人事お役立ち

人事のひと声が休職者の薬に。メンタルヘルスにおける復職支援の手引き

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近年、メンタルヘルス上の問題で休職してしまう人は非常に多くなっており、経済産業省の調査によれば250人に1人が休職しています。

社員のメンタルケアは人事の重要な仕事のひとつ。休職者が出ないような予防策を打つと同時に、いざ休職者が出た場合もスムーズに職場復帰してもらえるよう、「復職支援」の方法を知っておく必要があります。

そこで今回は、企業のメンタルヘルスに詳しい精神科医・大学教授の田中克俊先生にお話を伺います。田中先生は日本産業精神保健学会常任理事・日本ストレス学会理事・日本産業ストレス学会理事・日本うつ病学会評議員のほか、一般社団法人 日本うつ病センター(https://www.jcptd.jp/)の理事を務め、民間企業の産業医として実際に復職支援にも携わっている方です。

もし社員が休職してしまった場合もしっかり対応していけるように、メンタル不調の原因から具体的な復職支援の方法まで学んでいきましょう。

メンタルヘルス不調の原因は「適応障害」がほとんど

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休職につながるメンタルヘルス不調の原因にはどんなものがありますか?

田中:「うつ病」という診断で休職する人が多いのですが、実際は「適応障害」が元になっている場合がほとんどです。適応障害は日常的なストレスによって生じ、それが解決されないまま長引いてしまうとやがて症状が重くなり、うつ病と診断されることになります。

適応障害の要因はさまざまですが、本人の心理的特性をはじめ、会社の環境や要求されるレベル・方向性がフィットしていないことがストレスになります。一方で、最近は以前ほど過重労働によるストレスや疲労が直接うつ病に結びつくケースは多くありません。

つまり、小さなことでも適応できない状態が続くと不調になると?

田中:はい。フィットしていない状態で努力を強いられると、精神的に大きな負荷となります。その際、「努力に見合った報酬を与えられているか」という部分もとても重要です。

ここで言う“報酬”は「経済的報酬」だけでなく、人間関係や職場での充実感によって得られる「心理的報酬」と、今後もこの仕事を通して成長していけるという「キャリア的報酬」の3つがあります。

人は無意識のうちにこれら総合的に考えているので、努力と報酬のバランスがとれていれば問題ないのですが、逆にアンバランスが重なるとメンタル不調につながるわけです。

復職を成功させるには、早期に人事から声がけをする

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実際に社員が「休養が必要」という診断を受けた場合、どのような対応が必要になりますか?

田中:ほかの病気と同様ですが、まずは2週間くらいゆっくり休養を取らせて、溜まった疲れを取ることが大事です。しかしながら、ある程度体力が回復したら、できるだけ早く復職の準備を始めたほうが良いでしょう。

メンタルヘルス疾患は症状が見えないこともあり、どんなケースでも「できるだけ長くゆっくり」ということになりがちです。たしかに重症の精神疾患である場合は、十分な時間をかけて治療に専念してもらうことも必要です。

ですが欧米の調査では、「休職期間が短いこと」が再休職の防止・早期の通常勤務を達成する一番の要因であると示されています。逆に休職が長引くと社会機能が低下し、本人のプライドも薄れて復職は困難になりますし、再発率も高くなります。

早い段階で復職に向けて動きだすことが大切なのですね。

田中:はい。医療機関任せにして必要以上に長く休養させたり、単にリワークプログラムの利用を勧めたりすることは、むしろ逆効果になる可能性があるのです。

※リワークプログラム……メンタルヘルス疾患で休職していた方を対象に、専門施設・医療機関で通勤や実務に近い作業、対人コミュニケーションなど職場復帰に向けたウォーミングアップを行う。

もちろん、重症で休職が長引きそうなときは、会社の病気休暇制度などを利用させたり、健康保険組合の傷病手当を受けさせたりすることも必要になります。その際は、休職期間や復職の要件・経済保障などについて念入りに確認を行いましょう。トラブルが起こらないように、あらかじめ就業規則で休復職に関する具体的なルールを定めておくことも大切です。

しかし先にも説明したとおり、実際は適応障害が原因になっている場合がほとんどですので、本人と職場とのフィットの問題をいち早く解決して、できるだけ早期に復職できるよう支援することが最も効果的と言えます。

つまり職場での問題解決が不可欠ということですか。

田中:はい。うつ病や適応障害と聞くと「下手に手出ししてはいけないのではないか?」と考えてしまう人も多いようですが、不調になった原因が職場にあるからには、いくら休んだり薬を飲んだりしても根本的な解決にはなりません。

医療で解決すべき問題でないものを“医療化”してしまうことが、休職を長引かせている原因とも言えます。問題は現場で起こっているわけですから、現場での現実的な対応が非常に重要です。

事実、欧米では復職支援は人事や上司の仕事として扱われていますし、リワークをこんなに利用しているのも、実は日本だけの特殊な状況です。もちろん場合に応じて医療や薬は必要になりますが、それと同じくらい職場側の積極的な介入が求められます。

メンタルヘルスにおける復職支援は環境づくりが重要

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それでは、具体的に人事はどのような支援をするべきでしょうか?

田中:「フィットノート制度」を参考にするとよいでしょう。これはイギリスで行われている制度で、メンタル不調になった社員は2〜4週間ほど経ったら家庭医で復職するために必要な事項が記載された診断書(フィットノート)を作り、会社に提出するというものです。

フィットノートには、その人の休職原因が精神疾患なのか仕事・職場とのフィットネスの問題なのかが明示されており、もし原因が後者であれば、本人と一緒に仕事・職場の環境を調整していきます。日本にこういった制度はありませんが、とても参考になる制度です。

やはり2週間程度が準備を進めるべきタイミングとなるのですね。

田中:先ほども説明したとおり、フィットの問題は早期の対応が何より大切です。おおよその場合は2週間程度休めば疲労が抜けるので、主治医に確認をとりつつ、人事や健康管理室の担当者から休職者に復職の声がけをします。

人事は休職・復職の手続きを行う立場ですから自然にアプローチできますし、何より人事権を持っている人が復職について前向きな意志を示すことで、復職の準備はずいぶん円滑に進みます。

ここで気をつけるべきことが、「あなたに元気に戻って来てもらうためには、どんなことができるでしょうか?」というように、復職を前提に話すことです。休職者は「辞めさせられるかもしれない」という不安を抱いていることが多いので、励ましもプレッシャーになることがあります。

「あなたが問題ではない。問題が問題なのだ」というように問題を外在化し、休職者と会社側が並走してそれを解決していくスタンスを明確にすることがポイントです。上司からのハラスメントが問題になっている場合以外は、最初から上司にも話し合いに参加してもらうと良いでしょう。

問題とその解決策としてはどんなパターンが挙げられますか?

田中:例えば、これまで元気だった社員が異動を機に不調になり、「うつ病」で休職診断書が出されたケースです。よく聞いてみると、苦手な仕事が積み重なってしまい、自分一人の力ではどうにもならない状況に陥ったことが原因らしい。

そういった場合は、抗うつ薬を飲みながら休ませるよりも、新しい部署に慣れるまでの数ヶ月間、その苦手な仕事だけ担当から外れる、という形にしてあげればすぐに復職できるかもしれません。

まずは問題を取り除き、復職のハードルを下げるように努めること。原因次第ですが、不調になった場所・状況にそのまま復帰するのはやはり難しいので、柔軟に環境や業務内容を変えることがとても大切なのです。

ただ稀に「メンタル不調を理由に異動させることはない」という方がいます。しかし、働く環境がメンタル不調を増悪させていることが明白な場合でも一切異動させない(配転可能性を果たさない)ことは、万が一トラブルに発展して裁判になったときに問題となり得ます。こういった側面からも、状況に応じて2〜3回程度まで配置転換を行うことは会社側の義務と言えるでしょう。

復帰させる職場の社員に対して呼びかけておくべきことは?

田中:プライバシーの問題もありますので、基本的には本人の状態について上司や管理者に伝えておく程度で大丈夫です。その際、病名などについて特に触れる必要はなく、どんな状態が苦手なのか、どんな業務・環境が好ましいか、という留意事項を確認しておきます。

そのほかの社員の対応としては、「挨拶」をしっかりしてその人の存在を認めてあげることが非常に重要です。当たり前と思う方もいるでしょうが、挨拶は潜在的に大きな心理的な報酬となります。

これはそもそもメンタルケアとして効果が大きく、日常的にきちんと挨拶をしているような職場は、不調を起こす社員が圧倒的に少ないのです。復帰してきた人に対してだけでなく、「おはよう」「ありがとう」「お疲れ様」といった何気ない声がけをするような環境を作れていれば、復職の成功率もきっと上がります。

人事の声が休職者の背中を押す

メンタルヘルスは人の心に関わるもの。非常に繊細であると同時に、周囲の人や環境に大きく左右され、それが休職する原因になることもあれば、職場復帰する際の後押しになる可能性もあります。もしメンタル不調で休職してしまう社員がいた場合は、そのことを念頭に置いて対応しましょう。

すべての社員たちが一人の大人としてプライドを持って働いていることを理解して行動すれば、きっと職場環境についても良い効果が生まれるはずです。

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