効果が見られない問題はどこ!?人事がやりがちな間違った働き方改革

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プロフィール
株式会社人材研究所
代表取締役社長、組織人事コンサルタント 曽和利光さん
京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。また多数の就活セミナー・面接対策セミナー講師や上智大学非常勤講師も務め、学生向けにも就活関連情報を精力的に発信中。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。大企業から中小・ベンチャー企業まで幅広い顧客に対して事業を展開。
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まず始めに、なんのための「働き方改革」なのか。厚生労働省のサイトを見ると、その目的は「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」を踏まえて、「投資やイノベーションによる生産性向上」「就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ること」という課題を解決する内容になっています。つまりは、働く人が減っており、さらに働くことを阻害するものが増えているので、人々が働きやすくすることで生産性を向上させ、これまでの日本の生産力=経済力を維持・向上させようということと言っていいと私は思っています。

「生産性」とは

キーワードとなっている「生産性」(より正確に言えば「労働生産性」)ですが、日本は世界の主要国の中でも「生産性の低い国」とよく言われます。この「生産性」とは一体どういう意味なのでしょうか。一般的に生産性とは、投入した資源(input)と産出した成果(output)の比率を指します。

つまり、(労働)生産性とは、「労働による成果(≒付加価値、利益)」÷「労働投入量(≒人件費)」。同じ人件費で生み出す付加価値、利益がどれぐらいになるかを示す指標です。

「生産性」を上げる方法は2つしかない

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以上のような生産性を計算する式を考えれば、生産性を上げる方法は2つしかないことがわかります。分母である「人件費」を減らすか、分子である「利益」を増やすかです。どちらかが実現すれば、生産性は向上します。

まず前者ですが、人件費を減らすと言っても基本給などの報酬水準を単純に減らしても納得いくはずはなく、モチベーションの低下に即つながることで、生産性向上に対してマイナスの効果となってしまい、元も子もありません。結局、「少ない労働時間で同じ成果を上げる」ということを目指す、つまり労働時間をいかに削減できるかという問題に変わるわけです。

労働時間を減らすことが先行している

そこで、昨今の日本においては、まず人件費を減らす方向に動いて、様々な施策を行なっているというわけです。政府や企業が行なっているものは、多くがこの分母(人件費)を減らす施策のように見える。例えば、時間外労働の上限規制(原則月45時間、年間360時間)は、残業代が減ることで人件費が減ります。

高度プロフェッショナル制度も、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しない制度。ワークライフバランスとか、フルタイムでなくても働きやすいようにするとか。これも、結果的には「少ない時間で働く(働ける)」ことを推進しているとも言えます。私が見ている限り、生産性を上げるためにinputを減らすことばかりに注力しているように見えるのです。

単純に労働時間を減らせば利益も減る

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もちろん短時間で同じ価値を生み出すことができれば、目論見どおりの成果を生み出すことができるかもしれません。しかし、問題はまさにそこにあります。机上の論理では確かに同じ利益を少ない労働時間、少ない人件費で出すことができれば生産性は上がるのですが、実際にはそう簡単にいきません。

もし働く人の個々の能力が変わらない状態でinputとなる労働時間を減らせば、付加価値とは結局「労働時間」と「能力」の積ですから、outputである付加価値、利益は減る。つまり、労働時間を単に減らすだけでは、生産性は決して向上しないのです。

これまでの流れを式で表現すると、「生産性」=「付加価値」÷「人件費≒労働時間」≒「労働時間」×「能力」÷「労働時間」=「能力」。ようするに、「生産性」の本当の正体とは働く個々人の「能力」に他ならないことがわかります。そこに手をつけずに労働時間を減らせば、連動して付加価値、利益も減ることになり、結局は生産性の向上はないでしょう。

インセンティブシステムを作っただけでは人は変わらない

「現在の日本人や日本の会社の働き方は非効率なことが多い。そのため、労働時間の規制を行えば、個々人はその中で創意工夫をすることになり、能力が向上していくのではないか。だから、労働時間を減らせば生産性は向上するのではないか」という意見もわかります。もちろん、ある程度はそういうこともあると思いますが、私にはナイーブな意見に感じるのです。

というのも、私は様々な企業で人事コンサルティングをしています。ですが、事業に貢献する特定の行動を従業員にしてもらいたいと思った際に、多くの会社が「制度」を導入して解決しようとしても、あまりうまくいかないのを見てきている。だから、人は「こうすれば評価され、こうすれば非難される」というインセンティブシステムを作っただけでは、その通りに動けるほど自律的ではないのです。「労働時間を減らせ」「しかし、アウトプットは維持せよ」とゴールだけを指示して、それが達成された際のインセンティブ(や達成されなかった際のペナルティ)を設定するだけで実現するというのは、甘い考えであると思います。

まず、能力開発を先行させる

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では、どうすればいいのか。私のおすすめは、最初に従業員の能力開発や、その集合体である組織の能力開発、つまり組織開発を先行させること。「短い時間で同じ成果」を出すために、現時点で明らかに非合理で非効率なやり方があればそれを改善するだけでなんとかなると思いますが、それは改善して理想的なやり方にする際のみの一時的な効果。ですから、一度仕事の仕組みの効率性が達成されてしまえば、あとは生産性の向上は見込めません。そこから先は、個々人が「短い時間で同じ成果」を出せるような「能力」を身につけるしかないのです。

つまり、暗黙知となっている仕事の形式知化(マニュアル化や仕組み化、等)によって、能力開発目標を設定。それとともにノウハウ展開が可能となる素地作りを行った上で、不足する能力を獲得できるような仕事への教育的アサインや従業員のスキルを向上させる研修やトレーニングを実施するのです。これが「働き方改革」を最終的に実現するための最重要ポイントではないでしょうか。

パーソナリティによる配置最適化で能力を発揮しやすく

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ただ、人の能力を開発するということは、一朝一夕ではできないことも事実。一定の時間がかかります。ですから、個々人の能力開発の成果をじっと待つのではなく、成果が出るまでの間に、もっと言えば、能力開発の成果を早くだすために、まず、環境を整えることが重要です。その環境とは、ずばり「パーソナリティによる配置」。通常、「その仕事ができるか」という能力的観点から企業は配置を考えます。もしくは個々人が「何をやりたいか」という志向的観点から考えることもあります。

しかし、ここで抜けているのが性格などのパーソナリティの観点。最適なチーム作りのためのパーソナリティテストであるFFS(Five Factors & Stress)を提供しているヒューマンロジック研究所の様々な調査によれば、パーソナリティの相性を考慮して配置を行うことで、個々人の生産性、ひいてはチームの生産性が向上することがわかっています。「やりやすい相手と一緒に仕事をすれば、もともと持っている能力を発揮しやすい」というのは考えてみれば当たり前の話ですが、多くの企業はできていません。配置を変えることは一瞬ですし、その効果は即座に現れます。

「働き方改革」を成功させるためには順番が大事

まとめると、まず「働き方改革」の鍵となるのは、現在表面的にそうなってしまっているような「労働時間の削減」ではなく(それはそれで重要ですが、それだけだと単なる「休み方改革」)、個々人の能力開発にあるということを理解する。また、個々人の能力開発を促進し、早く効果が現れるようにするために、チームの構成員のパーソナリティを考えて最適な配置にすることが最初にすべきことです。

つまり、「パーソナリティによる配置の最適化」(並行して業務の効率化)→「能力開発の実施」→「労働時間を短くするインセンティブ制度の導入」という順番が重要であると思います。現在は、残念なことに最後の「労働時間」ばかりにフォーカスされていますが、それはまさに「無茶振り」というもので、その前にやることがたくさんある。「働き方改革」も「急がば回れ」なのです。ぜひ、皆様の会社でも各種人事施策の導入順序を再度検討されることをおすすめします。