については、研修実施直後の簡単なアンケートを実施しているほか、受講者本人や上司とは時折雑談しながら、口頭で何が変わったかを確認する程度にとどめています。

まとめ

事前と事後に関わらず、適切に上司や職場を巻き込むこと、受講者同士の対話を大切にすることをお伝えしました。毎年続けている研修などであれば、受講済みの方をうまく巻き込むことは非常に効果的です。

また、受講者の関係性に着目し、どういう状態で研修に臨んでほしいか、そのためにどのような設計をすればよいか、といったことをしっかりと考え抜くことが、研修がうまくいく秘訣だと考えています。他にも色々な方法が考えられますので、ぜひ研修にあった事前、事後を設計してみてください。