優秀な新入社員が辞めないオンボーディングの工夫

目次

プロフィール
株式会社人材研究所
代表取締役社長、組織人事コンサルタント 曽和利光
京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。また多数の就活セミナー・面接対策セミナー講師や上智大学非常勤講師も務め、学生向けにも就活関連情報を精力的に発信中。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。大企業から中小・ベンチャー企業まで幅広い顧客に対して事業を展開。

すぐに辞めてしまう新入社員には、早期退職に結び付く共通の特徴があります。その原因と背景を理解し、優秀な新入社員が辞めてしまわないための、効果的なオンボーディングのポイントを紹介します。

人材定着の現状と要因

オンボーディングとは、「定着」のための人事の施策のこと。「新入社員を定着させるために何をすべきか」を考える前に、まずは人材定着の現状をデータから見ていきたいと思います。 実は、「最近の若者はすぐ辞める」というのはあまり事実ではありません。いわゆる「入社3年以内に辞めてしまう大卒が3割」という数字は、実はここ数十年変わっていないのです。 つまり、人事の方が色々な努力をしながらも、あまり改善されていないというのが現状です。

キャリアは出会いと別れの繰り返し

まず、新人を受け入れる企業として、一つ押さえておかなければいけないのは、「キャリアは出会いと別れの繰り返し」ということ。新入社員からすると、自分が希望していた企業に就職できたというのはもちろん良いことですが、その一方で、楽しかった大学時代はもう終わってしまった。実は、ストレスという観点から見ると、かなり負荷のかかる時期であるということ、これをまず前提に考えておくべきかと思います。ですので、新入社員の奥底にある気持ちというのを、まず理解してあげるのが大事ですね。

入社前の期待と入社後の現実の乖離(リアリティショック)

会社を選ぶというのは、すごく大きな出来事です。人生の大決断をしたわけで、それが「良い決断でありたい」という気持ちを持つ事は当然だと思います。しかし、その気持ちによってどんどん会社や仕事のことを美化していく。ただ、現実には色々なことがあるわけですから、そこにギャップが生じて「リアリティショック」が起こるというわけです。

実際、2019年のパーソルさんの研究調査によると、「何らかのリアリティショックを感じている」と答えた新社会人は約8割。リアリティショックの具体的な内容としては、「給与」や「昇格のスピード」のほかに、「働きやすさ」や「仕事のやりがい」、「仕事から得られる達成感」。こういったところにおいて、ギャップが生じていることが分かります。 また、入社3年以内に離職した人は、リアリティショックを経験している率が総じて高いことも分かります。このように、リアリティショックは早期退職に実際に結びついているのです。

注意しておきたい5月病の症状とは

入社3ヶ月以内に、「リアリティショック」をベースに、新しい環境に適応できないことに起因する精神的な症状が色々起こってくる。これがいわゆる「5月病」です。ということで、この「入社3ヶ月」が非常に大事です。実際、5月病の症状は色々ありますが、なかでも人事がフォローしなければいけない典型的な症状としては、2つあります。

帰郷

「帰郷」というのは比喩ですが、つまり、リアリティショックがあってなかなか仕事に適応できない、職場に適応できないとなると、承認欲求が満たされていた頃に舞い戻ってしまうということ。 たとえば、大学時代にクラブやサークルの主将をやっていたような人が職場に適応できなくなると、土日にそのクラブやサークルのコーチとかを始めだす。そうすると、後輩たちから「先輩」と言ってもらえて、心が和らぐというような。これは半分冗談ですが、そういうものも一つのサインです。

セルフハンディキャップ

分かりやすく言うと、「俺は本気だしてないだけ」というやつですね。 自分が輝けない原因を外部に求めることによって、「だからいいパフォーマンスを発揮できないんだ」というような言い方をし始める。こういった場合は、「リフレーミング」で実際に行っている仕事の意義などを、マネージャーの方・人事の方が、もう一度初心に帰って教えてあげる必要があると思います。

リアリティショックを引き起こす「キャリアデザイン病」

新人が辞めてしまう理由の多くは、会社の中での人間関係や考え方・文化の違いに起因しています。中でも、リアリティショックを引き起こす原因として、私が注意しなければいけないと感じているのが「キャリアデザイン病」です。

やりたいこと(Will)を捏造せざるを得ない就職活動

私が実際に学生と接してきた中で、一番多く目にした悩みというのは、「やりたいことが見つかりません」という悩みです。 ただ、就職活動では「あなたがやりたいことは何ですか」と聞かれますし、ある程度決めない限りは会社選びもできない。ということで、本音では「まだやりたいことは固まっていない」という中で、就職活動を通じて「Will(やりたいこと)」を捏造せざるを得ない。

しかし、就職活動の数ヶ月間で「あえて」作ったWillにとらわれてしまうと、やはりギャップを感じざるを得ない。これが、「リアリティショック」の奥底にあるように思います。

本当に根っこの生えたWillに対して、それを「白紙にしろ」なんて言う必要はありませんが、まずは目の前に出てきた仕事をやってみよう、流されてみよう。そういう教育してあげることで、リアリティショックを引き起こす原因を多少なりとも軽減してあげられるかなと思います。

「Will(やりたいこと)」と「Can(できること)」のバランスがとれた育成を

「Will(やりたいこと)」は何か? これは、どちらかと言うと後で自然に降ってくるもの。それを考えると、「Can(できること)」の方のキャリア意識を高めていくことが大切かと思います。 具体的に言うと、「Will(やりたいこと)」ができたときに必要な能力には、共通するものがありますよね。

たとえば、サッカー・野球・ラグビー、どんなスポーツをするかは分からなくても、腕立て・腹筋・持久走みたいなことは、「やっておけば絶対プラスになる」ものです。そして、ビジネスの世界にもそういうものがある。 特に、ポータブルスキルのように「どんなところでも役に立つ」スキルに関しては、積極的にやっていきましょう。「Will」と「Can」のバランスをとる、これが大切です。

実際に「キャリアパースペクティブ(キャリアに対する見通し)」と「組織コミットメント」というのは有意に関係します。また、組織が社員のキャリア自律を重視する姿勢をもっていると、離職意識が下がることにもつながります。

入社「前」と「後」のオンボーディング

定着率の低さにはさまざまな要因があることが分かりました。では、どういった「オンボーディング(定着させるための施策)」を実施すればよいのでしょうか? 「入社前」と「入社後」に分けてお話します。

入社「前」のオンボーディングのポイント

新卒採用であれば、たとえば10月に内定式をやったあとは、入社まで半年間も空く会社が多いわけですよね。実は、この期間におけるオンボーディングというのが、ものすごく重要です。 そもそも「オンボーディング」という言葉は、「船や飛行機に乗っている」という「オンボード」から派生した言葉で、新人が役割を担えるようになるまでのプロセスのこと。実際、この最初がとても肝心で、オンボーディングが拙いと会社の印象がネガティブになり、それを引きずっていく、ということも分かっています。

この「入社前」のオンボーディングとして、具体的には「入社前の期待調整」をやっておきましょう。なぜなら、その「内定者の期間中」に、リアリティショックを起こすような「会社の理想化」・「職場の理想化」・「仕事の理想化」というのが起こる可能性が高いからです。

ここでキーワードになってくるのが「リアリスティック・ジョブ・プレビュー(RJP)」。つまり、入社前に良いことも悪いことも含めてリアルな情報提供をすること。RJPを行うことで入社後の離職が抑制されるという事実もあるので、これはやっておくべきでしょう。

RJPの実践的なポイント<①タイミング>

RJPにおいて、「マイナスになり得る要素」を伝えるタイミングは、入社意思がある程度固まってきてから伝えることが大事です。あまりにもネガティブ要素を「後出しジャンケン」で伝えるのは良くないと思いますが、自社を好きになってもらってから、そういった事実を伝えることで、相手の解釈が変わる可能性もあると思います。

あとは、人は何をやるかよりも「誰とやるか」ということを大事にします。「苦しい事でもこの人たちと一緒なら乗り越えていく」という気持ちになる場合があるので、「人間関係が出来上がってからRJPを行う」ということもすごく大事だと思います。

RJPの実践的なポイント<②情報提供の工夫>

同じ事実を伝えるにしても、ポジティブな表現を心がけることが大事です。 また、「トレードオフ」を忘れないこと。RJPというのは「良いこと」も「悪いこと」もリアルに伝えるという意味なので、デメリットばかり伝えるのは間違いです。「デメリットの裏にあるメリット」を言わない担当者は多いのですが、しっかり伝えるようにしましょう。

「第三者」の口から言わせるのも一つです。たとえば自分が採用担当者ならば、「現場の社員の方から伝える」など。また、書籍や社会的証明など、第三者視点でフラットな目線で会社のことを書いてくれているもの。このような情報の入れ方も良いと思いますね。

あとは、「人を見て法を説け」ということ。何がネックなのかは人によって異なりますから、自分の価値観で「ここは良いよ、ここは悪いよ」という伝え方はしない。 採用活動において、「その人がどんなパーソナリティを持っているのか」はずっと見てきているわけですから、その思考価値観において、気になるところをちゃんと伝えてあげましょう。 逆に、自分にとって全く気にならない事は、相手にとってリアリティショックのギャップになる可能性があるということです。そこを間違えないようにすることが大事だと思います。

入社「後」のオンボーディングのポイント

新人というのは、まず「需要感(職場の仲間に受け入れられた感覚)」が、およそ3月である程度出来上がってから、「有能感(仕事が出来るようになった感覚)」が生まれてくる。この順番が非常に重要なのです。つまり、仕事に対して定着させるモチベーションを高めていくためには、まず良い人間関係を作ってあげることがとても大事です。

では、オンボーディングがオンラインだとなかなか難しくなってきている現在、工夫すべきことは何でしょうか? まず、新入社員に教育担当(上司や先輩)を「どうマッチングしてあげるか」というところにおいて、「パーソナリティ上の相性」というのを、これまで以上に重視して配属を行ってあげる。これが、今後かなり重要になります。

いろんな上司と部下の組み合わせ、メンターとの組み合わせ、あるいは内定者同士も「関係性」という部分を重視して配置すること。たとえば、内定式の席順を「あいうえお順」で並べようとしていませんか? 「あ行」の人同士だと仲良くなる、なんてことはありませんよね。やはり、しっかりとパーソナリティを見て、「この人とこの人は仲良くなりそうだな」という人を同じテーブルにする。結婚式の席決めってすごく悩みますよね。あれと同じくらいの感覚でやることが、すごく大事だと思います。

パーソナリティ的に合わない人材を配置するときには

とはいえ、その人の「能力や思考」を無視して配置はできないので、パーソナリティ的に合わない人同士を配置しなければいけない場合もあると思います。

その場合、「この上司と部下はちょっと相性が合わないよね」ということを、人事・経営者・事業部長などが認識するということが大切です。「この人は要ケア人材だ」という風にマーキングできれば、いろんな周辺的サポートができますよね。

たとえば、新人を複数配属できるのであれば、「集中配属」でピア・フォローができる。あとは、相性の良い先輩社員による「メンタリング」で、できるだけ短期(3ヶ月以内)にフォロー面談もできる。こういったサポートができるということが、すごく大事だと思います。

また、社内ですごくコミットメントが高い人と組み合わせてあげることによって、第三者であるその人から「この会社で頑張ろうよ」ということを言ってもらう。対人影響力の強い人材をグループに入れて、内定者のワークショップを作ることも有効だと思います。

オンラインでの新人導入研修の注意点

オンラインでオンボーディングを行なう場合も「アイスブレイク」や「相互理解型のコンテンツ」に長い時間をかけましょう。たとえば、採用活動で使ったテストや適性検査みたいなものをフィードバックして、お互いに「Guess Who?」と言って誰か当てあう。そういったことでも相互理解が進むと思いますので、ひとつのヒントとしていただければと思います。

新人に身につけさせるべき力

最後に、採用基準としても使える「新人に身につけさせたい力」を3つご紹介したいと思います。

①自己認知

テレワークだとフィードバックが少なくなり、自己認知を高める機会が減ってしまう可能性があります。自己認知ができていないと、自分ができていないことに対して「できている」と思ってしまい、注意を受け入れられなくなってしまう。自己認知を高めるためには、たとえば1on1ミーティングなどの、フィードバックをする機会、自己認知を高める機会を増やしていくことが大事だと思います。

②意味づけ力

素直に話を聞ける「ロールモデルとなりうる人」をメンターとしてつける。また、マネージャーや人事の「仕事の意味」の説明力を鍛えましょう。自分の会社のマネージャーや採用担当者が、自社の仕事の意味・意義について、どんな風に伝えているのかを是非聞いてみてください。

実は、意外と「上手い言葉・刺さるような言葉」で言えていない場合も多い。なので、これを研修などでブラッシュアップしていただくというのは大事です。

③アサーティブネス

新人がテレワーク下で知らないうちに壊れていくことを防ぐため、新人自身がアラート出し(主張)できるための工夫をしましょう。 たとえば、LINEやSlack。こういったものの方が、上下関係があったとしても物事が言いやすいとされています。そういう「自分でアラート出しやすいシステム」を導入することによって、早期発見をしてあげる。これが結局、新人を守ることに繋がると思いますので、ぜひこの辺りのサポートをしていただければと思います。

まとめ

新入社員がすぐに辞めてしまわないためには、ますはリアリティショックが起こる前提で気持ちを汲みとることが重要です。その上で、新入社員の「やりたいこと」と「できること」のバランスがとれた育成をおこないましょう。

また、オンボーディングはリアリティショックや人間関係が原因で新入社員が辞めてしまわないように、入社前と後の2回に分けて実施することもポイントです。特にオンラインでオンボーディングをおこなうことも多い現在、これまで以上に新入社員が働きやすい環境づくりが必要になるでしょう。