売上2億円を失ってまで働き方改革を実行した「幸楽苑」の目的と想い

目次

プロフィール
株式会社幸楽苑ホールディングス
代表取締役社長/新井田 昇(にいだ のぼる)さん
福島県出身。1997年に慶應義塾大学卒業、三菱商事株式会社入社。2003年に幸楽苑(現幸楽苑ホールディングス)入社。2014年に同社取締役、2017年に代表取締役副社長、2018年11月に代表取締役社長に就任。

昨今、労働時間の見直しや改善をはじめとした働き方改革が進んでいます。しかし、一方的な働き方改革によって、「退社後に外で仕事しなければいけなくなった」「休日返上で働かなければ目標を達成できない」という声も耳にします。

そんな中、2018年11月の新社長就任以来、現場の苦労を把握し、働きやすい環境づくりのために様々なチャレンジを続けている「幸楽苑」。新社長が就任前から温めてきた「大晦日の夜と元旦の店舗休業」の働き方改革は、世の中でも大きな話題となりました。

そこで、新聞広告で大々的な告知をした「大晦日の夜と元旦の休業」は、どのような目的で行ったのか。そして、働き方改革にかける想いについて株式会社幸楽苑ホールディングス代表取締役社長の新井田昇さんにお話を伺いました。

働き方改革のベースにある新井田社長の想い

年末年始はお客様の書き入れ時。そんな中、休業するのは大きな決断だったと思うのですが、どのような目的で働き方改革に臨まれたのでしょうか?

今回、大きな反響をいただいている「大晦日の夜と元旦の休業」は、大晦日・元旦という象徴的な日を休みにして、年中無休で営業している現場(店舗)で働く従業員に家族と一緒に過ごしてほしい、という目的がありました。

なぜなら、働き方改革のベースは「家族」にあります。仕事は、家族の理解と支えがなければできません。だからこそ、家族を大事にしながら働ける会社になれたら、従業員の家族からも応援していただけると思うんです。そんな素敵な会社にしていきたいと思って、社長就任を機に「大晦日の夜と元旦の休業」の働き方改革を実施しました。

「大晦日の夜と元旦の休業」を実現するにあたり、どのような苦労があったのでしょうか?

社長就任が11月だったので、「大晦日の夜と元旦の休業」を実施するまでに時間はあまりありませんでした。「幸楽苑」は日本全国に508店舗(2019年5月)もあります。そのため、本当に店舗を休みにしても問題ないかどうかをスピーディーに検討を重ねる必要があったのです。

そこで、社長に就任した瞬間に会長のもとへ向かい、年末年始を休みにしたい旨を伝えました。当初は反対されると思っていましたし、反対されたら根気強く説得しようと思って臨んでいたんですが、意外なことに「いいじゃないか!」と、あっさり認めてくれました。

目先の売上げや利益よりも、従業員に休んでもらってモチベーションを上げてもらうほうが長期的に見て得になることをすぐに理解してくれたんです。準備は大変でしたが、会長の理解もあって早期の実施を実現できたと思っています。

売上2億円を失っても実施した働き方改革の効果

実際に大晦日の夜と元旦の休業を知った従業員の反応はどうだったのでしょうか?

11月の全社会議で店長全員に「大晦日の夜と元旦の休業」の件をお話しました。休業の件を聞いた瞬間から、店長たちの表情が明るく変わっていくのが目に見えてわかりました。壇上からでも喜んでもらえていることを実感できたんです。

なかにはガッツポーズしている店長もいて、「大晦日の夜と元旦の休業」という大きな決断が、ちゃんと従業員のモチベーションにつながっていることを感じられたいい機会になったと思っています。

休業したことによって店舗にはどのような影響があったのでしょうか?

大晦日の夜と元旦を休業することで、2億円の売上げを失ってしまうことはわかっていました。それでもいいから休業しよう、ということで実施したんです。この休業は、なによりも現場で働く従業員に喜んでもらいたいという気持ちが強かったです。新聞広告でお伝えした「大晦日の夜と元旦の休業」が話題になりましたが、従業員が安心して休めるようにするため、多くのお客様にお知らせする目的で新聞広告を掲載したのです。

実は、休業したことによって新しい発見がありました。売上げロスのカバー施策として用意した、12月31日の年越し中華そばの販売と1月2日からの福袋や紅白餃子・紅白ラーメンの販売。この商品の売れ行きが好調で、1月2日の売上げは過去最高を記録しました。そして、既存店客数前年比は110%UP。既存店売上前年比は119%UP (福袋の売上げ含む)と、大晦日の夜と元旦の休業によるマイナスを取り戻すような結果になったのです。

毎年、お正月に来店されるお客様は全国で30万人もいます。初詣後に幸楽苑での食事を恒例行事にしているお客様もいると思います。それでも、きちんと事前に告知をしていたことで、お客様から「2日に行くね!」という声を多数いただくことができました。お客様にとっても、従業員にとっても、年末年始の休業はとてもプラスに働いたと思っています。

4年前から動き始めていた働き方改革

幸楽苑の大晦日の夕方と元旦の休業は大きな話題になりましたが、働き方改革を始めようと思ったキッカケを教えてください。

もともと現場というよりは本社サイドから働き方改革を始めました。というのも、6年前に出向先から本社に戻ってきたのですが、その時に今のままの働き方ではダメだと感じたのです。なぜなら、朝早くの経営会議のために、時には朝5時に出勤して、朝6時から会議をやる。それで定時に帰れるかというと、夜遅くまで仕事しているわけです。

早い人で20時くらいに帰り始めて、遅い人だと23時くらいまで仕事をして帰る。その光景を見ていて、「そんなに仕事があるのかな?」と思いました。出向先から本社に戻ってきたばかりですから、まずは観察することから始めたんです。そうしたら、あまり仕事をしていないことが段々とわかってきて、みんな上司がいるから帰らないということが見えてきました。

上司が残っているから帰りにくい雰囲気が社内に蔓延していたのですか?

そういうことですね。私自身、最初に就職した会社は商社で、その時に上司が残っていると帰りにくい経験をしました。この帰れない雰囲気が本社で蔓延です。

ゆっくり出社して、早く帰る。そしてしっかり休む。こういう状態にしてあげないと、みんなが幸せになれないし、新しい優秀な人も入ってこないと思ったわけです。そこで、まずは本社から働き方改革を始めようというのがキッカケでした。

この6年で本社のみなさんは早く帰れるようになったのでしょうか?

6年前、私は創業者の社長(現会長)に1つお願いをしました。それは、「土曜に社長(現会長)が来ると働き方改革ができないので、申し訳ないけど土曜は会社に来ないでほしい」と失礼ながらにお伝えしたのです。私の考えを理解していただいて、土曜に来なくなると取締役も来なくなりました。

そして、取締役が来なくなると部長も来なくなり、部長が来なくなると課長も来なくなり、課長が来なくなると全員来なくなりました。本社での働き方改革は優良企業並みに進み、休みもしっかりと取れる環境へと変わっていったのです。そうした変化の中で、現場(店舗)はお客様商売なのでなかなか働き方改革を行えていなかったのですが、3年前にようやく改革に着手することができました。

現場(店舗)に向けてどのような働き方改革を行なったのでしょうか?

労働時間が長いというのが現場なので、店舗で人手不足になると状況は厳しくなる。そこをなんとかしたいというのがあって、3年前から「店舗支援室」を作りました。人手が足りない店舗に応援に行ってサポート。これは、店舗で働く従業員の負担を少しでも軽減できないかと思って始めた働き方改革です。そういうことをやっていく中で、店舗の方々がまだまだ休みを取りにくい環境がありました。そこで、社長就任を機に取り組んだ働き方改革が、前述の「大晦日の夜と元旦の休業」につながっていくわけです。

なるほど。本社から始めた働き方改革から、現場(店舗)での働き方改革へとつながっていったのですね。働き方改革を推進していく中で、人事の方々はどのような活動をしてきたのでしょうか?

休日休暇や長時間労働といったくくりだけじゃなく、人事評価も働き方改革の1つだと考えてきました。そこで、人事部長と役員に公正な評価制度の作成をお願いしたのです。今までの評価制度は評価基準が曖昧で、目標設定も一方的だった。そのため、現場からの不満が多かったんです。

全員が納得する評価制度をつくるのは難しいですが、目標が明確になり、結果が出ればきちんと評価される。そんな公正な評価制度があれば従業員に喜んでもらえると思ったのです。評価制度をつくるために、外部パートナーに協力を依頼し、人事と共につくり上げていきました。2019年4月から活用していくことが決定。これまで以上に従業員のモチベーションが高くなることはもちろん、公正な評価によって給与や職級が上がり、従業員の家族にも喜んでもらえるようになることが、今からとても楽しみです。

新井田社長が大切にしている「家族を大事にできる会社づくり」が、これからさらに働きやすい幸楽苑をつくっていくのですね。本日はありがとうございました。

本当の働き方改革は疑問から生まれる

新井田社長は、社長就任前から労働環境の問題点に気づき、行動をしてきました。どうすれば従業員に喜んでもらえるのか。従業員の家族にも喜んでもらえる働き方改革とはなんだろうか。そんな疑問を常に持ち続けてきたからこそ、革新的な働き方改革を実行することができたのだと思います。今、多くの企業で行われている働き方改革は、本当に従業員に喜ばれる取り組みなのでしょうか。もしかしたら、一方的な働き方改革になっているかもしれません。今一度、見直してみてはいかがでしょうか。