離職率ほぼゼロ&25年連続黒字!秘訣は社員ファーストの環境づくり

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プロフィール
株式会社日本レーザー
代表取締役会長 近藤宣之(こんどう・のぶゆき)
慶應義塾大学工学部を卒業後、日本電子株式会社に入社。労働組合執行委員長や取締役米国法人支配人などを経て、1994年に株式会社日本レーザーの代表取締役社長へ就任。

日本企業において、新卒入社から3年以内の離職率は、2018年の統計で31.8%と年々増加傾向にあります。つまり、およそ3人に1人の新卒が、キャリアを積んで企業の中核を担う役職やポジションに就く前に退職しているということになります。また、中途採用に関しても、売り手市場により人材確保が非常に難しい状況が続いています。そこで、10年以上退職者がゼロを誇る日本レーザーの会長である近藤宣之さんに「採用ターゲット(人物像)の考え方」や「国籍・学歴・年齢・性別にとらわれない評価制度」など、人材流出が時代の風潮によるものだけではないことを証明する、採用活動や組織づくりについてお話を伺いました。

離職率の少ない会社の条件

人材流出の原因にはどのようなパターンがあるとお考えですか?

なぜ新入社員の3分の1が、3年以内に会社を辞めてしまうのかということを考えた時に、その原因は大きく分けて3つあると思っています。1つ目は仕事に関して退屈でつまらなさを感じてしまっていること。2つ目は待遇や収入に関して不満をもっていること。3つ目は人間関係に悩んでいること。これらが「この会社で働いていきたい」という熱意や向上心を喪失感へと変えてしまうわけです。

そういった状態に陥ってしまう企業の特徴などはありますか。

ひと言でいってしまえば、社員の方たちに対して、会社の理念が浸透していない場合が多いです。入社当初はやりたい仕事だったとしても、会社が目指す方向や目的が不明確であれば、自分の存在価値を見出せなくなりますし、どんなに給与が良くても、評価の基準が曖昧であれば不満が出ます。経営者がしっかりと社員と向き合い、理念やフィロソフィ、そして夢や将来へのビジョンを描けている状態でなければ、業界問わず同じように離職率の改善は難しいでしょう。

社員の能力や意欲を伸ばし、貢献度を高める上でも、理念の浸透は必須と言えそうですね。

その通りです。「会社は誰のものか」と考えた時に、それは第一に「社員のものである」という視点を持つことが私は大切だと確信しています。「顧客満足第一」を掲げる企業は沢山ありますが、社員が自分の会社や提供する商品、サービスに満足できていない状態では、お客様を満足させることなど不可能です。私たち日本レーザーも、まずは社員の満足を追求し、「周りから必要とされる喜び」「周りのお役に立つ喜び」「周りから感謝される喜び」という3つの喜びを社員に与えることが会社の役割だと考えています。

会社が優先すべきは、利益より人であるということでしょうか?

会社を運営していくために、利益は必要不可欠です。例えば、商品をつくるにはお金が掛かりますし、雇用を守るためにもお金は必要です。ここで重要となるのは、利益を「目的」にするのではなく、人を大切にするため、すなわち会社が存続するための「手段」という考え方をもつことです。その思考がベースにあれば、会社よりも働く人を優先する姿勢が社員にも伝わり、必要とされている幸福感へと繋がります。結果的に生産性も品質も高まり、定着率も向上するはずです。

これからの採用に必要なのは「多様性」

多くの企業が新卒の一括採用を行っていますが、そこでの対策などはあるのでしょうか?

これは、会社の規模にもよると思いますが、新卒採用におけるプラットホームには、大企業から中小企業まで、非常に多くの会社がひしめき合っています。そんな土俵で、知名度の高い大企業に中小企業が勝てる確率は低い。もちろん、今までにない事業内容や画期的なサービスを展開するベンチャー企業などは、フックとなる魅力を打ち出すことで勝機を見出せるかもしれませんが、それでも優秀な人財を確保するのには苦戦を強いられるはず。そのため、中小企業は「大企業と争わない」という選択肢を選ぶのもひとつの手です。ホームページで常時応募できる通年採用を行ったり、SNSやブログを活用するなどは多くの企業がすでに行っていると思いますが、一度載せたからと満足することなく、鮮度のある情報を常に更新し、自社の理念や魅力をこれでもかというくらいに発信することが大切です。

日本レーザー様も通年採用を取り入れていらっしゃいますよね?

はい。厳密に言うと約2割が新卒で入社していますが、一般的な4月入社の一括採用ではなく、縁故採用やホームページからの応募です。残りの8割は中途入社で、有名な国立大学出身で大手から転職してきた男性や、中国籍の優秀な 女性など、多様な人財が当社を選んでくれました。このような採用ができているのも、自社の魅力をホームページやあらゆるメディアを駆使して発信してきた結果だと思っています。国籍・性別・年齢・学歴・経歴を問わないことにより、異質な能力が混ざり合い、それが社員ひとりひとりにとって良い刺激になっています。

やはりダイバーシティを意識することは、今後の日本企業に必要だとお考えですか?

ダイバーシティ経営は、これからの社会において必然になると考えています。日本人のみ・男性中心といった身分制度や、先ほど挙げた新卒一括採用などを続けていくことは、難しい時代に突入しています。魅力的な人財と出会うためにも、今までの採用にまつわる固定観念と決別して、多様なライフスタイルや家庭の事情に応じた柔軟な雇用契約などを用意する必要があるでしょう。雇用を守るという点では、働ける能力と意欲がある限りは機会や場を与え続ける生涯雇用、教育・研修制度などの支援も重要になると思っています。

例えば、生涯雇用は採用を決める面接が重要になると思いますが、失敗しないテクニックなどがあればお聞かせください。

日本レーザーでも生涯雇用を行っていますが、そこで重要視していることは「理念に基づく実践的採用方法」です。どのような人財を必要とするのかを明確にし、面接や作文で応募者の価値観を判断材料にしています。具体的には、笑顔・感謝の心・成長意欲・利他精神などを基準に、適性心理・潜在意識テストを行い、その後に最終面接というフローを徹底しています。採用の失敗は入社後の育成ではカバーできないので、何度もフィルターをかけて見極めることが重要。そのため、もし採るかどうか迷った場合は絶対に採用しません。また、面接時の質問についてもこだわっています。例えば、「わが社に入社したらどのように貢献したいですか?」といった就職対策本やマニュアル本に正解が出ているようなありきたりなことは聞きません。「目標を設定して達成した経験は?」「何か問題を解決したことがあるか?」「これまで無かったものを生み出したことがあるか?」など、その人の価値観や責任感、自己革新した経験を聞くようにしています。

モチベーション向上のための方策

採用後の取り組みとして、社員が「働き続けたい」と思える方策はありますか?

社員のモチベーション向上には、ソフト(社風)とハード(仕組み)の両方が必要です。ソフトの改善とは、良い企業としての風土醸成が肝となります。「言いたいことが言える雰囲気」、「社長や上司から社員に対して笑顔で接する」、「沈黙ではなく会話が飛び交う職場づくり」、「会社負担でコミュニケーションの場を提供する」、「誕生日などには家族への労いの制度を設ける」など、社員が「自分は大切にされている」と実感できる社風になることで、自主的に会社をより良くしようという行動を起こしてくれるようになります。

ハード(仕組み)はどのような手段があるのでしょうか?

ハードの改善に関しては、透明性がある仕組みづくりを行い、納得性のある運用を行うことが重要になります。例えば、「社員の実情に合わせた就業規則の改定」、「年功序列にとらわれない評価制度」、「理念や方針を浸透させるための社内報や全社会議の実施」、「頻繁に1対1で役員と向き合える面談」などが挙げられます。古くから慣れ親しんだルールや仕組みを変えるのは簡単なことではありませんが、ダイバーシティの観点からも会社のハード面を柔軟に変化・進化させられる企業こそが、社員のモチベーションを高く維持できるのだと思います。

モチベーションを維持するため、育成の観点での有効な取り組みなどはありますか?

私の考えは、まず社長自らが社員教育を行うべきだということです。経営者にはそれぞれの想いがあります。どのような目的で会社を立ち上げたのか、この先どのように進んでいきたいのか、その実現に向けて社員に何を望んでいるのか…など、経営に対する志や方針を正しくしっかりと伝えることができるのは、経営者しかいません。それを伝えずして、最初から業務に関する指導や外部の研修に任せてしまっては、当事者意識をもったモチベーションの高い社員を育成することは難しくなるでしょう。日本レーザーでは、少人数ずつ新入社員を集めて社長自らが社員に教育を行う「社長塾」を開催しており、会社の考え方や方針をメインに伝えています。採用人数がある程度少数である中小企業こそ、トップが教育に力を注ぐことで、社員のスタンスは大きく変わるはずです。

確かに、理念の浸透には社長塾のような場が重要になりますね。人事制度でも工夫されている点はございますか?

日本レーザーでは、すべての数字を社員に公開しています。決算状況だけではなく、損益計算書、賃借対照表、グループや個人の受注や粗利に至るまで全てです。数字が明らかになることで、「評価」や「収入」に対して納得できるため、社員が不満を抱くことはありません。実力を認め合う関係性も育まれますし、競争意識が生まれてモチベーションが上がると話す社員もいます。また、「クレド」にも工夫を凝らしています。一般的なクレドにある経営理念やミッション、ビジョンではなく、経営側が社員に約束することや、社員と家族の満足が第一であること、そして社員が会社に対して守るべき約束などが書かれています。まさに、働き方の契約書であり、会社の憲法のようなものです。このクレドに書かれている内容をどれだけ守られているかを点数化して、評価制度にも取り入れています。社員を大切にする会社であっても、社員を甘やかしてはいけません。それを明確にしたことが、社員の圧倒的な当事者意識を育み、離職率を実質ゼロにできた要因だと自負しています。

ダイバーシティを意識した経営と柔軟な制度改革の先には、常に社員を大切にする理念がある。それが、しっかりと社内に浸透している状態こそ、人材流出を防ぐポイントであることがとてもよく分かりました。本日はありがとうございました。

社員を大切にすれば、企業の悩みは解決する

人材不足が加速する中で、定着率も低下してしまうのは企業にとって致命的。特に、退職者が出たから採用するという悪循環に陥ってしまうと、時間もコストもかかってしまいます。今回お話を伺った日本レーザーも、近藤宣之さんが社長に就任した当初は同じような状態だったそうです。現状を変えるには、今までのやり方を変えるしかありません。まずは、社員が「自分は大切にされている」と実感できる風土づくりや、社員ひとりひとりの声に耳を傾ける頻度を増やすなど、できることから始めてみてはいかがでしょうか。そこに掛けた労力や時間は、コストではなく、困難を共に乗り越えてくれる社員を育む投資になるはずです。