中小企業のメンタルヘルス対策に使える助成金とおすすめサービス

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プロフィール
【監修】社労士 加治 直樹
1級FP技能士、社会保険労務士。20年以上にわたる銀行勤務を経て独立。銀行員時代は、融資及び営業の責任者として不動産融資・住宅ローンの審査・資産運用など幅広く相談業務にあたる。在籍中に特定社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士の資格を取得。退職後は「かじ社会保険労務士事務所」を開設。現在は労働基準監督署にて企業や個人の労務相談業務、セミナー講師など幅広く活動中。会社と従業員双方にとって良い職場をつくり、ともに成長したいと考える。

メンタルヘルス対策をしたくても、中小企業の場合は予算的に厳しいことも少なくありません。政府は、そのようなケースを考慮して、50人未満の事業場がメンタルヘルス対策を実施する場合の支援として、いくつかの助成金を用意しています。本記事では、メンタルヘルス対策を導入する際に利用可能な助成金についてまとめ、手軽に導入できるメンタルヘルス対策用のアプリなどのツールを紹介します。

メンタルヘルス対策の基本「4つのケア」

メンタルヘルス対策を効果的に進めるには、以下の「4つのケア」が必要とされています。

セルフケア

労働者自身が自分で行うケアです。ストレスが溜まっていないかを定期的に確認し、ストレスケアを自分で行うことで、メンタルの不調を事前に予防。事業者も、さまざまなセルフケアを紹介するなどして労働者のセルフケアを支援します。

ラインによるケア

事業場の管理監督者が配下の労働者に対して行うメンタルケアのことです。職場の労働環境や部下の相談に対応し、働きやすい環境を整えることで、職場全体のストレスを解消する方向に働きかけます。

事業場内産業保健スタッフ等によるケア

産業医や保健スタッフによるケアです。産業医や保健スタッフと契約をして、事業場内で労働者や管理監督者の支援を行います。人事労務担当者も労働者や管理監督者、保健スタッフの間に立って調整をしたり、メンタルヘルス対策の企画立案を行ったりといった形でケアを支援します。

事業場外資源によるケア

事業場外のメンタルヘルスクリニックなど専門機関の支援を受ける形のケアです。事業場外とのネットワークを構築し支援を行います。

中小企業がメンタルヘルス対策をするメリット

中小企業がメンタルヘルス対策をするメリットは、主に3つ挙げられます。

  • 従業員が健康になり生産性が向上する
  • 業績アップによって企業イメージがアップする
  • 採用活動にもプラスの効果がある

これらのメリットについて、もう少し詳しく説明します。

従業員が健康になり生産性が向上する

メンタル不調に陥ると、注意力が散漫になりなかなか仕事に集中できなかったり、ミスが多発して業務に支障をきたしたりします。仕事でミスをすると、自分を責めてさらにストレスがかかり、メンタル不調がひどくなって最悪は休職、退職に追い込まれる労働者も多い点が、メンタル不調の危険な点です。

また、企業活動の中枢を担う中間管理職は、ストレスがかかりやすい立場であり、管理監督者を務める前に、自身がメンタル不調に陥る可能性があります。役職者が休職や退職になると、企業としては大打撃です。

特に小規模事業場において従業員の休職や退職は、事業の運営に大きな影響を与えます。1人退職者が出ると、現在の人手不足の情勢では代替え要員の確保が難しく、ほかの従業員への業務負担の増加から職場環境が悪化する可能性があります。従業員の退職が相継げば、企業の存続そのものに影響を与える可能性があるのです。

メンタル不調は、誰にでも起こり得る状態であり、周囲が不調に気づいて早めにフォローできるかどうかで、健康な状態に復帰できる時期に大きな差が出ます。また、メンタルヘルス対策を積極的に行うことで、メンタル不調を起こしかけていた従業員を早期にフォローすることが可能です。

これは、政府が推進する「働き方改革」にも共通することが窺えます。働き方改革の目的の1つに「長時間労働の是正」があります。長時間労働はメンタル不調に陥る可能性があり、長時間労働が改善することで、メンタル不調の予防に繋がります。従業員が働きやすい職場で健康に働くことが、企業の組織活性化や業績向上をもたらすのです。ワーク・ライフ・バランスの推進は、従業員にとってのストレスの軽減と深い関係があるのです。

また、従業員は健康な状態を保ちやすくなることで、仕事にも意欲的に取り組めるようになるでしょう。ひいては、生産性が向上するという結果に繋がるのです。

業績アップによって企業イメージがアップする

従業員が元気で活気のある企業は、当然ながら業績もアップしやすい環境を醸成できます。業績がアップすれば、企業イメージも良くなり、「さらに事業を発展させていける」という好循環が期待できるでしょう。

ワーク・ライフ・バランス推進が業績アップに繋がると言われるのはこのためです。家族と過ごす時間や趣味の時間を大切にしたいという従業員の希望もあるでしょう。「プライベートでのスキルの向上や心身のリフレッシュにより仕事上でのパフォーマンスが向上し、仕事の成果が上がる」この好循環が、企業にとっても生産性の向上をもたらすことになります。

短時間で効率よく仕事が行えるようになれば、企業にとっても時間外労働の減少・人件費の軽減効果が生まれます。短時間で業務が行えれば、従業員もますますプライベートに時間を使えるようになります。心身共に健康を維持するメンタルヘルス対策にはこのようなメリットがあるのです。

採用活動にもプラスの効果がある

少子高齢化の影響で、労働者人口はこれからますます減少し、若者の採用が簡単にいかない時代になりつつあります。特に、中小企業にとって現在働いている従業員は、貴重な労働力であり、少しでも長く勤めてもらうことが重要です。

従業員がいきいきと働くことをアピールすることで企業のイメージアップに繋がり、採用募集が増え、人手不足解消にも繋がります。人手不足問題が深刻化している現代で、中小企業が生き残るためには人材の確保は欠かせません。

実際に、「メンタルヘルス推進5か年計画」を策定して、企業全体でメンタルヘルス対策に取り組む企業があります。従業員が働きやすい環境づくりに向けて、最終的に「職場で自律的にメンタルヘルス対策ができる」ことを定め、継続的なプランの作成から職場定着率向上の成果を上げている企業もあるのです。

特にパートや派遣労働者などは、契約期間に定めがある契約(有期労働契約)で働くことが多くあります。メンタル不調になった場合には契約を更新せずに退職することが多くあり、また、勤務年数が少ないと休職期間が短く職場復帰できないケースも多くあります。そこで、職場復帰を前提とした休職・復職制度に変更することで職場定着率向上に成功しているのです。

例えば、職場の人間関係が原因でメンタル不調に陥った場合などは、休職・復職後に新しい職場環境で人間関係をゼロからリセットし、心機一転やりがいを持って働くことができるようになります。職場環境が変わることで新たな気持ちで仕事をすることによりパフォーマンスも上がり、さらに新たな業務に挑戦しスキルアップに繋がるでしょう。

従業員が健康で勤続年数が長く、生き生きと働いている職場にしていくことは、採用活動にもプラスに働きます。就職活動をしている学生は、企業の社員の勤続年数や職場の様子を調べて、自分が働く会社として適しているかどうかをチェックしているためです。

「2019年卒マイナビ大学生就職意識調査」では、行きたくない会社として「暗い雰囲気の会社」を挙げている学生が31.8%います。メンタルヘルス対策がしっかりしていて活気のある会社は、学生から見ても「働きたい」と思える会社であり、採用活動がスムーズにできるポイントの一つといえるでしょう。

メンタルヘルスケア関連の助成金

メンタルヘルス対策は、中小企業にとっても大きなメリットがあります。しかし、どうしても費用がかかるということも事実です。最初に説明したメンタルヘルスの「4つのケア」のうち、中小企業は保健スタッフによるケアと事業場外でのケアが手薄になる傾向があります。

毎年、厚生労働省が発表している「平成30年 労働安全衛生調査(実態調査)」によると、事業規模が小さくなるほどメンタルヘルス対策を実施している事業場数が減少しています。対策内容も保健スタッフによるケアと、事業場外でのケアになると割合が低くなっているという結果です。

これは、小規模の事業場ほど、メンタルヘルス対策の費用を確保することが困難だからと考えられます。ストレスチェックは労働者が50人未満の事業場には義務付けられていません。だからといって、メンタルヘルス対策を疎かにしていると、問題が起こったときには大変な事態に発展する可能性があります。従業員の退職だけではなく、健康障害の原因となった企業の責任、訴訟問題などさまざまなリスクが生じる可能性があるのです。

小規模事業場にとって何よりも重要なのは、メンタル不調を事前に予防するセルフケアと働きやすい環境を整えることで、職場全体のストレスを解消する方向に働きかけるラインによるケアにあります。事業場にとっても費用負担の少ない事前予防が中心とならざるを得ません。しかし、時には保険スタッフによるケアや事業場外のケアなど、専門家の支援を必要とすることもあるでしょう。

このため、政府は中小企業が保健スタッフによるケアと事業場外でのケアを取り入れやすくするよう、メンタルヘルスケア関連の助成金をいくつか用意しています。以下のURLより、まとまった情報が得られますのでご確認ください。

令和元年度版産業保健関係助成金

具体的に、助成金の内容について見ていきましょう。

心の健康づくり計画助成金

メンタルヘルス対策促進員のアドバイスによって、事業者が「心の健康づくり計画を作成して運用した」という実績が認められると支給される助成金です。1回限り10万円までで、作成した心の健康づくり計画に沿ってメンタルヘルス対策を行ったという確認をメンタルヘルス対策促進員が行うことで支給が受けられます。

本助成金を受け取る事業場の規模には制限がありません。しかし、助成金の申込条件があり、その中の一つに登記上本社(本店)機能を有することという条件がある点は要注意です。

ストレスチェック実施促進のための助成金

50人未満の事業場で年1回のストレスチェックを実施すると受けられる助成金です。「50人未満」は、派遣社員も含めての人数になります。受けられる助成金は以下の2種類あります。

  1. ストレスチェックの実施:従業員1人当たり最大500円(500円未満の場合実費)
  2. ストレスチェックに関わる医師の活動:1事業場あたり1回の活動につき21,500円(上限3回)

ストレスチェックと、それに伴う医師の活動がセットになることで初めて受給要件を満たせます。ストレスチェックは、実施するだけでは意味がありません。そのため、チェック結果を有効活用してメンタルヘルス対策を行うことで、助成金が受け取れる仕組みとなっています。

小規模事業場産業医活動助成金

50人未満の小規模事業場は、産業医活動などを行うとこの助成金を受け取れます。以下の3コースがありますが、いずれも中小企業では手薄となりがちなメンタルヘルス対策であり、職場での心のケアを推進する内容です。

  • 産業医コース
  • 産業医の要件を備えた医師による産業医活動に関する助成金です。一事業場につき6ヵ月当たり10万円を上限とし、将来にわたり2回支給されます。

  • 保健師コース
  • 保健師による産業保健活動に関する助成金です。一事業場につき6ヵ月当たり10万円を上限とし、将来にわたり2回支給されます。

  • 直接健康相談環境整備コース
  • 産業医や保健師の産業保健活動に対し、事業場内に直接健康相談を受けられる環境を整備した場合の助成金です。一事業場につき6ヵか月当たり一律10万円を将来にわたり2回に限り支給されます。

職場環境改善計画助成金(事業場コース)

この助成金は、事業規模に関係なく支給されます。ストレスチェックを行った後、専門家による指導、職場改善計画作成と環境改善を実施した場合、1回に限り指導費用として10万円が支給されます。

メンタルヘルス対策の流れと利用できる助成金

ここまで見てきたメンタルヘルスケア関連の助成金は、メンタルヘルス対策のどのタイミングで利用できるのかを整理しました。助成金がどこまで申請できるのかを検討する際、こちらも合わせて確認してください。

「心の健康づくり計画」策定

メンタルヘルス対策は、「心の健康づくり計画」の策定から始まります。メンタルヘルス対策の責任者や、職場ごとの担当者を決め、どのようにメンタルヘルス対策を進めていくかの計画を策定します。初めて「心の健康づくり計画」を作成すると、一定の条件を満たせば心の健康づくり計画助成金の申請が可能です。

セルフケア

労働者に対して、セルフケアができるよう、メンタルヘルスに関するセミナーを開催したり、ストレスチェックを行って労働者本人に結果をフィードバックしたりするフェーズが「セルフケア」に相当します。ストレスチェックを実施し、面談や指導を行うことで、ストレスチェック実施促進のための助成金が申請可能です。

ラインによるケア

ストレスチェックの結果によって、職場の監督管理者にはその職場全体のメンタルヘルス状態が伝えられます。監督管理者は、受け取った情報を利用して高ストレス状態の労働者と面談を行うなどの対策を行います。このフェーズでは、申請できる助成金はありません。

事業場内産業保健スタッフ等によるケア

産業医や保健師と契約して、ストレスチェック結果の分析や産業保健活動を行うと、小規模事業場産業医活動助成金や職場環境改善計画助成金(事業場コース)が申請できます。

事業場外資源によるケア

産業医や保健師との契約ではなく、公的な支援など事業場外資源によるケアに対しては、助成金は設けられていません。

中小企業にもおすすめのメンタルヘルス対策プログラム

最後に、中小企業にも手軽に実施できる、メンタルヘルス対策プログラムをご紹介します。パソコンにインストールするプログラムやクラウドサービス、アプリなどさまざまなタイプがありますが、どれも助成金の金額に近く、比較的負担の軽いものを厳選しました。

それぞれに特徴がありますので、自社に向いていそうな機能を持っているプログラムを探してみてください。

厚生労働省「ストレスチェック実施プログラム」

厚生労働省が提供しているインストールタイプのストレスチェック実施プログラムです。ストレスチェック対象の従業員向け、管理者向けなどひと通りの機能は備えており、無料で使える点が大きな特徴です。メンタルヘルス対策にあまり予算を割けない場合は、まずこちらのプログラムを導入してみてはいかがでしょうか。

NECソリューションイノベータ「ヘルスケアソリューション」

クラウドサービスと自社内でシステムを構築するオンプレミス型の両方を用意しているストレスチェックシステムです。クラウドサービスの場合、スタンダードプランで400ID当たり28万円、1ID当たり700円と導入しやすい価格です。オプションとして、産業医を紹介するシステムもあります。

株式会社情報基盤開発「Altpaper」

紙版とWeb版の両方を提供しているストレスチェックサービスです。紙版があるので、職場にパソコンがあまり置いていない工場などの事業場でも導入しやすくなっています。集計の手間がかからない分、紙版よりもWeb版の方が若干安価になる点が特徴です。紙版でも50人規模で5万円弱と安価で、ストレスチェックから集団分析、高ストレス者の割り出しなどひと通りの機能は備えています。

NSSスマートコンサルティング株式会社「Stress Manager」

労働衛生コンサルタントが監修しているWeb版のストレスチェックサービスです。ストレスチェックは1人当たり250円、面談は1回6,250円と良心的な価格です。Web版なので、パソコンの種類を問わず、またタブレットやスマホからもアクセスできる点が強みです。

ここまで解説してきたように、中小企業がメンタルヘルス対策を行うメリットは大きいものがあります。紹介した助成金を上手に活用することで、金銭的な負担を軽減しつつ総合的なメンタルヘルス対策が行えるようになるでしょう。まだ、メンタルヘルス対策を導入していない場合は、この機会に検討してみてはいかがでしょうか。