職能給制度を導入するための7つの手順

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プロフィール
株式会社アウトソーシングテクノロジー
採用キャリアアドバイザー 若林聖子
求人広告代理店で営業職、エンジニア派遣会社で人事労務事務を経て現職。どんな任務にアサインされても常に1カ月目で成果を報告できるよう、垂直立ち上げを自らのテーマとしている。メンバーと共に業界トップクラスの採用に向けての組織構築を実行中。

こんにちは、若林です。前回は、人事評価制度の種類とメリット・デメリットについてご紹介いたしました。その中でも今日は職能給制度について、実際に制度導入のプロセスをご紹介しようと思っています。

職能給制度とは、働く人の能力を元に等級と賃金を設定し、人が成長し能力が上がれば等級・賃金も上がるという「人」を軸として作られた人事制度です。成長することを目標にするため、育成を視野にいれて研修等を導入することとなり、離職抑制に繋がります。ただ運用が非常に難しく、結局は年功的な運用になっていたり、昇格降格などがしづらく人件費の高騰に繋がってしまうなど、制度としての課題が発生しているというのが実情です。今回は、そういった課題を改善するために、どのような点に留意して制度を創りあげればいいかを考えていきたいと思います。

運用課題を解決するための重要なポイント

職能給制度の持つ課題には、年功的になりやすい、公平適正な評価がしづらく、昇格降格をさせづらいなどがあります。この運用課題を解決するため、能力評価の結果として明確に昇格降格のサインが出てくる計算書を作成する必要があります。作成のプロセスとして、誰が・どの仕事内容を・どれくらいのウエイトで請け負っているか、ということを分解していくことが必要です。

つまり、「どの部署のどの立場の人が、どんな仕事を、どの分量保持しているか」ということを、細かく調べていくというプロセスを入れることが出来れば、非常に高い精度で運用が出来るということになります。多くの企業では、そこまで時間をかけて計算書を作り込むことが難しいため、非常に難易度が高いといえますが、逆に、この部分さえ綿密に作り込むことが出来れば、職能給制度はその機能を十分に発揮できるといえるでしょう。組織が大きくなればなるほど、様々な部署や立場ができていて作り込みが難しくなるため、中小規模の企業であればチャレンジしてみるとよいと思います。

制度立ち上げまでの大まかな流れ

はじめに、職能給制度の大まかな流れをご紹介します。

  1. 制度作り込み時に必要となる現状の情報を、事前に調査しておく。
  2. 役職呼称・等級定義・職種職群別の、社員等級区分の検討表を作成する。
  3. どのような基準をクリアすれば昇格するのかを表す、昇格要件の検討表を作成する。
  4. 経営陣によって「期待する社員像」を明確化する為、資格等級基準書を作成する。
  5. 能力の査定を行う為、業務ひとつひとつにランク付けをし、課業一覧表を作成する。
  6. 課業の中で個人がどの業務を担当しているかを示す、個人別課業分担表を作成する
  7. 今まで準備した資料を用いながら、評価を行う為の能力評価計算書を作成する。

作成するものの目的と順番は上記の7段階になりますが、それぞれがどんな資料であるかを細かくご紹介したいと思います。

①制度作り込みに必要となる現状の情報とは

現在の企業の実態を把握したうえで、その後の等級区分や昇格要件などを作成したほうが実態に即したものになるため、まずは自社の現状把握からスタートすることをおすすめいたします。

自社の業態や売り上げ規模などに応じて必要となる項目が変動しますが、例えば労働費用の現状分析、賃金分析、役職・職種・資格などが挙げられます。

労働費用とは、科目別金額、月例賃金構成比など。賃金分析とは、役職別、資格等級別、年齢階層別、雇用形態別、職種別の水準や構成比などです。役職・職種・資格とは、職位の段階がどれくらい存在しているか、役職ポスト数と資格者数、年齢別人員構成、男女および雇用形態別人員構成などを指しています。

先に調べることには手間がかかりますが、現状の社員の構成や実態を把握することで、新制度運用時のシミュレーションや運用時の問題点を検討することが出来るため、制度検討の最中に調べていくよりも、はじめに情報を吸い上げておいた方が戻り工程も少なくなり、結果としてより効率的に設計が進められます。

②社員等級区分の検討表を作成する

会社の実態に合わせ、経営者の思い描く未来の自社の姿とも合うように、社員等級区分の検討表を作成していきます。能力を基準とした等級を創りだすために、まずは職種・職群区分から考えます。職種のカテゴリがどれほどあるのか、職群(一般職・総合職など)がどれほどあるかに応じて昇進コースを分けて設定することも視野に入れます。

次に資格等級数をいくつにするかを決定します。役職の数などで資格等級数を決めることが一般的で、主として6~9段階で設定するのがよいかと思います。そして、各等級に対して代表的な役職を設定します。〇等級で課長・部長という考え方ではなく、課長になるには〇等級以上が必要、という等級ありきの役職設定が通常となります。

各等級に対し、どのような能力が必要かも言語化し、新規入社者の学歴年齢などに応じた初認等級の設定の有無も決定します。等級の設定がここまで出来れば、モデルケースの設定として、どれくらいの年数で上の等級に昇格するまでかかるのかを検討します。最短で何年かかり、最長で何年、最も時間をかけて定年まで在籍した場合の等級設定なども考えておきます。最後に社内での役職とは別に各等級に応じた対外的な呼称を付ける場合は、設定を行います。

③昇格要件の検討表を作成する

②にて等級区分を決定した後、それぞれの等級に昇格するための要件をまとめた検討表を作成します。 要件の事例としては、「能力区分経験年数」、「初任格付(大卒・短大卒・高卒など)」「最短年数」「自動昇格」「人事考課」「課題図書」「研修」「面接」「推薦(誰から何名)」「適性」など、それぞれの等級に応じてどのような昇給要件が必要かを検討します。

④資格等級基準書を作成する

上記までで、人事制度の大枠が固まったら、それをまとめる資格等級基準書を作成します。これは各等級の社員に求められる「能力」を、言語化したものです。期待する能力を文章で表現し、どのような能力を保持すればよいかがイメージ出来る状態である必要があります。能力を示すものになるので、管理職・専門職のような、等級が同じでも求められる能力が違う立場のものがあれば、その立場の分だけ資格等級基準を明記します。この基準をベースに、次の項目で出てくる課業一覧表を作成していきます。

⑤課業一覧表を作成する

④の資格等級基準書を元に、「社員が各等級でどのような業務に従事しているか」を表す課業一覧表を作成します。それぞれの部署の業務を分解し、どの等級の社員が行う業務なのかを振り分けていきます。この一覧表を作成することで、自身の次等級に上がるためにどのような業務を担当する必要があるか、その業務を任されるために、どのような能力を身につける必要があるかを、社員が確認出来るようになります。項目としては、業務名・内容の詳細・各業務において、習熟度がどのレベルに達していれば何等級の能力があるかという項目で作成を行います。こうして仕事と能力(等級)との関係性を明らかにすることで、職能給制度が初めて機能するようになります。

⑥個人別課業分担表を作成する

⑤の課業一覧表の中で、社員個々人がどの業務を行っているのかを一覧にする作業を行います。分担課業の内容ごとに、ウエイト・習熟度の評価を表し、課業一覧表に記載されている習熟度に応じた業務内容ごとの等級を項目として反映していきます。こうすることで、課業一覧表で作成した業務ごとの能力を、個々人がどの程度保持しているか、どの等級の仕事をどれ位のウエイトで行っているかをはっきりと数値として表現することが出来ます。

習熟度の評価の部分では、本人評価と上司からの一次評価や決定評価などを項目として作成してみるとよいかと思います。習熟度は、◎・〇・△などの3段階が適切でしょう。細かい段階にすればするほど、一業務における習熟度によって部長クラスと一般社員クラスが同じ業務を担当するという図式になるため、広く等級をまたぐのは事実に合致しにくくなるからです。

⑦評価を行う為の能力評価計算書を作成する

個人別課業分担表によって、担当業務のウエイト・習熟度・各業務の等級レベルがはっきりしたら、その能力を評価する計算書を作成します。

全ての業務の集計を行うため、社内に存在する等級ごとに、◎・〇・△3段階の習熟度、対象等級業務数・業務のウエイトを表記していきます。どの等級の能力を、最も大きなウエイトで行っているのかが、個人ごとに表されるため、本人の本来等級がどこにあるのかがわかるという仕組みになります。たとえば、4等級の業務のウエイトが多い社員が、実際は3等級の社員であれば、昇格検討対象に入ってくるということになります。逆もまた然りで、実際の等級よりも低い能力の業務に従事している社員は降格検討対象にもなりうるなど、現状の能力評価が明確に表されるようになります。この能力評価を元に、③の昇格要件である面接等、他の査定項目も含めて、昇格させるかどうかを検討することが可能です。

まとめ

以上が、職能給制度を作成するまでの流れになります。この制度を創りあげるまでに最も重要なプロセスとなるのは、課業一覧表の作成工程です。どの業務を、どの習熟度で行えれば、何等級の能力を保持するという定義づけが的確・適正であるかどうかによって、この制度の従業員納得度が決まります。認知度・納得度が低いと、人事制度として十分に機能しなくなりますので、各業務の能力定義づけは社員へ広くヒアリングを行い、現場の声を反映したものにしていただければと思います。