メンタルヘルスケアの現状と対策とは?成功事例を紹介

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プロフィール
【監修】社労士 加治 直樹
1級FP技能士、社会保険労務士。20年以上にわたる銀行勤務を経て独立。銀行員時代は、融資及び営業の責任者として不動産融資・住宅ローンの審査・資産運用など幅広く相談業務にあたる。在籍中に特定社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士の資格を取得。退職後は「かじ社会保険労務士事務所」を開設。現在は労働基準監督署にて企業や個人の労務相談業務、セミナー講師など幅広く活動中。会社と従業員双方にとって良い職場をつくり、ともに成長したいと考える。

大企業では労働者に対するメンタルヘルス対策が順調に進んでいますが、予算や人員に余裕のない小規模事業場では、メンタルヘルス対策が十分に行われているとはいえない現状です。今回は、企業規模の違いによってメンタルヘルス対策にどのような違いがあるのか解説します。

メンタルヘルス対策の基本は3段階の予防

最初に、メンタルヘルス対策の基本を確認しましょう。メンタルヘルス対策の基本は、3段階の予防だといわれています。それぞれの予防について解説します。

健康なときから行う一次予防

メンタルヘルス対策における一次予防とは、健康な労働者に対して行う予防です。健康の維持・増進を図ることができるよう、労働者に働きかけを行うことがメインとなります。心身に良い生活習慣や適度な運動など、健康な状態を維持できる知識を啓もうしたり、運動関係のイベントを催したりといった活動が一次予防にあたります。

最近では「健康経営」と呼ばれる経営手法が注目を集めています。これまでは、健康については従業員の自己責任と考えられ、会社として従業員の健康を維持することをそれほど重要視していませんでした。しかし、人手不足問題を背景に健康経営が企業の業績向上に寄与すると考えられるようになり、多くの企業が健康経営に取り組んでいます。

これは、従業員の健康を維持・増進する取り組みを「ヒトへの投資」とし、企業の業績向上に結び付くという考えです。「組織の活性化」「生産性の向上」「従業員のやりがい」、つまり働き方改革の取り組みの1つとして、「健康経営」と呼ばれる企業の経営手法が注目を集めているのです。

メンタルヘルス対策における一次予防は、従業員の活力向上をもたらし、生産性の向上に繋がります。従業員がいきいきと働くことが、企業の魅力づくりや企業のイメージアップに貢献し、採用増加・人材不足の解消に繋がるのです。

発症疑い・ハイリスクな場合に行う二次予防

一次予防が健康の維持・増進を目的にしているなら、二次予防の目的は、メンタルヘルス不調者の早期発見・早期治療です。メンタルヘルス不調の発症疑い、あるいはハイリスクな状態にある労働者を早期発見・治療を行うことで、メンタルヘルス不調の重症化を予防します。

二次予防として行われるメンタルヘルス対策の一つは、50人以上の事業場では義務化されているストレスチェックです。ストレスチェックは、メンタルヘルスに不調を起こしかけていたり、すでに不調に陥っていたりする労働者を発見します。さらに、組織的にメンタルヘルス不調に陥っていないかも確認して職場環境の改善を検討する材料も発見できます。

ここで注目したいポイントは、ストレスチェックのアフターフォローが二次予防の成否に重要な役目を果たすという点です。ストレスチェックを実施しても、結果分析・早期治療まで行わなくては、二次予防の目的は果たせません。

企業には健康配慮義務があります。労働安全衛生法では、健康の保持増進のための措置として健康診断や医師による面接指導などの義務について定めています。労働者が50人以上いる事業場に義務付けられているストレスチェックもその一つです。

また、労働契約法5条でも労働者の安全への配慮についてさだめており、この配慮は単なる身体だけではなく精神的な安全(健康)も含まれると考えられています。つまり、精神的に追い詰められている労働者へのケアも、企業の責任で行う必要があるのです。企業内にメンタル不調の疑いがある従業員がいれば、早期発見・早期治療により重症化を防ぐことは大切です。対応をおろそかにすれば、企業の責任を問われる可能性も考えられます。

メンタルヘルス不調者に対して行う三次予防

三次予防は、疾病者の合併症・機能低下・再発などを予防する目的で実施されるメンタルヘルス対策です。メンタルヘルス不調に陥ると、心の症状だけでなく、身体にもさまざまな症状が出る場合があります。例えば、ストレスで胃潰瘍になって入院などといったことにならないように、メンタル面の治療を進めてストレスを緩和する、といったケースです。

実際にメンタルヘルス不調を発症して治療中の労働者に対して実施します。産業医や保健師など保健スタッフによる継続的なフォロー、休職している労働者の復職支援プログラムなどが三次予防の一例です。

労働者の58.0%は仕事上のストレスを抱えている

厚生労働省の平成30年度労働安全衛生調査(実態調査)によると、労働者の58.0%は、何らかのストレスを抱えている状態です。年代別に見ると30~39歳が64.4%と最も高く、次いで40~49歳の59.4%と続きます。これらの年代は、昇進して役職がつくようになり、中間管理職として仕事の質が変わるなど、責任が重くなっていく時期と重なります。

具体的に「どういった事柄がストレスの原因になっているか」という質問で多く挙げられたのは、以下の通りです。

  • 仕事の質・量:59.4%
  • 仕事の失敗、責任の発生等:34.0%
  • 対人関係:31.3%

特に「仕事の質・量」は、6割近くの人がストレスの原因としています。

ストレスにさらされている30~40代の労働者は、企業にとって働き盛りの人材です。貴重な戦力がメンタルヘルス不調で長期離脱となるとかなりの痛手であり、特に小規模事業場では深刻な状況に陥る可能性があります。

企業の主戦力である労働者の離脱は、ほかの従業員への負担の増加に繋がります。たった一人のメンタルヘルス不調でも、ほかの従業員への負担が増加すればメンタルヘルス不調は連鎖して悪循環に陥ることは珍しくありません。人手不足が深刻化する現代で主戦力の従業員が退職することは、企業にとって大きな痛手、経営に大きな影響を与える可能性があるのです。

事業場の規模別メンタルヘルス対策の現状

それでは、事業場のメンタルヘルス対策はどうなっているのでしょうか。厚生労働省の平成29年度労働安全衛生調査(実態調査)では、事業規模別にメンタルヘルス対策がどこまで進んでいるかが読み取れます。

ここでは、事業場の規模に着目して、それぞれの規模でメンタルヘルス不調者の状況やメンタルヘルス対策の違いについて解説します。

メンタルヘルス不調による1ヵ月以上の休職は大規模事業場が多い

1ヵ月以上の長期にわたり、メンタルヘルス不調による休職をするケースは大規模事業場に多いという特徴があります。1,000人以上の大規模事業場では、過去1年間に1ヵ月以上休職した者の割合は0.8%ですが、事業場の規模が小さくなるにつれてこの割合は下がります。30~99人では最低の0.3%、10~29人では0.4%という結果です。

これは、大企業ほど休職制度がしっかりしていて、転勤や配置転換により人員の補充ができるので、長期間の休職が可能になるということかもしれません。事業場の規模が小さくなるほど長期間の休職は困難になります。

メンタルヘルス不調による退職は小規模企業に多い

メンタルヘルス不調による退職の場合は、休職とは逆に小規模企業に多い傾向にあります。1,000人以上の大規模事業場では、過去1年間にメンタルヘルス不調で退職した者の割合は0.2%です。この割合は、事業規模が小さくなるにつれ高くなり、0~29人では0.4%と最も高くなりました。

小規模事業場では、「メンタルヘルス不調に陥った労働者は退職になりやすい」という傾向です。

メンタルヘルス対策に取り組んでいる企業は6割弱

メンタルヘルス対策に取り組んでいる企業は、平成29年度で58.4%、平成30年度で59.2%となっており、約6割弱の企業で実施されている状況です。特に、ストレスチェックが義務化されている50人以上の事業場では、9割前後の企業がストレスチェックを実施しています。

ストレスチェックが義務化されていない50人未満の小規模事業場でも、50%以上の事業場が何らかのストレスチェックを実施している点に注目です。

取組内容のトップは「ストレスチェック」で6割強

メンタルヘルス対策の取り組みとして最も多かった内容は、やはり50人以上の事業場に義務化された「ストレスチェック」で62.9%です。次いで、「労働者へのメンタルヘルス対策の情報提供など」が56.3%でした。

小規模事業場のメンタルヘルス対策の問題点と解決策

ここまで、事業場のメンタルヘルス対策の現状を確認してきました。しかし、小規模事業場には、メンタルヘルス対策に関して、いくつかの問題点があります。ここでは、その問題点と対応策についてご確認ください。

どうしても組織構造上難しい二次予防と三次予防

先ほど紹介した調査では、事業規模が小さくなればなるほど、メンタルヘルス対策の二次予防と三次予防が手薄になるという状況も浮き彫りになっていました。小規模事業場では、組織上、あるいは予算の関係などで、産業医や保健師などの保健スタッフを確保することが難しいためです。ストレスチェックをして高ストレスの労働者を発見できても、面談などができず、二次予防が不完全です。三次予防の復職支援も、産業医や保健スタッフとの連携がなくては難しくなります。

取り組みやすい一次予防に力を入れる

まだ、メンタルヘルス対策を始めていない小規模事業場なら、まずは取り組みやすい一次予防に関する取り組みから始めることを検討したいところです。例えば、ストレスチェックの導入と、メンタルヘルス不調にならないための知識を情報提供することから始めるとやりやすいでしょう。


そして、事業主・管理職自ら健康について積極的に取り組むことが大切です。簡単なことから始めることで十分です。「通勤で一駅歩く」「昼食にサラダ等1品を加える」「残業をしない曜日を作る」など、できることからでかまいません。事業主自らストレス軽減に取り組み、会社全体の意識改革を行うことが大切なのです。

二次予防・三次予防は外部の専門家との定期的な連携でカバーを

ストレスチェック後の高ストレス者面談や休職者の復職支援に関しては、事業所内での対応が難しい場合、外部機関連携で行うことも可能です。「産業医や保健スタッフと契約を結んで事業所内で面談」という形が難しい場合は、外部の専門家と連携を取り、二次予防・三次予防を行うという対策を検討しましょう。

小規模事業場でのメンタルヘルス対策取り組み事例

最後に小規模事業場でのメンタルヘルス対策の取り組み事例を紹介します。メンタルヘルス対策をこれから考えるうえで参考となるケースです。

中災防の事業を利用して体制を整え外部の医療機関と連携して三次予防

メンタルヘルス対策として、中小企業が手薄になりがちなケアを、外部機関と連携して実現した事例です。

この事例では、事業場外資源の専門家として中災防(中央労働災害防止協会)にアドバイスを受けました。すでに社内組織としてできあがっている安全衛生委員会を利用して従業員へのフォローができる体制を整えています。ストレスチェック結果の分析は、中防災に送り返ってきた分析結果を活用することで、メンタルヘルス不調者の早期発見対策の二次予防も可能にしました。

外部の公的支援を得てトップダウンでメンタルヘルス対策を導入

もう一例は、強力なトップダウン式でメンタルヘルス対策を導入した事例です。この事例では、中災防の支援を受けながら、社長自ら「心の健康づくり計画」を作成し、事業場内に広めるよう徹底しました。また、二次予防としてラインによる面談やケアを強化し、上司が早めに労働者への声掛けなどを実践しています。

小規模事業場でのメンタルヘルス対策について解説しました。小規模事業場は、一次予防のメンタルヘルス教育、あるいはストレスチェックの実施まで行っていても、その後の二次予防と三次予防ができていないケースが多くみられます。自社がまだメンタルヘルス対策を行っていない場合、外部機関と連携を取ることで、二次予防、三次予防が可能です。

「これから自社のメンタルヘルス対策に取り組みたい」と考えている方は、二次予防や三次予防を行える体制を整えてみてはいかがでしょうか。