注意点と対策をふまえてテレワークでワークライフバランスを実現する方法

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プロフィール
行政書士/井手 清香
滋賀大学経済学部ファイナンス学科卒業。大手システム会社に勤務後、退職。ライターとして各種記事を執筆。2014年、ライター事務所「ライティングスタジオ一清」を開設。2018年度行政書士試験合格、2019年、滋賀県大津市に「かずきよ行政書士事務所」を開業。法律関連のライター兼現役の行政書士として活躍中。楽しく、分かりやすい法律の記事をお届けするために、日々奮闘中。

新型コロナウイルスの流行によって、慣れないテレワークに四苦八苦している方も多いのではないでしょうか。

場所や時間にとらわれない勤務形態であるテレワークは、ワークライフバランスの実現に寄与すると考えられてきました。

しかし、テレワークは単に自宅で仕事を行えば良いという単純なものではありません。自宅では労働環境が整っていない場合もあるため、作業効率が落ち、かえって生産性が低下する恐れもあります。さらには、情報漏洩のリスクが高まる可能性があります。

今回は、テレワークを始める際の注意点を、ワークライフバランスとの関係から解説します。

テレワークの種類

テレワークは、総務省によると「ICT(情報通信技術)を利用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」とされています。テレワークには、「在宅勤務」や「モバイルワーク」、「施設利用型勤務」など様々な形態があります。

新型コロナウイルスの流行により、在宅勤務も増加しています。出社する代わりに家で働くスタイルです。今回は、主に在宅勤務のテレワークを取り上げます。

テレワークだからこそワークライフバランスを意識しよう

テレワークは労働時間管理が難しい

テレワークは、自分で自分の労働ペースを管理しなければなりません。

筆者の周囲でも、テレワークをしている最中に子どもに邪魔をされたり、家族からの協力が得られなかったりして、「テレワークをしてみたが、意外とキツい」という意見が聞かれます。家庭内には、自分の管理が及ばない要素があるということです。

さらに気になるのは、「効率が落ちて労働時間が伸びてしまった」という声です。ダラダラと長時間に渡って仕事をするのは効率が悪いですし、ワークライフバランスの調和が取れなくなります。

また、従来の住宅の設計には、自宅で仕事をするためのスペースは考えられていないのではないでしょうか。集中して仕事をする場所がないという声も聞かれました。働くための空間としてデザインされたわけでもなく、オフィスのように管理がゆきとどいてもいない場所で、オフィス同様に働くためには格段の努力が必要のようです。

特に、現在のように新型コロナウイルスの影響で、学校が休校になった子どもたちがいる状況では、自宅が仕事場でもあり子どもの遊び場にもなってしまいます。仕事量がいつもと変わらないので、子どもが寝静まった後に仕事をしてしまい、寝不足になった人もいました。

仮に、子供が寝た後にしか仕事をできないのであれば、それは時間外労働としてきちんと手当をつけなければいけません。

家を仕事の場にしてしまうことで、個人の生活と仕事がバッティングし、さらに労働者本人と仕事以外の都合(子どもや介護しなければならない人等)が重なりコントロールが難しくなるという現象が見られました。

在宅勤務は、個人の生活と仕事の距離感が近くなってしまうため、個人の生活で抱えているものの負担がある人(育児、介護など)にとってはマネジメントが難しくなります。

これまでは、会社に通勤して仕事をすることが念頭に置かれていて、その前提での短時間勤務や育児、介護休暇などの制度が整備されてきました。各種法制度も仕事とは職場に通勤して行うものであるという大前提があったものと思われます。

その感覚のまま、単に職場が家になったという扱いで、在宅勤務を長期にわたって運用することは大変危険です。

在宅勤務制度を点検する

在宅勤務は、通勤のある働き方と労務管理上の注意点が異なります。今回はコロナ禍での緊急的な措置であったこともあり、在宅勤務の細かい運用を検討してこなかった企業もあると思われます。

厚生労働省が出している「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」には、在宅勤務の労務管理上の注意点がまとめられています。まずはガイドラインを一読し、自社の在宅勤務制度と照らし合わせて問題点の有無を点検してください。

在宅勤務は、特定の環境の人にとっては難しい勤務形態です。個人の努力でどうにかできる範囲を超えてしまうと、テレワークはうまくいきません。

会社側としても、従業員に多大な負担をかけてしまいます。子ども達が休校・在宅になったのは感染拡大の影響によるものですし、在宅勤務の人と、そうではない人との間の溝も、従業員の責任でそうなったわけではありません。

コロナ禍は個人の力を大きく越え、負担をかけるものであるというのが筆者の実感です。

企業としても、手探り状態かと思われますが、少しでも労働環境を整えられるように、社員同士で情報交換の機会をつくるなどして、日々テレワークの方法をアップデートしていってください。

また、在宅勤務の人と出社する人との間でぎすぎすした人間関係ができてしまうと、その後のチームワークにも影響してしまいます。連絡を密にとり連携を欠かさないようにする、出社の負担を分け合うなど、工夫をしましょう。

テレワーク導入のためのチェックリスト

テレワークでは、オフィスで働くときとは注意点が異なります。自己管理やワークライフバランスとの関係も含め、以下に代表的なポイントの例を挙げます。

長時間労働を予防する措置はあるか

テレワークは、作業効率が落ちた場合に長時間労働になりやすいため、長時間労働を予防するための措置を取る必要があります。長時間労働が良くないことであるという社内の雰囲気作りや、みなし労働時間制を利用することなどができます。

ダラダラと作業しても何も良い事がないなら、働き方は自ずと変わっていくでしょう。一方、そもそもテレワークが苦手である場合や、テレワークのための環境がない社員の場合は、別の対応を考慮する必要があります。

勤務環境のセキュリティーは整っているか

働くための環境が整っていない中での在宅勤務には、ワークライフバランスが崩れること以外にも、守秘義務を全うできないリスクがあります。

労働者は労働契約上、守秘義務を負ており、たとえ秘密を漏らしたのがその人の家族であったとしても、秘密保持義務違反として懲戒されたり訴訟になったりすることがあります。

不正競争防止法に定める営業秘密に関しては、退職後にまで差し止め請求をすることができます。労働者には、秘密保持とリスクについて十分に教育しなければなりません。

カフェで仕事をしている人の画面が、丸見えになっていたことはありませんか? また、電車でパソコンの画面が後ろのガラスに映ってしまい内容が丸わかり……ということもあります。

先日筆者が電車で移動中に、ふと車内のガラスを見てみたら「社外秘」と書かれた書類が表示されているパソコンが、電車のガラスに映り込んでしまっていました。

自宅も含め、会社の外で仕事をするときにいつも通りの方法でパソコンを使うと、セキュリティー上の問題が発生してしまう事があります。ウイルス対策ソフトを入れていれば安心というわけではありません。

テレワークの場合であっても、仕事で必要なデータや書類を、家族に見える場所にそのまま置いておくのは望ましくありません。とはいえ、個人で書類や情報端末をきちんと保管しておくための設備を持っている人は多くないでしょう。

特に自宅の場合、インターネットセキュリティーが整っているとは限りません。「パソコンはセキュリティーのしっかりしたものを貸与する」、「USBはスキャンしてから開く」など、万が一にもコンピュータウイルスに感染しないように安全対策をしてください。

従業員のテレワーク環境が整わないことがわかった場合、環境整備のための負担を従業員だけに課すのは望ましくありません。企業としてもテレワーク環境の整備に投資する必要があります。

テレワーク中の業務に対する評価は適切か

新型コロナウイルスの影響による出勤の自粛は、いつまで続くか不透明で、「人事評価の期間はほとんどテレワークだった」という可能性もあります。また、テレワークの環境が整っていない社員としては、ベストを尽くしていても、思ったような成果が出ないこともあるかもしれません。

特に、出社していたときの仕事量を、在宅勤務の環境が整わないまま、こなしている人の場合、その人個人の努力によってなんとか仕事を回しているだけかもしれません。

従業員としては評価を落としたくないので、必死に頑張ってしまいます。子供が寝静まった夜中に仕事をしてしまって、寝不足になるのがこのケースに近いかと思われます。

個人による無理な努力は長続きしませんし、心身ともに消耗してしまいますので、無理をせずにこなせる適正な仕事量に変更すべきでしょう。そもそも、このような働き方は時間外労働となり、企業としても割増賃金を払わなければいけないのでコスト増の一因となるでしょう。

対策として、在宅勤務に切り替えなければいけない場合、その労働者が、いつに仕事をできるのか、本人と話し合う機会を持つことが重要です。本当に深夜しかできない、という人もいるかもしれませんし、昼間も勤務できるが3時間を2回というように分割しないと働けない人もいるでしょう。

特に、保育所等が休業してしまった場合の育児のバックアップはどうするのか等、究極のところ詳しいことは本人しかわかりません。まずは本人と話し合って、働き方を考えてください。

フレックスタイムにするのがいいのか、中抜け部分を時間休暇として処理するのか等、本人が働けるスタイルに現行の制度を組み合わせて使うイメージが良いでしょう。

社員の働きぶりや、成果を出すためのプロセスが見えないと、評価の視点が最終的な成果に偏りがちですが、テレワークの社員であっても、適切に評価されるための仕組みづくりが必要です。また、仕事量が適正かどうかについては、常に見直していくものです。

特に、コロナ禍においては、通常通りの業務量ができないこともあるでしょう。会社としての業務のスピードは落ちるかもしれませんが、業務を止まらせない(たとえ遅くても進ませる)ということを念頭に置き、非常事態を乗り越えましょう。

業務に係る費用負担を定めているか

業務を自宅で行う際には、少なからず通信費や光熱費などが必要になってきます。業務にかかる費用負担について、就業規則などでルールを設定しましょう。

先日、社労業務に携わる筆者の友人に話を聞く機会がありました。雇用調整助成金の手続き代行や、テレワークに合わせた就業規則に改定するなど、現在社労士事務所は新型コロナウイルスの流行の影響を受け、手続きの代行業務に忙しいようです。

ただ、今すぐにテレワークを始めようにも、端末の調達が問題となります。就業規則の改定は社労士に依頼すれば割と時間がかからずにできますが、テレワーク用の端末については、一時期よりも物流は改善されましたが、スムーズに希望通りのものが入手できない可能性があるので注意してください。

今回はあまりにも急なテレワークの導入でしたが、これを機にテレワークを社内の制度として取り入れる動きが加速中だそうです。就業規則などの見直しも必要に応じて検討してください。

従業員の精神面のケアと仕組みづくり

子供の休校が続くなどして、普段と違う生活を強いられている従業員もいるでしょう。また、テレワークが初めてで戸惑っている人もいるでしょう。企業としても大変な状況かとは思いますが、従業員の精神面のケアについても配慮するようにしてください。

特に、在宅勤務の場合は、顔を合わせる機会が減ってしまうため、従業員の不調に気づきにくくなります。先ほどの「孤独に耐えられない」という声が、企業まで届かない可能性があるのです。従業員のメンタルヘルスへの配慮は、今まで以上に注意する必要があるでしょう。

特に、コロナ禍に見舞われている現状では、従業員にも公私ともにストレスがかかっていると思われますので、対策と見直しを繰り返しながら従業員の心の健康を維持しましょう。

従業員のメンタルヘルスケアについては、自社の産業医や保健師からアドバイスを受けるのも一手です。産業医も保健師もいない企業の場合は、厚生労働省の「産業保健活動総合支援事業」を利用してはいかがでしょうか。

まとめ

今回は、テレワークとワークライフバランスとの関係についてご紹介しました。プライベートとの切り分けが難しいテレワークは、長時間労働になりがちです。

今後はこれまでになくテレワークが普及していくと思われますが、その分問題も出てくると考えられます。ワークライフバランスとの兼ね合いのほか、情報漏洩のリスクについても対策をする必要があります。

また、テレワークであっても長時間労働をさせないような仕組みづくりをしましょう。必要であれば、就業規則の見直しも検討してください。また、必要な設備や、心のケアについては、従業員に負担をさせるのではなく企業として投資をしてください。

テレワークでワークライフバランスを実現することは、今後、新型コロナウイルスの流行などの非常事態が起こった時、企業の業務を止めないための必須事項です。方法論や正解は定まっていませんが、自社とその従業員にとっての最適解を探しながら進んでいきましょう。