36協定の基礎から法改正のポイントを解説!時間外労働の上限規制をご存知ですか?

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プロフィール
行政書士 井手 清香
滋賀大学経済学部ファイナンス学科卒業。大手システム会社に勤務後、退職。ライターとして各種記事を執筆。2014年、ライター事務所「ライティングスタジオ一清」を開設。2018年度行政書士試験合格、2019年、滋賀県大津市に「かずきよ行政書士事務所」を開業。法律関連のライター兼現役の行政書士として活躍中。楽しく、分かりやすい法律の記事をお届けするために、日々奮闘中。

仕事が終わらなければ、残業をしてでも終わらせるという働き方は過去のものになるかもしれません。従来であれば、残業に規制はありませんでしたが、大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から残業時間が規制されます。うっかり残業規制を超えないように、時間外労働制度を今一度確認しましょう。

時間外労働制度の基本

時間外労働とは、法定労働時間を超えて働いた時間のことを言います。労働基準法では、労働時間の上限が定められており、1日8時間及び1週40時間以内とされています(法定労働時間)。さらに、休日は毎週少なくとも1回と決められています。法定労働時間を超えて働くためには、36協定の締結と届出が必要です。

所定労働と法定労働の違い

所定労働時間は、法定労働時間の範囲内で設定される、就業規則、契約上の労働時間のことをいいます。会社内の規定なので、所定労働時間=法定労働時間になることもありますし、必ずしも一致しないこともあります。

36協定とは

「時間外・休日労働に関する協定届」のことを一般に36協定と呼んでいます。労働基準法第36条では、「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(中略)又は前条の休日(中略)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。」と定められています。よって、労働基準法で定められた法定労働時間を超えて働くためには36協定が必要になります。協定の内容は、時間外労働を行う業務の種類や、上限時間などについてです。

36協定を締結したのち、所轄の労働基準監督署に届け出ることで、時間外労働ができるようになります。逆に言えば、36協定無しに時間外労働をさせることはできませんし、もしそのような労働をさせた場合は労働基準法違反になります。

改正前と改正後の比較

残業といっても青天井ではなく、厚生労働大臣告示という形で基準がありました。しかし改正前は、特別条項付きの36協定さえ締結してしまえば、実質的に残業時間に規制はありませんでした。特別条項とは、臨時的な理由で厚生労働大臣告示の時間を越えて残業できるという内容の取り決めです。特別条項付きの36協定を締結すれば、時間外労働を上限なく行わせることができました。厚生労働大臣の告示に違反しても、罰則がないので強制力がありません(行政指導はありました)。

今回の法改正で、厚生労働大臣告示が、罰則付きの法律になりました。月45時間、年360時間が時間外労働の上限となりました。また、臨時的な理由であっても、残業時間の上限が定められることになったので、36協定に特別条項を定めて実質的に際限のない残業をするということが不可能になりました。

違反した場合の罰則と経過措置

今回の法改正に違反すると、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。罰金だけではなく、懲役刑も含むようになったことから、かなり厳しくなったと考えられます。

ただし、すべての企業に一斉に適用されるわけではなく大企業は今年4月から、中小企業は来年の4月から適用されます。中小企業の範囲については、資本金の額または出資の総額と常時使用する労働者の数について規定があります。小売業の場合、資本金の額または出資の総額が5000万円、常時使用する労働者数が50人以下という、どちらかの条件に当てはまれば中小企業として扱われます。この他、サービス業、卸売り業、その他について基準が設けられています。

経過措置としては、2019年4月1日(中小企業の場合2020年4月1日)以後の期間のみを定めた36協定については、時間外労働の上限規制が適用され、2019年3月31日(中小企業の場合2020年3月31日)を含む36協定については上限規制が適用されません。その次に締結する36協定から上限規制が適用されることになります。つまり、36協定の締結時期によっては、上限規制の適用時期がずれることがあるということです。

猶予、除外される事業や業務

最後に、今回の法改正で上限規制の適用が5年間猶予、除外される事業や業務について紹介します。建設事業、自動車運転の業務、医師については2024年3月31日まで上限規制が適用されません。特に、医師については具体的な上限時間を省令で定める予定です。また、鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業も、5年間の猶予期間内は規制の一部が適用されません。猶予期間後については、それぞれの業種によって取り扱いが異なります。該当業種の方は、詳しく調べることをおすすめします。

新しくなった36協定

新しくなった36協定についてご説明します。

時間外労働の限度

今回の法改正と同時に、36協定に関する指針が定められました。内容面でのポイントは以下の8点です。

  1. 時間外労働と休日労働は必要最小限にとどめるということが明確に定められました。
  2. 労働者に対する安全配慮義務について、36協定の範囲内で労働をさせた場合でも義務を負うということが明確になりました。労働時間が長いほど過労死との関連性が高いということも取り上げられています。
  3. 時間外労働・休日労働の業務の区分が細かくなり、範囲を明確にしなければなりません。
  4. 労働基準法に定められた残業(月45時間・年360時間)の限度時間を超えるには、特別な事情が必要です。特別な事情があっても、できるだけ限度時間に近い時間数を設定しなければなりません。そして、その特別な事情についても、具体性が求められます。
  5. 1か月未満の期間で労働する労働者であっても目安時間を超えないように努めること
  6. 休日労働の日数と時間数を可能な限り少なくすることです。
  7. 限度時間を超えて労働させる労働者の健康や福祉を確保するための措置が定められました。具体例として、医師による指導や勤務間インターバルなどが挙げられています。
  8. 今回の法規制の見直しで適用除外・猶予された事業や業務でも、限度時間を考慮することとされています。

形式面でのポイントは、1日、1か月、1年について時間外労働の限度を定めること、協定期間の起算日を定めなければいけないということです。また時間外労働と休日労働の合計については、月100時間未満、2〜6か月平均が80時間以内にすることを協定し、確認のためのチェックボックスが付きました。

過半数代表者の選任

労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する「過半数代表者」が36協定を締結します。過半数代表者は、管理監督者ではなく、投票などの方法で選出されており、使用者の意向によって選出された者ではない、という規定があります。

上限規制への対応方法

時間外労働と特別条項の回数は、36協定で定めた時間や回数、を超えてはいけません。また時間外労働と休日労働の合計時間は毎月100時間以上にならないようにします。さらにに、1か月あたりの時間外労働と、休日労働の合計時間について、2〜6か月の平均をとったとき、1月あたり80時間を超えないよう管理します。

これらの規定を守るためには、細かい労働時間管理が必要になります。毎月の時間外労働、休日労働の時間数などを把握し、36協定の対象期間における特別条項の回数と、時間外労働の累積時間数を計算します。次に、1か月あたりの時間外労働と、休日労働の合計時間を算出して、2〜6か月の平均を取り、1月あたり80時間を超えていないかチェックします。

労働時間の計算を徹底し、あとどれくらい働けるのか考えながら働くということが重要になります。

時間内に仕事を終わらせるために

ここまで読んで、今の仕事の状態のままでは時間外労働規制に引っかかってしまうだろうとご心配な方もいらっしゃるでしょう。時間外労働が当たり前になってしまい、時間外労働ありきで業務を回してきたという場合は特に対応が難しく感じられるかもしれません。そこで、この際助成金を利用して業務改革に取り組んでみてはいかがでしょうか。

助成金を活用した業務改革をする

厚生労働省や、中小企業庁、各種自治体などで、新しい働き方や事業に取り組む事業者について助成金・補助金を出していることがあります。各種助成金を利用することで、コストを抑えつつ働き方改革を推進することが可能です。補助金や、助成金の良いところは返済の必要がないというところです。

なお、助成金の申請手続代理の依頼先については、根拠となる法律により異なります。例えば、厚生労働省が実施している助成金については労働関係法規が元になっていることが多く、社会保険労務士の独占業務です。一方で、経済産業省の外局である中小企業庁の補助金や、各種自治体の助成金申請に関しては行政書士が取り扱っています。働き方改革に直結する助成金については、厚生労働省が数多く取り扱っています。自社に合うものがないか、検索してみるといいでしょう。以下では、厚生労働省の助成金以外をご紹介します。

IT導入補助金

IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者がITを導入する際に活用できる補助金です。系列の補助金として、小規模事業者持続化補助金と、ものづくり補助金があります。経済産業省に採択され、一般社団法人サービスデザイン推進協議会が運営している補助金です。

小規模な事業者で、まだITを取り入れていない事業者の場合は、小規模事業者持続化補助金(〜50万円まで)を活用でき、HP作成や、決済会計ツール、翻訳ツールなどを導入できます。

次に、現時点で簡易的な電子ツールが導入されている企業の場合は、IT導入補助金を活用できます。補助金額は40〜450万円、補助率は1/2です。導入できるツールの中には、労務管理ツールも含まれます。時間内で仕事を終わらせるために、日々のルーティンワークをIT化してはいかがでしょうか。

最後に、比較的規模が大きく、事業を拡大するためにITを活用したいという企業の場合は、ものづくり補助金が最適です。新しいサービスを開発するための、IT面での投資をしたいという場合に、補助額100万〜1,000万円、補助率最大2/3で、新製品を開発するためのシステムや機材を導入できます。

経営革新

経済産業省の外局である中小企業庁が推進している、中小企業向けの支援制度です。中小企業経営革新支援法という法律がもとになっています。働き方改革を超えて、新しい事業活動を始めたいという時に活用できます。経営計画を立て、国や自治体に申請し、経営革新計画の認定を受けると、中小企業経営革新事業費補助金や低利融資制度、信用保証の特例などを受けることができます。

現在の業態に限界が見え始めたら、思い切って新しい業態に乗り出し、新しい働き方を見つけてもいいかもしれません。時間の長さと成果の大きさが必ずしも比例しないという業種もあります。

時間外労働規制のまとめ

今回は、時間外労働規制を守るにはどうしたらいいかということをご紹介しました。知らずのうちに時間外労働規制を超えてしまわないためには、まずはしっかり今回の法改正を理解する必要があります。また、36協定の協定書式も新しくなり、労働管理も細かくなりました。労働時間管理を意識的に行いましょう。補助金を活用してルーティンワークを効率化するのも一手ですし、長時間労働をしなくてもよい業種を開拓し、進出するというのも革新方法の一つです。