ワークライフバランス2.0――先進企業「赤ちゃんとママ社」に新制度導入のポイントを聞く

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働き方改革が叫ばれて久しい今日、ワークライフバランスの向上を啓蒙する時期は過ぎ、実のある結果を手にする企業が出始めています。そんな「ワークライフバランス2.0」とも言える今日の先進企業の中において、東京ライフ・ワーク・バランス認定企業に選ばれた「株式会社赤ちゃんとママ社」の事例は大きな注目を集めています。従業員27名の小さな企業が、他の企業に先んじて新しい制度を次々に導入しているのはなぜなのか、同社総務部の高橋栄美さんに話を伺いました。

社員に歓迎された施策とは

御社の業務内容を教えてください。

高橋栄美さん(以下高橋):育児雑誌の刊行と書籍の企画・制作・刊行を中心とし、保険指導用のパンフレットの企画・制作、育児相談事業、マーケティングリサーチ事業、イベントやセミナーなどの企画・運営などの事業を展開しています。弊社自体がワークライフバランスを向上させようと啓蒙しているため、自社の取り組みは進んでいると自負しています。

弊社はそもそも、赤ちゃんの健康と幸福を願い、約半世紀前に育児雑誌『月刊赤ちゃんとママ』を創刊しました。創刊以来のモットーは「安心できる楽しい育児」というものです。この雑誌の刊行を通して赤ちゃんの成長を見つめ直し、お母さんに勇気を与え、地域と社会に開かれた家庭を築き上げるお手伝いをさせていただいています。赤ちゃんの笑顔があるからこそ、家族や社会が豊かに明るく生きていけると考え、弊社は赤ちゃんを取り巻くすべての方々を応援してきました。

男女比と平均年齢を教えてください。

弊社は従業員が27名という小さな所帯です。男性が13人、女性が14人です。平均年齢は45歳くらいで20代~50代まで幅広い年齢層が働いているため、新制度導入に際しては、どの世代にとっても公平な制度にする必要があります。子育て世代だけに手厚い制度を設けるのではなく、独身者にも子育てを終えた世代にも受け入れられる制度ではければなりません。そんなことを考えながら、新制度を導入したり制度を改正したりしました。

具体的にはどのようなことをしましたか?

制度改正としては、①勤務時間の繰り上げ繰り下げは1時間を限度に15分単位で子供が小学6年生まで取得可能にしたこと、②時短勤務を子どもが小学校に就学するまでに延ばしたこと、③育児休業を1年から2年に延長したこと、などが挙げられます。

看護休暇が必要な子育て世代や、親の介護が必要な世代に対してはどんな制度を展開していますか?

まず子どもの看護休暇と介護休暇は有給休暇として年間5日間付与され、取得しやすくなっています。また配偶者の出産予定日から1か月以内に5日間取得可能なパパ休暇制度を導入しました。これに関しては制度制定以来、該当者である男性社員は全員が取得しています。

多様な働き方支援に伴い、会社として出産お祝い金を1子につき20万円支給しています。
また、復職しやすいように育児休業前に面接を行い、休業中の会社情報を連絡しています。復職時期が近づくと復職前面談を実施して復職に向けて希望などのヒアリングもします。

そうした制度は、社員からどういうふうに受け止められていますか?

高橋:独自の看護休暇に関しては、制度として導入している企業は多いと思いますが、有給として付与しているのは珍しいようです。弊社の場合、半休から取得できるので、時間を有効に活用できるという声を多く聞きます。また、育児だけでなく介護のほうも、看護休暇と同様に半休から取得できるようになっています。

そしていちばんありがたいという声が大きいのは、勤務時間の繰り上げ繰り下げです。これは1時間を限度に、15分刻みで取れるようになっています。たとえば、弊社の定時は9:30~18:30なのですが、9:15に出社すれば18:15に退社してよいという制度です。また、予定していた1日の仕事が完了したら、定時の1時間前に帰宅してもいいという制度もあります。これらを組み合わせて、たとえば9:15~17:15を勤務時間としている人もいます。

小学校低学年の子どもがいる社員にとっては、保育園よりも学童保育のほうが時間が短いので、勤務時間の繰り上げ繰り下げ制度のおかげで迎えの時間に間に合うという意見を多くもらっています。

弊社で育児休業を取りやすいのは、休業中にも連絡を密に取っているからです。たとえば全部署の会議の議事録を送付したりしているので、アウェイ感や疎外感がなく、会社の流れをわかったうえで復職できるのです。従業員が会社とのつながりを肌で感じ、安心してもらえる(喜んでくれる)点だと思います。

子育てが理由での離職した人はゼロ

新制度を導入したり制度を改正したりして、離職率はどうなりましたか?

高橋:私は入社9年目ですが、この9年の間に子どもができたために離職した人は一人もいません。ちょうど今日から産前休暇に入る社員もいるのですが、来年の4月には復職したいと言っています。昨年は2名が育児休暇から復職しています。

みなさん辞めたくないのですね。

高橋:弊社の社長が「産休や育休を積極的に活用して欲しい」というスタンスなので。ちなみに社長は男性です。

新制度の導入や制度改正はいつから始めたのですか?

高橋:10年くらい前から少しずつです。最初は毎月第2週の水曜日をノー残業デイにしようというとても小さなことから始めました。そして、やはりワークライフバランスの向上を世間に啓蒙する弊社としては、時代に先駆けて社内制度を整える必要があると考えたのです。時代の先を行く手厚い制度にしようということで、制度を導入してきました。

働きやすさという面で会社が魅力的になると、新卒でも中途でも入りたい人が増えてくると思いますが、そうした変化はありましたか?

高橋:東京都が開催するライフワークバランスフェスティバルというイベントが毎年あります。弊社は働きやすい職場として認定を受けまして、昨年、ブースを出しました。すると、小さな子どもを抱えていらっしゃる方が2名来られて「こういう会社で働きたいです」と直談判されました。やはり子育て世代にとって弊社は魅力的なのかなと思います。

新制度の導入に関しては、どの会社も試行錯誤する時期があると思います。御社の場合はいかがでしたか?

高橋:弊社にも試行錯誤した時期はあります。特に公平性を損なわないようにしなければならないという点に気を付けました。たとえば子育て世代だけに手厚く、独身の方が「不公平だ」と思う制度ではいけないと思います。そうした公平性を考えて、納得できない方には何度も何度も納得していただくまで話し合いました。たとえば全社員に公平なバースデイ休暇を与えるなどの制度を導入したらどうか、という意見も出ています。

今後の展望について伺いたいのですが、何か新しくやろうとしていることはありますか?

高橋:テレワーク(遠隔地勤務)の導入を検討していまして、セミナーに参加したり説明会に行ったりしている段階です。部署によってテレワークができるところとできにくいところがあるので、そうした課題をどうやってクリアすればよいかこれから考えていきます。一般的にテレワークには色々な課題が持ち上がります。たとえばセキュリティの問題や他部署からの理解などが顕著だと思います。部署を問わず、誰もがテレワークを利用できるよう制度設計を進めていくつもりです。

テレワークというのは、疑い始めるときりがないと思います。きちんと仕事をしているのかさぼっているのかという点で、社員を信じる意味で性善説に立つしかないのでしょうか?

高橋:パソコンの起動時にログが残るのでチェックできます。それに、編集部の場合は成果物のチェックも可能です。そのあたりを考慮しつつ、課題をクリアしていけるのではないかと思っています。最初は毎日ではなく週2回にするとか、少しずつ試して問題があればまた改善していければいいと考えています。

テレワークを含め、新しい施策はうまくいく会社とうまくいかない会社があると思います。御社はどうしてうまくいくのですか?

高橋:やはり育児関係の制度向上を啓蒙する会社ですので、その弊社が粗悪な制度ではいけないという共通認識があるからだと思います。社員みんなが、自社を模範となるような会社にしたいと考えています。

――本日はありがとうございました。