優れた人材を組織に定着させるには、従業員体験が決め手

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2015年に米ギャラップが世界各国の企業を対象に実施した従業員エンゲージメント(仕事への熱意度)調査では、アメリカで熱意にあふれて仕事をしている社員の割合は32%でした(参考:同調査での日本の結果は6%)。

近年、ビジネス界は従業員エンゲージメントを測ることに焦点を当ててきましたが、どの調査や研究の結果を見ても、世界的に従業員エンゲージメントのスコアは低いままです。

『The Employee Experience Advantage』の著者ジェイコブ・モーガン氏は、この結果を踏まえ、優れた人材が長く働ける組織をつくるためには、従業員エンゲージメントだけではなく、職場で従業員がどのような体験をするかに焦点をあてるべきだと説きます。

従業員体験と従業員エンゲージメントの違い

従業員体験とは

従業員体験と従業員エンゲージメントは違うものです。

従業員体験とは、従業員が喜んで職場に通いたいと思える、職場での体験を指します。従業員体験は、従業員が望む文化的、技術的、物理的な環境を組織的に設計することで向上し、その効果は長期的に働きます。

従業員エンゲージメントとは

一方、従業員エンゲージメントとは、従業員がどれくらい熱意を持って仕事に取り組めているかを指します。従業員エンゲージメントを向上させるには、その企業で働くことが企業だけでなく従業員にもプラスになることを示す必要があります。

モーガン氏によれば、従業員エンゲージメントは一時的に高くなりますが長くは続きません。しばらくすると熱意が下がってしまうので、エンゲージメントを向上させる施策を繰り返す必要があります。

従業員エンゲージメントは長続きしないものであるため、それだけに焦点を当ててしまうと組織の力がいつまでも上がりません。そこで、従業員体験に目を向ける必要があるのです。

企業の存在意義が従業員体験を高める

従業員にとって、企業のミッションやビジョンに満足できるかどうかが仕事の満足度につながります。企業のミッションというと、マーケットリーダーになることや、株主や顧客に貢献することを挙げる企業がありますが、それでは従業員にやる気を与えることはできません。

素晴らしい従業員体験を提供する企業のミッションは、次のようなものであるべきです。

  • 世の中や人々へ影響を与えることに目を向ける
  • お金を儲けることを中心に考えていない
  • 簡単には達成できない大きな挑戦
  • 従業員を鼓舞するもの

単なる目標ではなく、なぜその企業が存在しているかという存在意義を表現した企業のミッションやビジョンが、従業員体験を向上させます。

従業員体験を構成する3つの環境

素晴らしい従業員体験ができる組織をつくるためには、従業員の意見を聞き入れながら次の3つの環境を設計します。

  1. 物理的な環境 従業員が働く場所を整える
  2. 技術的な環境 仕事がスムーズに進むようなツールを準備する
  3. 文化的な環境 この組織で働きたいと思う気持ちが持てるようにする

それぞれの環境設計について、もう少し詳しくご説明しましょう。

物理的な環境を設計する

  • 友人や訪問者を招くことができる
  • 働く場所や時間に柔軟性がある
  • 組織の価値観が反映されている
  • 企業が職場環境の改善に力を入れている

従業員体験の30%を占めるといわれる「物理的な環境」とは、従業員が働く場所のことです。この環境には、オフィスのレイアウトやインテリア、立地、従業員が使えるカフェやジムなどの施設があるかなども含まれます。

良い職場環境は従業員にポジティブな印象を与え、求職者が企業を選ぶときの選択基準になることもあります。そして、クリエイティブで集中できる環境があれば、従業員体験も満足できるものになるでしょう。

理想的な物理的環境としては、次のような例が挙げられています。

友人や訪問者を招くことができる

Airbnb、LinkedIn、Zappos、Google、Facebookなどの優良企業では、職場に友達や知り合いを招くことを許可しています。なかでもFacebookでは、同時に4名までの訪問者を招待し、構内で食事をしたり敷地内を歩きまわったりできるといいます。

従業員の幸せに目を向けオープンな環境づくりを目指すことで、職場での体験が、美術館や博物館へ行ったときのような体験に変わります。

そして、外部の人に自慢したくなるほど従業員が誇りを持てる職場が、組織と従業員のつながりを強くするのです。

働く場所や時間に柔軟性がある

全員が9時から5時に一か所に集まって働くのではなく、働く時間や場所を、できるだけ各自の希望に合わせられるようにします。オフィスでも、カフェやコワーキングスペースなど自宅以外の場所からでも働ける環境が理想的です。

働く場所を柔軟に決められるようにすると、生産性が上がる、ストレスが減る、長期欠席を回避できる、健康的で幸福度が上がる、コスト削減、信頼が向上するといった効果があります。

フレックス制やリモートワークの導入に際しては、そのメリットや方法をあらかじめ従業員にしっかり伝え、ガイドラインを作成しておくことが大切です。

組織の価値観が反映されている

信頼、楽しさ、透明性などを企業の価値観としている場合、それが職場にも表れていなければなりません。

もし、そのような価値観を掲げているのに、9時から5時という決まった時間に働かなければならなかったり、座席が固定されていてコミュニケーションやコラボレーションが生まれにくいオフィスだったりするのであれば、価値観と矛盾しています。

組織で大切にしたい価値観を書き出し、そのメモを持ってオフィスの中を歩きながら、企業の価値観をオフィスに反映させてみましょう。

企業が職場環境の改善に力を入れている

例えば、座席が決まっていないオープンプランのオフィスは、コラボレーションが生まれやすいレイアウトですが、ほかの人がじゃまに感じる場合もあるでしょう。そして、クローズドプランのオフィスは、席が区切られているので集中しやすいものの、誰かに相談をするには不向きです。

どちらが良いかは、時と場合、あるいは部署によって違ってきます。情報を精査し職場環境の改善に力を入れるべきです。

Atlassianのような新しい考え方を持つ企業では、従業員の動きを理解するためにデータを取り、そのデータに合わせてオフィスのデザインをしています。

技術的な環境を設計する

  • 誰にでも利用できること
  • 消費者向けのテクノロジーを使う
  • 従業員が必要としていてビジネスに合っている

従業員が仕事をするために使う技術やツールが揃っているかどうかも30%の従業員体験を占めるといいます。

モーガン氏はある企業で、同僚や職種には不満がないのに転職を考えている人たちに出会います。彼らは、テクノロジーの遅れに不満を抱いていました。

その職場では、必要なツールが揃っていないので満足な仕事ができません。情報もきちんと整理されていないため、どこかに埋もれてしまって見つかりません。

彼らは簡単な仕事に膨大な時間がかかることに嫌気がさしていました。やる気のある従業員にとって、職場で必要な技術やツールが使えることはとても重要です。技術的な環境を設計する時には次の3つのことに注意します。

誰にでも利用できること

例えばエンジニアチームだけが新しいプラットフォームの使用許可を持っているというように、新しいテクノロジーを導入してもアクセスが特定の人だけに制限されていては効果が薄れてしまいます。

組織全体がイノベーション、コラボレーション、コミュニケーションできるよう誰もがアクセスできるように考えます。

消費者向けのテクノロジーを使う

企業向けのテクノロジーと消費者向けのテクノロジーに明確な区別はありませんが、FacebookやTwitterのようなSNSが一般の人に使いやすいように、消費者に向けて作られたもののほうが従業員にとっては使いやすいはずです。

企業に向けて開発された製品のなかには、ITの専門知識がないと運用が難しいものもありますが、従業員の使いやすさを最優先にして導入する製品を選びましょう。

従業員が必要としていてビジネスに合っている

従業員が上手に仕事をすすめられるようなテクノロジーを吟味して導入すること。人事とIT担当部署がパートナーシップを組み、相談しながら製品の検討をします。

文化的な環境を設計する

  • 企業にポジティブな印象がある
  • 誰もが自分を価値ある存在であると思える
  • 従業員に正当な目的意識がある
  • 従業員が自分をチームの一員であると思える
  • ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包括)が信じられている
  • 従業員が知り合いに勧めたくなる職場
  • 新しいことを学ぶ機会があり、進歩に必要なリソースが提供される
  • 従業員を公平に扱う
  • 重役や管理職がコーチやメンターになる
  • 従業員の健康にいつも気を配る

従業員体験の40%を占めるといわれている「文化的な環境」を整えるには、従業員が組織のために働くことについてどのように感じているかを考えます。モーガン氏は、次の10の項目を文化的な環境を向上させるポイントとしてあげています。

企業にポジティブな印象がある

LinkedInが2016年に発表した調査では、企業の評判を上げる努力をしなかった場合、一人の雇用に4723ドル余計にかかるという結果が出ています。インターネット上の評判や消費者からの印象を大切にすること、そして雇用主としてのブランディングなどが必要です。

誰もが自分を価値ある存在であると思える

福利厚生や報酬が正当であり、従業員の声が聞き入れられる、仕事が認められるなど誰もが自分の価値を感じられることが大切です。

従業員に正当な目的意識がある

マニュアルに沿って働くだけではなく、自分の仕事が顧客や企業にどう影響するか、従業員が理解できるように努めます。

従業員が自分をチームの一員であると思える

チームの一員として働いているという感覚が、従業員にとって大切です。

スタンフォード大学の実験では、自分がやめたくなったら、いつでもやめられるという条件をつけて被験者にパズルを解かせました。半数の人達には、この挑戦がチームの成績になると伝えられ、もう半分の人は個人参加であると思っています。

その結果、チームの成績になると思ってパズルを解いた人のほうが48%長い時間パズルを解く努力をしました。

ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包括)が信じられている

ダイバーシティーやインクルージョンを理解するためのプログラムを実施することで、お互いを尊重することを学びます。従業員の誰もが心理的な安全を感じられるような管理術をリーダーが学ぶことも大切です。

従業員が知り合いに勧めたくなる職場

従業員が知り合いに勧めたくなるような職場を目指します。従業員体験が素晴らしいものならば、紹介制度の報奨金がなくても従業員は知り合いに紹介したくなります。

新しいことを学ぶ機会があり、進歩に必要なリソースが提供される

Randstadという人材紹介会社が実施した米国の11,000人の従業員アンケート調査では、最も多い離職理由がキャリアパスの不足でした。キャリアアップの機会、個人の力を伸ばす機会を作りましょう。

従業員を公平に扱う

個人を尊重し、公平な扱いをします。人それぞれの事情をできるだけくみ、柔軟性を持って従業員との関係を築きましょう。

重役や管理職がコーチやメンターになる

尊敬できる上司がいることは従業員体験において大きな役割を担います。米ギャラップの調査では上司によって従業員エンゲージメントの値が70%も変わってしまうという結果が出ています。

従業員の健康にいつも気を配る

従業員のストレスや健康に気を配ります。ストレスや運動不足を予防する研修プログラムを実施してもよいでしょう。

従業員体験の向上が企業の価値につながる

企業の目的をはっきりさせること、そして、物理的環境、技術的環境、文化的環境の3つの環境を整え、従業員の職場での体験を向上させることは、幸せな従業員を増やし、従業員エンゲージメントの向上にもつながります。その結果、優れた人材が定着し、イノベーション、生産性、顧客満足度、株価など、企業の価値が上がっていきます。

The Employee Experience Advantage
著者Jacob Morgan
出版社Wiley (2017/3/27)
ISBN-10: 111932162X
ISBN-13: 978-1119321620