AIと共存する組織を作るために今から気にしたい採用・人事評価対策

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プロフィール
株式会社野村総合研究所
右:岸 浩稔(きし ひろとし)
左:小野寺 萌(おのでら もえ)
岸 浩稔/ICTメディア・サービス産業コンサルティング部主任コンサルタント
小野寺 萌/ICTメディア・サービス産業コンサルティング部コンサルタント

AIの導入が各企業で加速している昨今、「AIによって様々な職業が失われてしまうのではないか」という声がたくさん聞こえてきます。なくならない仕事、なくなる仕事を議論するシーンも見られ、AIはビジネスパーソンから恐れられる存在になっているのではないでしょうか。

しかし、それは大きな間違いです。AIが導入されることによって、今まで以上に競争力のある企業へと成長していくことができる。より専門的な人材の活躍の場がひらけ、高い評価を得られるようになる時代がすぐそこまで来ています。これから先、AIとの共存が組織を強くする。そこで、人とAIの共存について研究されている野村総合研究所の岸浩稔(きし ひろとし)さんと、小野寺萌(おのでら もえ)さんに、今から気にしたい採用活動や人事評価についての対策ポイントなどをお聞きしました。

AIは本当に私たちの職業を奪うのか

昨今、AIを導入する企業が増えていますが、AIによって職業が奪われてしまうと心配する人も多くいます。実際、職業はどのくらい無くなるのでしょうか?

岸浩稔(以下、岸):各職業のAIによる代替可能確率を推計して、「49%の労働力がAIに置き換えられる」と発表しました。この数字を聞いて、AIによって仕事が奪われる、と思われた方が増えたのではないでしょうか。推計しましたが、私たちはAIによって仕事が無くなるとは思いません。仕事が無くなるのではなく、「仕事の中身が変わる」というのが私たちの見解です。

もっとわかりやすくお伝えすると、「AIが担当するタスク」と「人が担当するタスク」が棲み分けられ、人が担当するタスクがどんどん新しいものに変わるのです。例えば、昔の駅では駅員さんが切符を切るために改札にいましたが、今では自動改札やICカードの普及によって、そこにいる必要はなくなりました。このような時代の変化があったものの、駅員さんの集団失職の話は聞きません。おそらく、駅の窓口やバックオフィスで様々な仕事を行うようになったため。最近では、外国人観光客向けの案内をしている方などをよく目にしますよね。このような変化が、AIの導入を通じてあらゆる職業でも起きるのが、これからの時代です。

これから先、代替されるのはどのような仕事でしょうか?

岸:AI時代には「創造的な思考」と「ソーシャル・インテリジェンス」と「非定型」の3つのスキルが求められます。

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この3つのスキルを踏まえて、どういう仕事が無くなるか考えると、創造的ではない仕事がまず無くなります。そして、ソーシャル・インテリジェンスですが、平たくいうとヒューマンタッチな部分。そこは必要としていなくて、定型的な仕事が無くなります。ようするに、ルーティンワークはストレスフルなことが多いため、AIとの親和性が高く、代替しやすいのです。

小野寺萌(以下、小野寺):ストレスの根源となっているのが「面倒くさい」や「本当に自分がやるべき仕事なのか」、「技術が進展すれば、機械でもできる」と思ってしまう仕事です。そういう気持ちを解消できるようになれば、一人ひとりの負担を軽減でき、その他の仕事に時間を使えるようになります。

ストレスの多い仕事がAIに代替されていくのでしょうか?

岸:ストレスフルな仕事がすべて代替できる仕事とは限りません。介護や看護のような仕事は代替可能性が低い。仕事の中身を見ていくと人の動作を支援したり、会話をしたりと、非定形なことやコミュニケーションが必要な仕事で、AIやロボットには簡単に置き換えられないのです。また、建設作業員はフィジカルに動かなければいけないため、事務作業はAIが代替できても、現場作業の代替は難しい。そういった点から、実はオフィスワーカーなどのホワイトカラーのほうが仕事は大きく変わると予測されています。

小野寺:ですが、オフィスワーカーの仕事が無くなるのではなく、先ほどもお伝えした「仕事の中身が変わる」という変化が来ると考えています。よりクリエイティブなことや、ディスカッション、ネゴシエーションといった高度なコミュニケーションが求められる方向に仕事がシフトしていく。そのため、仕事の中で発揮するスキルも変わっていくと考えています。

AIによる職業の変化は採用計画に影響するのか

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AIの導入によって仕事の中身が変わることがわかりました。では、職業の変化によって採用計画にどのような影響を及ぼすのでしょうか?

岸:創造的な仕事ではなく、ソーシャル・インテリジェンスが必要なく、定型的な仕事であれば、AI化はどんどん進みます。そうなればコストは下がって、効率的に生産できる。しかし、仕事が変わらないと、企業は競争社会で生き残れません。AIにはできない仕事を自らの力で作れる人材を採用することが、AI時代には求められています。AIを導入したばかりだからといってルーティンワークが得意な人を採用しても、結局はAIに仕事を代替するわけですから、目先の問題ばかり見ずに未来を見据えた採用計画を立てることが必要になります。

AIにはできない“仕事を創造できる人材”の採用を進める中で気をつけるポイントは、異なるスキルを持った人材を取り込むことです。多様なスキルを持つ人材を集めると最初は効率が下がるかもしれませんが、長期的に見ると多様な人材が集まった組織は付加価値の高い仕事ができる組織になります。AIに任せられる仕事は任せ、多様な人材で価値創造を生み出す。そういった組織にしていくことが重要です。

AIができない仕事を創造できる人材を採用する時に、注意して見るポイントなどはありますか?

小野寺:これまでの採用は、まんべんなくみんな同じ尺度で表現できて、キレイなレーダーチャートを描ける総合職モデルがいいとされてきました。ですが、これからの時代は、レーダーチャートで見るとギザギザでキレイな形ではないけれど、他の人が持っていないスキルや価値観を持っているという観点で人材の採用判断をしていく必要が出てくると思います。

岸:総合職モデルの人材採用は、例えるなら金太郎飴型です。でも、これからは「物凄く交渉が上手い」とか、「知識の幅が広くて色んな話題に対応できる」とか、「情報感度が高くて様々な話を噛み砕いて説明できる」とか、一人ひとりの得意な部分を見極めて採用、育成する必要があります。先ほど、小野寺がレーダーチャートで見るとギザギザと言いましたが、例えるなら金平糖型。その尖った能力を持っている人材かどうかを見ていくのが採用のポイントになります。

AIとの協働を職場に浸透させられる人材とは

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採用する人材はAIが導入された環境に入るので抵抗なくスタートを切れると思いますが、すでに働いている社員は少なからずAIに抵抗を持つと思います。その抵抗をどのようにすれば解消できるのでしょうか?

小野寺:抵抗を持たない、もしくは抵抗を解消するためには、具体的にAIが何をしてくれるかを伝えることが大切です。例えば、「RPA (ロボッティック・プロセス・オートメーション)でデータ分析ができるようになったので、ここのパートはソフトが自動的に分析してくれます」と、きちんと伝えれば「私が担当する仕事はこの部分なのだ」と理解できるので、抵抗なく受け入れられると思います。

岸:自分の仕事を振り返ってみれば、機械に任せたい仕事はたくさんあると思います。AIが導入され、仕事をやってくれるようになることで自分たちはもっと楽しいことを生み出せる。そういう内容をお伝えすると、AIを抵抗なく受け入れられるのではないでしょうか。

AIが何をしてくれるのか明確にわかれば、AIに仕事を任せても、その先に自分がどんなことをできるのか見えてきて楽しくなりますね。とはいえ、AIに詳しい人がいないとAIとの協働は浸透しないように思えるのですが?

岸:その通りです。AIが全部やってくれるからAIのことはAIに任せればいい、ということではありません。昔、産業革命時代に機械化が進み、その機械をメンテナンスできて、油をさす人がいました。それと同じように、自分の会社に適したAIを選べて、何をサポートできるかわかる、そうしたAIに油をさせるような人がいなければ、職場へのAIの浸透は時間がかかってしまいます。業務を分解して、どのAIを入れれば業務にレバレッジを効かせられるのかを考えられるIT人材の採用も視野に入れておくべきです。とはいえ、プロフェッショナルな人材は多くはいませんし、そこまでのレベルを求めなくても大丈夫です。AIとは何か、ITでできる業務とは、といったところを理解できている方であれば、AI導入の判断がしっかりとできると思います。

AI導入による人事評価への影響

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先ほどお話の中で出てきた「金平糖型」のような人材が入社してくるようになると、これまでの評価基準では計れなくなると思いますが、どう変えるべきなのでしょうか?

岸:今の人事評価は金太郎飴型の採用を行ってきた延長にあると思います。職階が高い人が高い処遇をもらえる、というのが今ですね。それが多様な人材が増えて、多様な仕事をするようになると、職階自体が意味をなさなくなる。例えば、「主任はこういう仕事をしなければいけない」という職階ごとの決まりがなくなります。個々のスキルを見極め、この人はどういうスキルを持ち合わせていて、どんな活躍をしてくれるのか。そこを個別に評価する必要が出てくるのです。

こうなると相対評価が難しくなるため、評価軸を変える必要があります。今までは売り上げ貢献という物差しで測っていた「成果評価」ではなく、個人がどんな能力をつけて、それを伸ばしたかの物差しで測る「能力評価」にシフトしていくべきだと思っています。成果指標で見ている限り、多様な人材は担保されない。多様な人材を留めていくためには、能力を個々の物差しで評価することが重要になります。

個人の能力を評価するとなると、評価者との密なコミュニケーションが必要になると思うのですが、マネジメントが主な業務のマネージャーならまだしも、中小企業ではプレイングマネージャーが多く存在します。そういう方々が多様な人材に合わせて評価していくのは難しいと思うのですが、現実的にできるのでしょうか?

岸:成果を出さなければいけないし、評価もしなければいけない。業務が切迫して、すべてが中途半端になってしまう。そういった「プレイングマネージャーの悲劇」と呼ばれる状態が多く起きています。私たちはマネージャーの役割についても研究しているのですが、プレイング(タスク管理)とマネジメント(ピープル管理)は別々に進めていかなければいけないのではないか、というのはマネージャー論としてあります。タスク管理に関しては、AIがサポートできるところです。そうしたサポートを受けながら、マネージャーはピープル管理にシフトしていくべきなのです。

小野寺:今まで、マネージャー職に就く方は、フロント業務で言うと営業成績が良くて管理職に上がったケースが多い。しかし、その方が必ずしもマネジメントが得意かというとそうではありませんよね。ですから、営業が得意な人とマネジメントが得意な人は別々にいると捉えて、タスク管理とピープル管理の部分を切り分けることによって、マネージャーの負荷は下がっていくと思います。そうなった時に、メンバーもより満足度の高い仕事ができるのではないかと考えています。

岸:前述の職階自体が意味をなさなくなる話とつながっていて、マネジメントする人がマネージャーである必要はなく、処遇も営業として働く人よりも高い必要はない。これからは、人材をよく理解できて、モチベートできて、適切な評価ができるマネジメントのプロがいればいいのです。これこそ多様な人材がいる組織のあり方で、そういう能力を持つ人が色んな会社を渡り歩くというのが健全な姿ではないかと思っています。中小企業は組織がコンパクトですから、AIを導入して変化が生じるタイミングで、採用する人材も変えることは大切だと思います。そして同時に評価の形も変えることが、企業成長につながるのではないでしょうか。

多様な人材を評価するためには、マネジメントに特化した人材の採用も進めることが重要なのですね。続々とAIが導入されていく時代の流れを読み、適切な採用計画や人事評価の対策を取ることが大切だと感じました。本日はありがとうございました。

AIとの共存で強い組織づくりを

AIとはデジタル技術です。世の中のデジタル化が進む中、AIというデジタル技術の導入は避けて通れるものではありません。AIを導入しなければ、企業は生き残っていくことができない時代に入ってきています。各方面で導入が進められているAI。そのAIが職業を奪うという話を鵜呑みにせず、導入されることで、どんなメリットが生まれるのか。どういう人材がいればAIへの抵抗を軽減しつつ職場に浸透させられるのか。そして、人事評価などをどのように変えていけばいいのか。ということをお話いただいた内容をヒントに、強い組織づくりを目指して取り組んでみてはいかがでしょうか。